2009/04/13(月) - 09:33
「これまでの3勝の中で最も過酷だったーーー」。連覇を達成したトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)はレース後そう振り返った。相次ぐ落車やパンク、マシントラブルを乗り越え、有力選手ひしめくグループから終盤のパヴェで飛び出したボーネンが、ヴェロドロームまで独走。2年連続、3度目のタイトルを手にした。
勝負を分けたアランベールとカルフール・ダルブル
「泥レース」を予感させた事前の天気予報を覆し、選手たちを迎えたのは北フランスの曇り空。前半の舗装路でアタックが繰り返され、逃げは最初の1時間を平均45.7km/hで駆け抜けたあとにようやく決まる。
2001年大会優勝者のセルファイス・クナーフェン(オランダ、ミルラム)やアンドレアス・クリアー(ドイツ、サーヴェロ)らが入ったこの11名の逃げは、最大4分のリードを得て連続するパヴェ区間に突入した。
逃げに選手を送り損ねたサイレンス・ロットやスキル・シマノが集団を牽引。2年ぶりの出場となる別府史之(スキル・シマノ)も集団前方に姿を見せた。
逃げる11名と、追走する大集団。この膠着状態を切り裂いたのは、前半の難所、難易度五つ星のアランベールだ。激しいポジション争いの末にハイスピードでこの悪路に突入したメイン集団は、ボーネンを先頭に猛進。集団中盤の大落車も影響し、この難所で集団は30名ほどに絞られた。
舗装区間でメイン集団は60名ほどに膨れ上がったが、横風区間のサクソバンクのペースアップにより再び30名に絞られる。執拗なボーネンのアタックが再び集団を破壊させ、精鋭たちがゴールまで60kmを残してついに先頭グループを捉えた。
ここからは連続するパヴェでアタックに次ぐアタックだ。消耗戦の末に、ゴールまで50kmを残した五つ星モンサン・ペベルのパヴェでボーネンが再びアタックを成功させ、フースホフト(サーヴェロ)、フレチャ(ラボバンク)、ポッツァート(カチューシャ)、ファンスーメレンとホステ(サイレンス・ロット)の5名が合流。ジョージ・ヒンカピー(アメリカ、チームコロンビア)やファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)らは出遅れた。
ロンド・ファン・フラーンデレンでボーネンのマークに徹底したポッツァートもローテーションに加わり、先頭6名は協調体勢が成立。一段とペースを上げるこの強力な6名に、後続グループが追いつくことは無かった。
連続する難易度四つ星のパヴェを越え、先頭6名の体制が崩れたのはラスト16km地点。この日最後の難所カルフール・ダルブルを前に、勢いあまったフレチャがコーナーでクラッシュし、ホステとファンスーメレンが避けきれずに突っ込んでしまう。落車を免れたボーネンとフースホフト先頭でカルフール・ダルブルに突入した。
そして観客に埋め尽くされたカルフール・ダルブルで勝負は決まった。ブラインドコーナーでフースホフトがオーバースピードでクラッシュ。相次ぐライバル選手の落車により、ゴールまで14kmを残してボーネン独走を開始した。単独で追走したのはポッツァートだ。
ロンドで互いをマークし合った結果、共倒れに終わったボーネンとポッツァート。この両雄が一進一退の攻防を演じた。単独で走る両者は互いに譲らず、タイム差は15秒を推移して進行。しかしラスト10kmを切るとタイム差は拡大に転じた。
大歓声の中、ボーネンは独走のままヴェロドロームへ。追いすがるポッツァートを振り切ったボーネンがトラックを周回し、大会3勝目を意味する3本指を立ててゴールに飛び込んだ。
王者としての貫禄を見せつけたボーネン
メルクスやムセーウといったレジェンドに肩を並べるパリ〜ルーベ3勝目。しかし決して順風満帆の勝利ではなく、自ら何度もアタックを仕掛け、さらに落車やメカトラとの闘いでもあった。喜び溢れるボーネンの「これまでの3勝の中で最もハードだった」というコメントがレースの過酷さを物語る。
「セクター3のパヴェで落車して、脚と腕を痛めたんだ。自分に『問題ない問題ない』といい聞かせながらレースを進めた。ラスト30kmを切るとリアホイールが壊れて、何とか交換したけど非常に苦しいタイミングだった。でもライバル選手のほうが苦しかったと思う」。
ライバル選手の相次ぐ落車がボーネンに有利に働いたのは事実。しかし落車を避けることも重要なテクニックの一つ。勝負どころでの位置取りや、重要なコーナーでの的確なライン取りはボーネンがずば抜けていた。経験によって身につけたパヴェ走行テクニックが、ボーネンを3勝目に導いたと言っていいだろう。
勝負の決め手となったのは終盤のカルフール・ダルブルに違いない。「フースホフトがアタックしたから反応しただけ。フレチャの落車は見ていない。パヴェに集中しながら振り返ることなんて不可能」。ボーネンはフースホフトの落車にも気づかず、「自分からアタックを仕掛けて独走態勢に入った」と語っている。
