2022/03/20(日) - 07:17
有力勢のアタックは成功せず、最終盤ポッジオのテクニカルダウンヒルで会心の一撃を放ったマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)がミラノ〜サンレモ初制覇を遂げた。
その名の通り、ミラノからサンレモまで長駆293kmを駆け抜けるミラノ〜サンレモが開催。ミラノの中心地にあるおなじみのドゥオーモではなく、1935年に建設されたヴィゴレッリ・ベロドローム(自転車競技場)を、24チーム159名の選手たちが駆け出した。
昨年覇者ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)ら、体調不良による出場キャンセル選手が続出したプロトンが、9.8kmのパレード走行と0km地点での一時停止を経てリアルスタート。一目散に飛び出した8名を集団があっさりと容認し、ものの数十秒でこの日の逃げグループが決まった。
アスタナカザフスタン(ギディッチ&ザカロフ)とエオーロ・コメタ(リーヴィ&セビーリャ)が2名づつ乗せ、逃げの名手アレッサンドロ・トネッリ(イタリア、バルディアーニ CSFファイザネ)らも加わったエスケープは順調にリードを稼ぎ、130km地点でプロトンを7分弱引き離した。
追い風に乗って淡々とハイペースを刻む逃げグループは、ロンバルディア平原に別れを告げてレース中盤のトゥルキーノ峠をクリア。通過後にタイム差は一時5分ほどまで縮まったものの、リグーリア海の平坦区間に入ると再び7分台まで到達している。
リグーリア海岸を南西に進むにつれ、徐々にメイン集団もペースアップを開始した。2連覇を狙うトレック・セガフレードやユンボ・ヴィスマなどが集団先頭を固め、その中にはバーレーン・ヴィクトリアスのアシストを務める新城幸也の姿も。切り立った断崖に「ALASSIO」の地名が掲げられたポイントを過ぎ、連続する3つの丘「トレ・カーピ(カーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタ)」に差し掛かると集団の緊張感、そしてスピードも一気に高まった。
サンレモまで50kmを切り、仕事を終えた新城が後方に下がっていく。脚の差が見え始めた先頭グループがバラけはじめ、メイン集団では優勝候補の一人に目されていたトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)があっさりと脱落。続いてトレ・カーピを終えて1つ目の勝負どころである「チプレッサ(距離5.65km/平均4.1%/最大9%)」手前と言う悪いタイミングでメカトラブルに見舞われたペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)が脱落。過去2度の2位経験者はバイク交換ののちに復帰を目指したものの、その後集団に戻ることはなかった。
アタッカーによる攻撃と、それに食らいついて集団勝負を目指すスプリンターの追走劇。これが「普段の」ミラノ〜サンレモの姿だが、今年はチプレッサ序盤からユンボ・ヴィスマとUAEチームエミレーツが猛烈なペースアップを敢行したため、ファビオ・ヤコブセン(オランダ、クイックステップ・アルファヴィニル)といった重量級スプリンターが次々と脱落してしまう。
ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ)による40km/h超のペースメイクによって30名程度に絞り込まれ、その中に生き残ったスプリンターはアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)やマイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)らごく少数だった。
そして、いよいよ最後の勝負どころであるポッジオ・ディ・サンレモ(距離3.7km/平均3.7%/最大8%)がスタート。当初の逃げグループから最後まで粘ったトネッリとリーヴィを捕まえ、280kmに及ぶエスケープに幕が降ろされると、ディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチームエミレーツ)のペースメイクを足がかりにしてタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が動いた。
例年よりも早いタイミングで仕掛けたポガチャルに対し、同じく優勝候補のワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)やサプライズ出場&遅いシーズンインを果たしたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)が追走して引き戻す。ここからもう一度ポガチャルが、続いてプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)が、さらにもう一度ポガチャルが仕掛けたものの決まり手に欠き、頂上付近でのセーアン・クラーウアナスン(デンマーク、チームDSM)のアタックによって、遂に集団分裂が起こった。
アナスンとポガチャル、ファンデルプール、そしてファンアールトが抜け出した形で頂上を通過し、マシューズを含む13名がすぐ後ろで追走した一方、デマールは距離を空けてしまう。エスケープゾーンのないテクニカルダウンヒルに入ると13名の追走グループから、たったコーナー2つ分の区間でマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)がジャンプし、一気にポガチャルたちを追い抜いた。
誰よりも道幅をいっぱいに使い、誰よりもバイクを倒し込んでブラインドコーナーを攻め倒したモホリッチは、後続との差を2秒、3秒と広げていく。このポッジオの下りのためにチームと共に用意していたドロッパーシートポストを武器に、低重心なダウンヒルポジションでカッ飛ばしたスロベニアチャンピオン。見る間に5〜6秒のリードを得てフィニッシュまで2.3km続く平坦区間に入った。
