4月20~21日に開催された桜のアルプスあづみのセンチュリーライドを実走取材した。安曇野から白馬にかけて桜を愛でながら走る信州の春を満喫する超人気ロングライドは、同時に地元の味を楽しむ最高のグルメライド。安曇野の春は美しい風景と美味しさの魅力でいっぱいだ。



大盛況の大会スポンサーのミズタニ自転車ブース

桜と新緑の時期に長野県の松本~大町~白馬を走る「アルプスあづみのセンチュリーライド(略称AACR)」。近年は桜が咲く4月に"桜のAACR"と、緑豊かな5月に"緑のAACR"の2大会が続けて開催されている。初開催の年から数えて16年目、今大会で通算19回目の開催(緑のAACR含む)だ。

コンチネンタルブースの抽選でプレゼントを手にしてニッコリ
AACR記念撮影ブースもコンチネンタルとのコラボ



リドレーは緑のAACRの冠スポンサーだ
ミズタニ自転車が新たに取り扱うミニベロロードのTyrell(タイレル)



ミズタニ自転車がメインスポンサーをつとめ、タイヤのコンチネンタルが冠について開催された桜のAACR。Continentalブースではサイクルタイヤのフルラインナップ展示に加え、クルマ用のタイヤも展示。オリジナルグッズが当たる抽選会が実施され、その場でウェブアンケートに答えた人に景品がプレゼントされた。他にも会場にはリドレー、MET、DMT、ミニベロのTyrell(タイレル)などミズタニ自転車の扱うブランドブースが並んだ。

超人気のコンチネンタルGP5000AS TRタイヤ
ウエイブワン製のAACRオリジナルジャージ



バッグ類が好評のオーストリッチブースと伊美社長
iRCブースでもプレゼント抽選会を実施



ほかにもAACR公式ジャージ販売のウエイブワンや、マヴィック、ワコーズ、iRC、オーストリッチなどもブース出展。商品販売&展示、試着会などのミニイベントで賑わった。

マヴィックブースは直前メンテとホイール相談で大忙し



前日受付の行われる4月20日は暖かな陽気に包まれたが、大会当日の天気は下り坂。天気予報は曇りで、降水確率は40%となっていた。160kmコース第1組のスタート時間は朝6時だ。総参加者数は1,100人。

朝6時のスタートに向けて元気いっぱい走ろうのシュプレヒコール

鈴木雷太プロデューサーと、マヴィックカーに乗るのはソウル五輪ロード代表の鈴木光広さんだ

桜のAACRはただでさえ1日のなかでの寒暖差が大きく、例年ウェア選択に悩むのが恒例のこと。天気は優れないが、幸いなことに気温は最低で11度、最高で16度の予想になっていた。それなら基本は長袖だが、半袖ジャージにウォーマー類の組み合わせでもOK。ただし雨に備えて防水レインジャケットは必携だ。念入りな人はバイクに泥除けを付けたりもしている。

朝6時、160kmコースは4人づつでスタートしていく

取材を担当するのは私、CW編集部の綾野。初回大会から何度も実走取材を担当しているが、じつに5年ぶりの担当に「編集長おかえりなさーい!」とスタート前にMCアケさんに紹介されて冷や汗。マイホーム感は嬉しいものです。「皆さんの写真たくさん撮りますよ!」。

ピンクの鮮やかな八重桜が参加者を見送る photo:Makoto AYANO

曇り空で迎えたスタートセレモニー。実行委員長の鈴木雷太さん曰く「僕の最近の行いが良かったから雨はまだ降っていません。後半雨になるので巻き巻きで走りましょう!」との挨拶で、4人づつ走り出していく。

紅の混じる八重桜が参加者たちを見送る photo:Makoto AYANO

会場の梓水苑周辺から伸びる直線路の桜は散りゆく葉桜まじりの状態だが、それでも満開の八重桜もあり、花びらの明るいピンク色が包んでくれる。桜は北上するにつれ大町中心部が満開で、白馬方面も見頃という情報だ。

あづみの公園への上りの先には残雪の常念岳が

スタートしばらくして雨がパラパラと落ちてきたが、ほんの少しで降り止んだ。けっきょく、この日の雨はほぼそれだけで済んだのは幸いだ。

朝もやにけむる安曇野の町並み

残雪の山並みと鯉のぼり、そしてお花畑のあづみの公園エイド photo:Makoto AYANO

第1エイドは23km地点の穂高の国営アルプスあづみの公園。到着時刻の8時半は2度目の朝食の時間(笑)。ここでのエイド食はポロネギのポタージュと野菜パン。ねぎの常識を覆すような大きさの立派なポロネギをすりつぶしたホットなポタージュスープと、5種類の野菜パンから2つを選んでいただく。

