2010/10/03(日) - 06:23
世界選手権エリート女子ロードレースのタイトルはイタリアの手に落ちた。しかも2年連続で。歓喜に沸くイタリアチームは、トレーニング中の事故で大怪我を負った元チームメイトに勝利を捧げた。ロード/タイムトライアルの日本チャンピオン、萩原麻由子(サイクルベースあさひレーシング)は7分40秒遅れの38位でレースを終えた。
マリーナ・ゴー!
イタリアチームの選手たちをよく見ると、何やらアルファベットが書かれたグローブを着用している。繋げて読むと「MARINA GO」。何を意味するのかさっぱり分からなかったので、チームスタッフに聞くと、4ヶ月前の事故で大怪我を負ったプロ選手のマリーナ・ローモリを元気づけるためのものだと言う。
2006年のロード世界選手権ジュニアロードレースで2位に入ったマリーナ・ローモリはサフィ・パスタザーラ所属の22歳。今年の6月1日、イタリア北部でのトレーニング中にクルマと接触し、落車して大怪我を負った。
ヘリでミラノに搬送されたローモリは顔面を500針以上縫う重傷で、肺は破裂。1週間に及ぶ昏睡状態を脱したが、脊椎損傷により下半身の自由を失った。現在ローモリは車いすでの生活を強いられており、再び歩けることを目指して懸命にリハビリを続けている。
イタリアチームの心は一つ。ディフェンディングチャンピオンのタティアナ・グデルツォ(イタリア)を中心に、ローモリに勝利を捧げるべく、メンバー8名が力を合わせて大会連覇に挑んだ。
イギリスやオランダ勢を打ち破ったイタリア
比較的スローペースで動き始めたエリート女子ロードレースは、前日のU23と同様に、アメリカ人選手が長時間に渡って単独で逃げ続ける展開が続いた。
前日から更に天候が回復し、ポカポカ陽気に包まれたジーロング。風は北東から緩やかに吹いている程度。最高気温は16度ほどだが、太陽光線が暖かいのでノースリーブの観客も多い。朝の最低気温が2度だったことが信じられないほどの陽気だ。
有力選手たちの中から、個人タイムトライアルで優勝した小柄なエマ・プーリー(イギリス)が口火を切った。3日前の表彰台で「二冠は無い」と謙遜していたプーリーがペースを上げ、イタリアがアタックで応戦。最終周回に突入した時点で集団の人数は30名ほどに。この時点で地元オーストラリアの選手は集団から姿を消していた。
最終周回の上りで飛び出したニコール・クック(イギリス)とユーディト・アルント(ドイツ)は勢い良く快走。しかしゴールが遠い。最終コーナーを抜けると、メイン集団に追いつかれてしまう。
もがいて逃げ続けるクックとアルントを抜いて、マリアンヌ・フォス(オランダ)がスプリントで先頭へ。3年連続2位に甘んじているフォスが念願の勝利に向かってスプリント。しかしスプリント開始を最後まで待ったジォルジョ・ブロンジーニ(イタリア)の前に敗れ去った。
ゴール後、フォスは地面に倒れ込む。フォスの斜行によりフェンス際に押しやられ、観客と接触したエマ・ヨハンソン(スウェーデン)は進路妨害をアピール。しかしコミッセールはライン取りに問題が無かったと判断。フォスの4年連続2位が決まった。
昨年チームメイトだったマリーナ・ローモリに向けて、両手でハートマークを作ってゴールしたブロンジーニ。「フランコ・バッレリーニ元イタリア代表監督とチームメイトのみんな、そしてマリーナ・ローモリにこの勝利を捧げたい」。アルカンシェルに袖を通したブロンジーニは、表彰台に駆けつけたチームメイトたちと一緒にイタリア国歌を歌い上げた。
日本チャンピオン萩原麻由子 38位
「スプリンターの概念が変わりました。これまではただ単にスプリントに強い選手のことをスプリンターと呼ぶのだと思っていたんですけど、上りをクリアしてスプリント出来る選手のことを指すんですね」。
マイケル・マシューズが集団スプリントで勝利したU23のレースを見た滞在先のホテルで見た萩原麻由子(サイクルベースあさひレーシング)は、少しショックを受けた様子だった。
