3年ぶりに登場した24%の激坂の未舗装路の先のフィニッシュ。シュペールプランシュ・デ・ベルフィーユを最速で駆け上がったのは2日連続ステージ勝利のポガチャル。好調のヴィンゲゴー、そして4人をトップ10に入れたイネオス・グレナディアース。悪路の激坂フィニッシュと思えないスピードのバトルが今日も続いた。



ここからラ・シュペールプランシュ・デ・ベルフィーユのグラベル区間へここからラ・シュペールプランシュ・デ・ベルフィーユのグラベル区間へ photo:Makoto AYANO
近年初めてツールのステージに組み込まれて以来5回めの登場となるラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ。周囲に何も無いヴォージュ山脈の田舎のスキーリゾートにフィニッシュする急勾配の道はよっぽど主催者ASOのお気に入りとなったのか、頻繁に登場するようになった。山頂の向こうに道が抜けていないため観客も大会スタッフもメディアも一部関係車両を除いてすべて麓からの乗り合いシャトルバスで山頂入りする。

プレスも観客もラ・シュペールプランシュ・デ・ベルフィーユへはシャトルバスで向かうプレスも観客もラ・シュペールプランシュ・デ・ベルフィーユへはシャトルバスで向かう photo:Makoto AYANOふかふかの白砂はトラクションがかからないふかふかの白砂はトラクションがかからない photo:Makoto AYANO


言うまでもなく2年前の2020年大会の第20ステージでログリッチが21歳のポガチャルにマイヨジョーヌを奪われた場所であり、その先の未舗装路区間を含む、呼称に”シュペール”が加わる頂上までのフルコースは3年前の2019年ぶり2回めの登場だ。その時はディラン・トゥーンス(バーレーン)がジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)とともに麓からの逃げ切りを成功させてトゥーンスが勝利している。

山頂付近の盛り上がりを収録するTVクルー山頂付近の盛り上がりを収録するTVクルー photo:Makoto AYANO「王」ティボー・ピノを応援する地元フランス人ファン「王」ティボー・ピノを応援する地元フランス人ファン photo:Makoto AYANO


距離6.94 km, 平均勾配8.82 %、標高差612mという数字以上に、24%の急勾配区間を含むこと、そして「シュペール」区間には未舗装を含むことで難易度を大きく上げる。3年前のステージ優勝はトゥーンスだったが、その時の麓からの最速タイムはマイヨジョーヌのジュリアン・アラフィリップを追い込んだゲラント・トーマスの20分2秒。

未舗装区間が始まってすぐの白砂のグラベルはトラクションがかかりにくい未舗装区間が始まってすぐの白砂のグラベルはトラクションがかかりにくい photo:Makoto AYANO
一旦平坦になった舗装路(シュペールでない際のフィニッシュ地点)の先の未舗装区間は、まずふかふかの白い砂で、トラクションの効きにくいグラベルで始まる。その先の24%区間からフィニッシュまでは簡易的な舗装で、少ないタールで固められた、表面がもろいザラザラの路面。この激坂のグラベルを(スリップして)登ることができないためチームカーの山頂までの随行は認められず、シマノのニュートラルカーとモトのみが最終盤をサポートするが、白砂区間と簡易舗装路のつなぎ区間にはメカニックの待機スペースが設けられ、替えホイールやスペアバイクを用意したスタッフたちが並んで選手を待った。

グラベルの中間地点でメカニックサポートのため待機するスタッフグラベルの中間地点でメカニックサポートのため待機するスタッフ photo:Makoto AYANO
逃げ切りまであとわずか100m。身体をよじるように最後の急勾配区間をにじり登るレナード・ケムナ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)を猛烈なスピードで追い抜いていったのはヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)とタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)だった。誰もがハンドルにしがみつくようなライディングになるこの激坂を、今までに見たことが無いスピードで駆け上がっていった2人。フィニッシュ直前にもう一発の加速でポガチャルがヴィンゲゴーを下した。容赦無いステージ2連勝。

身体をよじるように最後の急勾配区間をにじり登るレナード・ケムナ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)身体をよじるように最後の急勾配区間をにじり登るレナード・ケムナ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Makoto AYANO
アタックしたヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)と追走するタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)アタックしたヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)と追走するタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO
昨日、予定外のステージ優勝を飾ってマイヨジョーヌを手にしたことで、今日のポガチャルとUAEエミレーツは逃げを容認するのだろうというレース前の憶測があった。しかしここはポガチャルにとってスペシャルな場所。ここで勝利することは当初からの予定にあったようだ。

