2011/03/18(金) - 11:06
豊富なラインナップを誇るボッテキアの2011モデルのなかで、ハイエンドモデルのEMME 2、SP9に次ぐミッドレンジモデルがこのMILLEだ。ミッドレンジとはいっても、そこはハイクオリティを誇るボッテキアであるから、ハイエンドモデルに優るとも劣らない内容を持っている。
MILLEはグランフォンドや週末のロングライドを念頭において製作されたフレームだ。そのため、ただ単に剛性アップにだけ走るのではなく、ちゃんと振動吸収性も確保できるように設計されており、長距離を乗ったとしても疲れないフレームに仕上がっている。
MILLEで特に目を引くのがトップチューブからシートステーにかけての美しい曲線だ。このようなベントを与えることによって、リヤトライアングルだけでなく、フォークからメイントライアングル、リヤトライアングルにいたるフレーム全体で路面からの突き上げを緩和できるようになっている。
一方、フォークの根本からヘッドチューブ。ダウンチューブ、チェーンステーにかけてはかなりガッチリと作られており、パワー伝達効率が良い。この辺の作りはさすがプロチーム供給ブランドといった感じだ。アックア・エ・サポーネチームからのフィードバックがしっかりと生きている。
使用素材は東レの1Kカーボン。それをモノコック製法で仕上げ、一枚岩のような剛性感を得ることに成功している。カーボンの積層にも最新のテクノロジーが導入されており、最も少ない材料で最も強度が出せるように工夫されている。
日本でのサイズ展開は44、48、52、56cmの4種、カラーリングはホワイト×カーボン、ホワイト×レッド×チェリーのほか、アックア・エ・サポーネチームの2011ジロ・デ・イタリアでの活躍を記念した「レプリカ93rdジロ」も用意される。
そんな実力あるモデル、ボッテキア・MILLEをテストするのは、元プロサイクリストの三船雅彦と自転車ジャーナリストの仲沢隆。果たしてその実力はどのようなものだったのだろうか? さっそくインプレッションをお届けしよう!
―インプレッション
「中速以上で威力を発揮、スプリントの伸びも素晴らしい」
三船雅彦(元プロサイクリスト)
踏み出しの伸びはあまり印象に残るものではなかった。そのため「んっ!? このフレームは伸びがイマイチなのかな?」と思わされたが、いったん中速までスピードを上げると印象がガラッと変わった。中速から高速でいきなりスーッと伸びを見せ始めたのである。そして、踏み込んでいくと、いくらでもスピードに乗ることができた。
インプレッションではあまり長い時間乗り込むことはできないので、どうしても踏み出しの軽いバイクに高得点がつきがちだ。しかし、実際に所有して使うとなると、むしろ中速から高速への伸びの良いバイクの方がずっと扱いやすい。そういった点で、このMILLEはとても実用的な味付けだ。
上りも軽快だった。その特性から、ゼロ発進が連続するような激坂よりも一定ペースで踏めるような坂の方が得意だ。20%を超えるような激坂なんてそんなに走るものではないから、この辺も実用的な味付けといえるだろう。
ハンドリングはとても良い。きわめてニュートラルなハンドリングで、ハイスピードの下りでも何ら不安感を感じさせることなく、突っ込んでいくことができる。フォークの根本が強いので、下りのフルブレーキングでもフレームがビビッたりすることはなかった。涼しい顔をして、グッと止まってくれる。
振動吸収性も素晴らしい。フレーム全体で路面からのショックを吸収するようなイメージで、ちょっと荒れた路面でも気持ち良く走破することができる。レーシングバイクとして、とても節度のある振動吸収性が与えられているといえるだろう。
スプリントの伸びも好印象だった。よくホビーレーサーの方に「やはり硬いフレームの方がスプリントは伸びるんですか?」と聞かれることがあるのだが、私はむしろMILLLEのようなフレームの方が伸びると思っている。ガチガチに硬いフレームはひと踏みふた踏みくらいの伸びは良いのだが、その先がイマイチなのだ。その点、MILLEはハイスピードになったラスト200mくらいの伸びが良いのだ。
MILLEを一言で表すとしたら「弱点のない優等生」といったところだろう。「ここがスゴイ!」という突出した点がない反面、「ここがイマイチ…」という弱点がまったく見あたらないのだ。実際に所有して使うことを考えた、本当に実用的な味付けだ。私が現役時代にこのMILLEを供給されたとしたら、何ら問題なく使うことができただろう。
「長く乗って飽きない“偉大なる普通のフレーム”だ」
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
踏み心地の良いフレームだ。踏み出しの軽さは上級モデルに一歩譲るものの、いったんスピードに乗ってしまえば、どこまでもスピードに乗ってくれる印象なのである。ペダリングのリズムにも乗せやすく、一定ペースで巡航するのがとても楽だ。
