2010/07/24(土) - 12:29
ツールは一路ボルドーへ向けて北上する。昨日までの雨に濡れたプロトンを乾かしてくれる晴天。しかもマイルドな気候が心地良い。今日も逃げアタックは決まるが、ゴールまでに追い詰められるのは確実だった。
ダニエル・オス(イタリア、リクイガス)、ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)、ブノワ・ヴォグルナール(フランス、フランセーズデジュー)、マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)の4名の逃げが決まってからは、追走する集団も日光浴を楽しむかのように静かに進む。
ツールも終盤が近くなると、選手の契約の噂話がちらほら聞こえてくる。当然まだ公開はナシだが、ミルラム、サクソバンク、ブイグテレコムなどスポンサーとの契約が今年限りというチームも多く、選手がたくさん放出されるとあって来季はかなりの動きがありそうだ。
アンディとコンタドールが同じチームに移籍するとか、ルクセンブルグに新しいチームが出来るとか、あのチームに某ビッグネームが移籍するとか、あのチームのメインスポンサーが自転車メーカーになるとか...聞き耳を立てているといろんな噂話が入ってくる。
選手たちも走りながらの退屈しのぎはおしゃべり。集団の中ではランス・アームストロングとアンディ・シュレクが会話を楽しんでいる。チーム移籍の相談にでも乗っている?
今年のツールは「友達」がひとつのキーワードになりそうだ。とりわけコンタドールとアンディの関係において、勝負の前においても損なえないものがそれだ。
アームストロングはボスとして他の選手を威圧したが、コンタドールはライバルとの間にこそ友情を大事にするようだ。かつてライバル同士といえばお互い普段から口をきかず、言葉の上でも戦っていたもの。でもコンタドールの世代は「走るときはライバル。バイクを降りれば友達」。一緒のチームに移籍という話が出ても不思議でない。コンタドールとアームストロングは昨年のチームメイトながら口をきかないそうだが。
日本人観客にユキヤからサコッシュのプレゼント
ボルドーに向けてはだだっ広い平原が続く。松林とシダの生い茂った風景はどこか荒涼としている。
風が強く、どうやら松林は防風林のよう。松林が開けるととたんに横風が強くなる。単調な景色が続く道。補給ポイントのあたりに日本人の姿を多く見かけた。
和服を着て日の丸を持って応援するのは東京・練馬から来た梅野さん夫妻だ。完全和装の夫婦は以前紹介したブイグ和服のご夫妻がいたが、今日会ったのはまた別のご夫妻。
ふたりとも浴衣姿で、ダンナさんは日の丸に「日本」の文字入りハチマキを締める。どこから見てもニッポンというその姿を見て、プロトンを先導するディレクターカーからも「アロアロ~、ジャポネ、ボンジュ~ル、コンニチハ、サヴァ(元気)?」と声がかかるほどウケている。
あの~、日本人っていつもそんなカッコしてると思われてしまうんですが...。
他にも幸也応援旗やイラスト入りウチワを持っている人など、皆さんどなたも、そこはかとなく和の装いを取り入れておられるようです。
集団が通過するとき、ただでさえ動体視力抜群のユキヤがその姿を見逃すハズもなし。すかさずボトルとサコッシュを「お土産!」とばかり投げて渡した。皆さんもフランスまで来れば、ユキヤの大サービスあります(笑)。
ツール帯同中のアスタナファン
アスタナのファンも多くはないが目立つようになってきた。アジアと欧州が混じり合ったタイプの人たちが応援する。応援に力をいれるのはコンタドールでなくヴィノクロフ。
そういえば昨ステージはトゥールマレー峠でアスタナのスタッフがヴィノの似顔絵のお面を被っていた。私のほうにそれを嬉しそうに見せるけど、知ってます。日本のファンにもらったものでしょう!
アスタナ応援団の写真を撮らせてもらったら、アスタナオリジナルのチョコレートをもらいました。謎...。
マイヨジョーヌのいるチームなのに、応援する観客はめったにおらず、コンタドールの応援はスペイン国旗を振って。いつまでたってもアスタナは不思議なチームだ。コンタドールはこのチームに残ることはあるのだろうか?
コースにセレブ登場
この日ハリウッドのセレブ、トム・クルーズとキャメロン・ディアスの二人がVIP待遇で観戦に訪れていた。コース脇で応援する様子がTVに映ったとか。
退屈な一日の、一番面白い出来事だったかも。ふたりはその後表彰式も現われ、壇上に登った。
便乗列車で勝負したカヴ 調子が悪いと言ったのは誰?
