シエナの美しい丘陵地帯を舞台にした第15回ストラーデビアンケで、マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)がアラフィリップとベルナルを打破。砂埃舞う白い未舗装レースでシクロクロス世界チャンピオンが初優勝を飾った。



断続的にアップダウンが続く未舗装セクター断続的にアップダウンが続く未舗装セクター photo:LaPresse / RCS Sport

ストラーデビアンケ2021コースマップストラーデビアンケ2021コースマップ photo:LaPresse / RCS Sportイタリア語で『白い道』を意味するストラーデビアンケ(UCIワールドツアー)が、3月6日、イタリア中部トスカーナ州のシエナ近郊に広がる丘陵地帯で開催された。

登場する未舗装区間は合計11セクター・全長63km。その長さは1kmから長さが12km近くに達するものまで様々で、急勾配の登りを含む難所が終盤にかけて連続する。

フィニッシュラインが引かれているのは丘の上に位置するシエナ中心部のカンポ広場。その手前には最大勾配が16%に達するサンタカテリーナ通りの石畳坂が登場するなど、悪路を走るパワーとテクニックに加えて登坂力が欠かせない。

ストラーデビアンケ2021コースプロフィールストラーデビアンケ2021コースプロフィール photo:LaPresse / RCS Sport
コース全長は184km(獲得標高差3,200m)と決して長くなく、しかも開催15回目という『若いクラシックレース』だが、ロードレースカレンダーの中で年々その注目度を上げている。2019年大会の優勝者で世界チャンピオンのジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が「モニュメントの一つに数えられてもいいはず」と称えるほどの格式の高さ。2021年大会には名だたるクラシックレーサーはもちろん、グランツールの総合優勝経験者など例年以上に競技レベルが高いオールスターズが出揃った。

数日前まで悪天候の予報も出ていたが、レース当日は気温13度ほどの晴れ。『白い道』は今年も白く、紀元前からその姿に大きな変化がないとも言われているオルチャ渓谷を進むプロトンを徐々に白く染めていく。ワインの産地モンタルチーノをかすめ、距離的にレース後半に差し掛かると、いまだ誰も達成していない大会連覇を狙うユンボ・ヴィスマが集団先頭に立った。

砂埃を巻き上げながらプロトンは進む砂埃を巻き上げながらプロトンは進む photo:LaPresse / RCS Sport
ワイルドカード枠で出場した各UCIプロチームが欠かさず選手を送り込んだ逃げから約1分のタイム差で、ユンボ・ヴィスマ率いるメイン集団がセクター6までをクリア。続く「セクター7 残り72km サンマルティーノ・イン・グラニア 全長9.5km」で早くも逃げをすべて吸収してしまうと、続いてグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、アージェードゥーゼール・シトロエン)らが攻勢に出たが、結果的には大きなリードは奪えなかった。

トスカーナ州の未舗装路を舞台にしたストラーデビアンケトスカーナ州の未舗装路を舞台にしたストラーデビアンケ photo:LaPresse / RCS Sport
相次ぐパンク、落車、メカトラによって人数を減らすプロトンは、正式に『カンチェラーラセクター』と名付けられた「セクター8 残り54km モンテ・サンテ・マリエ 全長11.5km」で決定的に絞り込まれることになる。ディフェンディングチャンピオンのワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)とアラフィリップの加速により先頭は精鋭8名に。出場選手の平均年齢が28歳というレースで、全員が28歳以下という若い先頭グループが出来上がった。

精鋭グループを形成した8名
ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)28歳
ミヒャエル・ゴグル(オーストリア、クベカ・アソス)27歳
マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)26歳
ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)26歳
エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)24歳
タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)22歳
トム・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)21歳
クイン・シモンズ(アメリカ、トレック・セガフレード)19歳

出遅れたヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ)やティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)らの追走グループは追いつきそうで追いつかない。結局このセクター8で形成された先頭グループがシエナまで先行することになったが、唯一シモンズだけがパンクで後退を余儀なくされている。

