2020/10/19(月) - 06:33
まさに筋書きのないドラマ。チャンスを掴んだかに見えたジュリアン・アラフィリップ(フランス、エレガント・クイックステップ)はクラッシュに終わり、共に逃げたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ)を息飲む接戦の末に下したマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)がロンド初勝利を遂げた。
例年より20km短縮され、さらに象徴的な石畳登坂ミュール・カペルミュールが消えてもなおロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・デ・フランドル)のステータスは変わらない。17もの急勾配が詰め込まれた「クラシックの王様」は、今年も筋書きの無いスペクタクルなショーを生み出した。
曇天、気温12度、風速11km/hのアントワープを予定通り9時45分に出発したのは、3人の過去優勝者アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFプロサイクリング)とニキ・テルプストラ(オランダ、トタル・ディレクトエネルジー)、アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ)を含む合計25チーム、172人の選手たち。数kmのニュートラル走行と20kmに渡る長いアタック合戦を経て、6名が逃げを決めた。
逃げた6名
グレゴール・ミュールベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)
ハイス・ファンフック(ベルギー、CCCチーム)
サムエーレ・バティステッラ(イタリア、NTTプロサイクリング)
ディミトリ・ペイスケンス(ベルギー、ビンゴール・ワロニーブリュッセル)
ダニー・ファンポッペル(オランダ、サーカス・ワンティゴベール)
ファビオ・ファンデンボッシュ(ベルギー、スポートフラーンデレン・バロワーズ)
ペースを落としたメイン集団からはジュリアン・ヴェルモート(フランス、コフィディス)が単独追走を試みたものの、リードを拡大すべくローテーションを回す6名には追いつくことなく集団へと引き戻される。101km地点の第1登坂「カッテンベルグ」の手前20kmでタイム差が9分まで到達すると、昨年同様『トラクター』の異名を持つ身長192cmのティム・デクレルク(ベルギー、エレガント・クイックステップ)の牽引がスタートした。
逃げグループ内ではミュールベルガーが投げ捨てたサコッシュにハンドルを取られて落車したものの、シマノニュートラルサービスの代車に乗り換えて合流(合流後に自身のスペアバイクに再交換)を果たす。カッテンベルグを越え、メイン集団内でもパンクや落車が頻発するフランドルらしい状況で、トレック・セガフレードのコントロール下で1回目のオウデ・クワレモントをクリアする。するとその先で、優勝候補筆頭のワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ)が集団内のあおりを受け路肩の溝へと落車した。
幸いファンアールトに大きなダメージはなく、同時に転んだティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)やアムントグレンダール・ヤンセン(ノルウェー、ユンボ・ヴィズマ)らと集団復帰に成功。131kmにある最大17.1%の第3登坂「コルテケール」ではエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、NTTプロサイクリング)から単独先行が始まり、メイン集団の踏切ストップを経て第4登坂「エイケンベルグ」で各チームのペースアップが始まった。
イスラエル・スタートアップネイションやサンウェブがハイテンポを刻み、ベルギー王者ドリス・デボント(アルペシン・フェニックス)やイヴ・ランパールト(ベルギー、エレガント・クイックステップ)もこの動きに加担する。小雨によって路面が濡れ始め、各選手が断続的なペースアップを掛ける中ボアッソンハーゲンは吸収。アタックが掛かる度にトレック・セガフレードとエレガント・クイックステップがチェックに回った。
ボアッソンハーゲンが吸収されたことを受け、NTTプロサイクリングは続いてマックス・ヴァルシャイド(ドイツ)を先行させる。2018年パリ〜ルーベ2位のシルヴァン・ディリエ(スイス、アージェードゥーゼル)が激しい落車で戦線離脱を余儀無くされる一方、熾烈な高速位置合戦を経て第9登坂「カナリーベルグ」でミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)が動いた。
登坂終盤に加速したクフィアトコフスキはヴァルシャイドに追いついたものの、チェック役のゼネク・スティバル(チェコ、エレガント・クイックステップ)が噛み付いたためメイン集団に戻ることを選択。昨年集団分断を生み出したミュール・カペルミュールが消えたこともあってか、決定的な動きがないまま、ハイペースを維持したまま、そして緊張感を高めた状態で189km地点の「オウデ・クワレモント(2回目)を登りきった。
ヘントで脚を見せたシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)が遅れ、登り口から16%の石畳急勾配が続く第11登坂「パテルベルグ(2度目)」を越えた先、残り50km地点で193kmを逃げたファンポッペルたちは吸収される。マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)やオリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼル)らが前方に集結した状態から、ディラン・ファンバーレ(オランダ、イネオス・グレナディアーズ)にジャンプする形でロンド初挑戦の世界王者ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エレガント・クイックステップ)が動いた。