24%の激坂を登るタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)24%の激坂を登るタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO
ポガチャルは言う。「僕の仲間は1日中仕事をしてくれたんだ。フィニッシュラインまで全力で行け」と言い聞かせて踏み込んだ。また山頂にはフィアンセが、麓には家族が来てくれていたので力になった。実は今日、癌研究のための基金を立ち上げたんだ。そのために今日限定のスペシャルシューズを履いて臨んだ。だからこのコースが決まった時からここでの勝利を狙っていた。そんな日にラ・プランシュ・デ・ベルフィーユで勝利出来たなんて本当に嬉しいよ」。

ケムナ、ヴィンゲゴー、ポガチャルの激しいバトルに固唾をのむ観客たちケムナ、ヴィンゲゴー、ポガチャルの激しいバトルに固唾をのむ観客たち photo:Makoto AYANO
最近、パートナーであるフィアンセの女子自転車選手ウルスカ・ジガードさんのお母さんを癌で亡くしている。ポガチャルの足元を飾ったのはカラフルな柄に染められたシューズだった。表彰式でもそのシューズを掲げてアピールしたポガチャル。勝利者インタビューでは涙ぐみ、いつにないシリアスな表情をのぞかせた。ポガチャルはSNSで基金へのサポートを呼びかけている。

癌研究のための基金設立を示す特別なシューズをアピールするタディ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)癌研究のための基金設立を示す特別なシューズをアピールするタディ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO
麓から19分40秒というタイムはトーマスのそれまでの記録を22秒更新する驚異的なもの。しかし同タイムを記録したヴィンゲゴーも同様に驚きの好調ぶりだ。「ワクワクするほど登りで脚に力を感じていた」と言うヴィンゲゴー。急勾配区間で見せた鋭い加速に、本来ならこの山は30〜40分ほどの上りが得意なヴィンゲゴーの脚質的には完全に適しているとは言えず、それをみても調子が非常に良いことが裏付けられる。

ヴィンゲゴーを追い抜き勝利したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)ヴィンゲゴーを追い抜き勝利したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos
「最後には反応できずに抜かれたけど、自分がいい脚をしていることは分かった。もっと長い登りならもっといいと思う」と、ヴィンゲゴーも自信を覗かせる。そしてユンボ・ヴィスマにとっては3位フィニッシュしたプリモシュ・ログリッチの好調も確認できた。

ステージ3位でフィニッシュするプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)ステージ3位でフィニッシュするプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
しかし手放しで好調とは言いがたく、「シッティングでペダルを回すと、一踏み一踏みごとにナイフで背中を刺されるような痛みが走る。目下の目標はステージを乗り越えながら回復することだ」と話すログリッチ。 第5ステージの落車で負った怪我を克服しての今日の走りだ。昨年は落車の後も走り続けたが、東京五輪とブエルタ・ア・エスパーニャのために大事をとってリタイアしているログリッチ。

「一昨日の落車で痛めた怪我は言い訳にはならないし、決して諦めるなんてことはしない。何が起ころうと僕は戦い続ける。回復の度合いは日に日に良くなっていくだろう。最後の数百メートルは非常に厳しかったものの、何とか山頂までたどり着くことができた。チームとして良い走りができたよ」と、今年は棄権するつもりは無いようだ。

イネオス・グレナディアーズがメイン集団を牽引。ゲラント・トーマスが好調を見せたイネオス・グレナディアーズがメイン集団を牽引。ゲラント・トーマスが好調を見せた photo:CorVos
「2019年と似ていたが、この位置で登れてハッピーだ。最後の数分間は自分が地獄に脚を踏み入れたかと思うほど辛かった。」と言うゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)は、2019年にここで見せたのと同様の調子の良い走りを見せた。

イネオス・グレナディアーズの4人の好調ぶりにも注目だ。4位フィニッシュで1分10秒遅れの総合3位に浮上したゲラント・トーマス以下、総合トップ10に4人もの選手がランクインしている。総合4位アダム・イェーツ、7位トーマス・ピドコック、10位ダニエル・マルティネスと、強い選手が揃っている。

