2021/12/31(金) - 17:45
国内レースプレーバック最終回は、2年ぶりに開催された二つのUCIレースと、東京五輪・パラリンピックの自転車競技に出場した日本人選手、各種目の全日本選手権を振り返る。
増田成幸が17年ぶりの日本人総合優勝を決めたツアー・オブ・ジャパン
国内最大のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」は、8日間8ステージで行われる予定だった。しかし、2020年から続くコロナ禍により、UCI2.1クラスから2.2クラスにグレードダウンし、3日間3ステージ、国内チームのみ参加と、規模を縮小して開催された。
縮小されたとは言え、国内レースで初めて「レースバブル」を導入し、緊急事態宣言が発令された東京都内でレースが開催されたことは、コロナ禍でのレース開催の可能性を広げたと言えよう。
3日間のTOJは、いきなりクイーンステージでスタートした。第1ステージは、東京五輪会場となる富士スピードウェイのゲート前をスタートし、ふじあざみラインを登ってフィニッシュする78.8km。増田成幸(宇都宮ブリッツエン)とトマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)の一騎打ちとなったヒルクライムは、残り1kmから独走に持ち込んだ増田が優勝した。
第2ステージは初開催の相模原市で108.5kmのレース。リアルスタート直後に形成された16名の先頭集団が結局最後まで逃げ切り、ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)が鉄柵の脚を踏んでのスプリントを制してステージ優勝をもぎ取った。メイン集団で起きた落車により先頭集団との差が大きく開き、増田はリーダージャージを失いかけた。しかしその後タイム差を縮めてフィニッシュし、首位を守った。
最終ステージは東京の大井埠頭。最後のステージ優勝を狙って各チームの思惑が絡み合い、スタート直後からアタックと吸収が何度も繰り返される神経質な展開となった。レースが後半に入ってようやく5名の逃げが容認され、さらにその中から2名が逃げ切って川野碧己(弱虫ペダルサイクリングチーム)が優勝した。リーダージャージは最終日に入れ替わる可能性が残っていたものの、増田が守りきって2004年優勝の福島晋一以来となる日本人個人総合優勝を果たした。
マンセボの力技で決まったおおいたアーバンクラシック
シーズン終盤の10月、大分市で開催された「おおいたアーバンクラシック」。は、国内2例目のUCIレースとなった。
JR大分駅前で行われる「おおいた いこいの道クリテリウム」とセットで開催されるレースは、UCI1.2クラスのワンデーレースとして開催。昨年はJプロツアーとして開催されたが、2年ぶりにUCIレースとして開催された。とは言え、国内チームのみ参加という点はツアー・オブ・ジャパンと同じだ。
150.8kmのレースは、レース後半にフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)を含む7名の集団が先行。これが勝ち逃げ集団となり、最後はマンセボが他の6名を振り切って独走に持ち込み、2019年以来となるUCIレース優勝を決めた。
2回目のデジタルジャパンカップはマテイ・モホリッチが優勝
残念ながら今年も中止となってしまったジャパンカップに代わり開催されたデジタルジャパンカップ。今年は宇都宮市と世界各国を繋ぎ、19チーム44名が参加して開催された。エントリーリストには、現役選手のみならず、イヴァン・バッソ、ダミアーノ・クネゴ、ロビー・マキュアンらレジェンド選手の名前もあり、バーチャルレースでなければ見られない顔ぶれとなった。レースは、2周目の古賀志林道から独走したマティ・モホリッチ(バーレーン。ヴィクトリアス)が優勝した。
1年延期の東京五輪 梶原銀メダル パラでは杉浦が2冠
東京五輪の自転車競技に出場した日本人選手の結果を振り返ろう。
男子ロードレースでは、新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は10分12秒遅れの34位、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)は19分50秒遅れの84位で完走した。
女子ロードレースに出場した與那嶺恵理(チームティブコSVB)は、2分28秒遅れの21位、金子広美(イナーメ信濃山形)は、8分23秒遅れの43位で完走した。與那嶺は個人タイムトライアルにも出場し、22位で終えた。
修善寺の日本サイクルスポーツセンターで行われたMTBクロスカントリー(XCO)。男子は、山本幸平(ドリームシーカーMTBレーシングチーム)が29位で完走。女子は今井美穂(CO2bicycle)が出場。試走での負傷を抱えての走行となってしまい、マイナス3ラップの37位で未完走となった。