最初のエイドはポロネギのポタージュと野菜パン
立派なポロネギのポタージュはとろとろの美味しさ



筆者はボランティアのお兄さんが笑顔で勧めるままに紫いもパンとほうれん草パンをチョイス。このホットなポタージュはとんでもない美味しさで、朝からいきなり感動。

あったかいポタージュとパンが2度目の朝食です
まだまだフレッシュな状態で仲間たちと記念写真



休憩エリアにはチューリップをはじめとしたお花畑が広がっている。遠景には冠雪した山々と、ちょっと気の早い鯉のぼり。仲間がまだ揃っているエイドだけに、AACRの記念撮影看板が用意されており、そこで仲間同士でパチリ。皆さんまだ疲れていないので笑顔で元気。

あづみの公園のチューリップがお似合いのカップル

大会プロデューサーの鈴木雷太さん、小田島(旧姓・片山)梨絵さん、辻浦圭一さんの3人が一緒に走っていた。元アスリートなこの3人、過去には雷太さんがシドニー五輪MTB代表、小田島さんがロンドン五輪MTB代表、辻浦さんがシクロクロス全日本選手権9連覇の王者というレジェンドトリオ。同じ時代を選手として走った同志であり、仲良し。

小田島(旧姓・片山)梨絵さん、鈴木雷太さん、辻浦圭一さんのレジェンド3人

雷太さんは最近ライドが少ないらしく「もはやeBikeじゃないと走れない」と言い、辻浦さんは重症筋無力症という難病を患って以来もっぱらeBIKEに乗ってのサイクリングと釣りを楽しむ。小田島さんだけペダルバイクのロードバイクに乗って、坂でモーターパワーに着いていくように頑張っている様子だ(笑)。

花桃のピンクが最高潮に美しかった photo:Makoto AYANO

アルプスあづみの公園を出たところにはピンクがなんとも鮮やかな花桃(はなもも)の並木があった。花の状態は最高潮で、白・赤・ピンクのあでやかなこと。ここでは皆が記念撮影タイムだ。

安曇野の路傍に多い道祖神が見守ってくれる photo:Makoto AYANO

田舎道に立つ一本の木がいい味出しています

軽いアップダウンが続く安曇野アートラインを抜けて、大町・松川地区の第2エイドへ。なぜか猫耳をつけたボランティアスタッフが迎えてくれた。これは近年定番のコスプレらしい。

猫耳をつけた高校生とボランディアの皆さん
大きな油揚げの豆腐汁は素朴な美味しさだった



供されたのは豆腐汁(じゅう)と紫米の大福。桜のAACRだけのエイド食「豆腐汁」は、大町市の老舗・栗林豆腐店の木綿豆腐と油揚げを使っている。肌寒いなか走ってきた身に染み入る暖かな汁に、溢れんばかりのでっかいお豆腐が入っている。第1エイドのネギポタージュに続き、暖かな汁ものが嬉しい。しかもコクのある素朴な味で、とてつもなく美味しい。

大町あたりの桜は満開で最高の状態だった

木崎湖畔には黄色い水仙が咲き乱れる

大町から仁科三湖へ。JR大糸線沿いを走り抜けると、今度は黄色い水仙の花が咲き乱れている木崎湖畔の細道へ出た。鹿島槍スキー場への緩い坂道の頂上付近には、信州の各自転車イベントではおなじみの、ママチャリに乗った和製「悪魔おじさん」の姿が。

鹿島槍エイドへの上りに悪魔おじさん登場!

赤い槍を振りかざす悪魔おじさんの応援(?)を受け、急坂を登った先の鹿島槍エイド(66km地点)へ。ここが関門になっていて、11時を過ぎると白馬方面には進めない(幸い1時間近い余裕がありました)。

ついに登場、伝説のネギ味噌おにぎり

このエイドではみんな待ってました!の「伝説のネギ味噌おにぎり」が供された。このネギ味噌おにぎりは、お米も味噌も地元産、大町の美味しい湧水(=水道水)で作った名物エイド食。茎立ちした春の野沢菜の浅漬けはエイド食としては初の登場。大根の甘酢漬けのつけあわせも絶品だ。

ネギ味噌おにぎりは最高に美味しい!
ボランティアの皆さんの応援と笑顔もごちそうです



「伝説のネギ味噌おにぎり」の伝説とは? と知らない人は思うかもしれない。地域の名物というわけでなく、AACRや7月の北アルプス山麓グランフォンドなど、自転車イベントのエイド限定の特製おにぎり。ベースの味噌は大町市のおじちゃん・おばちゃん達が地元産の材料を使って麹から仕込んだ手づくりで、ネギを当日にエイドで刻んで混ぜるというこだわりの一品。そのネギ味噌を北アルプスから流れてきた清冽な水で育ったお米を握ったおにぎりにつけて食べれば、特別な美味しさに感じる。

