ツール・ド・おきなわ参戦レポート第2弾は市民210㎞で2位だった北野普識(イナーメ信濃山形 )のレポートをお届け。「打倒・高岡選手」を掲げ万全の準備をして臨んだレース。果たして勝負はどこで決まったのだろうか?



レースまでの準備

基本的に平日は仕事を終えてから夕飯前にZwiftレース週3回、土日ロング、残りの2日どちらかでお世話になってるIGAスポーツ整骨院で回復するルーチンにしています。練習の目標を決める、その成功率を上げるのが今年の成績に繋がったかと考えています。

今年はニセコで筋挫傷して10位。筋挫傷、コロナ、急性胃腸炎と6.7.8月でFTP4倍以下の一般人になってしまい、そこからルーチンで沖縄へ準備していきました。それまでの主なリザルトは、秩父宮杯10位、JPT群馬CSCロード150km 20位、ジャパンカップオープン3位、JPTかすみがうらロード120km19位、JPT今治クリテリウム10位。

湾岸サイクルユナイテッドさんが企画するおきなわ対策練習会へ湾岸サイクルユナイテッドさんが企画するおきなわ対策練習会へ
基本的にズイフトレースも、大会も目標数値を設定して、そのラインをクリアを課してきました。10月から湾岸サイクルユナイテッドさんが企画するTD55(ツール・ド・おきなわいこーいこー練習)に参加して、長距離ノンストップ耐性を高めました。基本的に140km前後を止まらず待たずに切り捨てごめんで走り切る練習です。

11月に入りZwiftでも尻上がりに優勝争いが出来て、一日あたりのTSSは9月TSS75/1日、10月TSS85/1日くらい。プロ相手ではその他大勢だが、ホビーではいい闘いが出来るレベルには出来ました。こんな事を書いておきながら、重度のアレルギーと結束性紅斑持ちなので、沖縄の暑さや日差しで湿疹や日光アレルギーが出たりして積み木は脆くも崩れ去るかもしれない。でも、それらを運や仕方ないと言わず、10年かけて少しずつコントロール出来るようしてきました。近年目標に向け多くの施策を巡らし、1つずつ回収していくことが出来るようになり、積み上げる毎に自信と楽しみが募っている状態でオキナワへ。

ジャパンカップのオープンレースでは3位で高岡さんに先着。おきなわでもリピートする自信は満々となったジャパンカップのオープンレースでは3位で高岡さんに先着。おきなわでもリピートする自信は満々となった photo:Satoru Kato
今回市民210kmの目標は優勝。ジャパンカップのオープンレースでは3位で高岡さんに先着し、表彰台で「おきなわはこうはいかないぞ」と言われて、「対抗できるよう私も仕上げてきます」と伝えた。このときスプリントで敵わなかったのが寺崎さんとニセコで一緒に飛び出して置いて行かれた石井さん。私のなかで今回超えねばならない3人の優勝候補だった。

直前のMax Powerは1170w。5分、20分も1週間前にピークレベルへ到達。2週間前のかすみがうらロードで3時間NP5倍が維持できた。レース時間は5時間半。この強度パフォーマンスを沖縄残り3時間に発揮できれば優勝争いに参加できるだろうと考えていた。

普久川ダム登りでクライマーの森本さん、中村俊介さん、佐々木遼君には離されないようにして登り勝負を抑え込み、残り3時間 NP5倍強度に持ち込んで、自分より優れたスプリンターはふるい落として少数スプリントに持ち込みたい。それがプランだった。

・体重
直前週回復週と思ってポジティブに過ごすが体重調整的には目標体重より+2kgだった。

バイクはスペシャライズドTARMAC SL7。ホイールはデュラエースC36ホイールを選択バイクはスペシャライズドTARMAC SL7。ホイールはデュラエースC36ホイールを選択
・機材
イナーメ信濃山形のチーフメカニックの比護ちゃんにかすみがうらロードで整備してもらい、幕張CXで新ホイールのWH-R9270-C36-TL、タイヤPowerCUP TLR28Cが届きテスト。最新トレンドのチューブレスタイヤ+ホイールの革新に驚く。自分の戦略と体重的に必要なのは、登りで引き離されないことを優先してこのデュラエースC36ホイールを選択する。