ボルドーがツールのステージを迎えるのは今年で80回目。この数はパリに次ぐ多さだ。ボルドーはスプリンターを迎える街。川沿いに広がる平坦な地形だけに、このコースを制してきたのはほとんどがスプリンターだ。
この日に逃げることを考えていたユキヤ。シャルトーのマイヨアポアは昨ステージで確定しているから、とくにチームの仕事はないから、動くことはできる。
しかし、ピレネー山岳で遅れて失格になる、あるいはチームごと疲れて弱るとの予測に反し、予想外の生き残りを見せたスプリンターたち。この日、逃げが成功するチャンスは限りなく低かった。難関山岳でサバイバルしたのはここでスプリント勝利を挙げるため。逃げはみすみす許せない。
ボルドーのゴール地点前は強い向かい風が吹いていて、勝負を大きく左右したようだ。
トル・フースホフト(ノルウェー)のマイヨヴェール争いに必勝態勢で臨んだサーヴェロ・テストチーム、そしてエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー)で悲願の1勝を挙げようとしたチームスカイ、そしてペタッキを発射したいランプレ。
カヴェンディッシュはそれらの列車に次々に無賃乗車してゴールをさらってしまった。最強のリードアウトマン、マークレンショーを頭突きで失っても、余裕で勝てるスピードを持っている。
「カヴは調子が悪い」と言ったのは誰?
もはやそれはツール序盤のこと。あれよあれよと言う間に4勝目、ツール通算14勝目だ。歴史的にはバリー・ホーバンに次いでボルドーで勝った2人目のイギリス人。昨年の6勝にはもう届かないが、シャンゼリゼで5勝目を挙げる可能性は十分ありそうだ。
しかしカヴは本当は今日調子が悪かった。ピレネー山岳ステージをこなした先の4日間、咳がひどく、さらに昨夜は熱があったという。今朝起きたとき、スタートできるかどうか分からなかった。しかしチームのアシストをフルに受けて勝利することができた。
勝利をレンショーに捧げる
カヴはこの勝利を第11ステージの頭突き事件で失格になったチームメイト、マーク・レンショーに捧げると話す。
「マーク(レンショー)がいないとスプリントは全く違う難しいものになる。マークは僕の仕事を簡単にしてくれる。彼はラスト200mまで運んでくれて、僕はただそこから行くだけなんだ。幸い彼がいなくても、チームにはアシストしてくれる選手がいる。そして今日は他のチームの選手達がラスト1kmで上がっていくのを利用できたのが幸運だった。
マーク(レンショー)がいないことが惜しい。彼はピレネーで僕よりも苦しんで助けてくれるはずだった。部屋を共にして、このレースがどんなにハードか笑いあう相手だった。この勝利は彼に捧げるよ」。
ツール通算14勝は、ベルギーの産んだ名スプリンター、フレディ・マールテンス氏の勝利にあと一つと迫る記録だ。
「僕はいつもエリック・ツァベルやショーン・ケリー、フレディ・マールテンス、そしてマリオ・チッポリーニと同じカテゴリーの選手として認めてもらうことを望んできた。彼らのことは子供の頃から知っているし、目標にしてきた選手。彼らは僕の憧れの存在なんだ」。
揺れるマイヨヴェール争い
アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)が3位に終わる一方で、トル・フースホフト(ノルウェー)は14位に沈み、多くのポイントを取り損ねた。再びマイヨヴェールを取り返したペタッキ。フースホフトの調子が上がらないのを見る限り、マイヨヴェールは大きくペタッキに歩み寄っている。
スプリント力が冴えないフースホフト。5月に落車して鎖骨を折り、調整が遅れたことがスプリント不発の大きな原因だ。そしてフースホフト自身が自分に疑問を抱くように、山が登れるようになった代わりにスプリント力を失ってしまったのだろうか?
