2023/07/14(金) - 08:30
逃げを目指すアタック合戦が90kmにも及んだツール第12ステージ。逃げ集団から抜け出したヨン・イサギレ(スペイン、コフィディス)が30kmの独走勝利を決め、チームに今大会2勝目をもたらした。
フランス5大山脈の全てを巡る第110回ツールはその3つ目であるジュラ山脈を前に、リエージュ~バストーニュ~リエージュのような丘陵ステージに臨む。設定されたカテゴリー山岳は5つで、パリ〜ニースでもお馴染みの風光明媚なぶどう畑を駆け巡る。勝負所となるのは残り64.1kmから登る3連続(3級、2級、2級)の丘。いずれも登坂距離は5.2〜5.5kmだが、特に最終山岳クロワ・ロジエは平均勾配7.6%と険しい。
クロワ・ロジエ頂上からベルビル・アン・ボジョレーのフィニッシュ地点までは28.4kmと距離があるため、独走や小集団によるスプリントなどあらゆる可能性を残す展開予想の難しいステージとなる。当然スプリンターには厳しく、かと言ってマイヨジョーヌ争いが活発化するほど厳しくはないため、このチャンスを待ち焦がれていた”逃げ屋”がスタート前にウォーミングアップに勤しんだ。
この日は第4ステージで落車し、回復に努めていたファビオ・ヤコブセン(オランダ、スーダル・クイックステップ)がシーズン後半戦のために未出走を選択した。そのため168名となった集団がロアンヌをスタート。直後にマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)がファーストアタックを仕掛け、逃げを目指した攻防が実に90kmにわたって続くことになった。
ステージ優勝へのトライを許されたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)やエーススプリンターを失ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)、若きデンマーク王者マティアス・スケルモース(リドル・トレック)がこの日は積極的に動く。一方でスタートから平均48km/hを超えるハイスピードで2つの3級山岳を越えたため、マイヨヴェール(ポイント賞ジャージ)のヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)らスプリンターたちが遅れていった。
総合首位ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)とタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)がお互い激しいマークを繰り広げる集団では、カンタン・パシェ(フランス、グルパマFDJ)とダビ・デラクルス(スペイン、アスタナ・カザフスタン)が下りで落車する。パシェが素早くバイクに跨った一方で、「何度も体験した骨折に似た痛みだった」と語るデラクルスは幸い骨折はなかったものの、右の肘と肩、左臀部への打撲により棄権している。
その後もジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)やマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)などが4名、または3名の小集団で飛び出すものの決定打に欠く。そしてディラン・トゥーンス(ベルギー、イスラエル・プレミアテック)とティシュ・ベノート (ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)が先行した集団に、長時間追走していたアラフィリップとヤスペル・ストゥイヴェン(ベルギー、リドル・トレック)が追いつく形で、ようやく15名の逃げ集団が形成された。
コフィディス(マルタン&ヨン・イサギレ)とリドル・トレック(ピーダスン&ストゥイヴェン)、モビスター(ヨルゲンソン&ゲレイロ)の3チームがそれぞれ2名を送った逃げ集団は、ファンアールトが牽引に加わったプロトンに2分半のリードを得る。そしてメイン集団ではようやく落ち着いた展開に反してマイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)ら5名が落車し、巻き込まれたチッコーネは顔に傷を負ったものの無事にレースを続行した。
3つ目の3級山岳の下りに入った逃げグループでは、ファンデルプールとアンドレイ・アマドール(コスタリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)がアタックを仕掛ける。そして直後の2級山岳クロワ・モンマン(距離5.2km/平均6.1%)でファンデルプールがベテランクライマーのアマドールを引き離し、残り50km地点から独走態勢を築いた。
前日のスプリントステージではヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)のリードアウトを行わず、力を温存したファンデルプールによる単独走。今年ミラノ〜サンレモとパリ〜ルーベを制したクラシックレース巧者の独走に対し、危機感を持った追走集団からティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)とマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、モビスター)が懸命に踏み込み、ファンデルプールを捉える。そしてアラフィリップらが脱落した追走集団も追いつき、レース先頭は8名となった。
プロトンでは逃げに選手を送ることができなかったAG2Rシトロエンが先頭グループを捉えようと牽引したものの、選手を使い切ったため再びユンボに代わる。この時点で先頭とのタイム差は4分30秒まで拡大したため、ツール第12ステージの勝利は逃げ集団に絞られた。
先頭の8名が最終2級山岳クロワ・ロジエ(距離5.3km/平均7.6%)に入ると、唯一2名を乗せたコフィディスのヨン・イサギレ(スペイン)が加速する。ファンデルプールは反応したものの離されていき、20秒差をつけたイサギレは単独で頂上を通過。地元バスクで開幕を迎えたイサギレは猛スピードで下りをこなし、平坦路でも一定のリズムで踏み続けた。
ファンデルプールが遅れを喫し、6名となった追走集団はギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)がローテーションを阻害する老獪な走りを披露。そのため追走のペースは上がらず、残り20km地点で37秒、残り10kmで45秒とその差が徐々に拡がっていく。そして最終的に後続と58秒差をつけた元スペイン王者が、2016年第20ステージに続く自身2度目のステージ優勝を掴み取った。
第2ステージでヴィクトル・ラフェ(フランス)がコフィディスとして15年振りのツール勝利を飾っていたチームに早くも2勝目をもたらしたイサギレ。「今大会を通してずっと逃げを目指していた。そしてようやく今日乗ることができたため、最良の結果を得ようと走った。ラスト30kmの道のりは長かったものの、自分を信じて全力で踏み続けた。勝てるかどうか分からなかったものの、最後の数kmは自分の強さを感じていた。とても感動したよ」と、イサギレは実に7年ぶりとなるツールのステージ優勝を喜んだ。
