2022/07/07(木) - 18:05
ツール・ド・フランスに組み込まれたミニパリ〜ルーベ。しかしその破壊力は予想を遥かに超えて大きかった。落車して肩を脱臼、遅れたログリッチは今年もマイヨジョーヌに手が届かなくなった。
北のクラシックの舞台を走る2日目はミニ・パリ〜ルーベ。本家よりも距離が短く、難易度も低いものの、紛れもなくパリ〜ルーベで使われるパヴェへと突入する。スタート地点のリールはベルギーと国境を接するオー=ド=フランス地域圏の首府、ノール県の県庁所在地。パヴェの集中したエリアに近く、フランドル地方の入り口にあたる都市。
各チームがバイクを石畳仕様に変え準備を進めていた。トタルエネルジーはスペシャライズドのバイクのなかでフロントフォークのコラム(ステム下)に2cmストロークをもつサスペンションを仕込んだモデル「ROUBAIX」に乗り換える。そしてペテル・サガンのみいつもの機械式の変速レバーを用いているのが面白い。サガンは2018年パリ〜ルーベで勝利したときもその仕様だった。
同じスペシャライズドがバイクスポンサーのクイックステップ・アルファヴィニルと ボーラ・ハンスグローエは普段乗るTARMACで準備。ホイールを石畳仕様に交換し、バーテープを厚めのものに交換した程度。同じバイクブランドに乗るのにチームそれぞれで選択が違うのは興味深い。
すべてのチームがタイヤを太くしていた。目立つのはチューブレスタイヤの台頭で、ますます採用シェアを上げている。タイヤを太くでき、空気量が増やせるため4BAR前後という低い空気圧で運用できるためだ。シーラントを使用するためパンクにも強い(リム打ちパンクに対してはチューブラーより弱い)。
各チームもっとも太いタイヤで32C(クイックステップ、ボーラ、トタルのスペシャライズドチーム。ただし数値表記無し)、多数は30Cをチョイス。普段12スピードを使用するチームでも北のクラシックで使うバイクは春にセットアップされた旧モデルを使うため、この日のみ11スピードを使うチームがある。数日前からシマノのニュートラルスタッフがチームを巡回して聞き取りを行っていたのはそのためだ。
パヴェの距離が短いためか厚手のバーテープを巻く選手は半数程度。ギア段数が増え、スプロケット側が大きくできるようになたためフロントチェーンリング交換をする選手はほとんど居なくなったようだ。
「ミニ」あるいは「スモール」パリ〜ルーベ。本家と違うのはグランツールに組み込まれたレースであること。総合争いの選手を護り、上位でフィニッシュさせることがチームのミッションになり、まだ序盤だけにどのチームもステージ勝利だけを目指せないこと。
優勝候補に挙げられるスペシャリストもこの日はエースを護るアシストとして頼られる存在。マイヨジョーヌを着るワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)もこの日はプリモシュ・ログリッチとヨナス・ヴィンゲゴーの2人のエースを護ることが優先。注目度の高いマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)は総合を狙う選手がチームに居ないこともあり自由に動けるが、「ジロ・デ・イタリア以降いまだに好調を探している」と話した。
北西の風が吹き、湿り気がない完全に乾いたパヴェに砂塵が舞う。ステージ優勝に掛けた6名の逃げが決まる中、ユンボ・ヴィスマはトラブルに見舞われ続ける一日となった。
落車からの追走とチームメイトのアシストに追われ、後半追い上げた結果、逃げたニールソン・ポーレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)から13秒のマージンでマイヨジョーヌを守ることになったファンアールト。タイミングの悪いパンクで3回のバイク交換をすることになったヴィンゲゴーはタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)に対して13秒遅れにとどめ、希望をつないだ。しかしフィニッシュまで30kmを残したセクター5のパヴェに入る手前で置きた落車から復帰することができなかったログリッチはポガチャルに対して2分17秒の遅れを喫し、総合優勝が大きく遠ざかってしまうことに。
ユンボ・ヴィスマのトラブルの皮切りはパヴェに入る前のなんでもないところで落車したファンアールトだった。すでに中切れした後方集団に取り残されていた時に起こした落車。そこからの追走を強いられたワウトは、本来ずっと一緒に居なければいけないヴィンゲゴーにヘルプの必要がでたとき、そのアシストができなかった。
