2010年9月15日、ブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIヒストリカル)第17ステージ・個人タイムトライアルが行なわれ、25歳のピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)が強豪を抑えてステージ優勝。下馬評通りステージ15位のヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)が総合首位に返り咲いた。

ロドリゲスを苦しめた46kmの平坦路

マイヨロホを着て最終TTを走るホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)マイヨロホを着て最終TTを走るホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Cor Vosマイヨロホを着るホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)は、レース序盤からサドルの上で苦しんでいた。身長169cm・体重58kgという体格を活かし、それまでの山岳ステージでレースをリードしていたロドリゲス。しかしその軽量なクライマー体型が、46kmの真っ平らなコースで不利なのは明らかだった。

ロドリゲスが個人TTを苦手とするのは自他ともに認める事実だ。これまでの戦歴がそれを証明している。

苦手な個人TTでタイムを失い、総合5位までダウンしたホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)苦手な個人TTでタイムを失い、総合5位までダウンしたホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Unipublic昨年のブエルタでも第7ステージ個人TT(30km)で98位(3分18秒遅れ)、第20ステージ個人TT(27.8km)で35位(2分02秒)。この日と似たフラットコースで行なわれたツール・ド・フランス第19ステージ個人TT(52km)では、総合成績が懸かっていたにも関わらず154位(10分17秒遅れ)に終わっている。

ロドリゲスと総合2位ニーバリとの総合タイム差は33秒。時として総合リーダーには特別な力が宿り、思わぬ好走を見せることがある。しかしマイヨロホ・マジックは起きなかった。ロドリゲスは1時間近くに渡って苦しみ続けた。

平坦コースを駆け抜けるヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)平坦コースを駆け抜けるヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス) photo:Cor Vos対するニーバリはまずまずの滑り出し。10km地点で前輪パンクによってホイール交換を余儀なくされたが、それでも第1計測ポイント(15km地点)でロドリゲスから1分18秒のアドバンテージ。その後も両者のタイム差は広がり続けた。

ホイール交換後、すぐにペースを取り戻したニーバリは、最終的にトップと1分55秒差にまとめ、ステージ15位でフィニッシュ。結局ロドリゲスはトップと6分12秒遅れのステージ105位に終わり、ニーバリから4分18秒のディスアドバンテージ。マイヨロホを失った。

総合のライバルたちを蹴散らし、ステージ15位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)総合のライバルたちを蹴散らし、ステージ15位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス) photo:Unipublic総合5位までダウンしたロドリゲスは「ニーバリはTTで素晴らしい走りを見せた。これまでの2週間で蓄積した疲労がタイムに現れてしまった。でもこれで全てが終わったわけじゃない。土曜日のボラ・デル・ムンドで勝利して、総合表彰台に舞い戻りたい」とコメント。ライバルを讃えながらも、最後の山岳に懸ける想いを明かした。

ニーバリは僅か1ステージでマイヨロホを取り戻した。「このTTは全力を出し切ろうと思っていた。風の影響で前半から全開で走る必要があったんだ。最初の10kmでライバルたちから25秒のリードを奪ったのに、石に引っ掛けてパンクしたおかげでその25秒を失ってしまった。バイク交換しようと思ったら、メカニックはフロントホイールを持っていた。その連係ミスで2秒は失ってしまったと思う。でもそれからすぐにリズムを取り戻した。そこからは頭を下げ、ひたすら突き進むのみだった」。トラブルを落ち着いて処理し、大崩れすること無く最後まで走り切った。

「ロドリゲスと3分差をつけることは可能だと思っていたけど、まさか4分18秒も離れるとは思っていたかった。ロドリゲスはゴールが近づくに連れて失速していた」。

パンクによるホイール交換でタイムを失いながらもステージ15位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)パンクによるホイール交換でタイムを失いながらもステージ15位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス) photo:Cor Vosステージ51位に沈んだフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)ステージ51位に沈んだフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:Cor Vosマイヨロホを取り戻したヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)マイヨロホを取り戻したヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス) photo:Unipublic

