2021/08/29(日) - 11:16
イタリアンアルプスのスキーリゾートであるヴァル・ディ・ソーレにて開催中のMTB世界選手権。XCOの女子エリートカテゴリーは爆発的な走りでレースを支配したイビィ・リチャーズが、エリート2年目にしてイギリス人選手初の世界選手権制覇を達成した。
ドライコンディションの中、MTB世界選手権XCO 女子エリートのスタートが切られた photo:Val di Sole 2021
28日現地の天気予報は雨と17度前後の気温を示していたが、予報は外れ、心配されたまとまった雨は降らなかった。エリートレースの時間帯には気温も上がり、コースは砂埃が舞うほどのドライコンディション。スキー場の急峻な斜面を大きく2回登り、テクニカルなダウンヒルを一気に下る「定番」とも言えるスタイルのコースで、女子エリートは5周回のレースが行われた。
スタートラップでは誰も集団から飛び出さず、上位陣が集団前方を固め出方をうかがうという均衡状態から幕を開けた。5分間程度の膠着の後に本周回に入ると、闘いの口火を切ったのは2年連続世界チャンピオンのポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス)。圧倒的な登坂力で本コース内で最初に登場するロングクライムの頂上時点で30秒差をつけ、2周回目S/F地点通過時には40秒近いリードを獲得してみせた。
レース序盤に単独でリードを築くポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス) photo:Val di Sole 2021
序盤からの独走優勝を飾った2020年の世界選手権の再来か。そう思わせるほどのリードを築いたフェランプレヴォ。レースを走る本人も、コースサイドのフランスチームのスタッフにも、その表情には自信と安心感が垣間見えたシーンもあった。
そしてフェランプレヴォの後続にはシーナ・フライ(スイス)、イビィ・リチャーズ(イギリス)、アン・テルプストラ(オランダ)、レベッカ・マコンネル(オーストラリア)、ヨランダ・ネフ(スイス)、マヤ・ヴウォシュチョヴスカ(ポーランド)ら、の上位勢の面々が続く。
フェランプレヴォの独走を許すムードの漂う集団に、スタートから続いた膠着状態を打破しようと、フライやリチャーズが積極的に先頭を牽引し、レースの活性化を図った。リチャーズが2周回目の序盤の登坂で集団からアタックを仕掛け、単独2番手でトップのフェランプレヴォを追いかける始めた。
下り区間でもアグレッシブに攻めるイビィ・リチャーズ(イギリス) photo:Val di Sole 2021
登坂でも下り区間でも上体を前傾させ、アグレッシブに突き進むリチャーズの追走は、レース展開をひっくり返す決定的なアタックとなった。2周回終了時点でフェランプレヴォのリードを奪い返し、そのままの勢いを維持してフェランプレヴォを突き放す。リチャーズと共に走ることになったフェランプレヴォはリズムを崩し、レース序盤での堂々と、そして淡々とした登坂フォームが乱れ、リチャーズから脱落するまでに失速してしまう。
木の根が露出したダウンヒルセクションを攻めるヨランダ・ネフ(スイス) photo:Val di Sole 2021
このフェランプレヴォのパワーダウンに、追走集団は一気に活性化を見た。世界選手権の2週間前に開催された欧州選手権で2位を獲得したテルプストラが、登坂のピーク手前でのアタックから得意とするテクニカルセクションで勢いをつけ、4周回目にはフェランプレヴォを捕捉。フェランプレヴォはテルプストラのペースにも合わせることが出来ず、最終周回には後続集団にまで後退してしまう。
3周回目から先頭に立ったリチャーズは2位のテルプストラに1分差、後続集団とは2分半差と安全圏のリードを維持して最終周回へ。後続集団はフライ、ネフ、ヴウォシュチョヴスカ、フェランプレヴォの4名での銅メダル争いを展開した。
アグレッシブな走りで集団から抜け出したイヴィ・リチャーズ(イギリス) photo:Val di Sole 2021
フェランプレヴォが最初に集団から脱落し、2010年の世界チャンピオンであり、今季限りでの引退を表明しているヴウォシュチョヴスカが全盛期を感じさせる力強い走りでメダル争いを進めたが、コース中盤のテクニカルセクションでミスを犯し集団から脱落。レース最終盤で表彰台メンバーはリチャーズとテルプストラ、フライ、ネフの4人に絞られた。
最終的に5周回目のテクニカルセクションを笑顔でこなしたリチャーズがアルカンシェルを獲得。3位には女子としてはオランダ勢初の表彰台獲得のテルプストラ。3位にはネフとのスプリント勝負を制したフライが入った。
英国初のXCO世界王者となったイヴィ・リチャーズ photo:Val di Sole 2021