これまでスプリント勝負で2勝しているボーネンだが、今回は6名のスプリント勝負ではなくアタック→独走を選択した。「サイレンス・ロットは2人を揃えていたし、フレチャは協力しなかった。あの状況では、アタックすること無く6名のスプリント勝負に持ち込むことは避けたかった」と語る。
ボーネンの活躍の影には、クラシックシーズン序盤から強さを発揮しているクイックステップの強靭なチーム力がある。この日はマールテン・ワイナンツ(ベルギー)が序盤の逃げに乗り、シルヴァン・シャヴァネル(フランス)やステイン・デヴォルデル(ベルギー)が伏兵として動き回った。クイックステップは2年連続でロンドとパリ〜ルーベを制した。
ボーネンの次なる目標は7月のグランツール。「今週はスプリントと無縁だったけど、7月のツール・ド・フランスではマイヨヴェールを狙っていく」。ボーネンはクラシック連戦を最高の形で終えた。
2位には王者ボーネンに挑戦状を叩き付け、完全アウェーの状況下で健闘したポッツァート。3位にはホステをスプリントで破ったフースホフトが入った。完走者は99名。レース中盤までアシストとして集団前方で走っていた別府史之は、アランベールでの落車に巻き込まれて脱落。メカトラも影響して集団復帰ならず、途中リタイアを喫している。
選手コメントはフランス・レキップ紙より。
パリ〜ルーベ2009
1位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)6h15'53"
2位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)+47"
3位 トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ)+1'17"
4位 レイフ・ホステ(ベルギー、サイレンス・ロット)
5位 ヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、サイレンス・ロット)+1'22"
6位 フアンアントニオ・フレチャ(スペイン、ラボバンク)+2'14"
7位 ハインリッヒ・ハウッスラー(ドイツ、サーヴェロ)+3'13"
8位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)+3'15"
9位 マヌエル・クインツィアート(イタリア、リクイガス)+5'00"
10位 マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)+5'29"
DNF 別府史之(日本、スキル・シマノ)
勝負を分けたアランベールとカルフール・ダルブル
「泥レース」を予感させた事前の天気予報を覆し、選手たちを迎えたのは北フランスの曇り空。前半の舗装路でアタックが繰り返され、逃げは最初の1時間を平均45.7km/hで駆け抜けたあとにようやく決まる。
2001年大会優勝者のセルファイス・クナーフェン(オランダ、ミルラム)やアンドレアス・クリアー(ドイツ、サーヴェロ)らが入ったこの11名の逃げは、最大4分のリードを得て連続するパヴェ区間に突入した。
逃げに選手を送り損ねたサイレンス・ロットやスキル・シマノが集団を牽引。2年ぶりの出場となる別府史之(スキル・シマノ)も集団前方に姿を見せた。
逃げる11名と、追走する大集団。この膠着状態を切り裂いたのは、前半の難所、難易度五つ星のアランベールだ。激しいポジション争いの末にハイスピードでこの悪路に突入したメイン集団は、ボーネンを先頭に猛進。集団中盤の大落車も影響し、この難所で集団は30名ほどに絞られた。
舗装区間でメイン集団は60名ほどに膨れ上がったが、横風区間のサクソバンクのペースアップにより再び30名に絞られる。執拗なボーネンのアタックが再び集団を破壊させ、精鋭たちがゴールまで60kmを残してついに先頭グループを捉えた。
ここからは連続するパヴェでアタックに次ぐアタックだ。消耗戦の末に、ゴールまで50kmを残した五つ星モンサン・ペベルのパヴェでボーネンが再びアタックを成功させ、フースホフト(サーヴェロ)、フレチャ(ラボバンク)、ポッツァート(カチューシャ)、ファンスーメレンとホステ(サイレンス・ロット)の5名が合流。ジョージ・ヒンカピー(アメリカ、チームコロンビア)やファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)らは出遅れた。
ロンド・ファン・フラーンデレンでボーネンのマークに徹底したポッツァートもローテーションに加わり、先頭6名は協調体勢が成立。一段とペースを上げるこの強力な6名に、後続グループが追いつくことは無かった。
連続する難易度四つ星のパヴェを越え、先頭6名の体制が崩れたのはラスト16km地点。この日最後の難所カルフール・ダルブルを前に、勢いあまったフレチャがコーナーでクラッシュし、ホステとファンスーメレンが避けきれずに突っ込んでしまう。落車を免れたボーネンとフースホフト先頭でカルフール・ダルブルに突入した。
