2010/08/04(水) - 01:00
かつてシクロワイアードでインプレを行なった、トレックのハイエンドモデル Madone6.9は、2人のインプレライダーが揃って「限りなく最高に近いパーフェクトレーサー」と大絶賛したことは記憶に新しい。このMadone4シリーズは、そんな世界最高と評されるトレックカーボンバイクの末弟としてラインナップされる。
アメリカ・ウィスコンシン州に本社を構えるトレックは、より高度なカーボンファイバー技術を蓄積・応用するため、早い段階から航空宇宙産業と提携して、自社のフレームやパーツの開発を行なってきた。そして1992年に発表されたOCLVカーボンが現在のトレック・カーボンフレームのベースとなっている。
フレーム素材全般でいうと、今でこそカーボンフレームがロードバイクの中心となっているが、かつてクロモリやアルミなどの金属素材がフレームのメインとして用いられていた頃から、各社がカーボンファイバーに移行していったのは2002、2003年頃が多かったことを考えると、トレックのカーボンに対する先見性が伺える。
トレックのカーボンバイク「Madone」シリーズの2010年モデルのラインナップは、上位モデルからMadone6、Madone5、Madone4と3つのシリーズに分類されている。フレームに使用されるカーボン素材はトレック独自の呼び方でグレード分けさていて、上からOCLVレッド、OCLVブラック、TCTカーボンという名称が与えられる。
Madoneシリーズの中でもエントリーグレードに位置するこのMadone4シリーズは、Madoneの性能をより身近に感じるため、カーボン素材やパーツを見直し、各部をオーソドックスに仕上げたモデルだ。フレームには、TCTカーボンを使用したフルカーボンフレームを採用。シートポストは上位モデルとは異なり、ノーマル構造のシートポストを採用する。
フロントフォークに採用されたボントレガー・レースライトは、ヘッドセットの下側ベアリングの直径を大きくすることでフロントエンドの剛性を上げ、ハードブレーキでの追従性を向上させた。同時に滑らかな操舵性を確保した上で、フォークのさらなる軽量化を実現しているという。
フレームにはハイエンドモデルのMadone6シリーズと同様にデュオトラップセンサーを内蔵する。ボントレガーを始めとして、ガーミン、パワータップ、SRMなど、共通規格であるANT+に対応したセンサーをフレーム内部に納める。センサーを内蔵とすることで、ケーブルやタイラップの煩雑さから解放され、シンプルでスマートになるためトラブルの予防はもちろん、空気抵抗の低減にも貢献する。
また、BB周辺は、ダイレクトなペダリングの実現を目指して、昨年モデルに比べてボトムブラケットの剛性が15%アップしている。
このようにエントリーグレードながら、ハイエンドモデルにも引けを取らないよう、トレックが長年ロードレースで培ってきたプロスペックのジオメトリーを盛り込み開発されたモデルということが言える。
ちなみにトレックはカーボンファイバーという素材に対して早い時期から可能性を見いだし、長い経験を積んだことが、現在のアドバンテージとなっているという。結果としてトレックの全てのカーボンバイクは、同社が誇る最高の商品クオリティの証として、生涯保証(条件付)が付与されている。
果たして世界最高のカーボンバイクの血統を受け継いだ Madone 4.7 は、どんな実力を示すのだろうか?早速、インプレッションをお届けしよう。
―インプレッション
「選んで間違いのない優等生」 鈴木祐一(Rise Ride)
第一印象はすごく優等生なバイク。トータルバランスに優れていて、扱いやすくて走りやすい。
すごく感覚的な言い方だが、全体のフィーリングがフワッと軽い感じを受ける。しっかりとパワーを受け止めてくれるけど、それが“ガッチリ受け止める”という感覚ではなくて、スッと推進力にして軽く前に走り出す感じ、とでもいうのか。
ブレーキを掛けたときにも同じような感覚で、“ガツン”というたくましさではなくて、スッと程よい感じで減速する。全体に渡ってフワッとした軽さを感じるフィーリングが印象的。
加速では伸びがあるし、振動吸収性も申し分ない。コーナリングも気持ちよく旋回できて、身体とバイクの一体感がすごく掴みやすかった。ハンドリングは直進安定性が高いイタリアンバイクに比べると、マドンの方が若干クイックで元気のよさが出ていて、個人的にはとても好きなハンドリングだ。
レースでも、ツーリングでも、どんなシーンでも幅広く対応できて、どんなレベルのライダーが乗っても満足できる性能が満たされていることだろう。これはおそらく車体全体の重心位置やジオメトリー、それに素材を含めた全ての設計がトータルで成功している結果だと思う。
なんだかお決まりのコメントばかりが並んでしまった。正直なところ、どんなシーンでもあまりにも優秀なので、コメントとしてはつまらないものばかりとなってしまうけれど、実は評価としては物凄く高い評価を与えていいバイクだ。具体的なコメントに困るインプレライダー泣かせのバイク。それが唯一の欠点かもしれない?
