2010/10/03(日) - 21:34
ロード世界選手権2010エリート男子ロードレースは周回を重ねるごとに選手の減る厳しいレースに。小集団でのスプリントをトル・フースホフト(ノルウェー)が制し、最後まで残った新城幸也(日本)が9位に食い込む快挙を達成した。
スプリンターか、それともパンチャーか?世界選手権ロードレースが始まってから多くの選手が有力候補に挙げられた。その中で誰もが優勝候補に推したのは目下絶好調のフィリップ・ジルベール(ベルギー)。
例年イタリアとスペインが国を挙げて戦う世界選手権に、今年はジルベールのベルギーが絡んでくるだろうと目された。また開催国オーストラリアからは、昨年覇者のカデル・エヴァンス(オーストラリア)が地元の熱い期待を一身に受ける。
23分まで開いたタイム差
262.2kmのロングコースということもあってか、序盤にできた逃げを集団が容認すると、その差はみるみる開いていく。先頭グループを形成したのはアレハンドロ・マルティネス(コロンビア)、マチュー・ブラメイヤー(アイルランド)、ジャクソン・ロドリゲス(ベネズエラ)、オレクサンドル・クワチュク(ウクライナ)、モハメド・エラムリ(モロッコ)の5人。
メルボルンをスタートし80kmの平坦路を経てジーロングの周回コースに至ると、集団と先頭グループとの差は23分まで拡大。ワンデイレースらしかぬ大きなタイム差がついた。
さすがにこの差を重く見て、国単位で動き出したのはベルギー。150kmを残しながらも積極的に集団のペースを上げていく。強力なこの動きは、集団内で中切れを引き起こすほど。レース中盤だからと安心していた選手にとっては寝耳に水。早くも世界選手権はサバイバルレースの様相を呈する。
11周の周回コースを4周する頃にはタイム差を15分台まで縮めたメイン集団。マリオ・アールツ(ベルギー)、ダニエル・オス(イタリア)、イマノル・エルビーティ(スペイン)といった主要国のアシスト選手が懸命にペースをつくる。
アップダウンの繰り返してタテに伸びたりヨコに広がったりする不安定な集団の前方には新城幸也、別府史之、土井雪広がしっかりとポジションをキープ。欧州のレースで鍛え上げられた3人は頼もしくなるほどに落ち着き好位置でレースを展開する。
イタリアがレースの主導権を握る
5周目のチャランブラ・クレセントの登りが終わるところで突如イタリア勢がペースアップを図る。この動きによって集団は一時的に形を失った。レースを決定づける勢いは無かったものの、主要国でまずイタリアがこのレースへの意志を見せる。
6周目のチャランブラ・クレセントで再びマッテーオ・トザット(イタリア)がアタック。このアタックによって、30名ほどの小集団が形成される。ここにはジルベールやエヴァンス、フィリッポ・ポッツァート(イタリア)ら多くの有力選手が入った。人数を揃えるベルギーとイタリアが積極的にペースを作り、85kmを残しながらもこのままゴールまで行きたい意志を走りで表す。
1分20秒遅れた大集団では、小集団にエーススプリンターのオスカル・フレイレ(スペイン)を送り込めなかったスペインが人数を集めて追走にまわる。日本勢は3名ともこの集団の中で息をひそめる。
レースを決定づけたい小集団からはトザット(イタリア)、ジェランス(オーストラリア)、ホステ(ベルギー)が献身的なペースメイクを見せる。しかし数で勝る大集団も1分差を保ったまま小集団を追い続ける。
8周目の登りでジェランスが力つき脱落すると、またもイタリアチームがカードを切る。ジョヴァンニ・ヴィスコンティのアタックに乗じてサブエースのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)がアタックで飛び出す。これを逃すわけにはいかないジルベールは自ら追走。しかしその後ろにぴったりマークに入るのはポッツァート。イタリアは残り40kmで理想的な展開をつくり出した。
逃げていた5人から最後まで粘ったクワチュクだが、ハイペースな展開が災いして、残り3周で先頭の座を譲ることとなった。実に200kmに及ぶ長い逃げだった。
再びアタックでレースをかき乱したのはニーバリ。この動きで先頭は5名に。9周目に入る段階で、ニーバリ、ヴィスコンティ、クリスアンケル・セレンセン(デンマーク)、ホセ・セルパ(コロンビア)、コース・ムーレンホウト(オランダ)の5人を、ジルベール、ポッツァート、エヴァンス、ファビアン・ウェーグマン(ドイツ)、タジェイ・ヴァンガードレン(アメリカ)、ウート・ポーエルズ(オランダ)、パヴェル・ブラット(ロシア)が22秒差で追う展開に。日本人選手を含む大集団は49秒遅れ。
