2011/02/24(木) - 21:52
10年ひと昔とはよく言ったものだが、今から10年前といえばアルミフレーム全盛時代。そんな中、各メーカーにチューブを供給していた素材メーカーの筆頭のひとつがイタリアのデダチャイだった。しかし、2000年以降にカーボンフレームに主流が移ると、金属チューブメーカとしてのビジネスは縮小を迫られ、近年はチューブ供給をしつつも、カーボンフレームのOEM用にビジネスにシフトしてきた。そうしたなかで培ってきた技術をベースに、同社は昨年「デダチャイストラーダ」を立ち上げて、バイクメーカーとして新たなスタートを切った。
デダチャイストラーダ アッソルト (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ユニークなデザインとコンセプトで存在感のある「テメラリオ」を筆頭に、現在は10モデル(本国のラインナップ。ロード、シクロクロス、ピスト)を展開する同ブランドだが、そのロードバイクラインにおいてエントリー〜ミッドレンジに位置するフルカーボンモデルがこの「アッソルト」だ。
先に挙げたテメラリオをはじめ特徴的なデザインフレームが多いデダチャイストラーダだが、このアッソルトもまた、角断面とアーチシェイプのチューブを組み合わせることで印象的なフレーム形状が作り出されている。
このアーチシェイプのトップチューブは、現在のロードバイクにおいて1つのトレンドにもなっている形状だ。必要な剛性を確保しつつも、快適性を最大限発揮させるための形状といえるだろう。また、比較的細身に仕上げられたシートステーを見ても、快適性を重視しているのがよく分かる。
下側のベアリングに1-1/2の大径タイプを採用。フォーククラウンのボリュームもアップしてフロントまわりの剛性を高めている
クラウンに対してブレードを若干前側にオフセットした複雑な曲げのフロントフォーク。振動吸収性を高めるねらいだ
シートチューブはオーソドックスな丸断面。ピラー部分はチューブを外側から固定するタイプで確実な取り付けができる
その一方で、フロントエンドの構造はロワーベアリングを大径の1-1/2タイプに設計して、フォーククラウンを含めた断面積のボリュームアップによって、コーナリングとハードブレーキングでの安定性、レーンチェンジなどにおける横方向の動きに対して俊敏さを失わないように設計される。
ヘッドからリヤエンドにかけてのパワーセクションについては、ダウンチューブを角断面のアーチシェイプとして、高さを持たせた断面のチェーンステーによってBB部分のねじれ剛性がマネージメントされる。BBは一般的なスレッドタイプだが、これはコストの問題と、必要以上の剛性を持たせないための処理といえる。
かなり強めにアーチシェイプされたトップチューブが特徴的。路面からの突き上げを板バネのような感覚で積極的に吸収する
負担がかかるボトル台座には補強工作がされる。丁寧かつマニアックな作りだ。スチールフレームで見られる古くからの手法
そして、忘れてはいけないのが、デダチャイストラーダのカーボンフレームに共通するフレーム製作技術の「AWP」(ANTI WRINKLE PROCESS=アンチ・リンクル・プロセス)だ。高精度の金型を用いて作られるこのシステムは、一般的なハンドレイアップによるモノコックフレームに比べて、カーボン素材のポテンシャルを最大限引き出すことを特徴とする。
高品質のカーボンフレームを製作するには、プリプレグ同士の強固な結合、そして強度低下に繋がる残留エアポケットと余分なレジンの除去が欠かせない。デダチャイのAWPでは、フレーム成型時にチューブ内側から圧力をかける際に発生する素材のシワを抑え、プリプレグ同士の強い結合を実現して強度と剛性を追求。無駄なレイアーオーバーラップも防ぐことにより軽量化もされている。これらにより、従来のハンドレイアップのモノコックフレームに比べて横剛性の向上を実現した。
角張った断面のチューブがユニークな表情をみせる。チューブメーカーとしてのノウハウが活かされ高い完成度を誇る
ねじれ剛性に対して強い2本タイプのシートステー。トップチューブとの一体感あるデザインで優れた乗り心地が追求される
シートステーのリヤエンド側は細身に仕上げて振動吸収性を高めつつ、外側に広げた成型でリヤエンドに必要な剛性を与える
このAWPテクノロジーと、素材に東レ製の「T700 S 24T」と呼ばれる高弾性のカーボン素材を使用することで、アッソルトはフレーム単体で1100g、フォークは390gの重量に仕上げられる。トップレベルのカーボンフレームに比べれば重量は少々重いが、エントリー〜ミッドレンジのカーボンフレームとしては現在の標準的なレベルに収まっている。
そして、このアッソルトはメーンコンポにシマノ・アルテグラを搭載した完成車での販売となる。足回りには入門モデルとしては性能に定評のあるマヴィック・アクシウムレースを装備。カラーコーディネイトされたデダ製のステム、プロロゴ製サドルなど、周辺パーツも抜かりのない仕様で、完成車としてトータルの性能の高さ、そしてルックスの美しさが追求されている。
