2011/01/20(木) - 06:33
オーストラリア最長の河川であるマレー川は茶褐色の水をたたえていた。同国南部を蛇行しながらアデレードをかすめて南極海に流れ込むマレー川の流域が第2ステージの舞台。砂が浮いたコーナーは落車を誘発した。まさかカヴェンディッシュとゴスがクラッシュするとは思っていなかった。
スタート地点のテーレム・ベンドはアデレードから100km離れている。テーブルクロスの“しわ”のような丘陵地帯を抜けると、地平線まで続く平野が目の前に広がった。
今年もプレス用のオフィシャルバンが満席なので、オーストラリア人フォトグラファーとクルマをシェアしてレースを回っている。撮影場所に関して2人の意見が合わずに衝突することもあるが、第2ステージを終えて概ね関係は良好だ。
昨日まで比較的空気は爽やかだったのに、今日から太陽が強さを増し、体感的に一気に暑くなった。とは言っても朝方は涼しい。今朝はなんと16度しかなくて“寒かった”。真冬の日本の皆様に怒られそうな温度感覚になっている。
アデレードから1時間半かけてテーレム・ベンドに着くと、そこには沢山の人だかり。普段は物静かな田舎町が、ここぞとばかりに盛り上がっている。明らかに街の人口よりも多い人がメイン通りを埋めていた。
ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)は今も昔も大勢の報道陣を引き連れて動いている。ランスが動けば報道陣の波が動く。新たなドーピング疑惑が浮上しているだけに、常に表情は堅い。でも声の威勢の良さは健在だ。
会場を盛り上げるMC曰く、今年からUCI(国際自転車競技連合)のルールが変わり、出走サイン無しでは出走は許されない。罰金を払って済む話ではなく、出走しても成績が認められないという。選手たちにサインを促すMCがその場しのぎで考えついたアイデアとは思えないので本当なのだろう(UCIルール未確認)。
全員が出走サインを済ませたのを確認してスタート地点を離れ、先行するためにコースに出る。シドニーとアデレードを結ぶ真っすぐなプリンセスハイウェイを、110km/hの制限速度を遵守して西に向かう。すぐにマレー川に架かるマレーブリッジに差し掛かった。
街の地名そのものがマレーブリッジ。1879年に歴史上初めてマレー川に架かった橋としてオーストラリアでは有名な存在らしい。逃げを試みたユリー・クリフトソフ(フランス、アージェードゥーゼル)は、橋の制限速度40km/hを越えるスピードで駆け抜けた。数分後にやってきたメイン集団は制限速度を遵守していた。
そう言えばクリフトソフの国籍が今年からウクライナからフランスに変わっている。元ウクライナのTTチャンピオンだが、昨年フランスに帰化し、今シーズンからフランス人として走っている。シーズン初戦で戸惑うのはチームの移籍だけではないようだ。
集団内の選手はリラックスした表情で走っている。大人数の逃げが形成されたわけでもなく、風が吹き付けているわけではないので、どの選手も会話しながらの走行。しかしそんな和やかな雰囲気も残り距離の減少とともに姿を消し、ピリピリとした緊張感に包まれ始めた。
ゴール地点のマナムが近づくと、トリッキーなコーナーが連続。実際にクルマで走ってみると、真っ平らな直線路の後に鋭角のコーナーがあって驚く。しかも風が運んだ黄色い砂が路面をほんのりと覆っている。ラスト4kmのコーナーでの落車は想像に容易いものだった。
カヴェンディッシュ、ゴス、ファラー、グライペルというビッグスプリンターたちがラスト4kmの落車で集団から脱落。ゴスとグライペルは何とか集団に復帰したが、カヴェンディッシュとファラーは大きくタイムを失った。ラスト3kmより遠くでの落車だったため救済措置は無し。
しかもラスト150mの最終コーナーで再び落車が発生。集団先頭で競り合うベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)とロビー・マキュアン(オーストラリア、レディオシャック)にピントを合わせることに集中していたが、いやでも集団中程で空を舞っているバイクが目に入る。
プレスセンターで配られるメディカルサマリーによると、今日の落車の主な被害者は8名。その他にも多くの選手が地面に投げ出されていた。
最も深刻だったのはゴール前の落車に巻き込まれたバーナード・サルツバーガー(オーストラリア、UniSAオーストラリア)。右鎖骨を骨折し、今大会リタイア第1号になった。
カヴェンディッシュは左半身に切り傷と擦過傷、左目の上部と額に切り傷を負っている。HTC・ハイロードのチームカーに駆けつけた頃には、カヴェンディッシュの流血は止まっていたが、傷が何とも痛々しい。
その他、ピーター・ウェーニング(オランダ、ラボバンク)は縫合が必要なほど深い右肘の傷、クリストファー・サットン(オーストラリア、チームスカイ)は両膝と両肘に切り傷と擦過傷、キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)、トラヴィス・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)、ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)、デーヴィッド・タナー(オーストラリア、サクソバンク)はともに複数の擦過傷。
2つの落車はどちらも集団前方で発生した。今大会に出場する133名の選手のうち、オーストラリア人は31名。つまり比率は約5分の1だ。だが、大きな怪我を負った選手のうち、オーストラリアの比率は8分の5。それだけオーストラリア人が集団前方のいい位置で走っていたということ、だと思う。
カヴェンディッシュに関しては第2ステージDNSの可能性があるとメディカルサマリーは伝えている。HTC・ハイロードは少しトーンダウンしているが、まだまだゴスがタイム差なしの総合2位につけており、第3ステージから巻き返しを図る。
第3ステージは終盤に起伏のあるスターリングの周回コースが設定された129km。第1ステージよりも勾配のある上り基調のゴールレイアウトで、集団が割れてタイム差がつく可能性がある。総合成績を狙うスプリンターにとって一つ目の試練だ。
