2021/01/10(日) - 09:08
スイスの総合バイクブランド、BMCのフラッグシップレーサー"Teammachine SLR01"をインプレッション。BMCらしさはそのままに、エアロ化するオールラウンダーのトレンドを掴み、活躍の幅を広げた第4世代の実力に迫る。
BMC Teammachine SLR01 FOUR (c)Makoto AYANO/cyclowired.jp
高級時計や光学機器といった精密機械産業を得意とするスイス・グレンヒェンを拠点とし、オリジナリティ溢れる設計思想を持ったバイクブランド、BMC。モノづくりにかける情熱だけでなく、レースへの比類ない愛と残してきた実績も世界トップレベルのブランドだ。
そんなBMCが誇るレーシングバイクのフラッグシップモデルが"Teammachine SLR01"。10年前にSLC01から旗艦を受け継ぎ、以来3度にわたるモデルチェンジを経て第4世代へと進化してきた。
SLRシリーズが残してきた成績は、数多あるレーシングバイクの中でも際立っている。カデル・エヴァンス(オーストラリア)によるマイヨジョーヌ獲得やグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー)によるリオオリンピックでの金メダル、その他にも世界選手権やモニュメントなど、SLR01はロードレースにおけるほぼすべての栄冠を勝ち取ってきた。
見る角度を変えると複雑な形状が姿を現す新型SLR
タイヤクリアランスも幅広くとられている
左右非対称設計を推し進めたフロントフォーク
そんな稀代の名車のフルモデルチェンジにあって、BMCが用意したのが"ACE+"テクノロジーだ。まずは、そのベースとなったACE(Accelerated Composites Evolution)テクノロジーについて簡単に解説すると、剛性と重量、柔軟性という3つの要素をパラメーターとして膨大な数のコンピューター解析およびモデリングを行い、その中から最適な設計を選び出すというアプローチだ。
今回のモデルチェンジにあたり、BMCはACEテクノロジーを更に推し進め、「空気抵抗」という変数を追加したACE+テクノロジーへと進化させた。エアロ化するオールラウンドコンペティティブバイクという現在の潮流をしっかりと乗りこなすための新たな武器がACE+テクノロジーだと言えよう。
ボリュームを増し空力を向上させたヘッドチューブ周辺のデザイン
新たなICS2ステムを採用する
スルーアクスルが貫通しないステルスドロップエンドを採用。
カムテール形状のダウンチューブ。エアロコアケージを採用し空力を向上
ACE+テクノロジーによって大きな変化がもたらされたのはフレームの各部形状。特にヘッドチューブ周辺やフロントフォークといったフレーム前方部だ。ヘッドチューブは前作に比べ前後方向へボリュームアップしつつ、カムテールデザインを導入することで、空力性能と安定性、剛性の向上を実現した。
フロントフォークのブレード形状もより空力を意識したカムテールデザインが与えられている。さらに、ディスクブレーキのストッピングパワーに対応するため、左右のブレ―ドは一目見てわかるほどボリュームの異なる非対称設計とされ、剛性バランスとエアロダイナミクスを高度にバランスした。
ヘッドチューブとフロントフォークという、空気が真っ先にあたる部分のエアロ効果を改善することに成功した新型SLR01だが、改善点はそこにとどまらない。フロントホイールで生まれた空気の流れを受けるダウンチューブでは、同社のエアロロードであるTimemachine ROADで開発したAEROCORE(エアロコア)ボトルケージシステムを採用。ダウンチューブとの隙間を埋めるようなデザインの専用ケージによって、さらなる空気抵抗の低減を実現している。
BB周辺も無駄を省いたデザインに
フラットマウントキャリパーとのクリアランスも突き詰められている
新たなケーブルフル内装システムの採用も新型SLR 01の大きな変更点だ。空気抵抗の低減に非常に大きな影響を与えるコックピット周りのインテグレートデザインを煮詰めることで、空力のみならず、重量や剛性、更にはユーザビリティの向上を実現した。
新世代のICSテクノロジーには、ステム一体型ハンドルの"ICS Carbon Cockpit"と、自由なハンドルチョイスを実現する専用ステム"ICS2"の2つが用意されている。ケーブルを一切露出することのないエアロ形状を突き詰めつつ、高い剛性と305gという軽量性を実現したICS Carbon Cockpitは、新型SLR01の性能を徹底的に引き出すためには欠かせないピースとなるだろう。
一方、ハンドルの形状にこだわりを持つライダーはICS2ステムを使用できる。前モデルより15gの軽量化を果しつつ、よりスリークでクリーンなルックスを実現。無駄なくスマートなケーブルカバーは優れた空力性能を生み出した。
トレンドとなったドロップドシートステー、SLRが先鞭をつけたデザインだ
D型
Timemachine ROADで開発したAEROCORE(エアロコア)ボトルケージシステムを採用
ACE+テクノロジーによって再設計されたフレームは、剛性面や快適性、軽量化といった従来のACEテクノロジーで計算されていた分野においても進化を果している。数値にすると、6%速く、9%軽く、20%の剛性向上を果しているという。重量面においては、フレームこそ815gから820gへと5g増加しているが、フォークは-50g、シートポストは-10g、コックピットは-105g、トータルで-160gの軽量化を果した。
また、細やかなディテールにもこだわりが詰まっている。その最も象徴的な部分がステルス・ドロップアウトデザインと名付けられたエンド部分の処理だろう。スルーアクスルのメス側をフレームに完全内蔵の非貫通式とすることで、より滑らかなルックスと高い固定力を実現。それは、つまりエアロであり高剛性にもつながるということだ。
一目でSLRシリーズとわかるデザインはそのままに、最先端のトレンドを抑えつつ、更にその先を行く性能を与えられた新型SLR01。今回インプレッションするのは、アルテグラDI2 完成車のTeammachine SLR01 FOURだ。それでは、さっそくインプレッションに移ろう。
― インプレッション
「過去のSLRの魅力を統合した上に空力を向上させたトータルレースバイク」
錦織大祐(フォーチュンバイク)
一言でいうとトータルレースバイクとして非常に高水準にまとまった一台で、あらゆるシチュエーションで使えるバイクです。これまでの歴代BMCバイクの要素が余すところなく取り入れられつつ、それらが喧嘩することなく調和している。剛性も上がっているけれど、踏んだ時の反発は少なく、それでいて空力も明らかに良くなっていて、振動吸収性の良さも何一つ失っていない。まさに万能バイクです。
「過去のSLRの魅力を統合した上に空力を向上させたトータルレースバイク」 錦織大祐(フォーチュンバイク)
歴代のSLRは全てテストライドしているのですが、モデルチェンジするたびに驚かされてきました。ACEテクノロジーを取り入れた、2つ前のモデルから劇的にアプロ―チが変わってきていました。
