平均勾配9.4%の3級山岳アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラを粘り強く登り続けたマグナス・コルト(EFエデュケーション・NIPPO)が逃げ切り勝利。ブエルタ・ア・エスパーニャ第6ステージを終えて、プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)が首位に返り咲いた。
8月19日(木)第6ステージ
レケナ〜アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラ 158.3km
スペイン第三の都市バレンシアを通過する逃げグループ photo:Unipublic
ブルゴスで開幕したブエルタ・ア・エスパーニャは大会6日目に地中海に到達。第6ステージは一見するとスプリンター向きの「平坦ステージ」だが、バレンシア通過後にひたすら平坦なオーシャンロードを走ってから突如コースは上昇を開始する「山岳ステージ」。残り2kmを切ってすぐに、3級山岳アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラ(全長1.9km・平均9.4%)の登りが始まる。ずっと平坦路&突如急坂というブエルタらしい刺激的なレイアウトが用意された。
8月19日(木)第6ステージ レケナ〜アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラ 158.3km image:Unipublic
8月19日(木)第6ステージ レケナ〜アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラ 158.3km image:Unipublic
(総合系チームもスプリンターチームも状況をコントロールせず)逃げ切りにチャンスが回ってくると判断したチームがスタート直後からアタックを連発した。フロリアン・セネシャル(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)やマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)も加わったアタック合戦の末に5名がメイン集団から脱出成功。UCIワールドチームライダー3名を含む逃げグループが形成されるまで距離にして50km、時間にして1時間を要した。
逃げグループを形成した5名
ライアン・ギボンズ(南アフリカ、UAEチームエミレーツ)
マグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・NIPPO)
ベルトヤン・リンデマン(オランダ、クベカ・ネクストハッシュ)
イェツセ・ボル(オランダ、ブルゴスBH)
ジョアン・ボウ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)
マイヨロホの落車という思わぬ形で総合リーダーチームとなったトレック・セガフレードは、メイン集団先頭に見張り役の選手を立たせたものの、逃げグループを捕まえてステージ優勝争いに持ち込みたいという意思は見せなかった。代わってステージ中盤に集団牽引を開始したのはバイクエクスチェンジ。「集団内で走ってステージ2位を狙うのではなく、ステージ優勝を狙うためにブエルタを走っている」というマイケル・マシューズ(オーストラリア)率いるオーストラリアチームのコントロールにより、逃げグループのリードが3分前後で推移した状態でステージ後半へと入っていく。
最大7分のリードで逃げるマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・NIPPO)ら photo:Unipublic
海風に警戒しながら進むナーバスなメイン集団 photo:Unipublic
地中海から吹き付ける海風と砂の浮いたラウンドアバウトに神経を尖らせながらメイン集団は進む。その緊張感が増したのは残り33km地点。道が細くなり、横風が吹き付ける農道区間でイネオス・グレナディアーズが組織的にペースアップを図ると、メイン集団はいくつかのエシュロンに砕かれた。
この横風ペースアップはマイヨロホのケニー・エリッソンド(フランス、トレック・セガフレード)を含めて多くの脱落者を生んだものの、アダム・イェーツ(イギリス)を後方に置き去りにしてしまったイネオス・グレナディアーズが踏むのをやめたため一旦は集団が一つに。常に集団先頭に人数を集めたモビスターは再度通過する横風農道区間(残り15km地点)に向かってペースを上げると、2020年大会総合3位ヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーション・NIPPO)が脱落した。
しかしこの動きも致命的な脱落者を生まず、遅れていたカーシーも残り8km地点でメイン集団に復帰。こうした横風ペースアップによって逃げグループとのタイム差は1分を切り、いよいよタイム差20秒で最後の3級山岳アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラに突入する。麓から10%の勾配が続くこの急坂で、逃げグループとメイン集団はそれぞれ崩壊した。
マイヨロホのケニー・エリッソンド(フランス、トレック・セガフレード) photo:Unipublic
安全確保のためにメイン集団の先頭に陣取るモビスター photo:Unipublic
