2022/11/12(土) - 12:26
国内最大のワンデーロードレース、ツール・ド・おきなわ。国内最長距離を誇る市民レースは「ホビーレーサーの甲子園」と形容される高いステイタスをもち、激戦が繰り広げられる。最高の栄光を手にするのは果たして誰だ? 変更となった新コースの最新情報と走り方も解説する。
3年ぶりとなるだけに予測が難しいのが市民レース。それでも優勝候補筆頭はやはり6度の優勝経験をもつディフェンディングチャンピオン、2019年覇者・高岡亮寛(Roppong Express)の名前を真っ先に挙げないわけにはいかないだろう。
サイクルショップRX BIKEを立ち上げ、日本縦断などあらゆるバイクライドへの挑戦を続ける高岡は、今年グランフォンド世界選手権やアンバウンド・グラベル、グラベル世界選手権に出場するなど、オン/オフやジャンルを問わずアマチュアの世界タイトルを目指して果敢に走ってきた。しかし「最強ホビーレーサー」と称されるとおりルーツはロードレースにあり。2週間前の段階で、おきなわに向けて調整を重ねる高岡に状況と抱負を聞いた。
「前回、2019年の優勝が42歳。そこから3年が経ってしまいました。自分自身に衰えはまったく感じてはいないのですが、その重ねた3つの年齢の影響がどうでるかは自分でも分かりません。そして空白の間に知らない新たな選手も出てくるでしょう。ただし僕自身は例年やってきたのと同じように、今回も身体を完璧に仕上げていくつもりだし、最高の調子で臨みたいと思っています。勝利を狙う走りを楽しみたいと思います」。
そんな高岡がライバルになると挙げたのが6月に北海道で開催されたUCIグランフォンドワールドシリーズ「ニセコクラシック」で150kmクラスで全体のトップとなり優勝した石井祥平(アーティファクトレーシングチーム)だ。高岡も45-49歳クラスで優勝したが、各クラスが合流してからのレースで展開上も石井に負かされたかたちとなったため、今回のおきなわは事実上のリベンジマッチとなる。
2019年のおきなわで高岡とゴールスプリントで争い2位だった松木健治(VC VELOCE)は、2021年6月に大腿骨を骨折する大怪我を負ったが、順調にリハビリを重ね、ニセコクラシック150km・40-44歳クラスで3位となっている。「最後まで苦しめておかなければ、松木さんのほうがスプリント力はある」と高岡は警戒する。松木は次のように今の状況と抱負を語ってくれた。
松木「事故により大腿骨を複雑骨折し、厳しいリハビリが続きました。もう二度と走れないかもしれない状況からたくさんの方の支えのお陰でスタートラインに立つことができることに感謝しています。パフォーマンスを落としていると思われがちですが、出来る限りの準備をしてきたので過去最高の状態と言えます。今年は若手の実力ある選手の参加も多く、かなりのハイレベルな戦いが予測されます。その中で国内最強アマチュアレーサー決定戦を楽しみたいと思います。ゴール後に皆んなで気持ち良く讃え合えるレースが出来たら良いですね」。
高岡、松木に次いで2019年3位だった井上亮(Magellan Systems Japan)は「マグロミサイル」の異名をとり、「体力おばけ」と称される驚異的なフィジカルの持ち主。だが井上にも大怪我があり、不調・不振のシーズンが続いた。
井上「前回2019年大会以降、事故もあり、今年も長期に渡る体調不良など、一時は絶望的な状態でした。しかしその度に家族が支えてくれ復活することができ、3年ぶりのおきなわに戻ってくることができました。やりたい放題のクソ亭主をここまで支えてくれ、送り出してくれる家族に本当に感謝しています。再びこの地で、最高のライバル達と鎬を削る闘いができることを楽しみにしています」。
発表された203人のエントリーリストは、2019年よりも数を減らしながらもレベルとしては従来と変わらない濃い面子が揃い、先頭争いのレベルは何ら変わらないだろうことが窺える。かつて名を馳せながらも終わったかに思えたあの選手が、実はこのおきなわに賭けて復活しているとの噂話も耳に入る。
もちろん市民210kmだけでなく、おきなわ市民各クラスそれぞれが「ホビーレース甲子園」だ。3年ぶりの大会は、待ちに待った待望の3年でもある。熱い戦いに期待しよう。
2019年大会の市民レース各クラス優勝者
市民レース210km トップ5
