オンループ・ヘットニュースブラッドをヴィスマ・リースアバイクが掌握。度重なるアタックでライバルにダメージを与え、ヤン・トラトニク(スロベニア)の春クラシック初勝利に繋げた。



優勝候補筆頭、ヴィスマ・リースアバイクがプレゼンテーションに登壇 photo:CorVos

スタートを待つヤン・トラトニク(スロベニア、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos
ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)とアルノー・ドゥリー(ベルギー、ロット・デスティニー) photo:CorVos



オセアニア、南米大陸、南ヨーロッパ、中東と温暖な地域を抜け出し、ついに"北のクラシック"シーズンが開幕。曇りで気温6度のベルギー、ヘントの街から伝統と格式の一戦、第79回オンループ・ヘットニュースブラッド(UCIワールドツアー)が開催された。

ヘントからニノーヴェを結ぶ202.2kmコースは2018年からロンド・ファン・フラーンデレンのフィニッシュを踏襲するレイアウトが採用されており、12の登りと9の石畳”セクター”のうち「レベルグ」「ベレンドリー」「フォッセンホール」「ミュール・カペルミュール」「ボスベルグ」らお馴染みの有名登坂がレース後半に登場。スタート時こそウェットコンディションだったものの、レースが進むにつれて路面状況は好転していった。

猛烈なペースアップを試みるヴィスマ・リースアバイク photo:CorVos

展開に絡めず、さらに落車に見舞われたジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos

格式高いこの一戦に圧倒的戦力で臨んだのはヴィスマ・リースアバイクだった。一昨年優勝者ワウト・ファンアールト(ベルギー)と昨年優勝者ディラン・ファンバーレ(オランダ)を揃え、大会3連覇を狙う黄色軍団は、元U23世界王者サムエーレ・バティステッラ(イタリア、アスタナ・カザクスタン)を含む9名逃げをタイム差5分程度でコントロール。するとスタートから100kmを消化しないうちにメイン集団ではスピードアップによる大分裂が生じた。

強者だけが選別された23名のグループにはヴィスマ・リースアバイクが最大人数5名(ファンアールト、ラポルト、べノート、ヨルゲンソン)を入れ、ヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)やトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)、アルノー・ドゥリー(ベルギー、ロット・デスティニー)といった面々もジョイン。一方でシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)やジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)らはこの動きに乗り遅れてしまった。

単独でミュール・カペルミュールを駆け上がるマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

アルノー・ドゥリー(ベルギー、ロット・デスティニー)が6名の逃げグループを牽引 photo:CorVos

逃げグループを吸収し、メイン集団の追走を突き進む先頭グループの中で、やはり主導権を握ったのはヴィスマだった。ラスト50kmが近づいた「ウォルフェンベルグ(登坂距離700/最大13.8%)」ではマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ)が集団を引き延ばし、頂上通過後にファンアールトが、さらにクリストフ・ラポルト(フランス)がアタックを継続。矢継ぎ早の波状攻撃によってファンアールト、ラポルト、ヨルゲンソンのヴィスマ3名にドゥリー、ピドコック、そしてトムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック)という6名だけが生き残った。

残り30km。「ベレンドリー(登坂距離1000m/最大10.5%)」では「厳しいとは分かっていたけれど自らレースを作ろうと思った」と振り返るスクインシュが仕掛けたが、ファンアールトの追走によって潰されてしまう。すると今度は残り21km地点の平坦区間でヨルゲンソンが一人アタックした。

モビスターからヴィスマへの移籍後初レースであるヨルゲンソンは、25〜30秒リードを得てフランドルの象徴「ミュール・カペルミュール(正式名称ミュール・ファン・ヘラールツベルヘン、距離1200m)」を登ったものの、ドゥリーが必死に追いかける後続グループが、すぐ後ろまで迫ったメインが距離を縮めてくる。結局ヨルゲンソンの独走はラスト12km地点の「ボスベルグ」通過後に終止符が打たれた。

終盤の平坦区間を逃げるトラトニクとニルス・ポリッツ(ドイツ、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

ポリッツとのマッチスプリントを制したヤン・トラトニク(スロベニア、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

ここからフィニッシュまでは平坦のみ。メイン集団から最前線に躍り出たティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツ)のアタックはラポルトが潰し、カウンターで同じくメイン集団から上がってきたヤン・トラトニク(スロベニア)が加速する。唯一追従したニルス・ポリッツ(ドイツ、UAEチームエミレーツ)を除き、ユンボのライバルチームは互いを見合って動くことができなかった。

一呼吸置いて「ボスベルグ」で遅れたメンバーが後続グループに戻り、ロット・デスティニーが追走体制を整えたものの、背後でローテーションを阻むユンボ勢の動きもあって、メイン集団で脚を貯めてきた逃げる2人との距離は縮まらない。やがてロットトレインも崩壊し、トラトニクとポリッツの逃げ切りが決まった。

残り1km地点でポリッツを前に出し、脚を貯めてからトラトニクがスプリント。追従できなかったポリッツを尻目にトラトニクがキャリア最大の勝利を飾った8秒後、後続グループの先頭をファンアールトが獲ったことでヴィスマの1-3勝利が決まった。

ヴィスマが表彰台に2名を送り込むことに成功した photo:CorVos

クラシック初制覇を遂げたヤン・トラトニク(スロベニア、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

「レースを通して僕たちは自分自身を信じていた。最初の逃げグループに入り損ねてしまい、ワウトたちがあまりにも強力なのでもう追いつかないのかと心配していたよ。ボスベルグで復帰できた時に僕自身アタックを仕掛けようと決めたんだ。僕のスプリント能力に少し不安を感じていたけど、ポリッツが早駆けしたのでチャンスが巡ってきた」と語るトラトニク。名アシストとして知られる34歳はかつてジロ・デ・イタリアのステージ優勝経験を持つものの、あまり出場してこなかった石畳クラシック制覇は初めてのこと。「多分キャリア最大の勝利だと思う。今日もチームのために走る役割だったし、こんな展開になるとは驚いたよ。完全にチームの勝利だと思う」と加えている。

また、3位に入ったファンアールトは「今日はチームとして主導権を握ろうとしていた。カペルミュールの前にマッテオをアタックさせてカードを切った。メイン集団も迫っていたが、その中にはヤン(トラトニク)もディラン(ファンバーレ)も入っていたので心は平穏だった。実際にアドバンテージを持って走れたし、すごくいい勝利になった」とコメント。ラポルトも5着に入っており、メンバーそのままに連戦出場する本日開催のクールネ〜ブリュッセル〜クールネでも旋風を巻き起こしそうだ。

オンループ・ヘットニュースブラッド2024結果
1位 ヤン・トラトニク(スロベニア、ヴィスマ・リースアバイク) 4:31:28
2位 ニルス・ポリッツ(ドイツ、UAEチームエミレーツ) +0:03
3位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク) +0:08
4位 オリヴェル・ナーセン(ベルギー、デカトロンAG2Rラモンディアル)
5位 クリストフ・ラポルト(フランス、ヴィスマ・リースアバイク)
6位 ローレンス・レックス(ベルギー、アンテルマルシェ・ワンティ)
7位 ヤスペル・ストゥイヴェン(ベルギー、リドル・トレック)
8位 トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)
9位 マッテオ・トレンティン(イタリア、チューダープロサイクリング)
10位 アルノー・ドゥリー(ベルギー、ロット・ディステニー)
text:So Isobe
photo:CorVos

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