成型されたダウンチューブはトップチューブと同じようにアーチシェイプされるが、こちらはむしろ剛性を高めるための仕様
角形に成型されたダウンチューブとチェーンステーでしっかりとしたパワーラインを作る。BBはオーソドックスなスレッド式
価格も30万円を下回り、初めてのロードバイク、初めてのカーボンフレームとしては魅力的なスペックと言えるだろう。また、2011年モデルではホワイト×グリーのカラーリングが登場し、3カラーとなりさらに魅力がアップした。
それでは、アッソルトの魅力をテスター2人に診断してもらおう。
―インプレッション
「バランスに優れるしなやかさでロングライドや耐久ライドに最適」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
見た目はフレームにボリューム感があるので、結構剛性の高いフレームを想像しましたが、乗ってみると全く逆のフィーリングでした。チューブ肉厚の薄さを感じるフレームで、固さは伝わってきませんでした。その代わり乗り心地はとてもいい。
タイヤはこの価格帯グレードだとさすがに高級なものは装備されませんが、それでも路面からの突き上げはマイルドです。試乗時にわざと舗装の粗いところや路面にでこぼこがあるところを走りましたが、細かなものから大きなものまで、振動吸収性はかなり高いレベルにあるフレームです。
「クロモリフレームに通じるようなしなやかさを持ったフレームだ」戸津井俊介
乗り心地がいい分、レースをバリバルやるようなライダーには加速のダルさを感じることがあるかもしれません。ボクは上り坂でちょっと前乗りになってダンシングをすることもありますが、そんな時、出足の鈍さを少し感じたので、ついバイクを必要以上に大きく振ってしまいました。緩急のある走りではフレームのしなやかさが加速に物足りなさを感じさせるものです。
上りは軽めのギヤを選び、クルクルと回転重心のペダリングをして一定ペースで走らせるのが良かった。長距離を走って疲れると、体の芯がぶれてキレイなペダリングを続けるのが難しくなることもあります。しかしアッソルトは、そうした場面でもフレームのしなやかさがペダリングのタメになるというか、バイクを真っ直ぐ走らせるように修正される感覚があり、「走らせやすさ」がありますね。
BBのウイップ感も、ギヤをかけたときにスパッとバイクが前に出るようなダイレクトさはないけれど、トルクをかけてゆくと“じわっと”スピードが伸びてくるので、脚がいっぱいになった時でも踏みやすい。入門者のライダーでもギヤ比さえ足りていれば踏み続けられる。
硬いフレームだと脚がいっぱいになると一気に踏めなくなってしまうけれど、アッソルトにそうした印象はありません。踏んだ感じのフィーリングはスチールフレームにも似たしなやかさを持っています。したがって、一定ペースのロングライドや耐久レースのような走り方にはいいですね。
基本的にしなやかなキャラクターですが、フレームの前後でバラバラの動きをしないのが乗りやすさに繋がっていると思います。ハイスピードのターンでも前後に同じような荷重のかかり方をするので、スキーのエッジをかけるかのように“ぐーっと”粘るような感じで路面に食い込んで行く。ロードインフォメーションをしっかり与えてくれながら踏ん張ってくれるので、安心感に優れています。
直進性もいいので、コーナリングで体を倒し込んでいくよりも、少しハンドルを曲げてきっかけを作ってあげる必要はあります。といっても扱いにくさは感じられません。
全体的にコンフォートな性能が高く、全体的な性能のバランスもいいので、初めてロードバイクを本格的に乗るユーザーに最適なカーボンフレームです。ランニングシューズに例えるのなら、ジョギングシューズのような柔らかさを持った器の深いモデルという印象です。一定ペースで走るロングライドや耐久レースなどを楽しく走ることができるでしょう。
「高い安定感と快適性がロングライドでライダーの味方になる」
吉本 司(バイクジャーナリスト)
「安定感と快適性の高さがライダーにゆとりを与え、長距離ライドが楽になる」吉本 司 デダチャイストラーダのフレームは、これまでテメラリオ、スクーロRS に試乗の経験があるが、どちらも非常にクセがなく乗りやすいバイクという印象がある。このアッソルトもしかりで、走り出してすぐに感じられるのが安定感の高さだ。Mサイズ(トップチューブ535㎜)でフロントセンターが588㎜と長めに確保されており、ハンガー下がりも70㎜と比較的低めの設計。このジオメトリーに加え、振動吸収集性の高さに起因する路面追従性の良さが抜群の安定感に繋がっている。
高い安定性といっても、ただ直進性がいいというだけではなくハンドリングも含めたトータルのまとまりがいい。そのハンドリングはレーシングモデルまでの鋭さはないが、自然にスッと軽く切れつつも落ち着いている。過度な切れ込み感は無くストレスがない。全体的な挙動は自然なので、ロードバイクに初めて挑戦するライダーでも乗りやすい性能にまとめられている。