セクター8で先頭グループを形成したマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)らセクター8で先頭グループを形成したマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)ら photo:LaPresse / RCS Sportパンクするまで精鋭グループ内で展開した19歳のクイン・シモンズ(アメリカ、トレック・セガフレード)パンクするまで精鋭グループ内で展開した19歳のクイン・シモンズ(アメリカ、トレック・セガフレード) photo:CorVos
ファンデルプールとファンアールトという、名実ともにロードレースのトップ選手に上り詰めた新旧シクロクロス世界チャンピオンに対して執拗にジャブを打ったのはアラフィリップだった。「セクター9 残り24km モンテ・アペルティ 全長0.8km」でのアラフィリップのアタックに出遅れたのは、今シーズン初戦のファンアールトと、そのファンアールトをマークしていたピドコック。遅れた両者はその後の「セクター10 残り19km コッレ・ピンツート 全長2.4km」で先頭に復帰したものの、切れ味の鈍さは明らかだった。

シクロクロスとマウンテンバイク出身者で構成された先頭グループがいよいよ最後の「セクター11 残り13km レ・トルフェ 全長1.1km」に突入する。最大勾配が18%に達するこの最大の勝負どころで、巧みなトラクションコントロールを効かせながらのダンシング全開アタックを仕掛けたファンデルプールに、アラフィリップとベルナルだけが追いついて先頭は3名。現オランダチャンピオンと現ワールドチャンピオン、2019年ツール覇者の先行で残り10kmを切った。

レースをリードするワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)とマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)レースをリードするワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)とマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:CorVos最後のセクター11の急勾配区間でアタックするマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)最後のセクター11の急勾配区間でアタックするマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:CorVos
ファンアールトらの追走は届かずに残り1km。シエナ旧市街地への入場を意味するフォンテブランダ門をくぐり、最大勾配16%のサンタカテリーナ通りの石畳坂に入るとファンデルプールが麓からがペースを上げていく。そしてそのまま先頭で踏んでいく。誰もが予想していたファンデルプールのアタック。アラフィリップにもベルナルにも、その加速に対抗する力は残っていなかった。

シエナ人が『世界一美しい』と胸を張るカンポ広場に、ファンデルプールが渾身のガッツポーズを繰り出しながらフィニッシュ。1年前(正確には7ヶ月前)にパンクでチャンスを失ったファンデルプールが「何としても勝ちたいと願っていたレース」で圧勝した。

先頭グループを形成したマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)先頭グループを形成したマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) photo:LaPresse / RCS Sportシエナ旧市街のサンタカテリーナ通りでアラフィリップらを置き去りにしたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)シエナ旧市街のサンタカテリーナ通りでアラフィリップらを置き去りにしたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:LaPresse / RCS Sport

「ポガチャルやベルナルといった強力なクライマーも出場するこのストラーデビアンケは世界で最も勝つのが難しいレースの一つ。ここまで総合系選手を含めた多くのチャンピオンが勢揃いするワンデークラシックは珍しい。でも調子は良かったし、自信を持ってレースに挑めていた。前半から力をセーブして、後半の正しいタイミングでのアタックに備えていたんだ」。シーズン初戦のUAEツアー第1ステージで優勝しながらも、チームスタッフの新型コロナスタッフ陽性によりレースを撤退していたファンデルプール。シクロクロスシーズンの調子をそのまま継続している印象の26歳は、休むことなくクラシックシーズンに挑む。

「来週ティレーノ〜アドリアティコに出場予定。そこでも勝利を狙っていくと同時に、ミラノ〜サンレモに向けて調子を整えたい」とファンデルプールは突き進む。イタリア連戦後は、E3サクソバンククラシック、ドワーズ・ドール・フラーンデレン、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ〜ルーベに出場する予定だ。

ストラーデビアンケ初制覇を果たしたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)ストラーデビアンケ初制覇を果たしたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:LaPresse / RCS Sport
2位ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、1位マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)、3位エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)2位ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、1位マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)、3位エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) photo:LaPresse / RCS Sport
ストラーデビアンケ2021結果
1位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) 4:40:29
2位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:00:05
3位 エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) 0:00:20
4位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 0:00:51
5位 トム・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) 0:00:54
6位 ミヒャエル・ゴグル(オーストリア、クベカ・アソス)
7位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)
8位 サイモン・クラーク(オーストラリア、クベカ・アソス) 0:02:25
9位 ヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ)
10位 ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) 0:02:39
text:Kei Tsuji
photo:LaPresse, CorVos

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