2010/07/04(日) - 18:58
日本の夏のような蒸し暑さと晴天が続いていたロッテルダムは、この日天気が本来のオランダの天気に戻った。午後16時過ぎからのプロローグの時間にあわせ、雨が降り出す。天気予報は時間がたつほどに天候が悪化すると伝えていた。
・雨を避けるため早めスタートのギャンブルに出たウィッゴ
有力選手はTV放映の盛り上がりに協力する形で出走順を最後尾に持ってくることが慣らわし。しかし変わりやすいオランダの天気を見越して早めのスタートを選んだ有力選手たちが続出。ファビアン・カンチェラーラ(サクソバンク)と並ぶ注目株、ジロのプロローグ覇者ブラドレー・ウィギンズ(チームスカイ)はなんと41番目スタートのギャンブルに出た。
2009年のジロ最終ステージは、降りだした雨のせいで前半の晴れた時間に走った選手にステージ勝利を持って行かれた。そのことが常に後悔にあるウィッゴは、前倒しで路面が乾いたうちに走ってしまおうという狙いだ。
他にもジロでサプライズを見せたブレント・ブックウォルター(アメリカ、BMCレーシングチーム))、トニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)、デーヴィット・ザブリスキーにクリスティアン・ヴァンデヴェルデ(ともにアメリカ、ガーミン・トランジションズ)らが前半スタート。
ウォームアップするチームバスはスタート地点から距離があるので、撮影するためにはレースを離れなくてはいけない(=いい場所を陣取っていても取られてしまう)。しかし51番スタートのユキヤと同じ時間帯にアップしてくれるので、今回は助かった。
我らがユキヤのアップしているシーンを見て・撮影して、応援に来た日本からのファンにもあいさつしてから、スター選手たちのバスも同時に回る。
しかししかし、ウィギンズのチームスカイの様子を覗くと、なんとバスの前のウォームアップスペースにはTVモニターが鎮座し、その画面の中でウィッゴはアップしている...。その様子をTVカメラが映す...。こんなの見たことない。
巨万の富を投じたチームバスの中? それともその奥の裏側にいる?
モニターに映るのはどこかの部屋(?)の中でローラーを回すウィッゴの後ろ姿。最後までハンドルの位置を微調整するメカニシャン。実物が撮れずがっかり...。
そしてスタート台に戻りブックウォルターから撮影開始。雨は降っている。マルティンのときもウィッゴのときも雨だった。結果的にはこの雨は強さを増し、後半止んで、最終走者が走るときには路面が乾き始めさえしたというのだから、なんとも皮肉なもの。前半スタートを選んだウィッゴや他の有力選手は、オランダの天気予報に完全に裏をかかれた。
・UCIによるメカニックドーピング検査
昨日出たコミュニケによると、UCIは今回バイクにエンジンやモーターが搭載されていないかどうか検査するためにバイクのスキャン検査を実施するという。言うまでもなくカンチェラーラのロンド・ファン・フラーンデレンとパリ~ルーベの勝利の際にモーター内蔵自転車に乗ったという疑惑をうけてものだ。
検査はランダムで選ばれた選手に対してレース後にバイクに目印を付け、そのバイクをスキャンするという。スタート前にも通常通りの車両規定検査はあった。レース後には選手だけでなくシャペロン(UCIの立会人)同伴でバイクを持っていかれることに...。カンチェ曰く「可笑しすぎて、呆れて物が言えない。お金はもっと別のことに費やすべきだ」。
UCI会長のパット・マッケイド氏も来ており、「(メカニックドーピングの)可能性がある以上、検査は必要だ」と、TVインタビューに応えていた。ごもっとも、である。
・去年以上の気迫で臨んだユキヤ
昨年のツール、モナコのプロローグのスタート台に立ったとき、ニッコニッコのお得意のユキヤ・スマイルが出たことを思い出す。グランツールのスタートに初めて立ったことの喜びがこみ上げてきたとのことだったが、今回のユキヤは違っていた。(笑みを浮かべたからといって昨年は気合が入ってなかったということではないが)
スタートに立ったユキヤは、集中しきった表情で、手を口に当て、「フ~っ」と大きく深呼吸したかと思うと、「オァァッ!!」と周囲が驚くぐらいの喝を入れた。周りのカメラマンもまるで優勝候補の選手と同じぐらいのシャッターを切る!
