2011/01/25(火) - 10:54
シクロクロスのマスターズ世界選手権が1月22日にベルギーで開催され、オランダ在住の荻島美香が40~49歳女子の部で優勝。念願の世界チャンピオンとなった。青いアルカンシェルを獲得した荻島本人が綴るレポートをお届けする。
昨年に引き続き2回目の挑戦で、昨年は30歳から39歳の部で惜しくも最後の最後で2位と涙をのんでからの出発だった。
ここまで来るのに沢山の方々のサポートを得てスタートラインに立つことに大きな気負いがあった。それは今シーズンは体調を崩しがちで免疫が落ちた状態が続いたのと、若手オランダ選手の強さに阻まれて私にとって難しいレースばかりだったからだ。でも、今週に入り悪い走りの感覚が薄れ、いい感じを取り戻し始めていたので自分を信じた。
会場についてすぐさま受付に向かった。人でごった返していてなかなか私の番にならないことに試走を早くしたい気持ちでイライラするがゼッケンナンバーを受け取ってすぐコースに入った。
砂のライン取りが難しくて引き返すこと数回。しかし時間が足らないので2周目はレースを想定して70%の力で引き返すことなく通しで走り切った。昨年よりも細かく砂区間が点在し、テクニックを更に必要とするようにしてあった。
車へ戻るとスタート時間まで25分と迫っていて、いつもならローラー台に乗るのだが、まだゼッケンもワンピースに着けておらず時間が押していた。
車の中で汗の湯気を立てながら着替えを終えて車から出て、ワンピースのチャックを上げようとしたら上がらない。主人のシャークに頼むも一向に上がらない。よく見ると糸がほつれていて完全に壊れてしまっていた。仕方がないので3つの安全ピンで前を閉じ、それで臨むことにした。
スタートラインへ向かう途中で2回ほどスタートを想定したダッシュをして準備に入った。
知り合いのオランダ人と久々な話をして、4番目にコールされてスタートラインに立ち、30代のクラスがスタートしてからの1分は早かった。
今思うと「1分開いていたかった」と思うが、その不意にちょっと遅れを取ってからのスタートとなってしまった。
5・6番手に入って砂場に飛び込んだ時に、前回の優勝者ニコル・ワルカーオルベルディング(ドイツ)がスタートよく飛び出していって強そうに見えたのが私に焦りを与えたが、でもそこは持ち前の開き直りの性格で自分の走りに集中し、いかにうまくニコルの間にいる選手をかわしていくかを考えていた。
湖畔の砂場は開けていて、抜かすのには絶好のチャンスだが、森の中のシングルは狭くてそうはいかない。コーナー手前の相手のスピードダウンにあわせてからコーナー出口の立ち上がりで一気に前へ出るやり方で、一人また一人と抜いていった。
1周を終えて2周目に入った時に調子良く飛び出していたニコルの姿が目の前にどんどん大きく入ってきてやっと優勝のチャンスがあると思った。ニコルとの間に別のカテゴリーの選手が1人いてまた離れかけていたことにすぐさま反応してうまい所で抜かし、ニコルの後ろに入り込んだ。
彼女の走りを後ろで観察し、どこで仕掛けるかを考えていた。それは昨年2位の苦い思い出からスプリントに持ち込みたくなかったからだ。
レースはいつも賭け……。
どのくらいニコルの後ろを走っていただろうか。次第に彼女のコーナーの立ち上がりに疲れが見て取れた。その瞬間にスプリントかのように抜き去った。それは後ろに入られて足を回復されてしまっては困るからだ。
後ろを振り向きはしなかったが、人の気配を感じなかったので私の戦略は成功したかと思えた。それは2周目半の駆け引きで大きく開いていたと思っていたが、最終周に入って砂場に足を取られている間に追いつかれてしまった。
しかし、私に追いつくために彼女は力を要したのだろう、森の中心にある石畳の区間で私のスピードについて来れず再び離れた。チャンスだと思った。
無数に点在する砂地に私も車輪を取られ彼女と距離は5車身を保ったまま最後の最後までもつれこんだ。
昨年2位が頭によぎる。森を1番に抜けてゴールまでのアスファルトに出れば私に勝利があると思っていた。
それはスピード区間で彼女が私のスピードについて来れなかったからだ。
森を1番に抜けた! もう後ろを振り向かずに、1枚また1枚とギアを重くしてトップスピードを保ったままゴールに飛び込んだ。
でも、これで本当に終わりなのか自信が持てず、ゴールしてもそのままの惰性で砂場に入り込んで後ろを見たときに、停まっている選手を確認してから私も足を止めた。
勝った!私は勝った!