・環境順応
おきなわ前の週は重要業務があり外せないので、土曜昼にしか沖縄入りできず。直前入りは暑熱順応と湿度順応に不安が残る。

・筋肉
これらの課題を残しつつ、金曜日にIGAスポーツ整骨院へ行き、最後のほぐしと調整をしてもらう。筋肉の回復は上々、硬さもなく良い感じで走れそう。虚弱体質で結果もマチマチな自分を見切らずに支えてくれて、感謝感謝である。

・補給
ACTIVIKEのスポンサードを受けているので、下記ドリンクで行く。
5本 x グランフォンドウォーター(パラチノース+電解質):5本同じ味は飽きるので味変でヴァームを入れたり入れなかったり。
スピードウォーター(カフェイン+糖質):最後の1時間はこれ。
羊羹×10個・シベリア :固形物のみ、20km毎に食べるシンプルな計画。

朝4時起きてパスタを150gくらい食べる。気合が入ったレースのときは3時間前に食べ終えるようにしている。内臓がそんなに強くなく、すぐ不調が肌に出るので、内蔵負担が少ないことが大事だからだ。

雨が降っているのでスタート30分前くらいに宿を出る。サンボルトブースで橋本社長のご厚意に甘えて雨宿り。お陰様でスタート前まで雨回避できた。森本誠さん一緒に最後尾に並ぶ。FITS文隆さんもいてレジェンドたちと話しているとスタートの号令。

小雨が降る中パレードスタート。水たまりやタイヤからの跳ね上がりが嫌な感じ。リアルスタートからすぐに伸びる集団、更に嫌な感じがするので先頭へ行く。石井選手が気持ち強めに抜け出そうとしている。

infinityタカユキ、フィンズ遠藤さん、ロードレ―ス男子部の56さんと伊織さん、SUBARU加賀さん、WCU山口さんなども積極的に前で動いている。彼らを含めた一時10人近い逃げができた。しかし、それに井上選手がジョインしようとして、高岡さんも警戒して動いている感じ。自分も先頭交代に入り距離は詰めておく、ローテ参加者も多く逃げは30kmほどで吸収されてしまう。泳がしておいてよかったのに…。

大集団に戻ったので前が見えるくらいでプラプラ走る。逃げを許してサイクリングになる例年と比べればペースは速い。強度的には集団の中だとサイクリングなのは変わらず。むしろ雨で地面が濡れ朝日が反射した逆光のなか走る沖縄の気候のほうが印象深い。

GOCHI佐々木遼くんが上がってきたので雑談した。「どこで動くの?」「今日は最後までツキイチですよー」「クライマーはフンガワ1回目から動かないと」「北野さん、動いてくださいよ」「オレはスプリントになってもいいから」。こんな会話をしながら、まったり焚きつけておく。

50kmぐらいの湖畔でまた石井選手、56さん、タカユキ含む5人逃げが飛び出していった。思うに沖縄序盤から逃げきるには10人以上の逃げでかつ、坂で遅れない最後まで踏めるような優勝候補3人は必要なのではないだろうか。というのも210kmの逃げを振り返ると、2017年強心臓の56さんの逃げ、2019年は阿曽選手の逃げともに、いくら絶好調でも序盤からは逃げ切れなかったからだ。そのため、最初の10人逃げのほうがワンチャンあったように思う。

「掛かっているかもしれませんね。冷静になれるといいのですが」。逃げを見て高岡さんがメイン集団ローテに参加していたので、降りてきたときに見解を伺う。

「石井さん掛かっていません?」「いや、脚は使わず楽に逃げているよう思うよ」「追いますか?」「このペースを維持すればいいよ」といった会話をしたので、一応先頭交代に参加してペースを維持しておく。チームメイトの吉岡君や、オッティモ小松さんもローテに入ってくれて助かる。

本部半島で。そのまま5人逃げは等間隔で走っていたがトイレ休憩で見えなくなった本部半島で。そのまま5人逃げは等間隔で走っていたがトイレ休憩で見えなくなった photo:Makoto AYANO
そのまま5人逃げは等間隔で走っていたがトイレ休憩で見えなくなった。そして普久川ダム(フンガワ)の登り一回目へ入っていく。レースを占う一回目フンガワ登り。VC VELOCEの細身の選手が気持ちいいペースで中盤まで引いてくれて、皆お任せコース。佐々木遼くんが先頭付近に上がってきて、行くのか?って感じで前に出るけど、結局行かない所作に葛藤を感じる。