トラック競技の中距離種目には、橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)、梶原悠未、中村妃智(JPF)が出場。短距離種目には、脇本雄太(チームブリヂストンサイクリング)、新田祐大(ドリームシーカーレーシングチーム)、小林優香が出場した。
女子オムニアムでは梶原が銀メダルを獲得。日本女子では初のメダル獲得となり、2008年北京大会以来の自転車競技でのメダル獲得となった。男子オムニアムでは橋本が15位。女子マディソンには梶原と中村のペアが出場したが、周回遅れの未完走に終わった。
男子スプリントには脇本と新田が出場。脇本は敗者復活戦を経て1/8決勝まで進んだものの敗退。女子は小林が予選で日本記録を出したが、2回戦で敗退し、敗者復活戦でも敗退に終わった。
男子ケイリンでは、脇本と新田が共に準々決勝に進出。新田は敗退するも、脇本は準決勝に進む。しかし決勝には進めず、順位決定戦で7位となった。女子ケイリンでは、小林が準々決勝敗退に終わった。
五輪に続いて開催されたパラリンピックでは、杉浦佳子が個人タイムトライアルとロードレースで優勝し、2つの金メダルを獲得する快挙を達成した。
シーズン終盤に集中した各種目の全日本選手権 ロードは2年ぶりの開催
ロードレースの全日本選手権は、当初6月に予定されていた。しかし収束の見えないコロナ禍により開催が見送られ、10月にようやく開催された。これにより、MTB、シクロクロス、トラックの全日本選手権が、10月後半から12月にかけての2ヶ月間に集中することになった。
広島県中央森林公園で開催されたロードレース全日本選手権。男子エリートは、2年ぶりのビックタイトルを前に他のレースでは見られない慎重な展開となったが、レース終盤の中根英登(EFエデュケーション・NIPPO)のアタックから活性化。ディフェンディングチャンピオンの入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)のアタックを吸収してのスプリント勝負を制したのは、草場啓吾。2009年に同場所で優勝した西谷泰治以来となる全日本優勝を、愛三工業レーシングチームにもたらした。
女子は、連覇していた與那嶺が出場しない中、金子広美と植竹海貴(Y's Road)の勝負となり、金子の猛攻をしのいだ植竹が初優勝。Jフェミニンツアーの総合優勝とあわせて二冠を達成した。
MTB 男子は沢田時、女子は川口うららが共に2冠
全日本ロードの2週間後、千葉公園で開催されたMTBショートトラックレース(XCC)の全日本選手権は、沢田時(チームブリヂストンサイクリング)が初優勝。沢田はさらに2週間後に愛媛県で開催されたMTBクロスカントリー(XCO)の全日本選手権でも優勝し、MTB2冠を達成した。
女子は川口うらら(日本体育大学)が、XCC、XCO共に優勝。ロードレースでも女子U23で優勝し、3冠を達成した。
小坂光が2度目のシクロクロスチャンピオンに
茨城県土浦市で初開催されたシクロクロスの全日本選手権。沢田時(チームブリヂストンサイクリング)の連覇か、今シーズン好調の織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)か、という事前の予想を覆し、小坂光(宇都宮ブリッツェン)が2017年以来2度目の優勝を決めた。
女子は、福田咲絵(AX cyclocross team)との一騎打ちを制した渡部春雅(明治大学)が初優勝し、エリートカテゴリーで初めての全日本タイトルを獲得した。
チームブリヂストンサイクリングが席巻したトラック全日本選手権
東京五輪の会場となった伊豆ベロドロームで、トラックの全日本選手権が開催された。
男子中距離種目では、チームブリヂストンサイクリングが圧倒。今村駿介が出場7種目中6種目で優勝して見せた。短距離では、1kmTTで新田祐大が1分0秒台の新記録で優勝。日本人の1分切りが見えてきた瞬間でもあった。
2022年もコロナ禍は続くが・・・
コロナ禍に振り回されながらも、2020年に比べればかなりの数のレースが戻ってきた2021年。各大会の主催者が手探りで試行錯誤する中から、コロナ禍でレースを開催するための方法がある程度確立されたことが大きな要因だろう。
それでも、残念ながら開催出来なかったレースも少なくないが、最初から開催を諦めている主催者はいないと強調しておきたい。2年連続で中止となったジャパンカップに対して「やる気がないなら無くしてしまえ」という心無い言葉がSNS上で見られたが、直前まであらゆる手段を講じていた主催者をご存知なのだろうか?。
現状ではコロナ禍の終わりはまだ見えず、2022年もレース開催が不透明な状況は続きそうだ。少しずつでも世の中が回復していくことを、今は祈るしかない。まずは新シーズンの開幕を待とう。