簡単にまとめると、前々作は軽量でシャープな反応性が特徴的でした。前作ではディスクブレーキを採用して、トータルバランスを向上させたバイクだったのですが、エアロに関してはホイール任せ、というようなモデルでした。なので今回はちょっとエアロになるだけでも一定の評価を得ることはできたはずなんですが、予想以上の完成度でしたね。
ACEテクノロジー採用以降のBMCバイクは、正直モデルチェンジのハードルが高いと思うんです。その時点での一つの最適解を導き出しているわけですから、どうしたって乗り越えるべき壁が高い。SLRについては、それを2度も乗り越えて成功している。今回はこんな答えを出すんだな、とモデルチェンジの度に驚かされています。
今回大きなアップデートポイントとなったエアロダイナミクスについても、一見ダウンチューブ周辺の変更のほうが目につくのですが、実際に乗ってみるとフロント周りの空力向上が効いていると感じました。膝や脛のあたりに感じる乱流が少なくて、しっかりとフロントフォークが整流しているのだな、とわかります。横風にも強くなっていて、風の巻き込み方が少なくなっています。
ライドフィーリングとしては非常にニュートラルで、そのクセのなさが特徴だとも言えます。踏んでも回しても進みますし、とにかく体力を消耗しづらくて、最後まで自分の力を出し切れるのがSLRの特徴です。ハンドリングにしてもニュートラルで本当にクセが無い。全ての要素が前に進むためにどうしたら良いかということを真摯に考えられて造られたバイクなのだと伝わってきます。
「これからのレーシングバイクに求められる王道としてBMCの出した一つの解」 錦織大祐(フォーチュンバイク)
構造的なギミックに頼らず、軽さや剛性感、エアロ、快適性のバランスを高水準にまとめていくことが、これからのレーシングバイクに求められる王道だと思います。そしてそれは非常に難しく、各社が四苦八苦しているわけですが、このバイクはその問いに対してBMCが出した一つの答えだと言えるでしょう。
BMCの開発者たちは「良いライドを経験してほしい、その時に乗っていたのがBMCであればとても嬉しいんだ」と言うんです。自分たちの世界観を押し付けるのではなくて、乗り手の世界を拡げていくような、どこか余裕があるマインドがバイクにも表れています。売る側としては、もっといろいろアピールしてくれて良いんですけどね(笑)。
彼らのこだわりというのは本当に職人的で、今回のスルーアクスルの穴を隠したデザインなども、理想に殉じているようなところが強いですよね。見た目は本当に細かい差なんですけど、ここを滑らかにすれば美しいはずだ、という。そういった細かな部分への気づきは、自分のバイクとして乗っていくとどんどん出てくるし、BMCに乗っている方はその機会が多いはずです。
「ワールドツアーバイクらしい高水準にまとまったレーシングモデル」
小西真澄(ワイズロードお茶の水)
謳い文句通りのオールラウンドなレーシングバイクですね。先代モデルに乗ったこともあるのですが、今回のモデルチェンジではとても乗りやすくなりました。先代はBB周りの剛性感がかなり高くて、脚にくるバイクだったのですが、今作はそのあたりがかなりブラッシュアップされているように感じました。
「ワールドツアーバイクらしい高水準にまとまったレーシングモデル」 小西真澄(ワイズロードお茶の水)
ぱっと一目みた時のシルエットはほとんど変わっている訳ではないのに、ここまで大きく乗り味が変わっているのは面白いですね。カーボンレイヤーの見直しなど、いろいろな変更があったのでしょう。
全体の剛性バランスが整えられていて、踏んだ時に一瞬タメがあるような返し方をしてくれるので踏みやすい。特に登りに関して言えば、シッティングでトルクをかけて踏んでいくようなスタイルが一番マッチしそうですね。
平坦路では中速から高速域にかけて、更にスプリントレベルの加速感が素晴らしいですね。40km/h弱あたりからグッと踏み込んでいくと、後ろから押し出されるような加速感がありました。
もちろんエアロ化の効果も大いにあるのだと思いますが、トラクションのかかり方がこの加速感を生んでいるのだと思います。ドロップドシートステーに先鞭をつけたのがBMCだと思うのですが、その開発経験を活かしているのか、リアバックがしっかり地面を掴んでくれる感覚が強いですね。後輪が暴れるようなスプリントをしてしまっても、しっかりと前へと進んでくれる。プロでもこのバイクを石畳レースで使っていますが、納得の乗り味でした。
「トラクションのかかり方がこの加速感を生んでいる」 小西真澄(ワイズロードお茶の水)
ハンドリングはクイックで、気持ちよくコーナーリングしていけます。フロントフォークの剛性が過剰でないこととスルーアクスルのバランスがちょうど良い方向に作用しているのだと感じました。
ヒルクライムももちろん良いのですが、オールラウンドなコースを走ってこそ、このバイクは輝くと思います。剛性感や快適性は非常に高いレベルでバランスしていますし、そこにエアロ性能が加わっているので、距離が長めのロードレースにはもってこいでしょう。
ワールドツアーのトップレベルで活躍しているだけあって、総合的に高いレベルのバイクとして、レース志向のユーザーは選んで間違いない一台です。この完成車パッケージでも、不満が出る人はそうそういないのではないでしょうか。コースに合わせて、もう少しリムハイトを調整しても良いと思いますが、オールラウンドに乗る、この1台でどこでも走る、という面ではちょうど良いアセンブルだと思います。
BMC Teammachine SLR01 FOUR (c)Makoto AYANO/cyclowired.jp
BMC Teammachine SLR01 FOUR
フレーム:Teammachine SLR 01 Premium Carbon with Aerocore Design
BB:PF86
サイズ:47, 51, 54
カラー:Pearl Blue & Carbon
コンポーネント:シマノ Ultegra DI2
重量:7.23kg(54サイズ)
価格:860,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)
幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
CWレコメンドショップページ
フォーチュンバイク HP
小西真澄(ワイズロードお茶の水) 小西真澄(ワイズロードお茶の水)
ワイズロードお茶の水でメカニックと接客、二足のわらじを履くマルチスタッフ。接客のモットーは「カッコイイ自転車に乗ってもらう」こと。お客さんにぴったりの一台が無ければ他の店舗を案内するほど、そのこだわりは強い。ロードでのロングライドを中心に、最近はグラベルにもハマり中。現在の愛車はスコットADDICT エステバン・チャベス限定モデルやキャノンデールTOP STONE。
CWレコメンドショップページ
ワイズロードお茶の水HP
text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO

高級時計や光学機器といった精密機械産業を得意とするスイス・グレンヒェンを拠点とし、オリジナリティ溢れる設計思想を持ったバイクブランド、BMC。モノづくりにかける情熱だけでなく、レースへの比類ない愛と残してきた実績も世界トップレベルのブランドだ。
そんなBMCが誇るレーシングバイクのフラッグシップモデルが"Teammachine SLR01"。10年前にSLC01から旗艦を受け継ぎ、以来3度にわたるモデルチェンジを経て第4世代へと進化してきた。
SLRシリーズが残してきた成績は、数多あるレーシングバイクの中でも際立っている。カデル・エヴァンス(オーストラリア)によるマイヨジョーヌ獲得やグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー)によるリオオリンピックでの金メダル、その他にも世界選手権やモニュメントなど、SLR01はロードレースにおけるほぼすべての栄冠を勝ち取ってきた。



そんな稀代の名車のフルモデルチェンジにあって、BMCが用意したのが"ACE+"テクノロジーだ。まずは、そのベースとなったACE(Accelerated Composites Evolution)テクノロジーについて簡単に解説すると、剛性と重量、柔軟性という3つの要素をパラメーターとして膨大な数のコンピューター解析およびモデリングを行い、その中から最適な設計を選び出すというアプローチだ。
今回のモデルチェンジにあたり、BMCはACEテクノロジーを更に推し進め、「空気抵抗」という変数を追加したACE+テクノロジーへと進化させた。エアロ化するオールラウンドコンペティティブバイクという現在の潮流をしっかりと乗りこなすための新たな武器がACE+テクノロジーだと言えよう。