私は君が勝つなら一回目から苦しい展開にしてエエんやで、と思ってる。一方、熱帯雨林な湿度100%な蒸し暑さが1番の敵で、ペースに対して心拍は高い。森本さんが頂上に近づくにつれ先頭に出て上げだすが、そこまでのペースがイージーだったのですぐ頂上がきてしまいクリア。

濡れたダウンヒルへ突入するが少し滑る感じもしつつ、ブレーキは握り込まなければコントロール出来るので問題はなし。何人か抜きつつ、下り切ると本日2回目の石井選手らを吸収。更に先には中鶴さん、加賀選手らが逃げていた。

補給所で。高杉さんが奥様から補給を取り、ボトルまで渡してくれた補給所で。高杉さんが奥様から補給を取り、ボトルまで渡してくれた photo:Makoto AYANO
逃げているらしいという情報を得つつ、高杉さんが奥様から補給を取り、ボトルまで渡してくれる私的MVP。ありがとうございます。

奥のアップダウンを集団が行く。100kmスタート地点をすぎた坂で複数人がペースアップして、レースが始まった。チームメイトの荒瀧さん、石井選手、タカユキ、伊織さんらが動く。

石井選手は強い走をするのに拘って掛り気味で逃げを試みているように見えた。ニセコの時のような私のアタックを利用してカウンター1発で逃げ切りを決めたスマートさがなく、木祖村で一緒に逃げて玉砕したときのような我武者羅な感じがしてニセコ総合優勝のプレッシャーは斯くあるのかと思わせた。

私はまだレースは始まっていなし、チームメイトの荒瀧さんも行ったし様子見ようと俯瞰していた。そうしたら真逆の高岡さんがアタック。初めはフザケたような、無駄に自転車を振ったスプリントのふりのような動作で前に出る、フリだから大して集団から離れていない。実は結構ある茶目っ気を珍しく振り撒いているなぁ、と私は思った。その茶目っ気を知らない人たちも「なんだあれは?」って感じで誰も追わない。

そうしたら少し離れたのを見計らって、ブラフではなく踏み出した!これが勝ち筋、勝負の逃げとなるとは思いもしなかった。

この時、何故か徒然草の一節が頭に浮かんだ。
「狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり」
そう、ここから逃げ出した高岡さんは狂人であり、強靭であった。

離れだす高岡さん。追い出す自分、井上さん、アクティバイク西谷さんも加わるが、集団の反応は鈍く5人くらいしかついてこないでローテが回らない。全力で追えばよかったが、下り基調追い風集団頼りが勝り、交代がまごつく間に離れていった。その後、事を悟った人たちで追走が始まるが、追い風の海岸線は交代を切る人たちが多くうまく回らない。しかし速いからローテが乱れる乱れる。

速くはあったものの誰も捕まえられず、そのまま普久川ダムの登り二回目に突入する。井上さんが前に出ると被せるようにクライマーの遼くんや中村俊介さんが先頭に出て上げだす。

さあ勝負の始まりだ。しかし一定ペースで最速で登るというより、急斜面踏む、緩斜面休むのインターバルクライム。途中逃げから落ちてきたタカユキや伊織さんをパス。抜くとき、原田さんが「タカユキお疲れ!」と凄い大声で賞賛しているのがチーム力を感じた。

「交代しようよ!」という声が先頭から聞こえるが、インターバルクライムで息を整えたいのか交代に出る人はいない。最速を目指しふるい落とすなら一本引きが良い気もした。

30人くらいで頂上を超える。伸びているので何人か復帰してくるだろうと考えながら下りへ入る。するとブラインドコーナー先で落車が起こっている! 荒瀧さんや中鶴さんら逃げていた人達だ。その落車にメイン集団先頭何人かが突っ込んでいった、アクティバイク本田りゅーじさんやRX木村くんらが転ぶ。

二人の真横・真後だったので避けるためブレーキしたら後輪が滑る感覚。これはブレーキしちゃいけないやつ! 直ぐにブレーキをリリースして体重移動でライン修正して間を抜けた。パニックブレーキしていたら同じように転倒していただろう。