英国初のクロスカントリーでのアルカンシェル。表彰台の頂上でイギリス国歌を聴いたリチャーズは次の様に語った。「世界チャンピオンになったなんて信じられない。この世界選手権に臨むにあたり、実は自分のパフォーマンスにあまり自信を持てずにレース会場にやってきた部分があった。ただ今日のレースを走る中で徐々に「今日は私が輝く日だ」と思えるようになり、走りでそれを実現することが出来た。信じられないほど嬉しい。7位で終わってしまった東京五輪の後は3週間を過ごし、次のレースでは良い走りが出来ればいいなと思って、厳しいトレーニングを積んできた。今日はそれを皆さんの前に示す事ができて嬉しい。
(イギリス人初の世界チャンピオンと言う事で)、母国での連盟やチームスタッフの皆とは長年に渡ってテクニックの向上に取組んできた。コーチや全ての仲間のみんなに感謝している。これまで支えてきてくれた皆さんに心から想いを伝えたい。本当にありがとう。」
MTB世界選手権2021 女子エリート表彰式:2位アン・テルプストラ(オランダ)、1位イヴィ・リチャーズ(イギリス)、3位シーナ・フライ(スイス) photo:Val di Sole 2021
6位でゴールし、2年間着用していたアルカンシェルを失うこととなったフェランプレヴォは以下の通りコメントしている。「スタートから身体の調子の良さを感じ、自分の得意とする形のレースに出来ればと思い、序盤から積極的に攻めたが、3周回目で脚が燃え尽きてしまい、そこからペースを取り戻すも追走者をキャッチアップする事もできなかった。残念な結果となったが、自分の戦い方で今持ってるベストの走りをする事ができたと思うので、この結果は受け入れている。新たな世界チャンピオンとなったリチャーズの走りはアルカンシェルに相応しい素晴らしい走りだったと思う。続くシーズンで彼女と競える事を楽しみにしているし、女子レースを盛り上げてくれると思う。」
2021年のMTBシーズンは9月3日からスイス・レンツァーハイデ大会、9月17日からのアメリカ・スノーシューでのワールドカップを残す。新チャンピオンのアルカンシェルの活躍に期待したい。
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28日現地の天気予報は雨と17度前後の気温を示していたが、予報は外れ、心配されたまとまった雨は降らなかった。エリートレースの時間帯には気温も上がり、コースは砂埃が舞うほどのドライコンディション。スキー場の急峻な斜面を大きく2回登り、テクニカルなダウンヒルを一気に下る「定番」とも言えるスタイルのコースで、女子エリートは5周回のレースが行われた。
スタートラップでは誰も集団から飛び出さず、上位陣が集団前方を固め出方をうかがうという均衡状態から幕を開けた。5分間程度の膠着の後に本周回に入ると、闘いの口火を切ったのは2年連続世界チャンピオンのポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス)。圧倒的な登坂力で本コース内で最初に登場するロングクライムの頂上時点で30秒差をつけ、2周回目S/F地点通過時には40秒近いリードを獲得してみせた。
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序盤からの独走優勝を飾った2020年の世界選手権の再来か。そう思わせるほどのリードを築いたフェランプレヴォ。レースを走る本人も、コースサイドのフランスチームのスタッフにも、その表情には自信と安心感が垣間見えたシーンもあった。
そしてフェランプレヴォの後続にはシーナ・フライ(スイス)、イビィ・リチャーズ(イギリス)、アン・テルプストラ(オランダ)、レベッカ・マコンネル(オーストラリア)、ヨランダ・ネフ(スイス)、マヤ・ヴウォシュチョヴスカ(ポーランド)ら、の上位勢の面々が続く。
フェランプレヴォの独走を許すムードの漂う集団に、スタートから続いた膠着状態を打破しようと、フライやリチャーズが積極的に先頭を牽引し、レースの活性化を図った。リチャーズが2周回目の序盤の登坂で集団からアタックを仕掛け、単独2番手でトップのフェランプレヴォを追いかける始めた。
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登坂でも下り区間でも上体を前傾させ、アグレッシブに突き進むリチャーズの追走は、レース展開をひっくり返す決定的なアタックとなった。2周回終了時点でフェランプレヴォのリードを奪い返し、そのままの勢いを維持してフェランプレヴォを突き放す。リチャーズと共に走ることになったフェランプレヴォはリズムを崩し、レース序盤での堂々と、そして淡々とした登坂フォームが乱れ、リチャーズから脱落するまでに失速してしまう。