総合7位につけたトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)総合7位につけたトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:Makoto AYANO
トーマスは言う。「僕らは全員揃っているのが強みだ。このツールで最重要な山岳はまだ先だが、僕らは遅れていない。次の来る2週間で”数の優位”を使える。ただ代わる代わるアタックできるだけでなく。僕とイエーツ、マルティネスの関係性は流動的だ。一見(協力し合わず)自己中心的に聞こえるかもしれないが、時にはイェーツ、時にはマルティネスで勝負をする。僕ら3人に加え、トムも総合上位につけている」。

総合10位につけたダニエル・マルティネス(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)総合10位につけたダニエル・マルティネス(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) photo:Makoto AYANO
トーマスは続くステージでチームの「数の優位」を使いたいと考えている。 「ポガチャルは強すぎる。パヴェも乗れて、登りスプリントでも、(中集団)スプリントでも勝てる。彼は何でもできる。強いアシストのマイカが居て、登れるベネットが居る。でも他の選手は苦しんでいた。もちろん倒すべき相手はポガチャルだけじゃない。ユンボ・ヴィスマも強い。でも僕らはここにも、あそこにも、そこらじゅうにいる。これから所々で僕らの”数の優位”を使えればいい」。

遅れてやってきたチームメイトと勝利を喜ぶタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)遅れてやってきたチームメイトと勝利を喜ぶタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos
総合4位アダム・イェーツは言う。「長い3週間になる。総合上位を狙う3人でで可能な限り闘い、最終週を迎えたい。ポグ(ポガチャル)とログ(ログリッチ)、ヴィンゲゴーの3人は本当に強くて、それぞれ一対一の勝負だと負かすのは難しい。3人してかかれば、何かできると思っているよ」。

1分39秒の遅れを喫したアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、ボーラ・ハンスグローエ)1分39秒の遅れを喫したアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Makoto AYANO
総合争いの観点ではもっともタイムを失ったのは総合7位につけていたアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、ボーラ・ハンスグローエ)だ。ボーラのエースは第6ステージで落車して怪我をしていた。体中に包帯を巻き、背中の痛みを押して走ったが登りで耐えきれずに遅れてしまい、1分39秒の遅れを喫し、総合ではポガチャルに対して2分41秒のビハインドに。

「とても悪かった。背中の腰に近い筋肉に痛みがあり、最終盤はとても苦しんだ。自分のリズムを崩さないよう、遅れを最小限に留めるように走ったけど、今日が自分のバッドデーだった。回復につとめて、再びいい走りをしたい」と話す。

ルイス・メインチェス(南アフリカ、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)はフィニッシュまでのラスト5〜60mを自転車を押して掛け足で走ったルイス・メインチェス(南アフリカ、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)はフィニッシュまでのラスト5〜60mを自転車を押して掛け足で走った photo:Makoto AYANO
ルイス・メインチェス(南アフリカ、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)はフィニッシュまでのラスト5〜60mを自転車を押して掛け足で走ることに。幸い、自転車に乗ってもがきながら走る選手たちとあまりスピードは変わらず、タイム差は大きくつかなかった。原因は変速機の不調によるチェーンの噛み込みだったようだ。

「僕らアフリカ人はランニングが好き。とてもハードで、シューズが脱げそうになったよ。今日は脚の調子がスーパーだった。ベストクライマーたちの中に居たし、今後のツールが約束されたようなもので楽しみだ」とメインチェスは言う。アフリカ人とは、もちろんモンヴァントゥーで落車して自転車無しで走ったクリス・フルーム(ケニア育ち)の珍事にかけている。

誰よりも熱い声援を浴びて山頂を目指すティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ)誰よりも熱い声援を浴びて山頂を目指すティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ) photo:Makoto AYANO
この日の地元ヴォージュ地方出身のティボー・ピノは、もっとも観客の期待を集めた一人。序盤のアタック合戦が始まったときには何度か合流を試みたが、失敗。最後の頂上へは遅れて登ってきた。沿道の観客からはそれでも他の選手を凌ぐ熱量の応援の声がかけられた。

ピノは言う。「ツール開幕1週間前に病気になったことが調子を狂わせた。先頭争いをするには95%では足りず、100%である必要があった。でもここから先には自信がある。ゴデュはやり遂げたし、このツールは彼のために走る。僕は他のチャンスを探すよ」。


text&photo:Makoto.AYANO in France

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