そして観客に埋め尽くされたカルフール・ダルブルで勝負は決まった。ブラインドコーナーでフースホフトがオーバースピードでクラッシュ。相次ぐライバル選手の落車により、ゴールまで14kmを残してボーネン独走を開始した。単独で追走したのはポッツァートだ。
ロンドで互いをマークし合った結果、共倒れに終わったボーネンとポッツァート。この両雄が一進一退の攻防を演じた。単独で走る両者は互いに譲らず、タイム差は15秒を推移して進行。しかしラスト10kmを切るとタイム差は拡大に転じた。
大歓声の中、ボーネンは独走のままヴェロドロームへ。追いすがるポッツァートを振り切ったボーネンがトラックを周回し、大会3勝目を意味する3本指を立ててゴールに飛び込んだ。
王者としての貫禄を見せつけたボーネン
メルクスやムセーウといったレジェンドに肩を並べるパリ〜ルーベ3勝目。しかし決して順風満帆の勝利ではなく、自ら何度もアタックを仕掛け、さらに落車やメカトラとの闘いでもあった。喜び溢れるボーネンの「これまでの3勝の中で最もハードだった」というコメントがレースの過酷さを物語る。
「セクター3のパヴェで落車して、脚と腕を痛めたんだ。自分に『問題ない問題ない』といい聞かせながらレースを進めた。ラスト30kmを切るとリアホイールが壊れて、何とか交換したけど非常に苦しいタイミングだった。でもライバル選手のほうが苦しかったと思う」。
ライバル選手の相次ぐ落車がボーネンに有利に働いたのは事実。しかし落車を避けることも重要なテクニックの一つ。勝負どころでの位置取りや、重要なコーナーでの的確なライン取りはボーネンがずば抜けていた。経験によって身につけたパヴェ走行テクニックが、ボーネンを3勝目に導いたと言っていいだろう。
勝負の決め手となったのは終盤のカルフール・ダルブルに違いない。「フースホフトがアタックしたから反応しただけ。フレチャの落車は見ていない。パヴェに集中しながら振り返ることなんて不可能」。ボーネンはフースホフトの落車にも気づかず、「自分からアタックを仕掛けて独走態勢に入った」と語っている。
これまでスプリント勝負で2勝しているボーネンだが、今回は6名のスプリント勝負ではなくアタック→独走を選択した。「サイレンス・ロットは2人を揃えていたし、フレチャは協力しなかった。あの状況では、アタックすること無く6名のスプリント勝負に持ち込むことは避けたかった」と語る。
ボーネンの活躍の影には、クラシックシーズン序盤から強さを発揮しているクイックステップの強靭なチーム力がある。この日はマールテン・ワイナンツ(ベルギー)が序盤の逃げに乗り、シルヴァン・シャヴァネル(フランス)やステイン・デヴォルデル(ベルギー)が伏兵として動き回った。クイックステップは2年連続でロンドとパリ〜ルーベを制した。
ボーネンの次なる目標は7月のグランツール。「今週はスプリントと無縁だったけど、7月のツール・ド・フランスではマイヨヴェールを狙っていく」。ボーネンはクラシック連戦を最高の形で終えた。
2位には王者ボーネンに挑戦状を叩き付け、完全アウェーの状況下で健闘したポッツァート。3位にはホステをスプリントで破ったフースホフトが入った。完走者は99名。レース中盤までアシストとして集団前方で走っていた別府史之は、アランベールでの落車に巻き込まれて脱落。メカトラも影響して集団復帰ならず、途中リタイアを喫している。
選手コメントはフランス・レキップ紙より。
パリ〜ルーベ2009
1位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)6h15'53"
2位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)+47"
3位 トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ)+1'17"
4位 レイフ・ホステ(ベルギー、サイレンス・ロット)
5位 ヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、サイレンス・ロット)+1'22"
6位 フアンアントニオ・フレチャ(スペイン、ラボバンク)+2'14"
7位 ハインリッヒ・ハウッスラー(ドイツ、サーヴェロ)+3'13"
8位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)+3'15"
9位 マヌエル・クインツィアート(イタリア、リクイガス)+5'00"
10位 マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)+5'29"
DNF 別府史之(日本、スキル・シマノ)
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