汗をかいて走ってきた身体が適度な塩分を欲していることで、余計に美味しく感じるのかもしれない。ともかく、走らなければ味わえない美味しさなのは間違いない。それが伝説とまで言われるようになった由来でしょうか。ちなみに名付け親は筆者だったりします(汗)。

ちなみにコロナ対策でプラパックに入れてミニ弁当として供されたネギ味噌おにぎりと漬物だが、昨年から食べ放題、おかわり自由が復活! 気の済むまでいただくことができるのだ(でも食べ過ぎ注意)。

大町の美味しい湧水を水道局のタンク車が給水してくれた
エイドで知り合い仲良くなってプチ女子会です



そしてもうひとつ、広場に停まっているタンクローリーの給水車に驚く。大町市水道課さんの提供で、北アルプスの湧水、大町市自慢の超軟水が飲み放題・汲み放題なのだ。大町市にはいくつか水源があるが、ここで提供されるのは最も北アルプスに近い「上白沢」の湧水。大町市民は普段から湧水のミネラルウォーターを蛇口からそのまま飲めるという贅沢を享受しているそうで、うらやましい!

中綱湖のオオヤマザクラは満開で湖畔に映えていた photo:Makoto AYANO

エイドから下ると中綱湖畔のオオヤマザクラがちょうど見頃! 湖面に映える淡いピンクの桜をツウの観光客が愛でるなか、サイクリストたちは走り抜けながらお花見とは、風流の極み。この一帯の道路はバイパスができたことで旧道になっており、クルマの交通量が少なくてのどかなのもいい。

中綱湖畔では可愛い応援が

仁科三湖を抜け、広々とした谷あいの道に出れば白馬はもうすぐ。長野五輪で使われたクロカンスキー場の脇をかすめ、HAKUBA47スキージャンプ場を行く手に見ながら進む。山肌の雪渓がダイナミックで、息を呑む。もし青空だったらどんなに素晴らしいコントラストだろう。曇り空で超最高とは言い難いが、それでも素晴らしい眺め。

仁科三湖を抜けると白馬方面に視界が開ける photo:Makoto AYANO

残雪の後立山連峰が美しい photo:Makoto AYANO

白馬岳を含む後立山連峰の展望が開ける松川大橋を過ぎ、松川沿いを遡るルートへと進む。クルマが入ってこない川沿いの道は雪渓の山並みを正面に見上げながら進む素晴らしいルートだ。この道は並走もOKだ。

松川沿いからの後立山連峰のパノラマは息を呑むような美しさ photo:Makoto AYANO

雷太さんグループに息子さんの心理君が合流し、親子で一緒に走っている。ユキヤファンの心理君、この日はマヴィックのコスミックカーボンホイールをレンタルしてイケイケ。上りでアタックを決めてお父さんを苦しめる(笑)。

鈴木雷太さんと息子の心理君が一緒に走る

白馬エイドでは焼き立てのピザとコンソメスープが供された。ログホテル「ルポゼ白馬」によるピザはその場で一枚一枚を石窯で焼く本格的なもの。そしてスープは冷製の予定だったが、気温が低いからとホットで提供してくれる臨機応変な気遣いぶり。どちらも美味しく、ここまで和食が続いたところにイタリアンがくるという味の変化が嬉しい。

石窯で一枚一枚焼く本格的なピザだ

ルポゼ白馬による石窯ピザ
和のエイド食が続いたところで嬉しいイタリアンだ



ほぼ20kmごとに食べてばかりで「補給食は持つ必要ないよね」と言われるAACR。でもほとんどのエイド食のカロリーは低いから、エネルギー摂取過多にはならない。

ちなみに大町市を中心にエイドを担当するNPO法人ぐるったネットワーク大町によれば、「カロリー摂取よりも地元のもの」というポリシーで、この地域ならではの美味しい食をどう工夫して提供するかを考えてくれているそうです。エイドに立つ学生やちびっこボランティアも多く、可愛い笑顔でおもてなしされると、ついこちらもニッコリしてしまう。

残雪の白馬連峰を背景に復路を急ぐ

白馬エイドにはワコーズのメカニックブースがあり、帰路の前の不調を解消してくれるほか、好評のオイルも射してくれる。

JR大糸線の踏切を渡り、木崎湖沿いに走る

ここからは折り返しへ。大糸線の無人駅、稲尾駅の踏切を渡り、木崎湖沿いの細道へ。復路に再び登場する鹿島槍の第5エイドへはまた長い坂を登る必要があるが、頑張って登ると再び悪魔おじさんがお出迎えしてくれる。エイドではわらび餅と蒸し立て野沢菜おやきが待っている。