もし追走グループが人数を残していれば、引き戻せたかもしれない微妙なタイム差。しかしチプレッサとポッジオを高速で駆け上がったことでエース選手だけが残り、ローテーションも微妙に統率が取れず、組織的な追走体制につながらない。ファンアールトとファンデルプールが牽制する隙にアントニー・テュルジス(フランス、トタルエネルジー)が単独追走に回ったものの、しかしその時すでにモホリッチの視線はフィニッシュ地点を捉えていた。
追い込むテュルジスと、スプリント体制に入る3位グループを尻目に、リードを2秒まで削られながらもモホリッチがハンドルから手を離し、バイクを、そしてスロベニアチャンピオンジャージを指差してフィニッシュ。下りの名手モホリッチが、下りを見据えたスペシャルセッティングを施したバイクに乗って、完璧すぎる狙い通りの作戦勝ち。これまで6度挑戦してきた「ラ・プリマヴェーラ」初制覇の栄冠を手に入れた。
「オフシーズンにうまく調子を上げることができたし、ずっとこのレースを目標にしてきた。世界トップクラスの選手たちがポッジオ頂上で戦いを繰り広げたけれど、下りでチャンスを掴んだんだ。ちょっとリスキーだったけれど、逃げ切れるだけのリードを得ることができた」と、ログリッチでもポガチャルでもなく、ダークホースとして勝利を掴んだスロベニアチャンピオンは振り返る。
「ドロッパーポストを最初に試したときは驚いたよ。速いし、安定するし、ミスを防ぐにも大切な要素だった」とも。スロベニア人選手のミラノ〜サンレモ制覇は史上初めてであり、4.6km(5分1秒)に及ぶアタック中の平均スピードは55.6km/h、平均パワーは350ワット(体重72kg)、最大パワーは1120ワットに及んでいる。
「サガンのメカトラで作戦を切り替えた。美しいレースでの2位表彰台は喜ばしい結果だ」と語るテュルジスが2位に入り、3位争いのスプリントは「また優勝を逃してしまい残念だ。チームメイトがもう1人、2人いれば状況は変わっていたかもしれない」と悔やむファンデルプールが先着している。
また、レースを作ったUAEチームエミレーツとユンボ・ヴィスマは表彰台にエースを送り込むことができず。アシストとしてモホリッチの勝利に貢献した新城は8分半遅れの111位で春の大一番を終えている。
上位選手たちのコメントは追って掲載します。
その名の通り、ミラノからサンレモまで長駆293kmを駆け抜けるミラノ〜サンレモが開催。ミラノの中心地にあるおなじみのドゥオーモではなく、1935年に建設されたヴィゴレッリ・ベロドローム(自転車競技場)を、24チーム159名の選手たちが駆け出した。
昨年覇者ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)ら、体調不良による出場キャンセル選手が続出したプロトンが、9.8kmのパレード走行と0km地点での一時停止を経てリアルスタート。一目散に飛び出した8名を集団があっさりと容認し、ものの数十秒でこの日の逃げグループが決まった。
アスタナカザフスタン(ギディッチ&ザカロフ)とエオーロ・コメタ(リーヴィ&セビーリャ)が2名づつ乗せ、逃げの名手アレッサンドロ・トネッリ(イタリア、バルディアーニ CSFファイザネ)らも加わったエスケープは順調にリードを稼ぎ、130km地点でプロトンを7分弱引き離した。
追い風に乗って淡々とハイペースを刻む逃げグループは、ロンバルディア平原に別れを告げてレース中盤のトゥルキーノ峠をクリア。通過後にタイム差は一時5分ほどまで縮まったものの、リグーリア海の平坦区間に入ると再び7分台まで到達している。
リグーリア海岸を南西に進むにつれ、徐々にメイン集団もペースアップを開始した。2連覇を狙うトレック・セガフレードやユンボ・ヴィスマなどが集団先頭を固め、その中にはバーレーン・ヴィクトリアスのアシストを務める新城幸也の姿も。切り立った断崖に「ALASSIO」の地名が掲げられたポイントを過ぎ、連続する3つの丘「トレ・カーピ(カーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタ)」に差し掛かると集団の緊張感、そしてスピードも一気に高まった。
サンレモまで50kmを切り、仕事を終えた新城が後方に下がっていく。脚の差が見え始めた先頭グループがバラけはじめ、メイン集団では優勝候補の一人に目されていたトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)があっさりと脱落。続いてトレ・カーピを終えて1つ目の勝負どころである「チプレッサ(距離5.65km/平均4.1%/最大9%)」手前と言う悪いタイミングでメカトラブルに見舞われたペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)が脱落。過去2度の2位経験者はバイク交換ののちに復帰を目指したものの、その後集団に戻ることはなかった。
アタッカーによる攻撃と、それに食らいついて集団勝負を目指すスプリンターの追走劇。これが「普段の」ミラノ〜サンレモの姿だが、今年はチプレッサ序盤からユンボ・ヴィスマとUAEチームエミレーツが猛烈なペースアップを敢行したため、ファビオ・ヤコブセン(オランダ、クイックステップ・アルファヴィニル)といった重量級スプリンターが次々と脱落してしまう。
ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ)による40km/h超のペースメイクによって30名程度に絞り込まれ、その中に生き残ったスプリンターはアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)やマイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)らごく少数だった。