そして弾かれたような勢いでブースから飛び出していった。「サムライ」。そんな言葉が浮かんだ。
昨日の共同インタビューでは、タイムトライアルは今までどんなレースでも「全選手の半分より少し後ろ」に位置する結果になっているという事実を挙げて、それを払拭したいとも話していたユキヤ。凄まじいばかりの気合で走ったが、結果は174 位。いつもの定位置より、ずいぶん位置を下げた。ウィギンズ同様に雨がもっとも激しい時間帯だった。
・ランスは昨年より強いのか?
ランス・アームストロング(レディオシャック)は昨年モナコのプロローグは40秒遅れの10位だった。しかし今回は22秒遅れの4位だ。昨年よりまたひとつ齢を重ねて尚強くなって帰ってきた。スタート前にもリラックスして手を振る余裕もあり、7連覇の頃とは明らかにレースに臨む表情は和らいでいるが、総合優勝を狙う選手の誰もランスに勝てなかったという事実。
総合争いの選手の中でもっとも「ダメ」だったのはアンディ・シュレク(サクソバンク)だ。1分9秒遅れ、122位。アームストロングに46秒、コンタドールに42秒遅れた。まるで山岳でつくタイム差のような大きさだ。ルクセンブルグTT選手権を制してナショナルジャージを着て臨んだ。スタートでみたアンディは、睨みつけるような怖いほどの目付きで集中して臨んだはずだったが。
レース後のコメントは拒否。チームサイトには「クソッタレな日だ」と綴っている。
・カンチェのエンジンは、もはや疑う余地なしの高性能
最終走者コンタドールの前に走ったカンチェラーラ。後半の有力選手たちのスタートする頃には雨が上がり、晴れ間さえ見え始めていた。路面は濡れたところが残るが、乾いているところも出てきた。このコンディションも味方した。カンチェラーラは言う。
「バスの中で自分のスタートを待っている時、窓ガラスに滴る雨粒を見るのが苦痛だった。太陽が出るように祈っていたのが通じたのか、スタート前に雨が止んだ。スタート前の段階から運が味方していたのだと思う。ちょうど日が射し始めていたんだ」
「9kmのコースなので10分前後の闘いになると想像していた。(皮肉を込めて)バッテリーが10分間持ち続けてくれることを願っていたんだ。100%の力で10分間を走り抜けたよ。プロローグのスペシャリストとして、最高の走りを出来たと思う。エンジンは自分のカラダの中に搭載されているんだ」。
モーター内蔵疑惑についてはジャーナリストから繰り返し質問が飛ぶ。
「もっと他にどんなデモンストレーションが必要だって言うんだい?」
明日からのステージ、今年のツールにはゴールの着順ボーナスタイムがつかない。だから余程のことがない限り集団ゴールならマイヨジョーヌを守ることができる。
「これからの数日はイエローを楽しむよ」。
・ファラーの好調に注目
タイラー・ファラー(ガーミン・トランジションズ)の7位に注目すべきだろう。スプリンターとしてさらに進化を遂げるファラーは今年、カヴェンディッシュの好敵手になると予想されている。
この7位は好調の証明。昨年の好調さは無いだろうと言われているカヴェンディッシュにとって、ファラーの存在はまた大きなプレッシャーになったにちがいない。
・TTバイクの進化極まれり
究極の進化を遂げ切ったかに思えるTTバイクだが、まだまだ進化しているようだ。電動デュラエースの普及2年目。ハンドル先端につける変速ボタンに加え、もうひとつ追加でつけられる変速ボタンの供給が安定し、多くのシマノのサポートチームがこれを採用していた。やはりハンドルから手を離さず・持ち替えずに変速できることは大きなメリットだ。(しかしデービッド・ミラーのように一気変速にこだわってレバー&ワイヤー式を選ぶ選手もいる)
電動ケーブルの内蔵と、システムハンドルを新たに設計したピナレロ。そしてUCIの規定に合わせて自慢のTTバイクSHIVを作り直したスペシャライズド。新型フレームも多く登場した。
ホイール系においても多くのチームでプロトタイプと思われるものが使用された。また、細かいパーツで言えば、よりチャーンの巻き取り抵抗が少ない大口径のプーリーを使うチームが二つ。スカイとカーミンはサードパーティ製の大きなプーリーに換装して使用していた。セラミックベアリングはもはや普通にどのチームも採用している。これらは追ってレポートしよう。
text:Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO,Kei.TSUJI
・雨を避けるため早めスタートのギャンブルに出たウィッゴ
有力選手はTV放映の盛り上がりに協力する形で出走順を最後尾に持ってくることが慣らわし。しかし変わりやすいオランダの天気を見越して早めのスタートを選んだ有力選手たちが続出。ファビアン・カンチェラーラ(サクソバンク)と並ぶ注目株、ジロのプロローグ覇者ブラドレー・ウィギンズ(チームスカイ)はなんと41番目スタートのギャンブルに出た。
2009年のジロ最終ステージは、降りだした雨のせいで前半の晴れた時間に走った選手にステージ勝利を持って行かれた。そのことが常に後悔にあるウィッゴは、前倒しで路面が乾いたうちに走ってしまおうという狙いだ。
他にもジロでサプライズを見せたブレント・ブックウォルター(アメリカ、BMCレーシングチーム))、トニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)、デーヴィット・ザブリスキーにクリスティアン・ヴァンデヴェルデ(ともにアメリカ、ガーミン・トランジションズ)らが前半スタート。
ウォームアップするチームバスはスタート地点から距離があるので、撮影するためにはレースを離れなくてはいけない(=いい場所を陣取っていても取られてしまう)。しかし51番スタートのユキヤと同じ時間帯にアップしてくれるので、今回は助かった。
我らがユキヤのアップしているシーンを見て・撮影して、応援に来た日本からのファンにもあいさつしてから、スター選手たちのバスも同時に回る。
しかししかし、ウィギンズのチームスカイの様子を覗くと、なんとバスの前のウォームアップスペースにはTVモニターが鎮座し、その画面の中でウィッゴはアップしている...。その様子をTVカメラが映す...。こんなの見たことない。
巨万の富を投じたチームバスの中? それともその奥の裏側にいる?
モニターに映るのはどこかの部屋(?)の中でローラーを回すウィッゴの後ろ姿。最後までハンドルの位置を微調整するメカニシャン。実物が撮れずがっかり...。
そしてスタート台に戻りブックウォルターから撮影開始。雨は降っている。マルティンのときもウィッゴのときも雨だった。結果的にはこの雨は強さを増し、後半止んで、最終走者が走るときには路面が乾き始めさえしたというのだから、なんとも皮肉なもの。前半スタートを選んだウィッゴや他の有力選手は、オランダの天気予報に完全に裏をかかれた。
・UCIによるメカニックドーピング検査
昨日出たコミュニケによると、UCIは今回バイクにエンジンやモーターが搭載されていないかどうか検査するためにバイクのスキャン検査を実施するという。言うまでもなくカンチェラーラのロンド・ファン・フラーンデレンとパリ~ルーベの勝利の際にモーター内蔵自転車に乗ったという疑惑をうけてものだ。
検査はランダムで選ばれた選手に対してレース後にバイクに目印を付け、そのバイクをスキャンするという。スタート前にも通常通りの車両規定検査はあった。レース後には選手だけでなくシャペロン(UCIの立会人)同伴でバイクを持っていかれることに...。カンチェ曰く「可笑しすぎて、呆れて物が言えない。お金はもっと別のことに費やすべきだ」。
UCI会長のパット・マッケイド氏も来ており、「(メカニックドーピングの)可能性がある以上、検査は必要だ」と、TVインタビューに応えていた。ごもっとも、である。
・去年以上の気迫で臨んだユキヤ
昨年のツール、モナコのプロローグのスタート台に立ったとき、ニッコニッコのお得意のユキヤ・スマイルが出たことを思い出す。グランツールのスタートに初めて立ったことの喜びがこみ上げてきたとのことだったが、今回のユキヤは違っていた。(笑みを浮かべたからといって昨年は気合が入ってなかったということではないが)
スタートに立ったユキヤは、集中しきった表情で、手を口に当て、「フ~っ」と大きく深呼吸したかと思うと、「オァァッ!!」と周囲が驚くぐらいの喝を入れた。周りのカメラマンもまるで優勝候補の選手と同じぐらいのシャッターを切る!
