スイスの山岳を走るツール・ド・フランス第9ステージで、60kmを残して逃げグループから単騎飛び出したボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン)が勝利。不調を乗り越えた29歳が大きな復活勝利を掴み取った。



3連覇を見据えるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)3連覇を見据えるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos息子の出迎えを受けたクリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ)息子の出迎えを受けたクリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos

レマン湖を見下ろす最初の4級山岳を登るレマン湖を見下ろす最初の4級山岳を登る photo:Kei Tsuji
第9ステージ エーグル〜シャテル・レ・ポルト・デュ・ソレイユ第9ステージ エーグル〜シャテル・レ・ポルト・デュ・ソレイユ image:A.S.O.7月10日(日)第9ステージ エーグル〜シャテル・レ・ポルト・デュ・ソレイユ 193km7月10日(日)第9ステージ エーグル〜シャテル・レ・ポルト・デュ・ソレイユ 193km image:A.S.O.


デンマークでのグランデパールを皮切りとした第109回ツール・ド・フランスの第1週目がようやく最終日を迎えた。締めくくりとなるのはUCI(国際自転車競技連合)の本部があるスイス・エーグルを出発する193kmコース。フィニッシュ地点であるスキーリゾート地シャテル・レ・ポルト・デュ・ソレイユを除き、ほぼスイス国内を巡るステージとなる。

エーグルからレマン湖のほとりを少しだけかすめ、時計回りにに2級山岳と1級山岳クロワ峠(距離8.1km/平均7.6%)を越えてUCI本部に戻ってくる。そして17.8kmのダウンヒルをこなした選手たちは、1級山岳パ・ド・モルジャン(距離15.4km/平均6.1%)をクリアし、一度下ってからカテゴリーのついていない4kmの登り(平均約4%)でフィニッシュを迎える。

総合バトルの可能性も十分に含まれているが、基本的には登坂を得意とする逃げ屋向きのレイアウト。前哨戦ツール・ド・スイスで痛めた膝の回復が思うように進まなかったカスパー・アスグリーン(デンマーク、クイックステップ・アルファヴィニル)と、PCR検査で陽性となったギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)、そして「COVIDに関連しない病気」のためルーベン・ゲレイロ(ポルトガル、EFエデュケーション・イージーポスト)という3名を除く合計165名がスタートを切った。

1時間に及んだアタック合戦。ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)たちが積極的に仕掛ける1時間に及んだアタック合戦。ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)たちが積極的に仕掛ける photo:Makoto AYANO
追走グループに入り、逃げに合流したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)追走グループに入り、逃げに合流したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
クィン・シモンズ(アメリカ、トレック・セガフレード)のファーストアタックを皮切りにした抜け出し合戦は約50km、時間にして1時間も続いた。その末ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)を含む15名逃げが先行し、ここにマイヨヴェールを着るワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)を含む7名が時間を置いて合流。AG2Rシトロエンとコフィディス、ボーラ・ハンスグローエ、そしてイスラエル・プレミアテックが2名ずつを乗せた22名という大集団が先行を開始した。

逃げグループを形成した22名
ブランドン・マクナルティ(アメリカ、UAEチームエミレーツ)
ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)
ジョナタン・カストロビエホ(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)
ブノワ・コスヌフロワ(フランス、AG2Rシトロエン)
ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン)
パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)
ニルス・ポリッツ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)
カルロス・ベローナ(スペイン、モビスター)
シモン・ゲシュケ(ドイツ、コフィディス)
ヨン・イサギレ(スペイン、コフィディス)
ルイスレオン・サンチェス(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)
ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)
コービー・ホーセンス(ベルギー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)
ジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ、アスタナ・カザフスタン)
リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーション・イージーポスト)
ワレン・バルギル(フランス、アルケア・サムシック)
ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)
エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、トタルエネルジー)
ピエール・ラトゥール(フランス、トタルエネルジー)
オメル・ゴールドスタイン(イスラエル、イスラエル・プレミアテック)
ユーゴ・ウル(カナダ、イスラエル・プレミアテック)
フランク・ボナムール(フランス、B&Bホテルズ KTM)