流行のアーチチェイプを取り入れたフレームは、視覚的にしなやかそうな印象を受けるが、それに違わぬフィーリングだ。ペダリングにおける脚に対するタッチはやさしい。ホイールが入門グレードの製品を装備しているので、走り出しはその重量を若干感じる部分もあるが、フレームの性能としても鈍調なペダリングフィールは感じられない。むしろ軽さを感じる。軽さといってもハイエンドのレーシングフレーム的なスパッとしたものではなく、バイクが滑らかに前に出るような感覚の軽さだ。
大きなトルクをかけ続けるような走りをすると、それなりにウイップは出る。高いトルクで速度の上げ下げをするような走り方のだと、剛性はもうワンランク上のレベルが欲しくなるかもしれない。とはいえ、単柔らかいだけのフレームではなく、バネ感が効いているので、トルクをかけるにしても、バイクを必要以上に振らず、ペダリングの入力ポイントとギヤ比に気を遣ってコツを掴めばストレスを感じることはない。
上りのシッティングも回転重視のペダリングで走ればスルスルと進む。剛性のあるフレームはつい踏み踏みのペダリングになってしまうことも多いが、アッソルトはいい意味で剛性感がイージーなので、バイクに合わせた乗り方をすれば無駄な体力を使わないで走れる。
そして、振動吸収性も非常に高いレベルにある。荒れた路面でのばたつき感は少ないし、フロントまわりもクラウンがしっかりしていて、ブレードの中盤から先が振動を吸収してくれる。路面からの振動のいなしかたが前後でマッチしているので、それも乗りやすさに繋がっているのだろう。
ターゲットユーザーとする初・中級者のロングライドなどにおいては、その乗り心地の良さと、無駄な脚力を使わず走れるペダリングフィールは、ライダーの体力をいい感じで温存してくれるはずだ。
パーツアッセンブルもシマノ・アルテグラがフル装備され、デダ製のステムはカラーコーディネイトされてルックスが引き立てられている。そして、サドルも比較的パッドがしっかり入ったタイプを装備するなど、ユーザーの用途と心を満たしてくれる仕様であり、製作者のアッセンブルの巧さが感じられる。
イタリアンブランドの完成車が30万円以下ということから考えると、トータルでのパフォーマンスはターゲットユーザーに対して非常によくまとめられた1台と言えるだろう。
デダチャイストラーダ アッソルト (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
デダチャイストラーダ アッソルト
フレーム:トップ1-1/8、ダウン1-1/2インテグラルオーバーサイズ、I.S.P.アダプター付きカーボンモノコック、軽量フォーク、オリジナルHP、インテグラルシートポスト
フレーム素材:T700ハイモジュールカーボン
重量:1100g(フレーム単体)、390g(フォーク)
カラー:ホワイト×レッド、ホワイト×ブラック、ホワイト×グリーン
サイズ:500、518、540
価格:296,000円(税込) アルテグラ完成車
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート
吉本 司(バイクジャーナリスト) 吉本 司(バイクジャーナリスト)
71年生まれ。スポーツサイクル歴は25年。自転車専門誌の編集者を経てフリーランスの自転車ライターとなる。主にロードバイク関連の執筆が多いが、MTBから電動アシスト自転車まで幅広いジャンルのバイクに造詣が深い。これまで30台を上回るロードバイクを所有してきた。身長187センチ、体重71㎏。
ウェア協力:B・EMME(フォーチュン)
photo:Makoto.AYANO
text:Tsukasa.YOSHIMOTO
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ユニークなデザインとコンセプトで存在感のある「テメラリオ」を筆頭に、現在は10モデル(本国のラインナップ。ロード、シクロクロス、ピスト)を展開する同ブランドだが、そのロードバイクラインにおいてエントリー〜ミッドレンジに位置するフルカーボンモデルがこの「アッソルト」だ。
先に挙げたテメラリオをはじめ特徴的なデザインフレームが多いデダチャイストラーダだが、このアッソルトもまた、角断面とアーチシェイプのチューブを組み合わせることで印象的なフレーム形状が作り出されている。
このアーチシェイプのトップチューブは、現在のロードバイクにおいて1つのトレンドにもなっている形状だ。必要な剛性を確保しつつも、快適性を最大限発揮させるための形状といえるだろう。また、比較的細身に仕上げられたシートステーを見ても、快適性を重視しているのがよく分かる。
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その一方で、フロントエンドの構造はロワーベアリングを大径の1-1/2タイプに設計して、フォーククラウンを含めた断面積のボリュームアップによって、コーナリングとハードブレーキングでの安定性、レーンチェンジなどにおける横方向の動きに対して俊敏さを失わないように設計される。