メイン集団はパラパラとなりながら無事下り切り、状況を確認する。石井選手が前に見え、高岡さんはいない。

「高岡さんが転けていた?!」という人がいるので、「アレは木村くんだ」と伝える。本日吸収3回目の石井選手に確認すると、高岡さんはまだ前にいるとのこと。前半の主役として動き続けた代償か、元気がない。ニセコでの敗北で脳を焼かれた人間としては真っ向勝負でリベンジしたかったが、今回はその時ではなかった。

あの北の大地でフィジカル以上に「勝利への渇望」を教えられた。「本当に勝ちたいなら脚が終わろうとも詰めるし、逃げの足を緩めない」。

ここでの情報収集や復帰する人待ちでニュートラルのようになってしまった。また高杉さんに補給を取ってもらい、本日2度目。感謝。

カフェイン入りのACTIVIKEスピードウォーターを入れる。カフェイン抜きしていたのですぐ効いて、謎の万能感があふれてくる。そうしながら緩いペースで安波・安田分岐を右折して、東村の1km登りへ入っていく。高岡さんは逃げている。2分差くらいに開いているから皆で追うぞ!と共有した。まだ20人以上いるのだから。

学校坂をイージーペースで終え、宮城のアップダウンへ学校坂をイージーペースで終え、宮城のアップダウンへ photo:Makoto AYANO
フンガワ登りに次ぐセレクション。学校坂へ突入する。井上亮さん、中村俊介さん、佐々木遼くんが前に出るが、協調するにしてはペースが緩い。交代して牽いていると牧野くんに「後ろ離れていますよ!」と言われ、抑える。この判断がよくなかった。つまり集団は既に泥船だったのだ。

学校坂をイージーペースで終え、宮城のアップダウンへ。自分、井上さん、シュガーさん、恭司郎ニキ、牧野くん、平口くんにっしーさん、佐々木遼くん、中村俊介さんが交代するが集団ペースは、追走と言うには鈍行であった。平坦・下りも万遍なく引けているのは井上さん、シュガーさん、恭司郎ニキ、登りはクライマー佐々木遼くん、中村俊介さん。交代はしてくれる牧野くん、平口くん、にっしーさん。あと10人近くは完全にツキイチだ。

VC VELOCEの池川選手が顔から血を流しながら再合流してきた...VC VELOCEの池川選手が顔から血を流しながら再合流してきた... photo:Makoto AYANO
いや、そこにVC VELOCEの池川選手が復帰してきて先頭交代する。顔から血を流し、ウェアは汚れて穴が開き、目は大きく開いている。落車してなお、先頭に独力で戻ってきたのだ、壮絶な姿に「鬼がおる…」とつい呟いてしまう。オキナワの魔物である。いや、それに賭ける思いに畏怖した。こういう凄い選手と戦わないといけないのだ。

交代がうまく回らない。ニセコクラシックで石井選手が飛び出した後と同じ集団再びである。追ってる人だけが脚を使い、ツキイチの人たちを連れて行くのが馬鹿らしくなってくる悪循環。この集団はよくない。

追ってる人だけが脚を使い、ツキイチの人たちを連れて行くのが馬鹿らしくなってくる悪循環を感じていた追ってる人だけが脚を使い、ツキイチの人たちを連れて行くのが馬鹿らしくなってくる悪循環を感じていた photo:Makoto AYANO
オキナワの地獄

高岡さんとタイム差が広がっている。登りも平地も下りも一定ペースで走っている一人逃げ。かたやこちらは20人いて先頭交代しているのは6名前後。他は脚を出し惜しみしている。登りは頂上までもがくが、平地下りは脚を止めて休む集団はストレスフル。もうこの集団はダメだ。

勝ちたいなら例え足が終わっても単独でも追走するべきだ。高岡さんとのタイム差を埋めないと勝てないのだから。単独でも追走しよう、と決意する。

小さなアップダウンで飛び出すと集団はついてきた、しかし追いつくと皆脚を止める小さなアップダウンで飛び出すと集団はついてきた、しかし追いつくと皆脚を止める photo:Makoto AYANO
小さなアップダウンで飛び出すと集団はついてきた、しかし追いつくと皆が脚を止める。海岸線に出る、集団はサイクリングだ。

もう時間がない。誰かを頼っていては弱い、己を信じていくしかない。ここで行こう、スピードを上げて飛び出す。本当に勝負を諦めてない人だけついてくれば良い。俺はまだ勝負することを諦めちゃいないんだ!