JR大糸線の稲尾駅はアニメの聖地でもあるようです

ちなみにこの第5エイドへの2度目の坂をまた登るのが嫌でスルーする人がいるようだが、ここで寄らないとその次のエイドは34km先になるので、かなりキツくなる。じつは筆者はスルーしたところハンガーノックになり、コンビニでコーラとチョコパンを買ってエネルギーチャージする羽目に(汗)。

ホイールを壊してしまった参加者をマヴィックの鈴木光広さんがサポート

この日は例年に比べてパンクが多かったそうで、サポートにあたったマヴィックチームの用意したスペアチューブが尽き、スペアホイールとルーフに積んだ代車のイエローバイクまでフル活用されたそうだ。

幸いなのは事故がゼロだったこと。セーフティサポートとしてAEDを背負った赤いジャージのサポートライダーと、地元サイクルクラブによるオレンジのジャージの松本サポートライダースが走りながら見守ってくれるが、出番は少なかったようで、何より。

高瀬川に沿った土手上のルートを走り、安曇野エイドを目指す

安曇野エイドは広々した芝生で休める

高瀬川に沿った土手上のルートを走り、136km地点のラストの安曇野エイドでは、凍らせたりんごジュース(シャーベット)と味噌パンと赤飯まんじゅう、わさびチーズが最後のリフレッシュメントよろしく供され、眠気を覚ましてくれた。

りんごジュースのシャーベット、味噌パン、赤飯まんじゅう、わさびチーズ
親子3人で120kmコースにチャレンジしています



リンゴ畑のアップダウンをこなし、紫水苑のメイン会場にフィニッシュ。ほぼ最終ライダーが完走したと同時に雨が降ってきたというのは、なんたる幸運でしょうか。

あと数キロでフィニッシュ。安曇野の石仏が迎えてくれる photo:Makoto AYANO

全ルート通じてアップダウンは少なく、実走データでは160に届かない154kmでした。天気は終日曇りで景色はやや冴えなかったけど、暑くもなく、寒くもなく、走るには快適な気温だった。イコール疲労が少なく済んで、結果的には楽だったと言う人が多かった。ちなみに昨年は朝の最低気温は2℃、昼は20℃超えと寒暖差が大きく、体力的な負担が大きかったと聞いた。

雨を寸前で逃れて歓喜のフィニッシュ

MCアケさんがフィニッシュを盛り上げてくれる
160kmを走りきって笑顔で梓水苑にフィニッシュ!



ディレイラーを破損してしまい、マヴィックのニュートラルバイクでフィニッシュしました
フィニッシュしたら地元のお菓子を高校生ボランティアが渡してくれた




「AACR2024のテーマは”Re challenge” 新しい人が増え、参加者の顔ぶれが変わってきた」
実行委員長兼プロデューサー 鈴木雷太さん


AACR実行委員長兼プロデューサー 鈴木雷太さん

心配だった天気が最後までもったのは良かったです。曇り空でも山も見えたし、桜や花桃も綺麗でした。事故も無く、皆さんに信州の素晴らしさを感じてもらえたんじゃないかと思います。

16年目を迎えるAACR2024のテーマは「Re challenge(再挑戦)」。次の15年に向けての1年目になります。コロナ禍前には爆発的な人気で募集開始直後に4,000人の参加枠がすぐに埋まるという状況でしたが、今回の参加者は1,100人。まだ以前の状況には戻っていませんが、参加者の顔ぶれが変わってきているのも感じています。初めての人が多く参加しているようです。

以前はチームやグループの仲間、ショップの仲間でエントリーしていたのが、コロナで密を避ける傾向となって独りで申し込む人が増えたのもありそうです。初心者の方が多くなったことで今回パンクやメカトラも多かったようです。最近の自転車の構造が複雑になったことも要因でしょう。そうした対応には経験が要るので、そのためのメカサポートの充実に力を入れています。サポートライダーも経験を積んで慣れていますから。

交差点では高校生ボランティアが一時停止を呼びかけた
一時停止の交差点では停まって足を着いて左右確認



今回は警察署に事前に相談に行き、帰路の左折が原因で渋滞の発生するポイントの青信号を長く設定してもらえたことで、参加者とドライバー双方のストレスが軽減できました。皆さん交差点の一時停止をしっかり停まってくれていたと思います。これは啓蒙活動のひとつで、普段走るときにも活かせる。ぜひ普段の地元でのライドでも「自転車の人はマナーがいい」と言われるようにして欲しいんです。私達も地域に根ざしたイベントとして発展できるように進化していきます。5月の緑のAACRも楽しみです。エントリー枠にはまだ若干空きがあり、最終エントリー受付中です!

text&photo:Makoto AYANO

最新ニュース(全ジャンル)