そして、いよいよ最後の勝負どころであるポッジオ・ディ・サンレモ(距離3.7km/平均3.7%/最大8%)がスタート。当初の逃げグループから最後まで粘ったトネッリとリーヴィを捕まえ、280kmに及ぶエスケープに幕が降ろされると、ディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチームエミレーツ)のペースメイクを足がかりにしてタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が動いた。
例年よりも早いタイミングで仕掛けたポガチャルに対し、同じく優勝候補のワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)やサプライズ出場&遅いシーズンインを果たしたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)が追走して引き戻す。ここからもう一度ポガチャルが、続いてプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)が、さらにもう一度ポガチャルが仕掛けたものの決まり手に欠き、頂上付近でのセーアン・クラーウアナスン(デンマーク、チームDSM)のアタックによって、遂に集団分裂が起こった。
アナスンとポガチャル、ファンデルプール、そしてファンアールトが抜け出した形で頂上を通過し、マシューズを含む13名がすぐ後ろで追走した一方、デマールは距離を空けてしまう。エスケープゾーンのないテクニカルダウンヒルに入ると13名の追走グループから、たったコーナー2つ分の区間でマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)がジャンプし、一気にポガチャルたちを追い抜いた。
誰よりも道幅をいっぱいに使い、誰よりもバイクを倒し込んでブラインドコーナーを攻め倒したモホリッチは、後続との差を2秒、3秒と広げていく。このポッジオの下りのためにチームと共に用意していたドロッパーシートポストを武器に、低重心なダウンヒルポジションでカッ飛ばしたスロベニアチャンピオン。見る間に5〜6秒のリードを得てフィニッシュまで2.3km続く平坦区間に入った。
もし追走グループが人数を残していれば、引き戻せたかもしれない微妙なタイム差。しかしチプレッサとポッジオを高速で駆け上がったことでエース選手だけが残り、ローテーションも微妙に統率が取れず、組織的な追走体制につながらない。ファンアールトとファンデルプールが牽制する隙にアントニー・テュルジス(フランス、トタルエネルジー)が単独追走に回ったものの、しかしその時すでにモホリッチの視線はフィニッシュ地点を捉えていた。
追い込むテュルジスと、スプリント体制に入る3位グループを尻目に、リードを2秒まで削られながらもモホリッチがハンドルから手を離し、バイクを、そしてスロベニアチャンピオンジャージを指差してフィニッシュ。下りの名手モホリッチが、下りを見据えたスペシャルセッティングを施したバイクに乗って、完璧すぎる狙い通りの作戦勝ち。これまで6度挑戦してきた「ラ・プリマヴェーラ」初制覇の栄冠を手に入れた。
「オフシーズンにうまく調子を上げることができたし、ずっとこのレースを目標にしてきた。世界トップクラスの選手たちがポッジオ頂上で戦いを繰り広げたけれど、下りでチャンスを掴んだんだ。ちょっとリスキーだったけれど、逃げ切れるだけのリードを得ることができた」と、ログリッチでもポガチャルでもなく、ダークホースとして勝利を掴んだスロベニアチャンピオンは振り返る。
「ドロッパーポストを最初に試したときは驚いたよ。速いし、安定するし、ミスを防ぐにも大切な要素だった」とも。スロベニア人選手のミラノ〜サンレモ制覇は史上初めてであり、4.6km(5分1秒)に及ぶアタック中の平均スピードは55.6km/h、平均パワーは350ワット(体重72kg)、最大パワーは1120ワットに及んでいる。
「サガンのメカトラで作戦を切り替えた。美しいレースでの2位表彰台は喜ばしい結果だ」と語るテュルジスが2位に入り、3位争いのスプリントは「また優勝を逃してしまい残念だ。チームメイトがもう1人、2人いれば状況は変わっていたかもしれない」と悔やむファンデルプールが先着している。
また、レースを作ったUAEチームエミレーツとユンボ・ヴィスマは表彰台にエースを送り込むことができず。アシストとしてモホリッチの勝利に貢献した新城は8分半遅れの111位で春の大一番を終えている。
上位選手たちのコメントは追って掲載します。
ミラノ〜サンレモ2022結果
1位 | マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) | 6:27:49 |
2位 | アントニー・テュルジス(フランス、トタルエネルジー) | +0:02 |
3位 | マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) | |
4位 | マイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ・ジェイコ) | |
5位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | |
6位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) | |
7位 | セーアン・クラーウアナスン(デンマーク、チームDSM) | |
8位 | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) | |
9位 | ヤン・トラトニク(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) | +0:05 |
10位 | アルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ) | |
111位 | 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) | +8:31 |
text:So.Isobe
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