text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
スタート地点のテーレム・ベンドはアデレードから100km離れている。テーブルクロスの“しわ”のような丘陵地帯を抜けると、地平線まで続く平野が目の前に広がった。
今年もプレス用のオフィシャルバンが満席なので、オーストラリア人フォトグラファーとクルマをシェアしてレースを回っている。撮影場所に関して2人の意見が合わずに衝突することもあるが、第2ステージを終えて概ね関係は良好だ。
昨日まで比較的空気は爽やかだったのに、今日から太陽が強さを増し、体感的に一気に暑くなった。とは言っても朝方は涼しい。今朝はなんと16度しかなくて“寒かった”。真冬の日本の皆様に怒られそうな温度感覚になっている。
アデレードから1時間半かけてテーレム・ベンドに着くと、そこには沢山の人だかり。普段は物静かな田舎町が、ここぞとばかりに盛り上がっている。明らかに街の人口よりも多い人がメイン通りを埋めていた。
ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)は今も昔も大勢の報道陣を引き連れて動いている。ランスが動けば報道陣の波が動く。新たなドーピング疑惑が浮上しているだけに、常に表情は堅い。でも声の威勢の良さは健在だ。
会場を盛り上げるMC曰く、今年からUCI(国際自転車競技連合)のルールが変わり、出走サイン無しでは出走は許されない。罰金を払って済む話ではなく、出走しても成績が認められないという。選手たちにサインを促すMCがその場しのぎで考えついたアイデアとは思えないので本当なのだろう(UCIルール未確認)。
全員が出走サインを済ませたのを確認してスタート地点を離れ、先行するためにコースに出る。シドニーとアデレードを結ぶ真っすぐなプリンセスハイウェイを、110km/hの制限速度を遵守して西に向かう。すぐにマレー川に架かるマレーブリッジに差し掛かった。
街の地名そのものがマレーブリッジ。1879年に歴史上初めてマレー川に架かった橋としてオーストラリアでは有名な存在らしい。逃げを試みたユリー・クリフトソフ(フランス、アージェードゥーゼル)は、橋の制限速度40km/hを越えるスピードで駆け抜けた。数分後にやってきたメイン集団は制限速度を遵守していた。
そう言えばクリフトソフの国籍が今年からウクライナからフランスに変わっている。元ウクライナのTTチャンピオンだが、昨年フランスに帰化し、今シーズンからフランス人として走っている。シーズン初戦で戸惑うのはチームの移籍だけではないようだ。
集団内の選手はリラックスした表情で走っている。大人数の逃げが形成されたわけでもなく、風が吹き付けているわけではないので、どの選手も会話しながらの走行。しかしそんな和やかな雰囲気も残り距離の減少とともに姿を消し、ピリピリとした緊張感に包まれ始めた。
ゴール地点のマナムが近づくと、トリッキーなコーナーが連続。実際にクルマで走ってみると、真っ平らな直線路の後に鋭角のコーナーがあって驚く。しかも風が運んだ黄色い砂が路面をほんのりと覆っている。ラスト4kmのコーナーでの落車は想像に容易いものだった。
カヴェンディッシュ、ゴス、ファラー、グライペルというビッグスプリンターたちがラスト4kmの落車で集団から脱落。ゴスとグライペルは何とか集団に復帰したが、カヴェンディッシュとファラーは大きくタイムを失った。ラスト3kmより遠くでの落車だったため救済措置は無し。
しかもラスト150mの最終コーナーで再び落車が発生。集団先頭で競り合うベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)とロビー・マキュアン(オーストラリア、レディオシャック)にピントを合わせることに集中していたが、いやでも集団中程で空を舞っているバイクが目に入る。
プレスセンターで配られるメディカルサマリーによると、今日の落車の主な被害者は8名。その他にも多くの選手が地面に投げ出されていた。
最も深刻だったのはゴール前の落車に巻き込まれたバーナード・サルツバーガー(オーストラリア、UniSAオーストラリア)。右鎖骨を骨折し、今大会リタイア第1号になった。
カヴェンディッシュは左半身に切り傷と擦過傷、左目の上部と額に切り傷を負っている。HTC・ハイロードのチームカーに駆けつけた頃には、カヴェンディッシュの流血は止まっていたが、傷が何とも痛々しい。
その他、ピーター・ウェーニング(オランダ、ラボバンク)は縫合が必要なほど深い右肘の傷、クリストファー・サットン(オーストラリア、チームスカイ)は両膝と両肘に切り傷と擦過傷、キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)、トラヴィス・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)、ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)、デーヴィッド・タナー(オーストラリア、サクソバンク)はともに複数の擦過傷。
2つの落車はどちらも集団前方で発生した。今大会に出場する133名の選手のうち、オーストラリア人は31名。つまり比率は約5分の1だ。だが、大きな怪我を負った選手のうち、オーストラリアの比率は8分の5。それだけオーストラリア人が集団前方のいい位置で走っていたということ、だと思う。
カヴェンディッシュに関しては第2ステージDNSの可能性があるとメディカルサマリーは伝えている。HTC・ハイロードは少しトーンダウンしているが、まだまだゴスがタイム差なしの総合2位につけており、第3ステージから巻き返しを図る。
第3ステージは終盤に起伏のあるスターリングの周回コースが設定された129km。第1ステージよりも勾配のある上り基調のゴールレイアウトで、集団が割れてタイム差がつく可能性がある。総合成績を狙うスプリンターにとって一つ目の試練だ。
text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
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