危険物との衝突を避けるためにコーナーに積まれた藁を入れた緩衝材に引っかかったことで発生した落車に巻き込まれたログリッチ。転倒のショックで肩を脱臼してしまうが、それでも自分で外れた肩を戻したという。
「幸運なことに僕はまだここにいるし、走り続けることができる。よく見えなかったけど緩衝材にオートバイが引っかかって転倒して道の真ん中に投げ出されたんだろう。それで落車が起きたんだと思う。路上では肩を入れられず、観客の椅子を借りて座って、こうして(両腕を膝にかけて引っぱって)肩を戻したんだ。僕はこうしたときの処置は分かっているんだ」。
ティシュ・ベノートとネイサン・ファンホーイドンクらにアシストされて走り続けたログリッチだったが、トップから2分59秒遅れでフィニッシュ。総合成績ではポガチャルに対し2分8秒遅れと大きく落とすことに。
2年前のラ・プランシュデベルフィーユでの最終個人TTステージでポガチャルに逆転されて総合優勝目前で2位に転落。昨年はOpi Omi看板の観客が引き起こした落車にチームごと巻き込まれた後、集団から押し出されて再び落車して全身を負傷、その後リタイヤ。どこまでも運の無いログリッチ。マイヨジョーヌから見放されたような年がまたしても続くことになった。
残り36km地点でパンクしたヴィンゲゴーは3回もバイク交換をした。まず乗り換えたチームメイトのバイクは身長193cmのネイサン・ファンホーイドンクのものでサドルが高すぎて座れず、トップチューブ上で漕ぐという状態に。次にサイズが近いステフェン・クライスヴァイクのバイクに乗り換えたところで、チームカーが到着し、自身のスペアバイクに乗り換えることができた。事なきを得たが、慌てふためいたユンボ・ヴィスマ。
ヴィンゲゴーは言う「誰か他の選手に乗り上げたとき、チェーンがおかしくなって噛み込んだんだ。あとになって考えるとストップしてチェーンを直せばよかった。でもそれが自転車レース。ストレスでいっぱいだった。なんとか15秒遅れに留めたことを喜ぶべきだと思う。すべってが煙になって消えたとは思っていない。タイムを取り返すチャンスはまだあると思う」。
ユンボ・ヴィスマのニェールマン監督は言う「こんなにクラッシュやトラブルがあるなんて思ってもみなかった。セラヴィ(これが人生か)、しょっぱなにワウト、本当に悪いタイミングでヨナスのバイク交換、そのすぐ後にプリモシュがクラッシュした。不運が多すぎた。コース試走は4回は行ったんだ。それでも運は必要で、それが今日の我々には無かった。でもまだここに留まって闘い続けるよ」。
ファンアールトは言う「僕らが望んだ日じゃなかった。昨日は集団の前で闘ったのに、今日は後ろで闘った。皆昨日のほうが好きなはずだ。でも今日みたいな日も克服しないといけない。とくにヨナスのためには総合タイムの被害を最小限に抑えるために全員が全力を尽くした。ダメージは最小限に抑えた。追走した皆を誇りに思う。闘い続けるよ」
ログリッチとヴィンゲゴー、総合狙いの2人のエースが居たユンボ・ヴィスマだが、これからはヴィンゲゴーがエースになる。山岳ステージが多いこの後のステージでログリッチがタイム差を取り返すことは可能だが、ログリッチがアシストに徹すればヴィンゲゴーが表彰台の真ん中を狙える確率は上がる。
ベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン)も総合争い勢のなかの敗者。パヴェ走行に心配のあった山岳スペシャリストは序盤のパヴェでトラブルで遅れてしまい、チームメイトとともに追走するが叶わず、4分12秒遅れでフィニッシュ。昨年総合4位のオコーナーだが、今年は表彰台に登るという目標が大きく遠ざかった。
クラシックの経験が浅いUAEエミレーツのチームメイトがトラブルで居なくなるなか、アグレッシブな走りを披露して飛ばし続けたタデイ・ポガチャル。すでに春のロンド・ファン・フラーンデレンで「あわや優勝」の走りでパヴェをこなしていたが、改めて路面を問わないテクニックと余裕のパワー、オールマイティーさを見せつけた。総合4位につけ、総合上位争いのライバルたちからは抜きん出た位置に。
「本当にいい一日だった。パヴェの上で調子がよく感じたし、なんといっても不運もまったっく無かった。(コペンハーゲンでの)個人TTで総合争いでもっとも良いタイムだったことと今日のルーベステージでより一層自信が持てた。山岳に入るのが待ちきれない」とポガチャル。
パヴェについて聞かれると「本当に厳しい一日だった。序盤はストレスがいっぱいで、(追走した)後半は本当にタフだった。一日中ペダルにパワーを掛け続けた。パヴェは好きだけど、ここまで乾いたパヴェは今までとまったく違った経験だった。いちばん好きなパヴェはシャンゼリゼだけど」と、すでにパリを匂わすユーモアで応えた。