レース当日、萩原は緊張した表情を浮かべながらスタート位置についた。日本チームには沖美穂という大先輩が帯同しているが「特にアドバイスはもらってないです。自分は自分が出来る限りの走りをするだけですから」と萩原は言ってのける。スラリと長い手脚でバイクに跨がった姿は、周りの海外選手にも退けを取らない。
集団後方でスタートした萩原は、1周目から徐々に集団の前方へ。集団のペースに付いていけない選手たちがポツポツと千切れていく中、萩原は比較的涼しい表情で上りをクリアして行った。
しかし5周目の上りでペースが上がったメイン集団から萩原は遅れてしまう。そこから萩原は20人ほどの第2集団で走り続けたが、イタリアが積極的にペースを上げるメイン集団とのタイム差は広がるばかり。
優勝したブロンジーニから遅れること7分40秒。およそ4つ目のグループの中に、悔しさと苦しさで顔を歪ませる萩原の姿があった。インタビューするのを躊躇うほど、追い込み、疲労困憊した様子でホテルへと帰って行った。また後日、コメントをお伝え出来ればと思う。
さあ、明日はいよいよエリート男子ロードレースだ。距離262.7kmという長距離レースだけに、当然スタート時間は早め。日本代表の3名(新城、別府、土井)はジーロングのホテルを離れ、スタート地点近くのメルボルンのホテルに移った。
当日の天候は晴れ時々曇り。気温は今年の世界選手権期間中最高の21度まで上がるという予報が出ている。降水確率は40%で、午後にかけて降雨の可能性がある。風速は12〜18km/hで風向きは北東。
つまりメルボルンからジーロングまでの平坦区間は追い風基調。逃げに有利なコンディションが予想される。楽しみな気持ちと大きな期待で今日は寝れそうにない。ちなみに、10月3日午前2時からオーストラリアはサマータイムに切り替わる。日本とヴィクトリア州の時差は1時間から2時間に。睡眠時間が1時間減るという酷なタイミングだ。
text&photo:Kei Tsuji in Geelong, Australia
マリーナ・ゴー!
イタリアチームの選手たちをよく見ると、何やらアルファベットが書かれたグローブを着用している。繋げて読むと「MARINA GO」。何を意味するのかさっぱり分からなかったので、チームスタッフに聞くと、4ヶ月前の事故で大怪我を負ったプロ選手のマリーナ・ローモリを元気づけるためのものだと言う。
2006年のロード世界選手権ジュニアロードレースで2位に入ったマリーナ・ローモリはサフィ・パスタザーラ所属の22歳。今年の6月1日、イタリア北部でのトレーニング中にクルマと接触し、落車して大怪我を負った。
ヘリでミラノに搬送されたローモリは顔面を500針以上縫う重傷で、肺は破裂。1週間に及ぶ昏睡状態を脱したが、脊椎損傷により下半身の自由を失った。現在ローモリは車いすでの生活を強いられており、再び歩けることを目指して懸命にリハビリを続けている。
イタリアチームの心は一つ。ディフェンディングチャンピオンのタティアナ・グデルツォ(イタリア)を中心に、ローモリに勝利を捧げるべく、メンバー8名が力を合わせて大会連覇に挑んだ。
イギリスやオランダ勢を打ち破ったイタリア
比較的スローペースで動き始めたエリート女子ロードレースは、前日のU23と同様に、アメリカ人選手が長時間に渡って単独で逃げ続ける展開が続いた。
前日から更に天候が回復し、ポカポカ陽気に包まれたジーロング。風は北東から緩やかに吹いている程度。最高気温は16度ほどだが、太陽光線が暖かいのでノースリーブの観客も多い。朝の最低気温が2度だったことが信じられないほどの陽気だ。
有力選手たちの中から、個人タイムトライアルで優勝した小柄なエマ・プーリー(イギリス)が口火を切った。3日前の表彰台で「二冠は無い」と謙遜していたプーリーがペースを上げ、イタリアがアタックで応戦。最終周回に突入した時点で集団の人数は30名ほどに。この時点で地元オーストラリアの選手は集団から姿を消していた。