「逃げることは僕の意思ではなかったけれど、僕たちのライバルが逃げに入っているのを見て飛び乗った」と言うファンアールトは、逃げ確定後すぐに訪れた中間スプリントポイントを先頭通過。メイン集団を率いるUAEチームエミレーツは、逃げグループ内の総合成績最上位、3分24秒遅れのリゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーション・イージーポスト)の持ちタイムに合わせて3分半のリードを与えた。

大きな逃げグループが3分半リードで先行大きな逃げグループが3分半リードで先行 photo:CorVos
笑顔を見せるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)笑顔を見せるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos
ここまで数度落車に苦しめられたウランが、バーチャルマイヨジョーヌを着たり着なかったり。山岳ランキング首位のマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト:山岳ポイント11点)が逃げに入れず、この日設定されている山岳ポイントが合計26ポイント。この日1つ目の2級山岳ではマイヨアポワ獲得を目論む複数名が競り合った末、ピエール・ラトゥール(フランス、トタルエネルジー)が最大5ポイントを獲得している。

続く1級山岳クロワ峠ではボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン)が抜け出したものの、一人追走したシモン・ゲシュケ(ドイツ、コフィディス)が先頭通過して10ポイントを獲得。手前の2級で獲得していた3ポイントと合わせて暫定ランキング首位浮上を叶えている。

そんなゲシュケが元いたグループに戻ることを選択した一方、ユンゲルスはそのままアタックを継続。「最後の登り勝負では有力勢に敵わないので、チャンスを掴むならフィニッシュのずっと手前で仕掛ける必要があった」と言うユンゲルスは、1級の下りを飛ばしに飛ばし(最高速度96.8km/h)、平坦路に出てからエーグルに移転して20周年を迎えたUCI本部前を通過。追走グループに2分、メイン集団に3分20秒というリードを得て、最後の1級山岳パ・ド・モルジャン(距離15.4km/平均6.1%)へと入った。

独走でフィニッシュを目指すボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン)独走でフィニッシュを目指すボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン) photo:Makoto AYANO
独走で1級山岳パ・ド・モルジャンを駆け上がるボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン)独走で1級山岳パ・ド・モルジャンを駆け上がるボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン) photo:Makoto AYANO
1級山岳パ・ド・モルジャンでユンゲルスを追いかけるティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)1級山岳パ・ド・モルジャンでユンゲルスを追いかけるティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) photo:CorVos
UAEチームエミレーツを先頭に1級山岳パ・ド・モルジャンを駆け上がるUAEチームエミレーツを先頭に1級山岳パ・ド・モルジャンを駆け上がる photo:Kei Tsuji
チームカーを運転するバンサン・ラブニュGMの声を聞きながら、沿道で週末を過ごすファンの大歓声を浴びてヒルクライム。ペースの上がらない追走グループからはティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)が飛び出し、じりじりと差を詰めて20秒差まで迫ったものの、頂上までに追いつくことは叶わない。遅れて追走したジョナタン・カストロビエホ(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)とカルロス・ベローナ(スペイン、モビスター)はこの登坂でピノにも届かなかった。

2018年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ覇者ユンゲルスは、短いダウンヒルでピノとの差を30秒にまで広げ、フィニッシュを目指す平均約4%の勾配を駆け上がる。登坂力に長けるピノも序盤の急勾配区間を味方にできず、逆に追走2人に追い抜かれてしまう。リードを守り切ったユンゲルスがフィニッシュラインで両手を大きく広げた。