「俺はまだ勝負することを諦めちゃいないんだ」と飛び出す「俺はまだ勝負することを諦めちゃいないんだ」と飛び出す photo:Makoto AYANO
アタックしたがついてきたのはキョウシロウニキのみだったアタックしたがついてきたのはキョウシロウニキのみだった photo:Makoto AYANO
しかし、キョウシロウニキのみだった。明確に集団を離すまで引いて交代を促すと「交代は出来ない」とキョウシロウニキ。そうか、ロードレース男子部としてシュガーさんのアシストか。単独で行くつもりだったので「オレはこのまま行きますよ」と伝えて踏み続けた。海岸線のウネウネブラインドで集団が見えなくなる。

しかし、坂に入ると中村俊介さんや井上さんが飛んできて捕まる。踏んで離したと思ったが、平地は兎も角登りの独走力不足だった…。体重調整に失敗したツケがここに露呈した。しかもピークまでは佐々木遼くんと中村俊介さんの2人が踏み続けて苦しんだが、頂上で後ろを見ると足が止まる。単独で踏んでいただけに、この登りが1番辛かった。

ロードレース男子部としてはシュガーさんのアシスト。だから協調してはもらえないロードレース男子部としてはシュガーさんのアシスト。だから協調してはもらえない photo:Makoto AYANO
皆の足が止まったので回復する。人数も20人以下になっていた。そしてここで自分の優勝は潰えたと思った。俺はこの局面をひっくり返す力がない。ニセコでも坂だけ頑張る集団は淡々と走る石井さんに追いつかなかった。分かっていたはずなのに。

最後の補給所、慶佐次の登りもペースを落としたくないから下から引いていく最後の補給所、慶佐次の登りもペースを落としたくないから下から引いていく photo:Makoto AYANO
最後の補給所、慶佐次の登り。ここもペースを落としたくなくて、下から引いていく。中腹で井上さんと佐藤さんが被せてきて交代するが、ペースが持たないのでまた先頭に出る。ここのピークで井上さんがチェーン落ちでいなくなり、「坂だけ上げ、下りはサイクリング」に拍車がかかる。

ここのピークで井上さんがチェーン落ちでいなくなってしまったここのピークで井上さんがチェーン落ちでいなくなってしまった photo:Makoto AYANO
自分も先ほどの単独追走が引き戻された時点で高岡さんの逃げ切りを感じ始める。クライマーの二人が坂は速い。当然坂で引き離さないと彼らにチャンスはない。ホントは下り平地もちゃんと回して走らないといけないが、坂が速いから休みたい。引いた人たちも足を止める。ついていきたい人もギリギリついていけているから足を止める。

インターバル地獄になってしまった。沖縄の地獄がここに顕現する。

安部に入り、海沿いからかカヌチャリゾートとメガソーラーの登りへ向かう。遼くんと俊介さん、城所さんが坂を上げ続ける。集団は15人前後まで減っていた。

大浦に入り、羽地に向かう大滝川沿いの最後の平坦路。もう誰も追うものはなく、平地はサイクリングと化した。そして羽地で最後の攻撃があるのは明確だった。

羽地の登りでは佐々木遼君が先にアタックを掛けた羽地の登りでは佐々木遼君が先にアタックを掛けた photo:Makoto AYANO
最後の登り羽地ダム。4人ぐらい先頭交代して向かっていく。羽地ダムの看板を越えると、遼くんと俊介さんの2人が並んで下からペースを上げだす。最後の勝負だ。ここで耐えねば表彰台もない。遼くんが最初に行った。城所くんが脚を攣り、横にはける、他の番手の人たちが離れだしたので、自分が詰めて3番手につき登っていく。中腹で俊介さんが先頭に変わる。

一つ目のトンネル前で変わろうか、アタックしようか悩んだが、ついていけばスプリントを水物にする博打をする必要はないかと思い抑える。トンネルを抜けた緩斜面、まだ続く登りで残っているメンバーは7人。中村俊介、佐々木遼、南広樹、池川辰哉、佐藤文彦、道堀裕介、北野。