1位 高岡亮寛(Roppong Express)5:19:32.730
2位 松木健治(VC 福岡)
3位 井上 亮(Magellan Systems Japan)
4位 持留叶汰郎(thcrew)
5位 森本誠(GOKISO)
各クラス優勝者(名前のみ)
市民レース140km オープン 佐藤文彦
市民レース140km マスターズ 山本裕昭
市民レース100km オープン 白石真悟
市民レース100km マスターズ 酒井洋輔
中学生レース50km 犬伏輝斗
市民レディースレース50km 平子結菜
市民レース50kmオープン 遠藤優
市民レース50kmフォーティー 佐藤俊雄
市民レース50kmフィフティー 寺崎嘉彦
市民レース50kmオーバー60 福島雄二
チャレンジレース50kmアンダー39 Cavitt Demarcus Joseph
チャレンジレース50kmフォーティー 佐久間克昭
チャレンジレース50kmオーバー50 富山健太
小学生レース10km 久貝一心
最後の勝負どころが変わった新コースを写真で解説
前回大会までに使用された羽地ダムの登りルートが土砂崩れのため通行止めになり、復旧が間に合わなかったため、急遽別ルートが設定された。対象レースはチャンピオンレース、市民レースの210kmコース、140kmコース、100kmコース。状況は変わらず、既報のとおりだが、ここでは改めてコースの変更箇所を前日の現地取材にてお伝えする。
新コースは距離で約6km短くなるが、番越(ばんこし)トンネルからさらに2つのトンネルを経ての山越えルートの上り区間はむしろ長く伸びることになる。東江原(あがりえばる)トンネルを越えて、頂上にあたる区間が緩斜面のアップダウンになるため明確な峠が存在しないが、その区間を経て名護市街への下りは急勾配のダウンヒルとなる。
ここでは前々日に撮影したコースの写真をもとにフィニッシュまでを順を追ってポイントを解説していこう。
前回大会までの番越トンネルを抜けた時点で右折していたのを、新コースでは直進することになる。そこからさらに2つのトンネルを抜けて、登りはしばらく続くことになる。ルートは直線的で、勾配は厳しくはなく、緩急もほぼ無い単調な登り。
連続する2つのトンネルを抜けた先のピークから一度下るが、その先には勢いをつけたままクリアできる、うねるような2つの短い登りが続く。脚が無くなってスピードに乗っていなければ踏み返す必要があるだろう。
複合コーナーにもなっている2つのうねりを越えれば、その先は視界が直線的に開ける300メートルほどの平坦区間が待つ。メリハリの無いアップダウンもここまでで、その先から名護市街へのダウンヒルが始まる。
ダウンヒルの序盤は見通しの良い緩いコーナーで、徐々に勾配を増していく。前方に名護市街が見通せる直線路から先が急勾配となり、ノーブレーキならかなりのスピードに達するはずだ。
左手にパノラマが開けるポイントからコーナーのアールが徐々にきつくなっていく。テクニカルでは無いが、道路の左右車線で滑り止め加工が違うため雨に濡れたウェット状態なら非常に注意を要するだろう。進行方向に対して左車線は滑りにくい加工がされた茶色い路面、右車線は通常の舗装だ。路面は良いが所々に道路の継ぎ目や陥没もある。
大きなアールで左に曲がる先の陸橋のコーナーから薄緑色の鉄橋がダウンヒルの最終区間(地元では逆方向の登りを「オリオン坂」と呼ぶ)。オリオンビール工場の脇を抜け、スーパーサンエーへと続く東江(あがりえ)で名護市街地へと出る。
信号のある交差点を2つ越えたら国道56号線へと出て、右折する。通常の交通から言えば逆走となる進行方向で、朝スタート地点となったホームストレートへ。名護市民会館前のフィニッシュラインまでは1.2km。50km各クラスとは逆方向に進んでフィニッシュすることになる。
最後の上り区間には明確な頂上が存在しないが、下り始めてからは急勾配となって一気に名護市街へと下ることになる。フィニッシュまでの平坦距離も短いため、下りを利用してレースを仕切り直すことは難しく、多くのクラスでは登り区間で勝負が決まることになりそうだ。
前日に試走を十分行った選手も、レース終盤の体力が限界に近い状態でのダウンヒルでは慎重な走りを心がけてほしい。新型コロナ対応で医療体制が逼迫する今の状況では、ケガの無いレース運営こそ大会存続のキーとなる。そういった事情も心に留めつつ、レースに臨んでほしい。