text:Satoru Kato
増田成幸が17年ぶりの日本人総合優勝を決めたツアー・オブ・ジャパン
国内最大のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」は、8日間8ステージで行われる予定だった。しかし、2020年から続くコロナ禍により、UCI2.1クラスから2.2クラスにグレードダウンし、3日間3ステージ、国内チームのみ参加と、規模を縮小して開催された。
縮小されたとは言え、国内レースで初めて「レースバブル」を導入し、緊急事態宣言が発令された東京都内でレースが開催されたことは、コロナ禍でのレース開催の可能性を広げたと言えよう。
3日間のTOJは、いきなりクイーンステージでスタートした。第1ステージは、東京五輪会場となる富士スピードウェイのゲート前をスタートし、ふじあざみラインを登ってフィニッシュする78.8km。増田成幸(宇都宮ブリッツエン)とトマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)の一騎打ちとなったヒルクライムは、残り1kmから独走に持ち込んだ増田が優勝した。
第2ステージは初開催の相模原市で108.5kmのレース。リアルスタート直後に形成された16名の先頭集団が結局最後まで逃げ切り、ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)が鉄柵の脚を踏んでのスプリントを制してステージ優勝をもぎ取った。メイン集団で起きた落車により先頭集団との差が大きく開き、増田はリーダージャージを失いかけた。しかしその後タイム差を縮めてフィニッシュし、首位を守った。
最終ステージは東京の大井埠頭。最後のステージ優勝を狙って各チームの思惑が絡み合い、スタート直後からアタックと吸収が何度も繰り返される神経質な展開となった。レースが後半に入ってようやく5名の逃げが容認され、さらにその中から2名が逃げ切って川野碧己(弱虫ペダルサイクリングチーム)が優勝した。リーダージャージは最終日に入れ替わる可能性が残っていたものの、増田が守りきって2004年優勝の福島晋一以来となる日本人個人総合優勝を果たした。
マンセボの力技で決まったおおいたアーバンクラシック
シーズン終盤の10月、大分市で開催された「おおいたアーバンクラシック」。は、国内2例目のUCIレースとなった。
JR大分駅前で行われる「おおいた いこいの道クリテリウム」とセットで開催されるレースは、UCI1.2クラスのワンデーレースとして開催。昨年はJプロツアーとして開催されたが、2年ぶりにUCIレースとして開催された。とは言え、国内チームのみ参加という点はツアー・オブ・ジャパンと同じだ。
150.8kmのレースは、レース後半にフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)を含む7名の集団が先行。これが勝ち逃げ集団となり、最後はマンセボが他の6名を振り切って独走に持ち込み、2019年以来となるUCIレース優勝を決めた。
2回目のデジタルジャパンカップはマテイ・モホリッチが優勝
残念ながら今年も中止となってしまったジャパンカップに代わり開催されたデジタルジャパンカップ。今年は宇都宮市と世界各国を繋ぎ、19チーム44名が参加して開催された。エントリーリストには、現役選手のみならず、イヴァン・バッソ、ダミアーノ・クネゴ、ロビー・マキュアンらレジェンド選手の名前もあり、バーチャルレースでなければ見られない顔ぶれとなった。レースは、2周目の古賀志林道から独走したマティ・モホリッチ(バーレーン。ヴィクトリアス)が優勝した。
1年延期の東京五輪 梶原銀メダル パラでは杉浦が2冠
東京五輪の自転車競技に出場した日本人選手の結果を振り返ろう。
男子ロードレースでは、新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は10分12秒遅れの34位、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)は19分50秒遅れの84位で完走した。
女子ロードレースに出場した與那嶺恵理(チームティブコSVB)は、2分28秒遅れの21位、金子広美(イナーメ信濃山形)は、8分23秒遅れの43位で完走した。與那嶺は個人タイムトライアルにも出場し、22位で終えた。
修善寺の日本サイクルスポーツセンターで行われたMTBクロスカントリー(XCO)。男子は、山本幸平(ドリームシーカーMTBレーシングチーム)が29位で完走。女子は今井美穂(CO2bicycle)が出場。試走での負傷を抱えての走行となってしまい、マイナス3ラップの37位で未完走となった。