text&photo:Makoto.AYANO in France
北のクラシックの舞台を走る2日目はミニ・パリ〜ルーベ。本家よりも距離が短く、難易度も低いものの、紛れもなくパリ〜ルーベで使われるパヴェへと突入する。スタート地点のリールはベルギーと国境を接するオー=ド=フランス地域圏の首府、ノール県の県庁所在地。パヴェの集中したエリアに近く、フランドル地方の入り口にあたる都市。
各チームがバイクを石畳仕様に変え準備を進めていた。トタルエネルジーはスペシャライズドのバイクのなかでフロントフォークのコラム(ステム下)に2cmストロークをもつサスペンションを仕込んだモデル「ROUBAIX」に乗り換える。そしてペテル・サガンのみいつもの機械式の変速レバーを用いているのが面白い。サガンは2018年パリ〜ルーベで勝利したときもその仕様だった。
同じスペシャライズドがバイクスポンサーのクイックステップ・アルファヴィニルと ボーラ・ハンスグローエは普段乗るTARMACで準備。ホイールを石畳仕様に交換し、バーテープを厚めのものに交換した程度。同じバイクブランドに乗るのにチームそれぞれで選択が違うのは興味深い。
すべてのチームがタイヤを太くしていた。目立つのはチューブレスタイヤの台頭で、ますます採用シェアを上げている。タイヤを太くでき、空気量が増やせるため4BAR前後という低い空気圧で運用できるためだ。シーラントを使用するためパンクにも強い(リム打ちパンクに対してはチューブラーより弱い)。
各チームもっとも太いタイヤで32C(クイックステップ、ボーラ、トタルのスペシャライズドチーム。ただし数値表記無し)、多数は30Cをチョイス。普段12スピードを使用するチームでも北のクラシックで使うバイクは春にセットアップされた旧モデルを使うため、この日のみ11スピードを使うチームがある。数日前からシマノのニュートラルスタッフがチームを巡回して聞き取りを行っていたのはそのためだ。
パヴェの距離が短いためか厚手のバーテープを巻く選手は半数程度。ギア段数が増え、スプロケット側が大きくできるようになたためフロントチェーンリング交換をする選手はほとんど居なくなったようだ。
「ミニ」あるいは「スモール」パリ〜ルーベ。本家と違うのはグランツールに組み込まれたレースであること。総合争いの選手を護り、上位でフィニッシュさせることがチームのミッションになり、まだ序盤だけにどのチームもステージ勝利だけを目指せないこと。
優勝候補に挙げられるスペシャリストもこの日はエースを護るアシストとして頼られる存在。マイヨジョーヌを着るワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)もこの日はプリモシュ・ログリッチとヨナス・ヴィンゲゴーの2人のエースを護ることが優先。注目度の高いマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)は総合を狙う選手がチームに居ないこともあり自由に動けるが、「ジロ・デ・イタリア以降いまだに好調を探している」と話した。
北西の風が吹き、湿り気がない完全に乾いたパヴェに砂塵が舞う。ステージ優勝に掛けた6名の逃げが決まる中、ユンボ・ヴィスマはトラブルに見舞われ続ける一日となった。
落車からの追走とチームメイトのアシストに追われ、後半追い上げた結果、逃げたニールソン・ポーレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)から13秒のマージンでマイヨジョーヌを守ることになったファンアールト。タイミングの悪いパンクで3回のバイク交換をすることになったヴィンゲゴーはタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)に対して13秒遅れにとどめ、希望をつないだ。しかしフィニッシュまで30kmを残したセクター5のパヴェに入る手前で置きた落車から復帰することができなかったログリッチはポガチャルに対して2分17秒の遅れを喫し、総合優勝が大きく遠ざかってしまうことに。
ユンボ・ヴィスマのトラブルの皮切りはパヴェに入る前のなんでもないところで落車したファンアールトだった。すでに中切れした後方集団に取り残されていた時に起こした落車。そこからの追走を強いられたワウトは、本来ずっと一緒に居なければいけないヴィンゲゴーにヘルプの必要がでたとき、そのアシストができなかった。
危険物との衝突を避けるためにコーナーに積まれた藁を入れた緩衝材に引っかかったことで発生した落車に巻き込まれたログリッチ。転倒のショックで肩を脱臼してしまうが、それでも自分で外れた肩を戻したという。