地元出身ボウのアタックを切っ掛けに崩れた逃げグループはコルトとリンデマンの2人に絞られ、そのすぐ後ろにはジョナタン・ナルバエス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)率いるメイン集団が迫る。リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)が付き切れしてしまうほどのナルバエスの引きが終わると、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、モビスター)やプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)が集団先頭でペースメイク。エリッソンドやカーシーがすぐさま脱落した一方で、一流クライマーたちに混じってマシューズが勝負に残った。
独走に持ち込んだコルトを追いかける形でマシューズとアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック)が猛チェイス。吸収待ったなしと思われたが、ここからコルトが驚異的な粘りを見せる。マシューズの勢いが弱まると今度はログリッチがアンドレア・バジオーリ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)を引き連れてカウンターアタック。最終コーナーでログリッチは先頭コルトをついに捕えたが、追い抜くことができないことを悟ると踏むのを弱めた。
20秒先行した状態で3級山岳の登坂を開始し、逃げメンバーをふるい落とし、メイン集団を振り切ったコルトがステージ優勝。タイム差なしのステージ2位に入ったログリッチが総合ライバルたちからリードを奪うとともに総合首位の座に復帰した。
ログリッチらを振り切ってフィニッシュするマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・NIPPO) photo:Unipublic
「この勝利はスペシャル。これまでは集団スプリントでの勝利だったけど、今日はこうして別の方法で勝つことができた」と、手に汗握る逃げ切り勝利を果たしたコルト。2016年大会の最終日マドリードを含めてこれまで集団スプリントでステージ3勝を飾っている「登れるスプリンター」のコルトが今大会2回目の山頂フィニッシュを制した。ツール・ド・フランスでは逃げの展開からステージ優勝を経験している。
「残り150mで振り返るとログリッチが迫ってきているのが見えた。自分にできるのはフィニッシュラインまで全力で踏み続けること。幸い彼を振り切ることができてよかったよ」。ポイント配分の低い「山岳ステージ」のため大量ポイント獲得はならなかったが、コルトはポイント賞3位に浮上している。コルトがEFエデュケーション・NIPPOにシーズン11勝目をもたらしたこの日、2分50秒遅れた総合エースのカーシーは実質的にマイヨロホ争いから脱落した。
「今日の目標はトラブルに巻き込まれることなく最後の登りで良い走りをすること。先頭のコルトはステージ優勝に値する走りだったし、自分のパフォーマンスに満足している」と語るのは第3ステージで手放していたマイヨロホに再び袖を通したログリッチ。「まだブエルタは序盤にすぎず、先は長い。明日以降、チームとしてこのリーダージャージを守り続けるかどうかはわからない」と、首位再譲渡の可能性を匂わせている。
ステージ通算4勝目を飾ったマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・NIPPO) photo:CorVos
3日間手放していたマイヨロホに再び袖を通したプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
8月19日(木)第6ステージ
レケナ〜アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラ 158.3km

ブルゴスで開幕したブエルタ・ア・エスパーニャは大会6日目に地中海に到達。第6ステージは一見するとスプリンター向きの「平坦ステージ」だが、バレンシア通過後にひたすら平坦なオーシャンロードを走ってから突如コースは上昇を開始する「山岳ステージ」。残り2kmを切ってすぐに、3級山岳アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラ(全長1.9km・平均9.4%)の登りが始まる。ずっと平坦路&突如急坂というブエルタらしい刺激的なレイアウトが用意された。


(総合系チームもスプリンターチームも状況をコントロールせず)逃げ切りにチャンスが回ってくると判断したチームがスタート直後からアタックを連発した。フロリアン・セネシャル(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)やマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)も加わったアタック合戦の末に5名がメイン集団から脱出成功。UCIワールドチームライダー3名を含む逃げグループが形成されるまで距離にして50km、時間にして1時間を要した。
逃げグループを形成した5名
ライアン・ギボンズ(南アフリカ、UAEチームエミレーツ)
マグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・NIPPO)
ベルトヤン・リンデマン(オランダ、クベカ・ネクストハッシュ)
イェツセ・ボル(オランダ、ブルゴスBH)
ジョアン・ボウ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)