昨年の屈辱の2位がもたらした、長い長い1年が報われて短く感じた瞬間で、私の自転車人生における集大成の青いアルカンシェルがやっとここで手に入った。
沢山のシクロクロスを知らない人達の目には、雪の日も、雨の日もトレーニングを欠かさなかった私はただの「熱狂的自転車乗りのおばさん」でしかなかっただろう。
でも、ここにこうしてマスターズ世界チャンピオンとしての肩書を持ったことで、納得してもらえることだろう。
青いアルカンシェルを身にまとい、表彰台のてっぺんに立ち、沢山のカメラを向かれているのは今まで味わったことのない感覚だった。
ベルギー、モルのシルバー湖畔に君が代が響き渡った時、夢が現実になったと実感できて、人目構わず大声で三唱した。
どんよりとした空、ひんやりした空気、そのすべてが私の記憶に収められて一生忘れ去られることはないだろう。
幸いなことに、日本だけでなくオランダからの祝福も多数いただいて、私の勝利に沸いています。私が今までお世話になった方々に、「俺が面倒をみた荻島が世界チャンピオンになった。」と自慢してほしい。これが私の今まで返すことのできなかったすべての恩返しなのだから。
温かく私を見守ってくれた家族と、私を信じてスポンサーして下さった企業と応援して下さった皆さんに深くお礼を申しあげます。ありがとうございました。
これから1年間着ることのできる青いアルカンシェルをエンジョイしたいと思います。
荻島美香
2010 UCI Cyclo-cross Masters World Championships MOL - BELGIUM
Women (1962-1971) リザルト
1位 荻島美香 (日本)
2位 ニコル・ワルカーオルベルディング(ドイツ)
3位 ランブラット・ベッティナ(ドイツ)
使用機材
フレーム MURACA
コンポ シマノ・デュラエース9段
リム マビック・リフレックス
ハブ シマノ・デュラエース
タイヤ DUGAST タイフーン コットン 32mm
サドル サンマルコ
ペダル クランクブラザーズ・エッグピーター
ヘルメット BBB
プーリー BBB
ブレーキ スポーキー
昨年に引き続き2回目の挑戦で、昨年は30歳から39歳の部で惜しくも最後の最後で2位と涙をのんでからの出発だった。
ここまで来るのに沢山の方々のサポートを得てスタートラインに立つことに大きな気負いがあった。それは今シーズンは体調を崩しがちで免疫が落ちた状態が続いたのと、若手オランダ選手の強さに阻まれて私にとって難しいレースばかりだったからだ。でも、今週に入り悪い走りの感覚が薄れ、いい感じを取り戻し始めていたので自分を信じた。
会場についてすぐさま受付に向かった。人でごった返していてなかなか私の番にならないことに試走を早くしたい気持ちでイライラするがゼッケンナンバーを受け取ってすぐコースに入った。
砂のライン取りが難しくて引き返すこと数回。しかし時間が足らないので2周目はレースを想定して70%の力で引き返すことなく通しで走り切った。昨年よりも細かく砂区間が点在し、テクニックを更に必要とするようにしてあった。
車へ戻るとスタート時間まで25分と迫っていて、いつもならローラー台に乗るのだが、まだゼッケンもワンピースに着けておらず時間が押していた。
車の中で汗の湯気を立てながら着替えを終えて車から出て、ワンピースのチャックを上げようとしたら上がらない。主人のシャークに頼むも一向に上がらない。よく見ると糸がほつれていて完全に壊れてしまっていた。仕方がないので3つの安全ピンで前を閉じ、それで臨むことにした。
スタートラインへ向かう途中で2回ほどスタートを想定したダッシュをして準備に入った。
知り合いのオランダ人と久々な話をして、4番目にコールされてスタートラインに立ち、30代のクラスがスタートしてからの1分は早かった。
今思うと「1分開いていたかった」と思うが、その不意にちょっと遅れを取ってからのスタートとなってしまった。
5・6番手に入って砂場に飛び込んだ時に、前回の優勝者ニコル・ワルカーオルベルディング(ドイツ)がスタートよく飛び出していって強そうに見えたのが私に焦りを与えたが、でもそこは持ち前の開き直りの性格で自分の走りに集中し、いかにうまくニコルの間にいる選手をかわしていくかを考えていた。