「幸運なことに僕はまだここにいるし、走り続けることができる。よく見えなかったけど緩衝材にオートバイが引っかかって転倒して道の真ん中に投げ出されたんだろう。それで落車が起きたんだと思う。路上では肩を入れられず、観客の椅子を借りて座って、こうして(両腕を膝にかけて引っぱって)肩を戻したんだ。僕はこうしたときの処置は分かっているんだ」。
ティシュ・ベノートとネイサン・ファンホーイドンクらにアシストされて走り続けたログリッチだったが、トップから2分59秒遅れでフィニッシュ。総合成績ではポガチャルに対し2分8秒遅れと大きく落とすことに。
2年前のラ・プランシュデベルフィーユでの最終個人TTステージでポガチャルに逆転されて総合優勝目前で2位に転落。昨年はOpi Omi看板の観客が引き起こした落車にチームごと巻き込まれた後、集団から押し出されて再び落車して全身を負傷、その後リタイヤ。どこまでも運の無いログリッチ。マイヨジョーヌから見放されたような年がまたしても続くことになった。
残り36km地点でパンクしたヴィンゲゴーは3回もバイク交換をした。まず乗り換えたチームメイトのバイクは身長193cmのネイサン・ファンホーイドンクのものでサドルが高すぎて座れず、トップチューブ上で漕ぐという状態に。次にサイズが近いステフェン・クライスヴァイクのバイクに乗り換えたところで、チームカーが到着し、自身のスペアバイクに乗り換えることができた。事なきを得たが、慌てふためいたユンボ・ヴィスマ。
ヴィンゲゴーは言う「誰か他の選手に乗り上げたとき、チェーンがおかしくなって噛み込んだんだ。あとになって考えるとストップしてチェーンを直せばよかった。でもそれが自転車レース。ストレスでいっぱいだった。なんとか15秒遅れに留めたことを喜ぶべきだと思う。すべってが煙になって消えたとは思っていない。タイムを取り返すチャンスはまだあると思う」。
ユンボ・ヴィスマのニェールマン監督は言う「こんなにクラッシュやトラブルがあるなんて思ってもみなかった。セラヴィ(これが人生か)、しょっぱなにワウト、本当に悪いタイミングでヨナスのバイク交換、そのすぐ後にプリモシュがクラッシュした。不運が多すぎた。コース試走は4回は行ったんだ。それでも運は必要で、それが今日の我々には無かった。でもまだここに留まって闘い続けるよ」。
ファンアールトは言う「僕らが望んだ日じゃなかった。昨日は集団の前で闘ったのに、今日は後ろで闘った。皆昨日のほうが好きなはずだ。でも今日みたいな日も克服しないといけない。とくにヨナスのためには総合タイムの被害を最小限に抑えるために全員が全力を尽くした。ダメージは最小限に抑えた。追走した皆を誇りに思う。闘い続けるよ」
ログリッチとヴィンゲゴー、総合狙いの2人のエースが居たユンボ・ヴィスマだが、これからはヴィンゲゴーがエースになる。山岳ステージが多いこの後のステージでログリッチがタイム差を取り返すことは可能だが、ログリッチがアシストに徹すればヴィンゲゴーが表彰台の真ん中を狙える確率は上がる。
ベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン)も総合争い勢のなかの敗者。パヴェ走行に心配のあった山岳スペシャリストは序盤のパヴェでトラブルで遅れてしまい、チームメイトとともに追走するが叶わず、4分12秒遅れでフィニッシュ。昨年総合4位のオコーナーだが、今年は表彰台に登るという目標が大きく遠ざかった。
クラシックの経験が浅いUAEエミレーツのチームメイトがトラブルで居なくなるなか、アグレッシブな走りを披露して飛ばし続けたタデイ・ポガチャル。すでに春のロンド・ファン・フラーンデレンで「あわや優勝」の走りでパヴェをこなしていたが、改めて路面を問わないテクニックと余裕のパワー、オールマイティーさを見せつけた。総合4位につけ、総合上位争いのライバルたちからは抜きん出た位置に。
「本当にいい一日だった。パヴェの上で調子がよく感じたし、なんといっても不運もまったっく無かった。(コペンハーゲンでの)個人TTで総合争いでもっとも良いタイムだったことと今日のルーベステージでより一層自信が持てた。山岳に入るのが待ちきれない」とポガチャル。
パヴェについて聞かれると「本当に厳しい一日だった。序盤はストレスがいっぱいで、(追走した)後半は本当にタフだった。一日中ペダルにパワーを掛け続けた。パヴェは好きだけど、ここまで乾いたパヴェは今までとまったく違った経験だった。いちばん好きなパヴェはシャンゼリゼだけど」と、すでにパリを匂わすユーモアで応えた。
text&photo:Makoto.AYANO in France
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