マイヨロホの落車という思わぬ形で総合リーダーチームとなったトレック・セガフレードは、メイン集団先頭に見張り役の選手を立たせたものの、逃げグループを捕まえてステージ優勝争いに持ち込みたいという意思は見せなかった。代わってステージ中盤に集団牽引を開始したのはバイクエクスチェンジ。「集団内で走ってステージ2位を狙うのではなく、ステージ優勝を狙うためにブエルタを走っている」というマイケル・マシューズ(オーストラリア)率いるオーストラリアチームのコントロールにより、逃げグループのリードが3分前後で推移した状態でステージ後半へと入っていく。


地中海から吹き付ける海風と砂の浮いたラウンドアバウトに神経を尖らせながらメイン集団は進む。その緊張感が増したのは残り33km地点。道が細くなり、横風が吹き付ける農道区間でイネオス・グレナディアーズが組織的にペースアップを図ると、メイン集団はいくつかのエシュロンに砕かれた。
この横風ペースアップはマイヨロホのケニー・エリッソンド(フランス、トレック・セガフレード)を含めて多くの脱落者を生んだものの、アダム・イェーツ(イギリス)を後方に置き去りにしてしまったイネオス・グレナディアーズが踏むのをやめたため一旦は集団が一つに。常に集団先頭に人数を集めたモビスターは再度通過する横風農道区間(残り15km地点)に向かってペースを上げると、2020年大会総合3位ヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーション・NIPPO)が脱落した。
しかしこの動きも致命的な脱落者を生まず、遅れていたカーシーも残り8km地点でメイン集団に復帰。こうした横風ペースアップによって逃げグループとのタイム差は1分を切り、いよいよタイム差20秒で最後の3級山岳アルト・デ・ラ・モンターニャ・デ・クリェラに突入する。麓から10%の勾配が続くこの急坂で、逃げグループとメイン集団はそれぞれ崩壊した。


地元出身ボウのアタックを切っ掛けに崩れた逃げグループはコルトとリンデマンの2人に絞られ、そのすぐ後ろにはジョナタン・ナルバエス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)率いるメイン集団が迫る。リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)が付き切れしてしまうほどのナルバエスの引きが終わると、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、モビスター)やプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)が集団先頭でペースメイク。エリッソンドやカーシーがすぐさま脱落した一方で、一流クライマーたちに混じってマシューズが勝負に残った。
独走に持ち込んだコルトを追いかける形でマシューズとアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック)が猛チェイス。吸収待ったなしと思われたが、ここからコルトが驚異的な粘りを見せる。マシューズの勢いが弱まると今度はログリッチがアンドレア・バジオーリ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)を引き連れてカウンターアタック。最終コーナーでログリッチは先頭コルトをついに捕えたが、追い抜くことができないことを悟ると踏むのを弱めた。
20秒先行した状態で3級山岳の登坂を開始し、逃げメンバーをふるい落とし、メイン集団を振り切ったコルトがステージ優勝。タイム差なしのステージ2位に入ったログリッチが総合ライバルたちからリードを奪うとともに総合首位の座に復帰した。

「この勝利はスペシャル。これまでは集団スプリントでの勝利だったけど、今日はこうして別の方法で勝つことができた」と、手に汗握る逃げ切り勝利を果たしたコルト。2016年大会の最終日マドリードを含めてこれまで集団スプリントでステージ3勝を飾っている「登れるスプリンター」のコルトが今大会2回目の山頂フィニッシュを制した。ツール・ド・フランスでは逃げの展開からステージ優勝を経験している。
「残り150mで振り返るとログリッチが迫ってきているのが見えた。自分にできるのはフィニッシュラインまで全力で踏み続けること。幸い彼を振り切ることができてよかったよ」。ポイント配分の低い「山岳ステージ」のため大量ポイント獲得はならなかったが、コルトはポイント賞3位に浮上している。コルトがEFエデュケーション・NIPPOにシーズン11勝目をもたらしたこの日、2分50秒遅れた総合エースのカーシーは実質的にマイヨロホ争いから脱落した。
「今日の目標はトラブルに巻き込まれることなく最後の登りで良い走りをすること。先頭のコルトはステージ優勝に値する走りだったし、自分のパフォーマンスに満足している」と語るのは第3ステージで手放していたマイヨロホに再び袖を通したログリッチ。「まだブエルタは序盤にすぎず、先は長い。明日以降、チームとしてこのリーダージャージを守り続けるかどうかはわからない」と、首位再譲渡の可能性を匂わせている。


ブエルタ・ア・エスパーニャ2021第6ステージ結果
1位 | マグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・NIPPO) | 3:30:53 |
2位 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) | |
3位 | アンドレア・バジオーリ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) | 0:00:02 |