しかし9周目の登りでジルベールグループはおろか、ニーバリグループも集団に飲み込まれた。するとこの登りで今度はベルギー勢が動きを見せる。ビョルン・ルークマンス(ベルギー)のアタックに乗じる形でジルベールがアタック。これにはエヴァンスやポッツァートがしっかりチェックに入り、6人の先頭グループが形成される。
ベルギー勢の反撃
ここに入ったニキ・テルプストラ(オランダ)が独走を見せる場面もあったが、結局は集団に再び吸収された。ポッツァートは執拗なまでにジルベールのマークに徹し、6人の中でも先頭を引くのを拒否。かつての北のクラシックで見せたボーネンへのマークを彷彿とさせる、ポッツァートのベルギー人マークだ。
集団ひとつで迎えた最終周回。マルツィオ・ブルセギン(イタリア)が猛烈に集団のペースを上げる中、最後のチャランブラ・クレセントの登りでグレグ・ファンアフェルマート(ベルギー)がアタックし、カウンターで再びジルベールが飛び出す。前周回のリピートとなる戦法だが、今回は誰もジルベールについていけない。
大本命ジルベール動く
意を決したジルベールはそのまま踏み込み、単独でチャランブラ・クレセントを先頭通過。これを追ってアレクサンドル・コロブネフ(ロシア)やエヴァンスが飛び出すが、山頂で14秒もの差が開く。
先頭に躍り出たジルベールはこの日最後の登りも単独で踏み込む。追走にはポール・マルテンス(ドイツ)、コロブネフ、エヴァンス、シュレクが加わり、ジルベール包囲網を形成。残り5kmを独走で走るジルベールだが、足を要求される平坦路に苦痛の表情を浮かべる。
しかしまだレースは決まらなかった。残り3kmで、先頭に選手を送り込めなかったイタリア勢が猛追。集団が一気に追い上げを見せ、エヴァンスグループはおろかジルベールまでも飲み込んで、レースを最終局面で振り出しに戻した。
この集団からはウラディミール・グセフ(ロシア)、ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア)、ニキ・テルプストラ(オランダ)が飛び出した。この3人を先頭に残り1kmを過ぎ、最終コーナーを曲がる。20人ほどまでに縮小した集団には新城幸也の姿があった。
勝負は集団スプリントに!ユキヤの本領発揮
テルプストラがロングスパートで一気に加速すると、後続では集団スプリントへと各選手がタイミングを伺う。ジルベールに替わりスプリント力のあるファンアフェルマートが加速すると、他の選手たちもスプリントを開始した。
ゴールへは緩い登り基調。こうしたパワースプリントをこれまで制してきたトル・フースホフト(ノルウェー)が一気にスピードを上げると、もう追いつける者はいなかった。マッティ・ブレシェル(デンマーク)、アラン・デーヴィス(オーストラリア)、フィリッポ・ポッツァート(イタリア)が追いすがるも、その差は広がるばかり。
そしてフースホフトが得意パターンで世界選手権のタイトルを獲得。文句無しのパワースプリントでもぎ取った勝利だ。そしてスプリントに絡んだ新城幸也は9位に食い込んだ。これはプロ化してからの世界選手権における日本人最高位の快挙だが、純粋に一人の選手の成績としても見事なリザルトだ。
今年のジロ・デ・イタリア第5ステージで区間3位に入り日本を沸かせた新城幸也が、今度は世界の舞台でその勝負強さと脚力を見せつけた。日本勢は最終周回までメイン集団にいた別府史之が2分11秒遅れの30位、粘り強い走りをした土井雪広が13分53秒遅れの72位で完走を果たしている。
3者がそれぞれ次につながる走りを見せた今回の世界選手権。日本のロードレースシーンの将来に明るい光をもたらすレースとなった。
ロード世界選手権2010エリート男子ロードレース結果
1位 トル・フースホフト(ノルウェー) 6h21'49"
2位 マッティ・ブレシェル(デンマーク)
3位 アラン・デーヴィス(オーストラリア)
4位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア)
5位 グレグ・ファンアフェルマート(ベルギー)
6位 オスカル・フレイレ(スペイン)
7位 アレクサンドル・コロブネフ(ロシア)
8位 アッサン・バザイエフ(カザフスタン)
9位 新城幸也(日本)
10位 ロメン・フェイユ(フランス)
30位 別府史之 +2'11"
72位 土井雪広 +13'53"
オフィシャルダイジェストムービーはこちら
text:Yufta Omata