トラック競技の中距離種目には、橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)、梶原悠未、中村妃智(JPF)が出場。短距離種目には、脇本雄太(チームブリヂストンサイクリング)、新田祐大(ドリームシーカーレーシングチーム)、小林優香が出場した。
女子オムニアムでは梶原が銀メダルを獲得。日本女子では初のメダル獲得となり、2008年北京大会以来の自転車競技でのメダル獲得となった。男子オムニアムでは橋本が15位。女子マディソンには梶原と中村のペアが出場したが、周回遅れの未完走に終わった。
男子スプリントには脇本と新田が出場。脇本は敗者復活戦を経て1/8決勝まで進んだものの敗退。女子は小林が予選で日本記録を出したが、2回戦で敗退し、敗者復活戦でも敗退に終わった。
男子ケイリンでは、脇本と新田が共に準々決勝に進出。新田は敗退するも、脇本は準決勝に進む。しかし決勝には進めず、順位決定戦で7位となった。女子ケイリンでは、小林が準々決勝敗退に終わった。
五輪に続いて開催されたパラリンピックでは、杉浦佳子が個人タイムトライアルとロードレースで優勝し、2つの金メダルを獲得する快挙を達成した。
シーズン終盤に集中した各種目の全日本選手権 ロードは2年ぶりの開催
ロードレースの全日本選手権は、当初6月に予定されていた。しかし収束の見えないコロナ禍により開催が見送られ、10月にようやく開催された。これにより、MTB、シクロクロス、トラックの全日本選手権が、10月後半から12月にかけての2ヶ月間に集中することになった。
広島県中央森林公園で開催されたロードレース全日本選手権。男子エリートは、2年ぶりのビックタイトルを前に他のレースでは見られない慎重な展開となったが、レース終盤の中根英登(EFエデュケーション・NIPPO)のアタックから活性化。ディフェンディングチャンピオンの入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)のアタックを吸収してのスプリント勝負を制したのは、草場啓吾。2009年に同場所で優勝した西谷泰治以来となる全日本優勝を、愛三工業レーシングチームにもたらした。
女子は、連覇していた與那嶺が出場しない中、金子広美と植竹海貴(Y's Road)の勝負となり、金子の猛攻をしのいだ植竹が初優勝。Jフェミニンツアーの総合優勝とあわせて二冠を達成した。
MTB 男子は沢田時、女子は川口うららが共に2冠
全日本ロードの2週間後、千葉公園で開催されたMTBショートトラックレース(XCC)の全日本選手権は、沢田時(チームブリヂストンサイクリング)が初優勝。沢田はさらに2週間後に愛媛県で開催されたMTBクロスカントリー(XCO)の全日本選手権でも優勝し、MTB2冠を達成した。
女子は川口うらら(日本体育大学)が、XCC、XCO共に優勝。ロードレースでも女子U23で優勝し、3冠を達成した。
小坂光が2度目のシクロクロスチャンピオンに
茨城県土浦市で初開催されたシクロクロスの全日本選手権。沢田時(チームブリヂストンサイクリング)の連覇か、今シーズン好調の織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)か、という事前の予想を覆し、小坂光(宇都宮ブリッツェン)が2017年以来2度目の優勝を決めた。
女子は、福田咲絵(AX cyclocross team)との一騎打ちを制した渡部春雅(明治大学)が初優勝し、エリートカテゴリーで初めての全日本タイトルを獲得した。
チームブリヂストンサイクリングが席巻したトラック全日本選手権
東京五輪の会場となった伊豆ベロドロームで、トラックの全日本選手権が開催された。
男子中距離種目では、チームブリヂストンサイクリングが圧倒。今村駿介が出場7種目中6種目で優勝して見せた。短距離では、1kmTTで新田祐大が1分0秒台の新記録で優勝。日本人の1分切りが見えてきた瞬間でもあった。
2022年もコロナ禍は続くが・・・
コロナ禍に振り回されながらも、2020年に比べればかなりの数のレースが戻ってきた2021年。各大会の主催者が手探りで試行錯誤する中から、コロナ禍でレースを開催するための方法がある程度確立されたことが大きな要因だろう。
それでも、残念ながら開催出来なかったレースも少なくないが、最初から開催を諦めている主催者はいないと強調しておきたい。2年連続で中止となったジャパンカップに対して「やる気がないなら無くしてしまえ」という心無い言葉がSNS上で見られたが、直前まであらゆる手段を講じていた主催者をご存知なのだろうか?。
現状ではコロナ禍の終わりはまだ見えず、2022年もレース開催が不透明な状況は続きそうだ。少しずつでも世の中が回復していくことを、今は祈るしかない。まずは新シーズンの開幕を待とう。
text:Satoru Kato
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