ACE+テクノロジーによって大きな変化がもたらされたのはフレームの各部形状。特にヘッドチューブ周辺やフロントフォークといったフレーム前方部だ。ヘッドチューブは前作に比べ前後方向へボリュームアップしつつ、カムテールデザインを導入することで、空力性能と安定性、剛性の向上を実現した。
フロントフォークのブレード形状もより空力を意識したカムテールデザインが与えられている。さらに、ディスクブレーキのストッピングパワーに対応するため、左右のブレ―ドは一目見てわかるほどボリュームの異なる非対称設計とされ、剛性バランスとエアロダイナミクスを高度にバランスした。
ヘッドチューブとフロントフォークという、空気が真っ先にあたる部分のエアロ効果を改善することに成功した新型SLR01だが、改善点はそこにとどまらない。フロントホイールで生まれた空気の流れを受けるダウンチューブでは、同社のエアロロードであるTimemachine ROADで開発したAEROCORE(エアロコア)ボトルケージシステムを採用。ダウンチューブとの隙間を埋めるようなデザインの専用ケージによって、さらなる空気抵抗の低減を実現している。


新たなケーブルフル内装システムの採用も新型SLR 01の大きな変更点だ。空気抵抗の低減に非常に大きな影響を与えるコックピット周りのインテグレートデザインを煮詰めることで、空力のみならず、重量や剛性、更にはユーザビリティの向上を実現した。
新世代のICSテクノロジーには、ステム一体型ハンドルの"ICS Carbon Cockpit"と、自由なハンドルチョイスを実現する専用ステム"ICS2"の2つが用意されている。ケーブルを一切露出することのないエアロ形状を突き詰めつつ、高い剛性と305gという軽量性を実現したICS Carbon Cockpitは、新型SLR01の性能を徹底的に引き出すためには欠かせないピースとなるだろう。
一方、ハンドルの形状にこだわりを持つライダーはICS2ステムを使用できる。前モデルより15gの軽量化を果しつつ、よりスリークでクリーンなルックスを実現。無駄なくスマートなケーブルカバーは優れた空力性能を生み出した。