photo:Kei Tsuji,Graham Watson,Riccardo Scanferla
スプリンターか、それともパンチャーか?世界選手権ロードレースが始まってから多くの選手が有力候補に挙げられた。その中で誰もが優勝候補に推したのは目下絶好調のフィリップ・ジルベール(ベルギー)。
例年イタリアとスペインが国を挙げて戦う世界選手権に、今年はジルベールのベルギーが絡んでくるだろうと目された。また開催国オーストラリアからは、昨年覇者のカデル・エヴァンス(オーストラリア)が地元の熱い期待を一身に受ける。
23分まで開いたタイム差
262.2kmのロングコースということもあってか、序盤にできた逃げを集団が容認すると、その差はみるみる開いていく。先頭グループを形成したのはアレハンドロ・マルティネス(コロンビア)、マチュー・ブラメイヤー(アイルランド)、ジャクソン・ロドリゲス(ベネズエラ)、オレクサンドル・クワチュク(ウクライナ)、モハメド・エラムリ(モロッコ)の5人。
メルボルンをスタートし80kmの平坦路を経てジーロングの周回コースに至ると、集団と先頭グループとの差は23分まで拡大。ワンデイレースらしかぬ大きなタイム差がついた。
さすがにこの差を重く見て、国単位で動き出したのはベルギー。150kmを残しながらも積極的に集団のペースを上げていく。強力なこの動きは、集団内で中切れを引き起こすほど。レース中盤だからと安心していた選手にとっては寝耳に水。早くも世界選手権はサバイバルレースの様相を呈する。
11周の周回コースを4周する頃にはタイム差を15分台まで縮めたメイン集団。マリオ・アールツ(ベルギー)、ダニエル・オス(イタリア)、イマノル・エルビーティ(スペイン)といった主要国のアシスト選手が懸命にペースをつくる。
アップダウンの繰り返してタテに伸びたりヨコに広がったりする不安定な集団の前方には新城幸也、別府史之、土井雪広がしっかりとポジションをキープ。欧州のレースで鍛え上げられた3人は頼もしくなるほどに落ち着き好位置でレースを展開する。
イタリアがレースの主導権を握る
5周目のチャランブラ・クレセントの登りが終わるところで突如イタリア勢がペースアップを図る。この動きによって集団は一時的に形を失った。レースを決定づける勢いは無かったものの、主要国でまずイタリアがこのレースへの意志を見せる。
6周目のチャランブラ・クレセントで再びマッテーオ・トザット(イタリア)がアタック。このアタックによって、30名ほどの小集団が形成される。ここにはジルベールやエヴァンス、フィリッポ・ポッツァート(イタリア)ら多くの有力選手が入った。人数を揃えるベルギーとイタリアが積極的にペースを作り、85kmを残しながらもこのままゴールまで行きたい意志を走りで表す。
1分20秒遅れた大集団では、小集団にエーススプリンターのオスカル・フレイレ(スペイン)を送り込めなかったスペインが人数を集めて追走にまわる。日本勢は3名ともこの集団の中で息をひそめる。
レースを決定づけたい小集団からはトザット(イタリア)、ジェランス(オーストラリア)、ホステ(ベルギー)が献身的なペースメイクを見せる。しかし数で勝る大集団も1分差を保ったまま小集団を追い続ける。
8周目の登りでジェランスが力つき脱落すると、またもイタリアチームがカードを切る。ジョヴァンニ・ヴィスコンティのアタックに乗じてサブエースのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)がアタックで飛び出す。これを逃すわけにはいかないジルベールは自ら追走。しかしその後ろにぴったりマークに入るのはポッツァート。イタリアは残り40kmで理想的な展開をつくり出した。
逃げていた5人から最後まで粘ったクワチュクだが、ハイペースな展開が災いして、残り3周で先頭の座を譲ることとなった。実に200kmに及ぶ長い逃げだった。
再びアタックでレースをかき乱したのはニーバリ。この動きで先頭は5名に。9周目に入る段階で、ニーバリ、ヴィスコンティ、クリスアンケル・セレンセン(デンマーク)、ホセ・セルパ(コロンビア)、コース・ムーレンホウト(オランダ)の5人を、ジルベール、ポッツァート、エヴァンス、ファビアン・ウェーグマン(ドイツ)、タジェイ・ヴァンガードレン(アメリカ)、ウート・ポーエルズ(オランダ)、パヴェル・ブラット(ロシア)が22秒差で追う展開に。日本人選手を含む大集団は49秒遅れ。