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このフェランプレヴォのパワーダウンに、追走集団は一気に活性化を見た。世界選手権の2週間前に開催された欧州選手権で2位を獲得したテルプストラが、登坂のピーク手前でのアタックから得意とするテクニカルセクションで勢いをつけ、4周回目にはフェランプレヴォを捕捉。フェランプレヴォはテルプストラのペースにも合わせることが出来ず、最終周回には後続集団にまで後退してしまう。
3周回目から先頭に立ったリチャーズは2位のテルプストラに1分差、後続集団とは2分半差と安全圏のリードを維持して最終周回へ。後続集団はフライ、ネフ、ヴウォシュチョヴスカ、フェランプレヴォの4名での銅メダル争いを展開した。
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フェランプレヴォが最初に集団から脱落し、2010年の世界チャンピオンであり、今季限りでの引退を表明しているヴウォシュチョヴスカが全盛期を感じさせる力強い走りでメダル争いを進めたが、コース中盤のテクニカルセクションでミスを犯し集団から脱落。レース最終盤で表彰台メンバーはリチャーズとテルプストラ、フライ、ネフの4人に絞られた。
最終的に5周回目のテクニカルセクションを笑顔でこなしたリチャーズがアルカンシェルを獲得。3位には女子としてはオランダ勢初の表彰台獲得のテルプストラ。3位にはネフとのスプリント勝負を制したフライが入った。
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英国初のクロスカントリーでのアルカンシェル。表彰台の頂上でイギリス国歌を聴いたリチャーズは次の様に語った。「世界チャンピオンになったなんて信じられない。この世界選手権に臨むにあたり、実は自分のパフォーマンスにあまり自信を持てずにレース会場にやってきた部分があった。ただ今日のレースを走る中で徐々に「今日は私が輝く日だ」と思えるようになり、走りでそれを実現することが出来た。信じられないほど嬉しい。7位で終わってしまった東京五輪の後は3週間を過ごし、次のレースでは良い走りが出来ればいいなと思って、厳しいトレーニングを積んできた。今日はそれを皆さんの前に示す事ができて嬉しい。
(イギリス人初の世界チャンピオンと言う事で)、母国での連盟やチームスタッフの皆とは長年に渡ってテクニックの向上に取組んできた。コーチや全ての仲間のみんなに感謝している。これまで支えてきてくれた皆さんに心から想いを伝えたい。本当にありがとう。」
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6位でゴールし、2年間着用していたアルカンシェルを失うこととなったフェランプレヴォは以下の通りコメントしている。「スタートから身体の調子の良さを感じ、自分の得意とする形のレースに出来ればと思い、序盤から積極的に攻めたが、3周回目で脚が燃え尽きてしまい、そこからペースを取り戻すも追走者をキャッチアップする事もできなかった。残念な結果となったが、自分の戦い方で今持ってるベストの走りをする事ができたと思うので、この結果は受け入れている。新たな世界チャンピオンとなったリチャーズの走りはアルカンシェルに相応しい素晴らしい走りだったと思う。続くシーズンで彼女と競える事を楽しみにしているし、女子レースを盛り上げてくれると思う。」
2021年のMTBシーズンは9月3日からスイス・レンツァーハイデ大会、9月17日からのアメリカ・スノーシューでのワールドカップを残す。新チャンピオンのアルカンシェルの活躍に期待したい。
MTB世界選手権 XCO女子エリート 結果
1位 | イヴィ・リチャーズ(イギリス) | 1:23:52 |
2位 | アン・テルプストラ(オランダ) | +1:03 |
3位 | シーナ・フライ(スイス) | +1:08 |
4位 | ヨランダ・ネフ(スイス) | +1:08 |
5位 | マヤ・ヴウォシュチョヴスカ(ポーランド) | +1:47 |
6位 | ポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス) | +2:35 |
7位 | レベッカ・マコンネル(オーストラリア) | +2:45 |
8位 | アン・タウバー(オランダ) | +2:56 |
9位 | マレネ・デグン(デンマーク) | +3:17 |
10位 | アレッサンドラ・ケラー(スイス) | +3:20 |
text:Yoshinori Suzuki
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