ACE+テクノロジーによって再設計されたフレームは、剛性面や快適性、軽量化といった従来のACEテクノロジーで計算されていた分野においても進化を果している。数値にすると、6%速く、9%軽く、20%の剛性向上を果しているという。重量面においては、フレームこそ815gから820gへと5g増加しているが、フォークは-50g、シートポストは-10g、コックピットは-105g、トータルで-160gの軽量化を果した。
また、細やかなディテールにもこだわりが詰まっている。その最も象徴的な部分がステルス・ドロップアウトデザインと名付けられたエンド部分の処理だろう。スルーアクスルのメス側をフレームに完全内蔵の非貫通式とすることで、より滑らかなルックスと高い固定力を実現。それは、つまりエアロであり高剛性にもつながるということだ。
一目でSLRシリーズとわかるデザインはそのままに、最先端のトレンドを抑えつつ、更にその先を行く性能を与えられた新型SLR01。今回インプレッションするのは、アルテグラDI2 完成車のTeammachine SLR01 FOURだ。それでは、さっそくインプレッションに移ろう。
― インプレッション
「過去のSLRの魅力を統合した上に空力を向上させたトータルレースバイク」
錦織大祐(フォーチュンバイク)
一言でいうとトータルレースバイクとして非常に高水準にまとまった一台で、あらゆるシチュエーションで使えるバイクです。これまでの歴代BMCバイクの要素が余すところなく取り入れられつつ、それらが喧嘩することなく調和している。剛性も上がっているけれど、踏んだ時の反発は少なく、それでいて空力も明らかに良くなっていて、振動吸収性の良さも何一つ失っていない。まさに万能バイクです。

歴代のSLRは全てテストライドしているのですが、モデルチェンジするたびに驚かされてきました。ACEテクノロジーを取り入れた、2つ前のモデルから劇的にアプロ―チが変わってきていました。
簡単にまとめると、前々作は軽量でシャープな反応性が特徴的でした。前作ではディスクブレーキを採用して、トータルバランスを向上させたバイクだったのですが、エアロに関してはホイール任せ、というようなモデルでした。なので今回はちょっとエアロになるだけでも一定の評価を得ることはできたはずなんですが、予想以上の完成度でしたね。
ACEテクノロジー採用以降のBMCバイクは、正直モデルチェンジのハードルが高いと思うんです。その時点での一つの最適解を導き出しているわけですから、どうしたって乗り越えるべき壁が高い。SLRについては、それを2度も乗り越えて成功している。今回はこんな答えを出すんだな、とモデルチェンジの度に驚かされています。
今回大きなアップデートポイントとなったエアロダイナミクスについても、一見ダウンチューブ周辺の変更のほうが目につくのですが、実際に乗ってみるとフロント周りの空力向上が効いていると感じました。膝や脛のあたりに感じる乱流が少なくて、しっかりとフロントフォークが整流しているのだな、とわかります。横風にも強くなっていて、風の巻き込み方が少なくなっています。
ライドフィーリングとしては非常にニュートラルで、そのクセのなさが特徴だとも言えます。踏んでも回しても進みますし、とにかく体力を消耗しづらくて、最後まで自分の力を出し切れるのがSLRの特徴です。ハンドリングにしてもニュートラルで本当にクセが無い。全ての要素が前に進むためにどうしたら良いかということを真摯に考えられて造られたバイクなのだと伝わってきます。