4位 | アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック) | 0:00:04 |
5位 | エンリク・マス(スペイン、モビスター) | |
6位 | マイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ) | 0:00:06 |
7位 | エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) | 0:00:08 |
8位 | アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) | |
9位 | ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、モビスター) | 0:00:09 |
10位 | フェリックス・グロスシャートナー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) | 0:00:16 |
11位 | ダビ・デラクルス(スペイン、UAEチームエミレーツ) | 0:00:21 |
12位 | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード) | 0:00:25 |
16位 | ファビオ・アル(イタリア、クベカ・ネクストハッシュ) | 0:00:27 |
19位 | ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) | |
20位 | リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) | |
59位 | ヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーション・NIPPO) | 0:02:50 |
67位 | ケニー・エリッソンド(フランス、トレック・セガフレード) | 0:04:30 |
75位 | 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) | 0:04:59 |
マイヨロホ 個人総合成績
1位 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) | 21:04:49 |
2位 | エンリク・マス(スペイン、モビスター) | 0:00:25 |
3位 | ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、モビスター) | 0:00:36 |
4位 | アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) | 0:00:41 |
5位 | エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) | |
6位 | アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック) | 0:00:53 |
7位 | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード) | 0:00:58 |
8位 | リリアン・カルメジャーヌ(フランス、アージェードゥーゼール・シトロエン) | 0:01:04 |
9位 | ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) | 0:01:12 |
10位 | ファビオ・アル(イタリア、クベカ・ネクストハッシュ) | 0:01:17 |
マイヨプントス(ポイント賞ジャージ)
1位 | ヤスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・フェニックス) | 131pts |
2位 | ファビオ・ヤコブセン(オランダ、ドゥクーニンク・クイックステップ) | 130pts |
3位 | マグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・NIPPO) | 67pts |
マイヨモンターニャ(山岳賞ジャージ)
1位 | レイン・タラマエ(エストニア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) | 10pts |
2位 | ケニー・エリッソンド(フランス、トレック・セガフレード) | 7pts |
3位 | ジョー・ドンブロウスキー(アメリカ、UAEチームエミレーツ) | 6pts |
マイヨブランコ(ヤングライダー賞ジャージ)
1位 | エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) | 21:05:30 |
2位 | アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック) | 0:00:12 |
3位 | フアン・ロペス(コロンビア、トレック・セガフレード) | 0:01:24 |
チーム総合成績
1位 | モビスター | 63:16:06 |
2位 | イネオス・グレナディアーズ | 0:01:32 |
3位 | UAEチームエミレーツ | 0:01:39 |
text:Kei Tsuji
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