60.5kmに渡る逃げ切りを達成したボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン)60.5kmに渡る逃げ切りを達成したボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン) photo:CorVos
メイン集団はタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)とヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)が抜け出してフィニッシュメイン集団はタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)とヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)が抜け出してフィニッシュ photo:CorVos
報道陣やスタッフに囲まれるボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン)報道陣やスタッフに囲まれるボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン) photo:CorVos
ルクセンブルク国内選手権を除けば、2019年のクールネ〜ブリュッセル〜クールネ以来、ワールドツアーレースでは2018年リエージュ以降実に4年79日ぶりの勝利を掴んだユンゲルスは「ダウンヒルでリードを稼げるので脚を持たせられると思っていたけれど、それでも残り1kmは永遠と思うほどキツかった。全てのリスクを冒して掴んだ勝利だ」と喜ぶ。

独走力に長け、強豪クラシックライダーの一人に数えられていたユンゲルス。2016年にはジロ・デ・イタリアで総合6位、2018年ツールで総合11位に入るなどオールラウンダーとしての成長にも期待されていたが、2019年以降成績を伸ばせず、パンデミックも重なって輝きを失ってしまう。一時は引退も考えるほどの不調に悩まされたというが、その原因が脚への血流が物理的に阻害される症状だということが発覚し、東京五輪参加を見送って手術を受けたことで回復。苦しい時期を耐え続けたユンゲルスが、自身初のツールステージ優勝というこれ以上ない復活勝利を挙げた。

「これが僕のレーススタイルであり、これが僕の勝ち方だ。リエージュの勝利を思い出させてくれるよ。ついにここ数年間の、特に昨年の苦しい時期から抜け出すことができた。僕のことをずっと信じてくれたチームと、周りの人たちにただただ感謝したい。本当に素晴らしい結果になった」と、60.5kmに及ぶ独走勝利を掴んだ29歳は語っている。

自身初のツールステージ優勝を挙げたボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン)自身初のツールステージ優勝を挙げたボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン) photo:CorVos
マイヨアポワに袖を通したシモン・ゲシュケ(ドイツ、コフィディス)マイヨアポワに袖を通したシモン・ゲシュケ(ドイツ、コフィディス) photo:CorVos
50秒後方まで迫っていたメイン集団は、爆発的なスプリントを披露したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)を先頭にフィニッシュ。総合2位ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)はタイム差無しでフィニッシュしたものの、ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)ら3番手以降は3秒差でフィニッシュ。なおマイヨアポワはユンゲルス(18ポイント)ではなく、地道なポイント獲得が実ったゲシュケ(19ポイント)が袖を通すことになった。

ツール・ド・フランス2022第9ステージ結果
1位 ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン) 4:46:39
2位 ジョナタン・カストロビエホ(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +0:22
3位 カルロス・ベローナ(スペイン、モビスター) +0:26
4位 ティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ) +0:40
5位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) +0:49
6位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)
7位 ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +0:52
8位 アダム・イェーツ(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)
9位 エンリク・マス(スペイン、モビスター)
10位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)
14位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 33:43:44
2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) +0:39
3位 ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +1:17
4位 アダム・イェーツ(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +1:25
5位 ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) +1:38
6位 ロマン・バルデ(フランス、チームDSM) +1:39
7位 トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +1:46
8位 エンリク・マス(スペイン、モビスター) +1:50
9位 ニールソン・ポーレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) +1:55
10位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック) +2:13
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 284pts
2位 ファビオ・ヤコブセン(オランダ、クイックステップ・アルファヴィニル) 149pts
3位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 139pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 シモン・ゲシュケ(ドイツ、コフィディス) 19pts
2位 ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、AG2Rシトロエン) 18pts
3位 ティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ) 14pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 33:43:44
2位 トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +1:46
3位 ブランドン・マクナルティ(アメリカ、UAEチームエミレーツ) +7:25
チーム総合成績
1位 イネオス・グレナディアーズ 1:14:46
2位 ユンボ・ヴィスマ +1:04
3位 EFエデュケーション・イージーポスト +9:55
text:So Isobe
photo:Makoto AYANO, Kei Tsuji, CorVos

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