上りも気持ち良く踏めた。トルクをかけてグイグイ上るよりも、一定ペースで回しながら上るのに向いている。BB30を採用しており、パワー伝達効率に優れているのも、この気持ちの良いペダリングフィールに一役買っているのだろう。
ハンドリングも軽快だった。どちらかというと直進安定性重視のハンドリングだが、タイトなコーナーが続くようなコースでも、何ら不安感を感じることなく切り返していくことができる。この辺はさすがプロチームに供給しているメーカーといった印象だ。
ブレーキング時の安定感はピカイチだ。ハイスピードの下りでフルブレーキングしても、実に短い距離でスッと止まってくれる。ヘッドチューブからフォークの根本にかけての剛性が高いので、どんなシチュエーションでもフレームが負けてしまうことがないのだ。
これだけしっかりとした印象のフレームであるから、振動吸収性はイマイチなのかと思ったのだが、まったくそんなことはなかった。多少荒れた路面を無理矢理ハイスピードで走っても、バイクが暴れたりすることはない。決してソフトな乗り心地ではないものの、レーシングバイクとして実に節度のある振動吸収性が与えられている。トップチューブからシートステーにかけての緩いカーブが、フレーム全体で振動を吸収するのに役立っているのだろう。
また、このトップチューブからシートステーにかけての曲線は、デザイン的にも魅力溢れている。眺めていて、とにかく美しいのだ。さすがイタリアンデザイン。これを肴にしてワインを傾けるなんていうのも楽しいだろう。
とにかく、MILLEはとても良くまとまったフレームだ。乗っていて「ここがもう少しこうだったら良いのに…」という部分が見あたらないのだ。こういうフレームはありそうでないものだ。「偉大なる普通のフレーム」と言ったら怒られるだろうか? 長く乗って飽きのこないバイクの最右翼であると言えよう。
オススメしたいのは、毎週末に100〜200kmくらい走ってしまうようなロングライド好きのライダーだ。フレームの作りがしっかりとしているので、ガンガン乗ってもフレームのヤレがなかなか出ることはないだろう。もちろん、ホビーレースで使っても最高の相棒になってくれるハズ。イタリアンバイク好きならば、きっと買って後悔することはないだろう。
ボッテキア MILLE
フレーム:東レ 1Kカーボンモノコック
フォーク:1Kカーボンモノコック
フレーム単体重量:1200g(インテグラルシートポストを含む)
サイズ:44、48、52、56cm
カラー:ホワイト×カーボン、ホワイト×レッド×チェリー、チームレプリカ
価格:
カンパニョーロ・レコード完成車 880,950円
カンパニョーロ・コーラス完成車 628,950円
カンパニョーロ・アテナ完成車 628.950円(チームレプリカは733,950円)
アルテグラ完成車 555,450円(チームレプリカは660,450円)
フレームセット 408,450円(チームレプリカは513,450円)
インプレライダーのプロフィール
三船雅彦(元プロサイクリスト)
9シーズンをプロとして走り(プロチームとの契約年数は8年)プロで700レース以上、プロアマ通算1,000レース以上を経験した、日本屈指の元プロサイクルロードレーサー。入賞回数は実に200レースほどにのぼる。2003年より国内のチームに移籍し活動中。国内の主要レースを中心に各地を転戦。レース以外の活動も精力的に行い、2003年度よりJスポーツのサイクルロードレースではゲスト解説を。特にベルギーでのレースにおいては、10年間在住していた地理感などを生かした解説に定評がある。2005年より若手育成のためにチームマサヒコミフネドットコムを立ち上げ、オーナーとしてチーム運営も行っている。
過去数多くのバイクに乗り、実戦で闘ってきたばかりでなく、タイヤや各種スポーツバイクエキップメントの開発アドバイザーを担う。その評価の目は厳しく、辛辣だ。選手活動からは2009年を持って引退したが、今シーズンからはスポーツバイク普及のためのさまざまな活動を始めている。ホビー大会のゲスト参加やセミナー開催にも意欲的だ。
マサヒコ・ミフネ・ドットコム
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどのロードレースの取材、選手が使用するロードバイクの取材、自転車工房の取材などを精力的に続けている自転車ジャーナリスト。ロードバイクのインプレッションも得意としており、乗り味だけでなく、そのバイクの文化的背景にまで言及できる数少ないジャーナリストだ。これまで試乗したロードバイクの数は、ゆうに500台を超える。2007年からは早稲田大学大学院博士後期課程(文化人類学専攻)に在学し、自転車文化に関する研究を数多く発表している。
text:Takashi.NAKAZAWA
photo:Makoto.AYANO
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