湖畔の砂場は開けていて、抜かすのには絶好のチャンスだが、森の中のシングルは狭くてそうはいかない。コーナー手前の相手のスピードダウンにあわせてからコーナー出口の立ち上がりで一気に前へ出るやり方で、一人また一人と抜いていった。
1周を終えて2周目に入った時に調子良く飛び出していたニコルの姿が目の前にどんどん大きく入ってきてやっと優勝のチャンスがあると思った。ニコルとの間に別のカテゴリーの選手が1人いてまた離れかけていたことにすぐさま反応してうまい所で抜かし、ニコルの後ろに入り込んだ。
彼女の走りを後ろで観察し、どこで仕掛けるかを考えていた。それは昨年2位の苦い思い出からスプリントに持ち込みたくなかったからだ。
レースはいつも賭け……。
どのくらいニコルの後ろを走っていただろうか。次第に彼女のコーナーの立ち上がりに疲れが見て取れた。その瞬間にスプリントかのように抜き去った。それは後ろに入られて足を回復されてしまっては困るからだ。
後ろを振り向きはしなかったが、人の気配を感じなかったので私の戦略は成功したかと思えた。それは2周目半の駆け引きで大きく開いていたと思っていたが、最終周に入って砂場に足を取られている間に追いつかれてしまった。
しかし、私に追いつくために彼女は力を要したのだろう、森の中心にある石畳の区間で私のスピードについて来れず再び離れた。チャンスだと思った。
無数に点在する砂地に私も車輪を取られ彼女と距離は5車身を保ったまま最後の最後までもつれこんだ。
昨年2位が頭によぎる。森を1番に抜けてゴールまでのアスファルトに出れば私に勝利があると思っていた。
それはスピード区間で彼女が私のスピードについて来れなかったからだ。
森を1番に抜けた! もう後ろを振り向かずに、1枚また1枚とギアを重くしてトップスピードを保ったままゴールに飛び込んだ。
でも、これで本当に終わりなのか自信が持てず、ゴールしてもそのままの惰性で砂場に入り込んで後ろを見たときに、停まっている選手を確認してから私も足を止めた。
勝った!私は勝った!
昨年の屈辱の2位がもたらした、長い長い1年が報われて短く感じた瞬間で、私の自転車人生における集大成の青いアルカンシェルがやっとここで手に入った。
沢山のシクロクロスを知らない人達の目には、雪の日も、雨の日もトレーニングを欠かさなかった私はただの「熱狂的自転車乗りのおばさん」でしかなかっただろう。
でも、ここにこうしてマスターズ世界チャンピオンとしての肩書を持ったことで、納得してもらえることだろう。
青いアルカンシェルを身にまとい、表彰台のてっぺんに立ち、沢山のカメラを向かれているのは今まで味わったことのない感覚だった。
ベルギー、モルのシルバー湖畔に君が代が響き渡った時、夢が現実になったと実感できて、人目構わず大声で三唱した。
どんよりとした空、ひんやりした空気、そのすべてが私の記憶に収められて一生忘れ去られることはないだろう。
幸いなことに、日本だけでなくオランダからの祝福も多数いただいて、私の勝利に沸いています。私が今までお世話になった方々に、「俺が面倒をみた荻島が世界チャンピオンになった。」と自慢してほしい。これが私の今まで返すことのできなかったすべての恩返しなのだから。
温かく私を見守ってくれた家族と、私を信じてスポンサーして下さった企業と応援して下さった皆さんに深くお礼を申しあげます。ありがとうございました。
これから1年間着ることのできる青いアルカンシェルをエンジョイしたいと思います。
荻島美香
2010 UCI Cyclo-cross Masters World Championships MOL - BELGIUM
Women (1962-1971) リザルト
1位 荻島美香 (日本)
2位 ニコル・ワルカーオルベルディング(ドイツ)
3位 ランブラット・ベッティナ(ドイツ)
使用機材
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