そして弾かれたような勢いでブースから飛び出していった。「サムライ」。そんな言葉が浮かんだ。
昨日の共同インタビューでは、タイムトライアルは今までどんなレースでも「全選手の半分より少し後ろ」に位置する結果になっているという事実を挙げて、それを払拭したいとも話していたユキヤ。凄まじいばかりの気合で走ったが、結果は174 位。いつもの定位置より、ずいぶん位置を下げた。ウィギンズ同様に雨がもっとも激しい時間帯だった。
・ランスは昨年より強いのか?
ランス・アームストロング(レディオシャック)は昨年モナコのプロローグは40秒遅れの10位だった。しかし今回は22秒遅れの4位だ。昨年よりまたひとつ齢を重ねて尚強くなって帰ってきた。スタート前にもリラックスして手を振る余裕もあり、7連覇の頃とは明らかにレースに臨む表情は和らいでいるが、総合優勝を狙う選手の誰もランスに勝てなかったという事実。
総合争いの選手の中でもっとも「ダメ」だったのはアンディ・シュレク(サクソバンク)だ。1分9秒遅れ、122位。アームストロングに46秒、コンタドールに42秒遅れた。まるで山岳でつくタイム差のような大きさだ。ルクセンブルグTT選手権を制してナショナルジャージを着て臨んだ。スタートでみたアンディは、睨みつけるような怖いほどの目付きで集中して臨んだはずだったが。
レース後のコメントは拒否。チームサイトには「クソッタレな日だ」と綴っている。
・カンチェのエンジンは、もはや疑う余地なしの高性能
最終走者コンタドールの前に走ったカンチェラーラ。後半の有力選手たちのスタートする頃には雨が上がり、晴れ間さえ見え始めていた。路面は濡れたところが残るが、乾いているところも出てきた。このコンディションも味方した。カンチェラーラは言う。
「バスの中で自分のスタートを待っている時、窓ガラスに滴る雨粒を見るのが苦痛だった。太陽が出るように祈っていたのが通じたのか、スタート前に雨が止んだ。スタート前の段階から運が味方していたのだと思う。ちょうど日が射し始めていたんだ」
「9kmのコースなので10分前後の闘いになると想像していた。(皮肉を込めて)バッテリーが10分間持ち続けてくれることを願っていたんだ。100%の力で10分間を走り抜けたよ。プロローグのスペシャリストとして、最高の走りを出来たと思う。エンジンは自分のカラダの中に搭載されているんだ」。
モーター内蔵疑惑についてはジャーナリストから繰り返し質問が飛ぶ。
「もっと他にどんなデモンストレーションが必要だって言うんだい?」
明日からのステージ、今年のツールにはゴールの着順ボーナスタイムがつかない。だから余程のことがない限り集団ゴールならマイヨジョーヌを守ることができる。
「これからの数日はイエローを楽しむよ」。
・ファラーの好調に注目
タイラー・ファラー(ガーミン・トランジションズ)の7位に注目すべきだろう。スプリンターとしてさらに進化を遂げるファラーは今年、カヴェンディッシュの好敵手になると予想されている。
この7位は好調の証明。昨年の好調さは無いだろうと言われているカヴェンディッシュにとって、ファラーの存在はまた大きなプレッシャーになったにちがいない。
・TTバイクの進化極まれり
究極の進化を遂げ切ったかに思えるTTバイクだが、まだまだ進化しているようだ。電動デュラエースの普及2年目。ハンドル先端につける変速ボタンに加え、もうひとつ追加でつけられる変速ボタンの供給が安定し、多くのシマノのサポートチームがこれを採用していた。やはりハンドルから手を離さず・持ち替えずに変速できることは大きなメリットだ。(しかしデービッド・ミラーのように一気変速にこだわってレバー&ワイヤー式を選ぶ選手もいる)
電動ケーブルの内蔵と、システムハンドルを新たに設計したピナレロ。そしてUCIの規定に合わせて自慢のTTバイクSHIVを作り直したスペシャライズド。新型フレームも多く登場した。
ホイール系においても多くのチームでプロトタイプと思われるものが使用された。また、細かいパーツで言えば、よりチャーンの巻き取り抵抗が少ない大口径のプーリーを使うチームが二つ。スカイとカーミンはサードパーティ製の大きなプーリーに換装して使用していた。セラミックベアリングはもはや普通にどのチームも採用している。これらは追ってレポートしよう。
text:Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO,Kei.TSUJI
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