最終周回の上りで飛び出したニコール・クック(イギリス)とユーディト・アルント(ドイツ)は勢い良く快走。しかしゴールが遠い。最終コーナーを抜けると、メイン集団に追いつかれてしまう。
もがいて逃げ続けるクックとアルントを抜いて、マリアンヌ・フォス(オランダ)がスプリントで先頭へ。3年連続2位に甘んじているフォスが念願の勝利に向かってスプリント。しかしスプリント開始を最後まで待ったジォルジョ・ブロンジーニ(イタリア)の前に敗れ去った。
ゴール後、フォスは地面に倒れ込む。フォスの斜行によりフェンス際に押しやられ、観客と接触したエマ・ヨハンソン(スウェーデン)は進路妨害をアピール。しかしコミッセールはライン取りに問題が無かったと判断。フォスの4年連続2位が決まった。
昨年チームメイトだったマリーナ・ローモリに向けて、両手でハートマークを作ってゴールしたブロンジーニ。「フランコ・バッレリーニ元イタリア代表監督とチームメイトのみんな、そしてマリーナ・ローモリにこの勝利を捧げたい」。アルカンシェルに袖を通したブロンジーニは、表彰台に駆けつけたチームメイトたちと一緒にイタリア国歌を歌い上げた。
日本チャンピオン萩原麻由子 38位
「スプリンターの概念が変わりました。これまではただ単にスプリントに強い選手のことをスプリンターと呼ぶのだと思っていたんですけど、上りをクリアしてスプリント出来る選手のことを指すんですね」。
マイケル・マシューズが集団スプリントで勝利したU23のレースを見た滞在先のホテルで見た萩原麻由子(サイクルベースあさひレーシング)は、少しショックを受けた様子だった。
レース当日、萩原は緊張した表情を浮かべながらスタート位置についた。日本チームには沖美穂という大先輩が帯同しているが「特にアドバイスはもらってないです。自分は自分が出来る限りの走りをするだけですから」と萩原は言ってのける。スラリと長い手脚でバイクに跨がった姿は、周りの海外選手にも退けを取らない。
集団後方でスタートした萩原は、1周目から徐々に集団の前方へ。集団のペースに付いていけない選手たちがポツポツと千切れていく中、萩原は比較的涼しい表情で上りをクリアして行った。
しかし5周目の上りでペースが上がったメイン集団から萩原は遅れてしまう。そこから萩原は20人ほどの第2集団で走り続けたが、イタリアが積極的にペースを上げるメイン集団とのタイム差は広がるばかり。
優勝したブロンジーニから遅れること7分40秒。およそ4つ目のグループの中に、悔しさと苦しさで顔を歪ませる萩原の姿があった。インタビューするのを躊躇うほど、追い込み、疲労困憊した様子でホテルへと帰って行った。また後日、コメントをお伝え出来ればと思う。
さあ、明日はいよいよエリート男子ロードレースだ。距離262.7kmという長距離レースだけに、当然スタート時間は早め。日本代表の3名(新城、別府、土井)はジーロングのホテルを離れ、スタート地点近くのメルボルンのホテルに移った。
当日の天候は晴れ時々曇り。気温は今年の世界選手権期間中最高の21度まで上がるという予報が出ている。降水確率は40%で、午後にかけて降雨の可能性がある。風速は12〜18km/hで風向きは北東。
つまりメルボルンからジーロングまでの平坦区間は追い風基調。逃げに有利なコンディションが予想される。楽しみな気持ちと大きな期待で今日は寝れそうにない。ちなみに、10月3日午前2時からオーストラリアはサマータイムに切り替わる。日本とヴィクトリア州の時差は1時間から2時間に。睡眠時間が1時間減るという酷なタイミングだ。
text&photo:Kei Tsuji in Geelong, Australia
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