前を引くのは俊介さん。番手に遼くん。3番手に自分。残りの4人の脚の残り具合を見たい。敢えて中切れして2人と離れるが誰も詰めない。これは限界なのか? 確かめるため、前二人に向けてブリッジする。それにはついてきて2つ目のトンネルで追いつき再び7人。まだ脚がある。

3番手につくが、中腹で中村俊介さんが先頭に出てきた3番手につくが、中腹で中村俊介さんが先頭に出てきた photo:Makoto AYANO
ピークを過ぎて少しアップダウンがある。そこで俊介さんが最後のペースアップを敢行する。先頭のまま2回腰を上げ踏み出す、しかし誰も離れない。羽地を遼くんから交代してからほぼ全引きして、尚この動きと意地には痺れた。

しかし下りに入るところでシュガーさんがアタック! ここはもう自分が追い、下りきりで追いつく。そこからゴールまではもう2kmしかない。残っているメンバーを見ると、ガタイの良さは明らかにシュガーさんだ。前回のオキナワ140kmもスプリントで勝っている。「スプリント警戒すべきはシュガーさん」と定め、その番手を取る。

追いついてきた俊介さんが、シュガーさんと2人が先頭並ぶ。牽制しながらゆっくりと最後のストレートに出る。残り1km看板、ゴールが見える。

先行した南選手のスプリントを追い込んでいく先行した南選手のスプリントを追い込んでいく photo:Makoto AYANO
スプリントコースを塞がれるのだけは避けたい。シュガーさんはコース右端を走り、左前には俊介さん。右側には排水溝の隙間があり、二人が間が開かなかったらそこから行くと決める。

さあ、誰が仕掛けるか? ただただ、待つ。800m、500m、400m…。ズイフトなら「ここで誰か行くな」と思うくらい冷静だった。

誰が行くのか神経を研ぎ澄ませる、観客の声は聞こえず、変速の音が聞こえ、動きの変化が見える。300mで南選手が早駆けして先頭に躍り出た! 池川選手、遼くん、俊介さん、佐藤さん、シュガーさんほぼ皆同じタイミングで踏み出す!

南選手を差し切り、2位に南選手を差し切り、2位に photo:Makoto AYANO
道が開けた。入れたギアは54x11t!低速からのスプリントだったから後輪がスリップしたのだ。
しまった!この失敗で出遅れる。200、150m......。まだ並べない。

しかし体全身をしならせ、ビックギアに力を伝えるうねるスプリントと南選手の高回転スプリントは100mで並び、50mでうねるスプリントが抜き去った。

「このスプリントを1番争いでしたかった」悔しさがこみあげ、叫んでいた「このスプリントを1番争いでしたかった」悔しさがこみあげ、叫んでいた photo:Makoto AYANO
ゴールして思ったのは「2番」であること。このスプリントを1番争いでしたかった…。悔しさが込み上げ、ハンドルを叩き「くそぉおおお!!」と叫んでいた。当初の通り作戦通りの展開、走りが出来た。高岡さんの逃げ切りを除けば…。

レースが終わって皆で反省会。皆が高岡さんの判断力と心の強さへの敬服を語っていたレースが終わって皆で反省会。皆が高岡さんの判断力と心の強さへの敬服を語っていた photo:Makoto AYANO
既に優勝者はゴールライン後に姿はなく、ブースで勝利者インタビューを受けていた。続々と帰ってくるライバルたちとゴール後称えあい、感想戦が始まる。反省や賞賛、記憶の訂正など話題は尽きず、でもみんなして高岡さんの判断力と心の強さへの敬服を語っていた。

市民210km表彰。次こそは真ん中に立ってやる、と決意した市民210km表彰。次こそは真ん中に立ってやる、と決意した photo:Makoto AYANO
回れ、詰めろ、引け、動けと、誰かに頼っているようでは弱い。影をも踏ませてくれず、走りで見せつけてくれた高岡さん。イナーメの先輩として出会ってから、その背中を追いかけ続けている。誰にも頼らずとも己で切り開ける力をつけて、来年は戻ってきたい。このキラキラ輝く宝物のようなオキナワへ。

レース翌日はBicicletta SHIDO沖縄の中尾峻さんに案内してもらい、屋我地島を眺望する大パノラマレース翌日はBicicletta SHIDO沖縄の中尾峻さんに案内してもらい、屋我地島を眺望する大パノラマ

text: 北野普識(イナーメ信濃山形 )

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