全てにおいてレベルが高く、しかもそれが主張することなく自然な性能として発揮される。そういう意味では、誰にでも素直に薦められ、選んで間違いのないバイクだと思う。
「全くクセのない教科書通りのバイク」 三上和志(サイクルハウス ミカミ)
のんびり走っていると乗り心地がよくて、「さあ頑張ろう」と思ったときには頑張った分だけ伸びやかさが増えていく、そうするとつい頑張りたくなる。疲れたと思ってペースを下げても、乗り心地がよく走りながら回復できるので、するとまた頑張りたくなる。どこをとっても、どんな乗り方でも全くクセのない教科書通りのバイクだと思う。
低速からの加速もいいし、40km/hくらいからさらに高速域への加速も申し分無く、どこからでもダンシングで安定したままスッーとスピードを上げられる。それに荒れた路面でも安心して加速できた。ブレーキの掛かりも良く、ハンドリングもニュートラルで乗りやすいので、コーナリングは気持ちよく、ついコーナーを飛ばしてしまった。
振動吸収性も高く、荒れた路面でスラロームをすることが、とても楽しく感じるくらいに軽快に切り返すことが可能で、前後のしなやかさのバランスが整っている感じを受けた。
ヘッドチューブが長めのため、上体をリラックスさせたポジションで走りやすく、上体が起きている分、膝を上げやすくなってなめらかなペダリングが可能だった。
以前試乗した最上位機種マドン6.9は「あらゆる性能を完璧に満たしたドリームバイク」だった。さすがにそれと比べると、どの性能も少しづつ抑え気味という印象ながら、取り立てて大きく劣る場所が見当たらないところは素晴らしい。
何のクセもないと言ってもいいくらいオールマイティなバイクなので、乗りこなすことを喜びとしている人には物足りなさを感じるともいえる優等生バイク。変な話だが、1台目にこんなに良いバイクに乗ってしまうと、将来的に2台目を選ぶことが難しくなるかもしれない。仮に2台目にもっと高価な他社のバイクを選んだとしても、もしそれがクセのある個性的なバイクだとしたら、このマドン4より気に入るのだろうか?そんな余計な心配をしてしまった。
ロードバイクに乗っていて、もし下りが怖いと感じる人は、こんな安定したバイクに乗ることで恐怖感がなくなると思う。あえてクセのある個性的なバイクに乗っている人にこそお薦めしたい。ロードレースからロングライド、それにポタリングまであらゆるシーンで満足できる高い性能を発揮する万能バイクだと言える。
トレック Madone 4.7
フレーム:TCTカーボン、デュオトラップコンパーチブル
フォーク:ボントレガー・レースライト w/E2アルミニウムステアラー
メインコンポ:シマノ・アルテグラ
ホイール:ボントレガー・レース
タイヤ:ボントレガー・レースライト 700×23C
ハンドル:ボントレガー・レースブレード VR 31.8mm
ステム:ボントレガー・レースライト 31.8mm
サドル:ボントレガー・インフォーム R2
カラー:ブルー×ホワイト×ブラック
サイズ:50、52、54、56、58cm
希望小売価格:360,000円(税込み) アルテグラ完成車
インプレライダーのプロフィール
鈴木 祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI
text&edit :Takashi.KAYABA
photo:Makoto.AYANO
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