text&photo:Makoto AYANO
3年ぶりとなるだけに予測が難しいのが市民レース。それでも優勝候補筆頭はやはり6度の優勝経験をもつディフェンディングチャンピオン、2019年覇者・高岡亮寛(Roppong Express)の名前を真っ先に挙げないわけにはいかないだろう。
サイクルショップRX BIKEを立ち上げ、日本縦断などあらゆるバイクライドへの挑戦を続ける高岡は、今年グランフォンド世界選手権やアンバウンド・グラベル、グラベル世界選手権に出場するなど、オン/オフやジャンルを問わずアマチュアの世界タイトルを目指して果敢に走ってきた。しかし「最強ホビーレーサー」と称されるとおりルーツはロードレースにあり。2週間前の段階で、おきなわに向けて調整を重ねる高岡に状況と抱負を聞いた。
「前回、2019年の優勝が42歳。そこから3年が経ってしまいました。自分自身に衰えはまったく感じてはいないのですが、その重ねた3つの年齢の影響がどうでるかは自分でも分かりません。そして空白の間に知らない新たな選手も出てくるでしょう。ただし僕自身は例年やってきたのと同じように、今回も身体を完璧に仕上げていくつもりだし、最高の調子で臨みたいと思っています。勝利を狙う走りを楽しみたいと思います」。
そんな高岡がライバルになると挙げたのが6月に北海道で開催されたUCIグランフォンドワールドシリーズ「ニセコクラシック」で150kmクラスで全体のトップとなり優勝した石井祥平(アーティファクトレーシングチーム)だ。高岡も45-49歳クラスで優勝したが、各クラスが合流してからのレースで展開上も石井に負かされたかたちとなったため、今回のおきなわは事実上のリベンジマッチとなる。
2019年のおきなわで高岡とゴールスプリントで争い2位だった松木健治(VC VELOCE)は、2021年6月に大腿骨を骨折する大怪我を負ったが、順調にリハビリを重ね、ニセコクラシック150km・40-44歳クラスで3位となっている。「最後まで苦しめておかなければ、松木さんのほうがスプリント力はある」と高岡は警戒する。松木は次のように今の状況と抱負を語ってくれた。
松木「事故により大腿骨を複雑骨折し、厳しいリハビリが続きました。もう二度と走れないかもしれない状況からたくさんの方の支えのお陰でスタートラインに立つことができることに感謝しています。パフォーマンスを落としていると思われがちですが、出来る限りの準備をしてきたので過去最高の状態と言えます。今年は若手の実力ある選手の参加も多く、かなりのハイレベルな戦いが予測されます。その中で国内最強アマチュアレーサー決定戦を楽しみたいと思います。ゴール後に皆んなで気持ち良く讃え合えるレースが出来たら良いですね」。
高岡、松木に次いで2019年3位だった井上亮(Magellan Systems Japan)は「マグロミサイル」の異名をとり、「体力おばけ」と称される驚異的なフィジカルの持ち主。だが井上にも大怪我があり、不調・不振のシーズンが続いた。
井上「前回2019年大会以降、事故もあり、今年も長期に渡る体調不良など、一時は絶望的な状態でした。しかしその度に家族が支えてくれ復活することができ、3年ぶりのおきなわに戻ってくることができました。やりたい放題のクソ亭主をここまで支えてくれ、送り出してくれる家族に本当に感謝しています。再びこの地で、最高のライバル達と鎬を削る闘いができることを楽しみにしています」。
発表された203人のエントリーリストは、2019年よりも数を減らしながらもレベルとしては従来と変わらない濃い面子が揃い、先頭争いのレベルは何ら変わらないだろうことが窺える。かつて名を馳せながらも終わったかに思えたあの選手が、実はこのおきなわに賭けて復活しているとの噂話も耳に入る。
もちろん市民210kmだけでなく、おきなわ市民各クラスそれぞれが「ホビーレース甲子園」だ。3年ぶりの大会は、待ちに待った待望の3年でもある。熱い戦いに期待しよう。
2019年大会の市民レース各クラス優勝者
市民レース210km トップ5
1位 高岡亮寛(Roppong Express)5:19:32.730
2位 松木健治(VC 福岡)
3位 井上 亮(Magellan Systems Japan)
4位 持留叶汰郎(thcrew)