ヘッドからリヤエンドにかけてのパワーセクションについては、ダウンチューブを角断面のアーチシェイプとして、高さを持たせた断面のチェーンステーによってBB部分のねじれ剛性がマネージメントされる。BBは一般的なスレッドタイプだが、これはコストの問題と、必要以上の剛性を持たせないための処理といえる。
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高品質のカーボンフレームを製作するには、プリプレグ同士の強固な結合、そして強度低下に繋がる残留エアポケットと余分なレジンの除去が欠かせない。デダチャイのAWPでは、フレーム成型時にチューブ内側から圧力をかける際に発生する素材のシワを抑え、プリプレグ同士の強い結合を実現して強度と剛性を追求。無駄なレイアーオーバーラップも防ぐことにより軽量化もされている。これらにより、従来のハンドレイアップのモノコックフレームに比べて横剛性の向上を実現した。
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このAWPテクノロジーと、素材に東レ製の「T700 S 24T」と呼ばれる高弾性のカーボン素材を使用することで、アッソルトはフレーム単体で1100g、フォークは390gの重量に仕上げられる。トップレベルのカーボンフレームに比べれば重量は少々重いが、エントリー〜ミッドレンジのカーボンフレームとしては現在の標準的なレベルに収まっている。
そして、このアッソルトはメーンコンポにシマノ・アルテグラを搭載した完成車での販売となる。足回りには入門モデルとしては性能に定評のあるマヴィック・アクシウムレースを装備。カラーコーディネイトされたデダ製のステム、プロロゴ製サドルなど、周辺パーツも抜かりのない仕様で、完成車としてトータルの性能の高さ、そしてルックスの美しさが追求されている。
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それでは、アッソルトの魅力をテスター2人に診断してもらおう。
―インプレッション
「バランスに優れるしなやかさでロングライドや耐久ライドに最適」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
見た目はフレームにボリューム感があるので、結構剛性の高いフレームを想像しましたが、乗ってみると全く逆のフィーリングでした。チューブ肉厚の薄さを感じるフレームで、固さは伝わってきませんでした。その代わり乗り心地はとてもいい。
タイヤはこの価格帯グレードだとさすがに高級なものは装備されませんが、それでも路面からの突き上げはマイルドです。試乗時にわざと舗装の粗いところや路面にでこぼこがあるところを走りましたが、細かなものから大きなものまで、振動吸収性はかなり高いレベルにあるフレームです。
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乗り心地がいい分、レースをバリバルやるようなライダーには加速のダルさを感じることがあるかもしれません。ボクは上り坂でちょっと前乗りになってダンシングをすることもありますが、そんな時、出足の鈍さを少し感じたので、ついバイクを必要以上に大きく振ってしまいました。緩急のある走りではフレームのしなやかさが加速に物足りなさを感じさせるものです。
上りは軽めのギヤを選び、クルクルと回転重心のペダリングをして一定ペースで走らせるのが良かった。長距離を走って疲れると、体の芯がぶれてキレイなペダリングを続けるのが難しくなることもあります。しかしアッソルトは、そうした場面でもフレームのしなやかさがペダリングのタメになるというか、バイクを真っ直ぐ走らせるように修正される感覚があり、「走らせやすさ」がありますね。
BBのウイップ感も、ギヤをかけたときにスパッとバイクが前に出るようなダイレクトさはないけれど、トルクをかけてゆくと“じわっと”スピードが伸びてくるので、脚がいっぱいになった時でも踏みやすい。入門者のライダーでもギヤ比さえ足りていれば踏み続けられる。
硬いフレームだと脚がいっぱいになると一気に踏めなくなってしまうけれど、アッソルトにそうした印象はありません。踏んだ感じのフィーリングはスチールフレームにも似たしなやかさを持っています。したがって、一定ペースのロングライドや耐久レースのような走り方にはいいですね。
基本的にしなやかなキャラクターですが、フレームの前後でバラバラの動きをしないのが乗りやすさに繋がっていると思います。ハイスピードのターンでも前後に同じような荷重のかかり方をするので、スキーのエッジをかけるかのように“ぐーっと”粘るような感じで路面に食い込んで行く。ロードインフォメーションをしっかり与えてくれながら踏ん張ってくれるので、安心感に優れています。