しかし9周目の登りでジルベールグループはおろか、ニーバリグループも集団に飲み込まれた。するとこの登りで今度はベルギー勢が動きを見せる。ビョルン・ルークマンス(ベルギー)のアタックに乗じる形でジルベールがアタック。これにはエヴァンスやポッツァートがしっかりチェックに入り、6人の先頭グループが形成される。
ベルギー勢の反撃
ここに入ったニキ・テルプストラ(オランダ)が独走を見せる場面もあったが、結局は集団に再び吸収された。ポッツァートは執拗なまでにジルベールのマークに徹し、6人の中でも先頭を引くのを拒否。かつての北のクラシックで見せたボーネンへのマークを彷彿とさせる、ポッツァートのベルギー人マークだ。
集団ひとつで迎えた最終周回。マルツィオ・ブルセギン(イタリア)が猛烈に集団のペースを上げる中、最後のチャランブラ・クレセントの登りでグレグ・ファンアフェルマート(ベルギー)がアタックし、カウンターで再びジルベールが飛び出す。前周回のリピートとなる戦法だが、今回は誰もジルベールについていけない。
大本命ジルベール動く
意を決したジルベールはそのまま踏み込み、単独でチャランブラ・クレセントを先頭通過。これを追ってアレクサンドル・コロブネフ(ロシア)やエヴァンスが飛び出すが、山頂で14秒もの差が開く。
先頭に躍り出たジルベールはこの日最後の登りも単独で踏み込む。追走にはポール・マルテンス(ドイツ)、コロブネフ、エヴァンス、シュレクが加わり、ジルベール包囲網を形成。残り5kmを独走で走るジルベールだが、足を要求される平坦路に苦痛の表情を浮かべる。
しかしまだレースは決まらなかった。残り3kmで、先頭に選手を送り込めなかったイタリア勢が猛追。集団が一気に追い上げを見せ、エヴァンスグループはおろかジルベールまでも飲み込んで、レースを最終局面で振り出しに戻した。
この集団からはウラディミール・グセフ(ロシア)、ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア)、ニキ・テルプストラ(オランダ)が飛び出した。この3人を先頭に残り1kmを過ぎ、最終コーナーを曲がる。20人ほどまでに縮小した集団には新城幸也の姿があった。
勝負は集団スプリントに!ユキヤの本領発揮
テルプストラがロングスパートで一気に加速すると、後続では集団スプリントへと各選手がタイミングを伺う。ジルベールに替わりスプリント力のあるファンアフェルマートが加速すると、他の選手たちもスプリントを開始した。
ゴールへは緩い登り基調。こうしたパワースプリントをこれまで制してきたトル・フースホフト(ノルウェー)が一気にスピードを上げると、もう追いつける者はいなかった。マッティ・ブレシェル(デンマーク)、アラン・デーヴィス(オーストラリア)、フィリッポ・ポッツァート(イタリア)が追いすがるも、その差は広がるばかり。
そしてフースホフトが得意パターンで世界選手権のタイトルを獲得。文句無しのパワースプリントでもぎ取った勝利だ。そしてスプリントに絡んだ新城幸也は9位に食い込んだ。これはプロ化してからの世界選手権における日本人最高位の快挙だが、純粋に一人の選手の成績としても見事なリザルトだ。
今年のジロ・デ・イタリア第5ステージで区間3位に入り日本を沸かせた新城幸也が、今度は世界の舞台でその勝負強さと脚力を見せつけた。日本勢は最終周回までメイン集団にいた別府史之が2分11秒遅れの30位、粘り強い走りをした土井雪広が13分53秒遅れの72位で完走を果たしている。
3者がそれぞれ次につながる走りを見せた今回の世界選手権。日本のロードレースシーンの将来に明るい光をもたらすレースとなった。
ロード世界選手権2010エリート男子ロードレース結果
1位 トル・フースホフト(ノルウェー) 6h21'49"
2位 マッティ・ブレシェル(デンマーク)
3位 アラン・デーヴィス(オーストラリア)
4位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア)
5位 グレグ・ファンアフェルマート(ベルギー)
6位 オスカル・フレイレ(スペイン)
7位 アレクサンドル・コロブネフ(ロシア)
8位 アッサン・バザイエフ(カザフスタン)
9位 新城幸也(日本)
10位 ロメン・フェイユ(フランス)
30位 別府史之 +2'11"
72位 土井雪広 +13'53"
オフィシャルダイジェストムービーはこちら
text:Yufta Omata
photo:Kei Tsuji,Graham Watson,Riccardo Scanferla
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