5位 森本誠(GOKISO)
各クラス優勝者(名前のみ)
市民レース140km オープン 佐藤文彦
市民レース140km マスターズ 山本裕昭
市民レース100km オープン 白石真悟
市民レース100km マスターズ 酒井洋輔
中学生レース50km 犬伏輝斗
市民レディースレース50km 平子結菜
市民レース50kmオープン 遠藤優
市民レース50kmフォーティー 佐藤俊雄
市民レース50kmフィフティー 寺崎嘉彦
市民レース50kmオーバー60 福島雄二
チャレンジレース50kmアンダー39 Cavitt Demarcus Joseph
チャレンジレース50kmフォーティー 佐久間克昭
チャレンジレース50kmオーバー50 富山健太
小学生レース10km 久貝一心
最後の勝負どころが変わった新コースを写真で解説
前回大会までに使用された羽地ダムの登りルートが土砂崩れのため通行止めになり、復旧が間に合わなかったため、急遽別ルートが設定された。対象レースはチャンピオンレース、市民レースの210kmコース、140kmコース、100kmコース。状況は変わらず、既報のとおりだが、ここでは改めてコースの変更箇所を前日の現地取材にてお伝えする。
新コースは距離で約6km短くなるが、番越(ばんこし)トンネルからさらに2つのトンネルを経ての山越えルートの上り区間はむしろ長く伸びることになる。東江原(あがりえばる)トンネルを越えて、頂上にあたる区間が緩斜面のアップダウンになるため明確な峠が存在しないが、その区間を経て名護市街への下りは急勾配のダウンヒルとなる。
ここでは前々日に撮影したコースの写真をもとにフィニッシュまでを順を追ってポイントを解説していこう。
前回大会までの番越トンネルを抜けた時点で右折していたのを、新コースでは直進することになる。そこからさらに2つのトンネルを抜けて、登りはしばらく続くことになる。ルートは直線的で、勾配は厳しくはなく、緩急もほぼ無い単調な登り。
連続する2つのトンネルを抜けた先のピークから一度下るが、その先には勢いをつけたままクリアできる、うねるような2つの短い登りが続く。脚が無くなってスピードに乗っていなければ踏み返す必要があるだろう。
複合コーナーにもなっている2つのうねりを越えれば、その先は視界が直線的に開ける300メートルほどの平坦区間が待つ。メリハリの無いアップダウンもここまでで、その先から名護市街へのダウンヒルが始まる。
ダウンヒルの序盤は見通しの良い緩いコーナーで、徐々に勾配を増していく。前方に名護市街が見通せる直線路から先が急勾配となり、ノーブレーキならかなりのスピードに達するはずだ。
左手にパノラマが開けるポイントからコーナーのアールが徐々にきつくなっていく。テクニカルでは無いが、道路の左右車線で滑り止め加工が違うため雨に濡れたウェット状態なら非常に注意を要するだろう。進行方向に対して左車線は滑りにくい加工がされた茶色い路面、右車線は通常の舗装だ。路面は良いが所々に道路の継ぎ目や陥没もある。
大きなアールで左に曲がる先の陸橋のコーナーから薄緑色の鉄橋がダウンヒルの最終区間(地元では逆方向の登りを「オリオン坂」と呼ぶ)。オリオンビール工場の脇を抜け、スーパーサンエーへと続く東江(あがりえ)で名護市街地へと出る。
信号のある交差点を2つ越えたら国道56号線へと出て、右折する。通常の交通から言えば逆走となる進行方向で、朝スタート地点となったホームストレートへ。名護市民会館前のフィニッシュラインまでは1.2km。50km各クラスとは逆方向に進んでフィニッシュすることになる。
最後の上り区間には明確な頂上が存在しないが、下り始めてからは急勾配となって一気に名護市街へと下ることになる。フィニッシュまでの平坦距離も短いため、下りを利用してレースを仕切り直すことは難しく、多くのクラスでは登り区間で勝負が決まることになりそうだ。
前日に試走を十分行った選手も、レース終盤の体力が限界に近い状態でのダウンヒルでは慎重な走りを心がけてほしい。新型コロナ対応で医療体制が逼迫する今の状況では、ケガの無いレース運営こそ大会存続のキーとなる。そういった事情も心に留めつつ、レースに臨んでほしい。
text&photo:Makoto AYANO
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