ロドリゲスが総合5位まで落ちた今、ニーバリの最大のライバルは39秒差のエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)だ。モスケラは決して得意とは言えない個人TTでトップから2分13秒遅れ、ニーバリから18秒遅れのステージ19位という成績をマークした。

シャコベオ・ガリシアのアルバロ・ピノ監督はモスケラの走りを賞賛する。「エセキエルは素晴らしい走りを見せた。現在ニーバリと39秒差であり、まだ総合優勝の可能性は残されている。ボラ・デル・ムンドで彼は総合逆転に向けて闘う」。2007年総合5位、2008年総合4位、2009年総合5位のクライマーが、ついに総合表彰台を射止める時が来た。

自身初のグランツール制覇が見えてきたニーバリ。39秒というタイム差が運命を握る。「これから最も警戒しなければならないのはモスケラだ。まだブエルタは終わっていない。最後まで闘い抜く。土曜日(第20ステージ)はコバドンガと同様にレースをコントロール化に置きたい。ザウグとクロイツィゲルを出来るだけ長い時間従えて、モスケラに注視してゴールを目指す」。

メンショフとカンチェラーラを破った25歳の新鋭

驚きのトップタイムをマークしたピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)驚きのトップタイムをマークしたピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア) photo:Unipublic「全力を尽くしたが、勝利するには運が必要だ。風向きの変化が味方してくれなかった」。レース後にそう語るのは、アルカンシェルを着て走ったファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)だ。

総合下位に沈み、14番手というかなり早い時間にスタートしたカンチェラーラは、後半にかけて強い向かい風にさらされた。重厚なパワーTTスペシャリスト向きの真っ平らなコースでカンチェラーラは暫定トップタイムをマークしたが、風向きの変化に伴ってアドバンテージを得た後半スタートの選手の前に敗れ去った。

ステージ2位に食い込んだデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)ステージ2位に食い込んだデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク) photo:Unipublicカンチェラーラのタイムを塗り替えたのは、2度のブエルタ覇者デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)。「総合順位を下げてからはこの個人TTと山岳ステージに照準を合わせていたんだ」。すでに総合で1時間以上遅れていたメンショフは、この個人TTに懸けていた。

カンチェラーラのタイムを25秒更新したメンショフ。しかしその好タイムを、総合6位ベリトスが更に12秒塗り替えた。中間計測ポイントでまずまずのタイムを残していたベリトスは、終盤追い風に乗ってペースアップ。平均スピード52.36km/hで46kmを駆け抜け、52分43秒のトップタイムをマークしたベリトスがステージ優勝に輝いた(中間計測タイムは下記のリザルトを参照)。

ステージ4位のグスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)ステージ4位のグスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク) photo:Unipublic「これが個人TT初勝利なんだ。そんなことがブエルタで起こったなんて信じられない。言葉では表現出来ないよ。あのカンチェラーラを破ったんだ。前半は抑え気味にスタートして、後半に追い込んだ。前を走るダニエルソンが見えたので、彼との距離を縮めながら走った。それが大きなモチヴェーションに繋がったんだ」。

2007年のロード世界選手権U23ロードレースで優勝し、コニカ・ミノルタやウィーゼンホーフ、チームミルラムを経て、今年兄弟揃ってチームHTC・コロンビアに移籍したベリトス。コニカ・ミノルタ時代の2006年には双子の兄弟マーティンと揃ってTOJ(ツアー・オブ・ジャパン)に出場し、奈良ステージ8位、南信州ステージ9位、富士山ステージ8位、伊豆ステージ7位。総合9位でレースを終えている。2008年のツール・ド・フランスでは難関山岳ステージで逃げを試み、敢闘賞を獲得した。

風向きに見放され、ステージ3位に終わったファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)風向きに見放され、ステージ3位に終わったファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:Cor Vos全米チャンピオンのデーヴィット・ザブリスキー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)はステージ7位全米チャンピオンのデーヴィット・ザブリスキー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)はステージ7位 photo:Cor Vosステージ10位のデーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)ステージ10位のデーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ) photo:Cor Vos