この調子だとシャンゼリゼでマイヨを取り返すことは難しい。
しかし問題となっているのはペタッキがイタリア警察からドーピングを疑われていることだ。血液中の酸素運搬能力を向上させる薬物、そしてヘマトクリット値を減少させるために使われる薬物を使用した疑いがかけられているのだ。
ペタッキが事情聴取を受けるのは次の水曜日。つまりシャンゼリゼにゴールする後だ。判断はペタッキが家に帰ってから下されることになりそうだ。つまりフースホフトには繰上げマイヨヴェールの可能性もあるということ。それで受賞しても人の記憶にはほとんど残らないが。
text:Makoto Ayano
photo:Cor Vos, Makoto Ayano
ダニエル・オス(イタリア、リクイガス)、ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)、ブノワ・ヴォグルナール(フランス、フランセーズデジュー)、マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)の4名の逃げが決まってからは、追走する集団も日光浴を楽しむかのように静かに進む。
ツールも終盤が近くなると、選手の契約の噂話がちらほら聞こえてくる。当然まだ公開はナシだが、ミルラム、サクソバンク、ブイグテレコムなどスポンサーとの契約が今年限りというチームも多く、選手がたくさん放出されるとあって来季はかなりの動きがありそうだ。
アンディとコンタドールが同じチームに移籍するとか、ルクセンブルグに新しいチームが出来るとか、あのチームに某ビッグネームが移籍するとか、あのチームのメインスポンサーが自転車メーカーになるとか...聞き耳を立てているといろんな噂話が入ってくる。
選手たちも走りながらの退屈しのぎはおしゃべり。集団の中ではランス・アームストロングとアンディ・シュレクが会話を楽しんでいる。チーム移籍の相談にでも乗っている?
今年のツールは「友達」がひとつのキーワードになりそうだ。とりわけコンタドールとアンディの関係において、勝負の前においても損なえないものがそれだ。
アームストロングはボスとして他の選手を威圧したが、コンタドールはライバルとの間にこそ友情を大事にするようだ。かつてライバル同士といえばお互い普段から口をきかず、言葉の上でも戦っていたもの。でもコンタドールの世代は「走るときはライバル。バイクを降りれば友達」。一緒のチームに移籍という話が出ても不思議でない。コンタドールとアームストロングは昨年のチームメイトながら口をきかないそうだが。
日本人観客にユキヤからサコッシュのプレゼント
ボルドーに向けてはだだっ広い平原が続く。松林とシダの生い茂った風景はどこか荒涼としている。
風が強く、どうやら松林は防風林のよう。松林が開けるととたんに横風が強くなる。単調な景色が続く道。補給ポイントのあたりに日本人の姿を多く見かけた。
和服を着て日の丸を持って応援するのは東京・練馬から来た梅野さん夫妻だ。完全和装の夫婦は以前紹介したブイグ和服のご夫妻がいたが、今日会ったのはまた別のご夫妻。
ふたりとも浴衣姿で、ダンナさんは日の丸に「日本」の文字入りハチマキを締める。どこから見てもニッポンというその姿を見て、プロトンを先導するディレクターカーからも「アロアロ~、ジャポネ、ボンジュ~ル、コンニチハ、サヴァ(元気)?」と声がかかるほどウケている。
あの~、日本人っていつもそんなカッコしてると思われてしまうんですが...。
他にも幸也応援旗やイラスト入りウチワを持っている人など、皆さんどなたも、そこはかとなく和の装いを取り入れておられるようです。
集団が通過するとき、ただでさえ動体視力抜群のユキヤがその姿を見逃すハズもなし。すかさずボトルとサコッシュを「お土産!」とばかり投げて渡した。皆さんもフランスまで来れば、ユキヤの大サービスあります(笑)。
ツール帯同中のアスタナファン
アスタナのファンも多くはないが目立つようになってきた。アジアと欧州が混じり合ったタイプの人たちが応援する。応援に力をいれるのはコンタドールでなくヴィノクロフ。
そういえば昨ステージはトゥールマレー峠でアスタナのスタッフがヴィノの似顔絵のお面を被っていた。私のほうにそれを嬉しそうに見せるけど、知ってます。日本のファンにもらったものでしょう!
アスタナ応援団の写真を撮らせてもらったら、アスタナオリジナルのチョコレートをもらいました。謎...。
マイヨジョーヌのいるチームなのに、応援する観客はめったにおらず、コンタドールの応援はスペイン国旗を振って。いつまでたってもアスタナは不思議なチームだ。コンタドールはこのチームに残ることはあるのだろうか?
コースにセレブ登場
この日ハリウッドのセレブ、トム・クルーズとキャメロン・ディアスの二人がVIP待遇で観戦に訪れていた。コース脇で応援する様子がTVに映ったとか。
退屈な一日の、一番面白い出来事だったかも。ふたりはその後表彰式も現われ、壇上に登った。
便乗列車で勝負したカヴ 調子が悪いと言ったのは誰?