ちなみに15年前に当時コフィディスのシルヴァン・シャヴァネル(フランス)が逃げ切り勝利を飾った日は、ロアンヌを出発したステージ(その時のフィニッシュ地点はモンリュソン)だった。
2位争いはヨルゲンソンをスプリントで退けたマチュー・ビュルゴドー(フランス、トタルエネルジー)が獲得。ピノは1分13秒遅れで総合順位を10位まで上げる。マイヨジョーヌを着るヴィンゲゴーやポガチャルは4分14秒遅れでフィニッシュし、カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・デスティニー)はヤスペル・デブイスト(ベルギー)のアシストにより37分22秒遅れでタイムカットを免れている。
フランス5大山脈の全てを巡る第110回ツールはその3つ目であるジュラ山脈を前に、リエージュ~バストーニュ~リエージュのような丘陵ステージに臨む。設定されたカテゴリー山岳は5つで、パリ〜ニースでもお馴染みの風光明媚なぶどう畑を駆け巡る。勝負所となるのは残り64.1kmから登る3連続(3級、2級、2級)の丘。いずれも登坂距離は5.2〜5.5kmだが、特に最終山岳クロワ・ロジエは平均勾配7.6%と険しい。
クロワ・ロジエ頂上からベルビル・アン・ボジョレーのフィニッシュ地点までは28.4kmと距離があるため、独走や小集団によるスプリントなどあらゆる可能性を残す展開予想の難しいステージとなる。当然スプリンターには厳しく、かと言ってマイヨジョーヌ争いが活発化するほど厳しくはないため、このチャンスを待ち焦がれていた”逃げ屋”がスタート前にウォーミングアップに勤しんだ。
この日は第4ステージで落車し、回復に努めていたファビオ・ヤコブセン(オランダ、スーダル・クイックステップ)がシーズン後半戦のために未出走を選択した。そのため168名となった集団がロアンヌをスタート。直後にマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)がファーストアタックを仕掛け、逃げを目指した攻防が実に90kmにわたって続くことになった。
ステージ優勝へのトライを許されたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)やエーススプリンターを失ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)、若きデンマーク王者マティアス・スケルモース(リドル・トレック)がこの日は積極的に動く。一方でスタートから平均48km/hを超えるハイスピードで2つの3級山岳を越えたため、マイヨヴェール(ポイント賞ジャージ)のヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)らスプリンターたちが遅れていった。
総合首位ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)とタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)がお互い激しいマークを繰り広げる集団では、カンタン・パシェ(フランス、グルパマFDJ)とダビ・デラクルス(スペイン、アスタナ・カザフスタン)が下りで落車する。パシェが素早くバイクに跨った一方で、「何度も体験した骨折に似た痛みだった」と語るデラクルスは幸い骨折はなかったものの、右の肘と肩、左臀部への打撲により棄権している。
その後もジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)やマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)などが4名、または3名の小集団で飛び出すものの決定打に欠く。そしてディラン・トゥーンス(ベルギー、イスラエル・プレミアテック)とティシュ・ベノート (ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)が先行した集団に、長時間追走していたアラフィリップとヤスペル・ストゥイヴェン(ベルギー、リドル・トレック)が追いつく形で、ようやく15名の逃げ集団が形成された。
コフィディス(マルタン&ヨン・イサギレ)とリドル・トレック(ピーダスン&ストゥイヴェン)、モビスター(ヨルゲンソン&ゲレイロ)の3チームがそれぞれ2名を送った逃げ集団は、ファンアールトが牽引に加わったプロトンに2分半のリードを得る。そしてメイン集団ではようやく落ち着いた展開に反してマイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)ら5名が落車し、巻き込まれたチッコーネは顔に傷を負ったものの無事にレースを続行した。
3つ目の3級山岳の下りに入った逃げグループでは、ファンデルプールとアンドレイ・アマドール(コスタリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)がアタックを仕掛ける。そして直後の2級山岳クロワ・モンマン(距離5.2km/平均6.1%)でファンデルプールがベテランクライマーのアマドールを引き離し、残り50km地点から独走態勢を築いた。
前日のスプリントステージではヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)のリードアウトを行わず、力を温存したファンデルプールによる単独走。今年ミラノ〜サンレモとパリ〜ルーベを制したクラシックレース巧者の独走に対し、危機感を持った追走集団からティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)とマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、モビスター)が懸命に踏み込み、ファンデルプールを捉える。そしてアラフィリップらが脱落した追走集団も追いつき、レース先頭は8名となった。
プロトンでは逃げに選手を送ることができなかったAG2Rシトロエンが先頭グループを捉えようと牽引したものの、選手を使い切ったため再びユンボに代わる。この時点で先頭とのタイム差は4分30秒まで拡大したため、ツール第12ステージの勝利は逃げ集団に絞られた。
先頭の8名が最終2級山岳クロワ・ロジエ(距離5.3km/平均7.6%)に入ると、唯一2名を乗せたコフィディスのヨン・イサギレ(スペイン)が加速する。ファンデルプールは反応したものの離されていき、20秒差をつけたイサギレは単独で頂上を通過。地元バスクで開幕を迎えたイサギレは猛スピードで下りをこなし、平坦路でも一定のリズムで踏み続けた。