ステージ優勝を飾ったピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)ステージ優勝を飾ったピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア) photo:Cor Vosベリトスは、タイムを伸ばせないままゴールしたシュレクとニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)、ロドリゲスの3名を総合表彰台圏外に放り出し、総合6位から総合3位まで一気にジャンプアップした。

「総合表彰台の座を守り抜きたい。最後の山岳ステージでは全力を尽くしてみるよ。でも今はこの勝利に大満足だ」。ベリトスは総合首位に立ったニーバリから2分遅れ。総合4位以下は混戦状態で、1分44秒差のシュレク、ロッシュ、ロドリゲスの3名と最終表彰台の座をかけて闘うことになる。ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)に続くスロバキアの注目株として、ベリトス兄弟の今後の活躍に注目したい。

この日の結果を受け、チーム総合成績は接戦に持ち込まれている。山岳ステージで崩れたケースデパーニュはこの日の個人TTで挽回し、1分33秒あったカチューシャとのタイム差を20秒に。残りのステージで両チームは熾烈なチーム総合成績争いを繰り広げるだろう。

選手コメントはレース公式リリースより。


ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第17ステージ結果
1位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)     52'43"
2位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)              +12"
3位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)         +37"
4位 グスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)     +50"
5位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)       +1'03"
6位 レイフ・ホステ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)         +1'07"
7位 デーヴィット・ザブリスキー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) +1'10"
8位 カルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)          +1'14"
9位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)     +1'24"
10位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)   +1'27"

11位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     +1'29"
13位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     +1'47"
14位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)    +1'53"
15位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)        +1'55"
19位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)      +2'13"
38位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)     +3'29"
51位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)        +3'55"
105位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)         +6'12"

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)       71h19'49"
2位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)        +39"
3位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)      +2'00"
4位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)          +3'44"
5位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)          +3'45"
6位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     +3'45"
7位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)    +3'55"
8位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)     +4'03"
9位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     +4'13"
10位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)      +5'43"

ポイント賞(プントス)
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) 111pts
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)          93pts
3位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)    90pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)        48pts
2位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)  38pts
3位 ゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    25pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)        13pts
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)      16pts
3位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    16pts

チーム総合成績
1位 カチューシャ          213h44'51"
2位 ケースデパーニュ           +20"
3位 シャコベオ・ガリシア        +11'45"


中間計測ポイント通過順位

第1計測(15km)
1位 カンチェラーラ       17'27"
8位 メンショフ          +44"
12位 Pベリトス         +54"
23位 LLサンチェス       +1'16"
24位 トンド          +1'17"
37位 ニーバリ         +1'35"
38位 ダニエルソン       +1'35"
39位 モスケラ         +1'37"
42位 サストレ         +1'38"
54位 ロッシュ         +1'46"
94位 Fシュレク         +2'20"
135位 ロドリゲス        +2'53"

第2計測(31km)
1位 カンチェラーラ       35'30"
5位 メンショフ          +58"
7位 Pベリトス         +1'13"
11位 LLサンチェス       +1'42"
19位 トンド          +2'06"
23位 サストレ         +2'24"
27位 ニーバリ         +2'33"
29位 ダニエルソン       +2'35"
33位 モスケラ         +2'45"
56位 ロッシュ         +3'22"
75位 Fシュレク         +3'56"
135位 ロドリゲス        +5'27"


ゴール(46km)
1位 Pベリトス         52'43"
2位 メンショフ         +12"
3位 カンチェラーラ       +37"
5位 LLサンチェス         +1'03"
11位 トンド           +1'29"
13位 サストレ          +1'47"
14位 ダニエルソン        +1'53"
15位 ニーバリ          +1'54"
19位 モスケラ          +2'13"
38位 ロッシュ          +3'29"
51位 Fシュレク         +3'55"
105位 ロドリゲス        +6'12"



text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic

最新ニュース(全ジャンル)