直進性もいいので、コーナリングで体を倒し込んでいくよりも、少しハンドルを曲げてきっかけを作ってあげる必要はあります。といっても扱いにくさは感じられません。
全体的にコンフォートな性能が高く、全体的な性能のバランスもいいので、初めてロードバイクを本格的に乗るユーザーに最適なカーボンフレームです。ランニングシューズに例えるのなら、ジョギングシューズのような柔らかさを持った器の深いモデルという印象です。一定ペースで走るロングライドや耐久レースなどを楽しく走ることができるでしょう。
「高い安定感と快適性がロングライドでライダーの味方になる」
吉本 司(バイクジャーナリスト)
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高い安定性といっても、ただ直進性がいいというだけではなくハンドリングも含めたトータルのまとまりがいい。そのハンドリングはレーシングモデルまでの鋭さはないが、自然にスッと軽く切れつつも落ち着いている。過度な切れ込み感は無くストレスがない。全体的な挙動は自然なので、ロードバイクに初めて挑戦するライダーでも乗りやすい性能にまとめられている。
流行のアーチチェイプを取り入れたフレームは、視覚的にしなやかそうな印象を受けるが、それに違わぬフィーリングだ。ペダリングにおける脚に対するタッチはやさしい。ホイールが入門グレードの製品を装備しているので、走り出しはその重量を若干感じる部分もあるが、フレームの性能としても鈍調なペダリングフィールは感じられない。むしろ軽さを感じる。軽さといってもハイエンドのレーシングフレーム的なスパッとしたものではなく、バイクが滑らかに前に出るような感覚の軽さだ。
大きなトルクをかけ続けるような走りをすると、それなりにウイップは出る。高いトルクで速度の上げ下げをするような走り方のだと、剛性はもうワンランク上のレベルが欲しくなるかもしれない。とはいえ、単柔らかいだけのフレームではなく、バネ感が効いているので、トルクをかけるにしても、バイクを必要以上に振らず、ペダリングの入力ポイントとギヤ比に気を遣ってコツを掴めばストレスを感じることはない。
上りのシッティングも回転重視のペダリングで走ればスルスルと進む。剛性のあるフレームはつい踏み踏みのペダリングになってしまうことも多いが、アッソルトはいい意味で剛性感がイージーなので、バイクに合わせた乗り方をすれば無駄な体力を使わないで走れる。
そして、振動吸収性も非常に高いレベルにある。荒れた路面でのばたつき感は少ないし、フロントまわりもクラウンがしっかりしていて、ブレードの中盤から先が振動を吸収してくれる。路面からの振動のいなしかたが前後でマッチしているので、それも乗りやすさに繋がっているのだろう。
ターゲットユーザーとする初・中級者のロングライドなどにおいては、その乗り心地の良さと、無駄な脚力を使わず走れるペダリングフィールは、ライダーの体力をいい感じで温存してくれるはずだ。
パーツアッセンブルもシマノ・アルテグラがフル装備され、デダ製のステムはカラーコーディネイトされてルックスが引き立てられている。そして、サドルも比較的パッドがしっかり入ったタイプを装備するなど、ユーザーの用途と心を満たしてくれる仕様であり、製作者のアッセンブルの巧さが感じられる。
イタリアンブランドの完成車が30万円以下ということから考えると、トータルでのパフォーマンスはターゲットユーザーに対して非常によくまとめられた1台と言えるだろう。
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デダチャイストラーダ アッソルト
フレーム:トップ1-1/8、ダウン1-1/2インテグラルオーバーサイズ、I.S.P.アダプター付きカーボンモノコック、軽量フォーク、オリジナルHP、インテグラルシートポスト
フレーム素材:T700ハイモジュールカーボン
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サイズ:500、518、540
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1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート
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71年生まれ。スポーツサイクル歴は25年。自転車専門誌の編集者を経てフリーランスの自転車ライターとなる。主にロードバイク関連の執筆が多いが、MTBから電動アシスト自転車まで幅広いジャンルのバイクに造詣が深い。これまで30台を上回るロードバイクを所有してきた。身長187センチ、体重71㎏。
ウェア協力:B・EMME(フォーチュン)
photo:Makoto.AYANO
text:Tsukasa.YOSHIMOTO
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