ファンデルプールが遅れを喫し、6名となった追走集団はギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)がローテーションを阻害する老獪な走りを披露。そのため追走のペースは上がらず、残り20km地点で37秒、残り10kmで45秒とその差が徐々に拡がっていく。そして最終的に後続と58秒差をつけた元スペイン王者が、2016年第20ステージに続く自身2度目のステージ優勝を掴み取った。
第2ステージでヴィクトル・ラフェ(フランス)がコフィディスとして15年振りのツール勝利を飾っていたチームに早くも2勝目をもたらしたイサギレ。「今大会を通してずっと逃げを目指していた。そしてようやく今日乗ることができたため、最良の結果を得ようと走った。ラスト30kmの道のりは長かったものの、自分を信じて全力で踏み続けた。勝てるかどうか分からなかったものの、最後の数kmは自分の強さを感じていた。とても感動したよ」と、イサギレは実に7年ぶりとなるツールのステージ優勝を喜んだ。
ちなみに15年前に当時コフィディスのシルヴァン・シャヴァネル(フランス)が逃げ切り勝利を飾った日は、ロアンヌを出発したステージ(その時のフィニッシュ地点はモンリュソン)だった。
2位争いはヨルゲンソンをスプリントで退けたマチュー・ビュルゴドー(フランス、トタルエネルジー)が獲得。ピノは1分13秒遅れで総合順位を10位まで上げる。マイヨジョーヌを着るヴィンゲゴーやポガチャルは4分14秒遅れでフィニッシュし、カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・デスティニー)はヤスペル・デブイスト(ベルギー)のアシストにより37分22秒遅れでタイムカットを免れている。
ツール・ド・フランス2023第12ステージ結果
1位 | ヨン・イサギレ(スペイン、コフィディス) | 3:51:42 |
2位 | マチュー・ビュルゴドー(フランス、トタルエネルジー) | +0:58 |
3位 | マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、モビスター) | |
4位 | ティシュ・ベノート (ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) | +1:06 |
5位 | トビアス・ヨハンネセン(ノルウェー、ウノエックス・プロサイクリングチーム) | +1:11 |
6位 | ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) | +1:13 |
7位 | ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) | |
8位 | ディラン・トゥーンス(ベルギー、イスラエル・プレミアテック) | +1:27 |
9位 | ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル、モビスター) | |
10位 | ヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ロット・デスティニー) | +3:02 |
12位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | +4:14 |
16位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | |
26位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) |
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | 50:30:23 |
2位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | +0:17 |
3位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) | +2:40 |
4位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | +4:22 |
5位 | ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) | +4:34 |
6位 | アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) | +4:39 |
7位 | サイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー) | +4:44 |
8位 | トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) | +5:26 |
9位 | ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) | +6:01 |
10位 | ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) | +6:33 |
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 | ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) | 323pts |
2位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) | 179pts |
3位 | ブライアン・コカール(フランス、コフィディス) | 178pts |
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 | ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) | 46pts |
2位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | 28pts |
3位 | トビアス・ヨハンネセン(ノルウェー、ウノエックス・プロサイクリングチーム) | 26pts |
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | 50:30:40 |
2位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | +4:05 |
3位 | トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) | +5:09 |
チーム総合成績
1位 | バーレーン・ヴィクトリアス | 151:46:08 |
2位 | イネオス・グレナディアーズ | +1:18 |
3位 | ユンボ・ヴィスマ | +1:52 |
text:Sotaro.Arakawa
photo:So Isobe, CorVos
photo:So Isobe, CorVos
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