構造的なギミックに頼らず、軽さや剛性感、エアロ、快適性のバランスを高水準にまとめていくことが、これからのレーシングバイクに求められる王道だと思います。そしてそれは非常に難しく、各社が四苦八苦しているわけですが、このバイクはその問いに対してBMCが出した一つの答えだと言えるでしょう。
BMCの開発者たちは「良いライドを経験してほしい、その時に乗っていたのがBMCであればとても嬉しいんだ」と言うんです。自分たちの世界観を押し付けるのではなくて、乗り手の世界を拡げていくような、どこか余裕があるマインドがバイクにも表れています。売る側としては、もっといろいろアピールしてくれて良いんですけどね(笑)。
彼らのこだわりというのは本当に職人的で、今回のスルーアクスルの穴を隠したデザインなども、理想に殉じているようなところが強いですよね。見た目は本当に細かい差なんですけど、ここを滑らかにすれば美しいはずだ、という。そういった細かな部分への気づきは、自分のバイクとして乗っていくとどんどん出てくるし、BMCに乗っている方はその機会が多いはずです。
「ワールドツアーバイクらしい高水準にまとまったレーシングモデル」
小西真澄(ワイズロードお茶の水)
謳い文句通りのオールラウンドなレーシングバイクですね。先代モデルに乗ったこともあるのですが、今回のモデルチェンジではとても乗りやすくなりました。先代はBB周りの剛性感がかなり高くて、脚にくるバイクだったのですが、今作はそのあたりがかなりブラッシュアップされているように感じました。

ぱっと一目みた時のシルエットはほとんど変わっている訳ではないのに、ここまで大きく乗り味が変わっているのは面白いですね。カーボンレイヤーの見直しなど、いろいろな変更があったのでしょう。
全体の剛性バランスが整えられていて、踏んだ時に一瞬タメがあるような返し方をしてくれるので踏みやすい。特に登りに関して言えば、シッティングでトルクをかけて踏んでいくようなスタイルが一番マッチしそうですね。
平坦路では中速から高速域にかけて、更にスプリントレベルの加速感が素晴らしいですね。40km/h弱あたりからグッと踏み込んでいくと、後ろから押し出されるような加速感がありました。
もちろんエアロ化の効果も大いにあるのだと思いますが、トラクションのかかり方がこの加速感を生んでいるのだと思います。ドロップドシートステーに先鞭をつけたのがBMCだと思うのですが、その開発経験を活かしているのか、リアバックがしっかり地面を掴んでくれる感覚が強いですね。後輪が暴れるようなスプリントをしてしまっても、しっかりと前へと進んでくれる。プロでもこのバイクを石畳レースで使っていますが、納得の乗り味でした。

ハンドリングはクイックで、気持ちよくコーナーリングしていけます。フロントフォークの剛性が過剰でないこととスルーアクスルのバランスがちょうど良い方向に作用しているのだと感じました。
ヒルクライムももちろん良いのですが、オールラウンドなコースを走ってこそ、このバイクは輝くと思います。剛性感や快適性は非常に高いレベルでバランスしていますし、そこにエアロ性能が加わっているので、距離が長めのロードレースにはもってこいでしょう。
ワールドツアーのトップレベルで活躍しているだけあって、総合的に高いレベルのバイクとして、レース志向のユーザーは選んで間違いない一台です。この完成車パッケージでも、不満が出る人はそうそういないのではないでしょうか。コースに合わせて、もう少しリムハイトを調整しても良いと思いますが、オールラウンドに乗る、この1台でどこでも走る、という面ではちょうど良いアセンブルだと思います。

BMC Teammachine SLR01 FOUR
フレーム:Teammachine SLR 01 Premium Carbon with Aerocore Design
BB:PF86
サイズ:47, 51, 54
カラー:Pearl Blue & Carbon
コンポーネント:シマノ Ultegra DI2
重量:7.23kg(54サイズ)
価格:860,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
CWレコメンドショップページ
フォーチュンバイク HP

ワイズロードお茶の水でメカニックと接客、二足のわらじを履くマルチスタッフ。接客のモットーは「カッコイイ自転車に乗ってもらう」こと。お客さんにぴったりの一台が無ければ他の店舗を案内するほど、そのこだわりは強い。ロードでのロングライドを中心に、最近はグラベルにもハマり中。現在の愛車はスコットADDICT エステバン・チャベス限定モデルやキャノンデールTOP STONE。
CWレコメンドショップページ
ワイズロードお茶の水HP
text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
リンク
Amazon.co.jp