ボルドーがツールのステージを迎えるのは今年で80回目。この数はパリに次ぐ多さだ。ボルドーはスプリンターを迎える街。川沿いに広がる平坦な地形だけに、このコースを制してきたのはほとんどがスプリンターだ。
この日に逃げることを考えていたユキヤ。シャルトーのマイヨアポアは昨ステージで確定しているから、とくにチームの仕事はないから、動くことはできる。
しかし、ピレネー山岳で遅れて失格になる、あるいはチームごと疲れて弱るとの予測に反し、予想外の生き残りを見せたスプリンターたち。この日、逃げが成功するチャンスは限りなく低かった。難関山岳でサバイバルしたのはここでスプリント勝利を挙げるため。逃げはみすみす許せない。
ボルドーのゴール地点前は強い向かい風が吹いていて、勝負を大きく左右したようだ。
トル・フースホフト(ノルウェー)のマイヨヴェール争いに必勝態勢で臨んだサーヴェロ・テストチーム、そしてエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー)で悲願の1勝を挙げようとしたチームスカイ、そしてペタッキを発射したいランプレ。
カヴェンディッシュはそれらの列車に次々に無賃乗車してゴールをさらってしまった。最強のリードアウトマン、マークレンショーを頭突きで失っても、余裕で勝てるスピードを持っている。
「カヴは調子が悪い」と言ったのは誰?
もはやそれはツール序盤のこと。あれよあれよと言う間に4勝目、ツール通算14勝目だ。歴史的にはバリー・ホーバンに次いでボルドーで勝った2人目のイギリス人。昨年の6勝にはもう届かないが、シャンゼリゼで5勝目を挙げる可能性は十分ありそうだ。
しかしカヴは本当は今日調子が悪かった。ピレネー山岳ステージをこなした先の4日間、咳がひどく、さらに昨夜は熱があったという。今朝起きたとき、スタートできるかどうか分からなかった。しかしチームのアシストをフルに受けて勝利することができた。
勝利をレンショーに捧げる
カヴはこの勝利を第11ステージの頭突き事件で失格になったチームメイト、マーク・レンショーに捧げると話す。
「マーク(レンショー)がいないとスプリントは全く違う難しいものになる。マークは僕の仕事を簡単にしてくれる。彼はラスト200mまで運んでくれて、僕はただそこから行くだけなんだ。幸い彼がいなくても、チームにはアシストしてくれる選手がいる。そして今日は他のチームの選手達がラスト1kmで上がっていくのを利用できたのが幸運だった。
マーク(レンショー)がいないことが惜しい。彼はピレネーで僕よりも苦しんで助けてくれるはずだった。部屋を共にして、このレースがどんなにハードか笑いあう相手だった。この勝利は彼に捧げるよ」。
ツール通算14勝は、ベルギーの産んだ名スプリンター、フレディ・マールテンス氏の勝利にあと一つと迫る記録だ。
「僕はいつもエリック・ツァベルやショーン・ケリー、フレディ・マールテンス、そしてマリオ・チッポリーニと同じカテゴリーの選手として認めてもらうことを望んできた。彼らのことは子供の頃から知っているし、目標にしてきた選手。彼らは僕の憧れの存在なんだ」。
揺れるマイヨヴェール争い
アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)が3位に終わる一方で、トル・フースホフト(ノルウェー)は14位に沈み、多くのポイントを取り損ねた。再びマイヨヴェールを取り返したペタッキ。フースホフトの調子が上がらないのを見る限り、マイヨヴェールは大きくペタッキに歩み寄っている。
スプリント力が冴えないフースホフト。5月に落車して鎖骨を折り、調整が遅れたことがスプリント不発の大きな原因だ。そしてフースホフト自身が自分に疑問を抱くように、山が登れるようになった代わりにスプリント力を失ってしまったのだろうか?
この調子だとシャンゼリゼでマイヨを取り返すことは難しい。
しかし問題となっているのはペタッキがイタリア警察からドーピングを疑われていることだ。血液中の酸素運搬能力を向上させる薬物、そしてヘマトクリット値を減少させるために使われる薬物を使用した疑いがかけられているのだ。
ペタッキが事情聴取を受けるのは次の水曜日。つまりシャンゼリゼにゴールする後だ。判断はペタッキが家に帰ってから下されることになりそうだ。つまりフースホフトには繰上げマイヨヴェールの可能性もあるということ。それで受賞しても人の記憶にはほとんど残らないが。
text:Makoto Ayano
photo:Cor Vos, Makoto Ayano
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