ドリス・デヴェナインス(ベルギー)と共に飛び立ったアラフィリップを逃すまじと、同じくロンド初出場のロマン・バルデ(フランス)とナーセンのアージェードゥーゼルコンビが合流する。この動きはすぐ振り出しに戻されたものの、バルデとファンバーレはアタックを継続。最大勾配22%の第12登坂「コッペンベルグ」では軽やかなペダリングでアラフィリップが再度抜け出し、アントニー・テュルジス(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)と共にバルデたちを追い抜き先頭グループを形成した。
レース距離が200kmを越え、第13登坂「シュテインビークドリシュ」を前に、アラフィリップグループには次々と選手たちが合流する。こうしてファンデルプールやファンアールト、ベッティオル、ナーセン、マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)といった優勝候補が多数含まれた25名程度の先頭集団が生まれ、登坂に入るとクフィアトコフスキやピーダスンは遅れていく。その直後、石畳の下り坂で三たびアラフィリップが攻撃を加えた。
平坦区間に入ってもなおアタックを続ける世界王者にはファンデルプールが合流し、かつてトム・ボーネン(ベルギー)がアタックポイントとして愛した第14登坂「ターインベルグ」に突入すると単独追走を試みていたファンアールトが合流する。ロード&シクロクロスを含めれば全員が世界王者経験者という豪華な先頭グループは、ナーセン率いる追走グループを8秒引き離してターインベルグ頂上を通過する。一時5秒差まで詰め寄った追走グループだったが、アタックでの抜け出しと追走、合流を繰り返したため、そしてエレガント勢が抑えに回ったことでペースが上がらない。だがしかし、先頭3名がリードを広げにかかるまさにその最中、中継カメラは突如路面に転がったアラフィリップの姿を捉えた。
ファンアールトとファンデルプールの後ろにつけていたアラフィリップは、隊列後方に下がろうと道路右端でペースを落としていたオフィシャルモトに激しく追突。このバイクのスリップストリームを使った先頭ファンアールトの進路変更と、回避運動をとったファンデルプール、そして位置関係で前が見えていなかったアラフィリップという細かい要因が重なったことで起きた不運だった。リタイアを余儀なくされた世界王者はロンセの病院に搬送された後、X線検査で右手人差し指と薬指の中手骨(第2関節から下の骨)骨折が判明。月曜日中に手術を受けるというアラフィリップは、大成功のシーズンを怪我で締めくくることになってしまった。
突如アラフィリップが消えた先頭グループに対し、後手に回ったクイックステップ勢は必死に追走グループ(18名)のペースアップを図ったが、人数の多さが災いして差が縮まらない。先週のヘントでライバル心を剥き出しにして沈んだファンアールトとファンデルプールだったが、このロンドでは互いを熟知することがプラスに働いた。アタックすることなくローテーションを回したため、タイム差は残り25km地点で1分にまで広がることとなる。
不気味なほど快調にペースを刻む二人は、例年レースが決まる第16登坂「オウデ・クワレモント(3度目)」と最終第17登坂「パテルベルグ(2度目)」もアタックせずこなし、ひりつくような緊張感を伴いながらラスト13kmの平坦路で単独追走ナーセンや後続グループとの1分差を保ち続けた。
シクロクロスでジュニア時代からライバル関係を築き、アルカンシエルを分け合い、そしてロードレースに戦いの場所を移した二人。残り5kmを切ってから僅かにペースを落としたものの、40秒差を保ちラスト1kmのフラムルージュを通過する。先頭ファンデルプール、2番手ファンアールト。トラックレースのような牽制を続けた末、残り200mを過ぎたタイミングで電光石火のスプリント勝負が始まった。
先行ファンデルプールの加速に対し、即座に反応したファンアールトが左側から追い上げ、並び掛ける。がむしゃらに踏み込むファンデルプールと、絶妙なハンドル投げで追い込んだファンアールトが同時にフィニッシュラインを通過した。二人とも確信をもてない接戦の数秒後、ファンデルプールの勝利が本人の元に届けられた。
今年ナショナル選手権を制し、その証を纏い挑んだシーズン後半戦でティレーノ〜アドリアティコ区間1勝、ビンクバンクツアー区間1勝&総合優勝、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ6位、ブラバンツペイル2位、ヘント9位と好成績を残してきたファンデルプールが、ロンド2度目の挑戦で優勝を掴んだ。吉報を得た直後、ファンデルプールはバイクを掲げ、スタッフと抱き合い、そしてフィニッシュに駆けつけた彼女を抱きしめた。
「インクレディブルだ。多分僕にとってゼッケン51は特別な数字になると思う。レース前にそうだと言われても信じなかっただろう。今ようやく勝ったと実感し始めているよ」と、興奮冷めやらぬ状態でインタビューに答えたファンデルプールは言う。マチューの父アドリ・ファンデルプールは遡ること34年前の1986年大会で勝利しており、ロンドの親子制覇を成し遂げたこととなる。
「もっと上手く立ち回れたこともあったけれど、言い訳をするつもりはない。スプリントではマチューの方が僅かに強かった。今晩はあのスプリントを何度も見ることになるだろう。最後僅差だったことを考えれば、恐らく勝負を待ちすぎたんだと思う。美しいレースだった。テレビ観戦してくれたファンにスペクタクルをもたらすことができた」と言うのは敗れたファンアールト。今年ストラーデビアンケとミラノ〜サンレモで優勝し、ツール・ド・フランスでは区間2勝、世界選手権ロード/TTで共に銀メダルという飛翔のシーズンを送ったファンアールトは、このロンドをもってファンデルプールより一足先にオフシーズンに入るという。
8秒遅れでフィニッシュラインに到達した3番手グループのスプリントで先着したのは、昨年も同じ展開で3位となったクリストフ。終盤アタックを続けたテュルジスが4位に入り、急に後手を踏んだエレガント勢はランパールトを5位に送り込むのがやっと。ウルフパックは肝心要の大一番で表彰台を取りこぼしている。
例年より20km短縮され、さらに象徴的な石畳登坂ミュール・カペルミュールが消えてもなおロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・デ・フランドル)のステータスは変わらない。17もの急勾配が詰め込まれた「クラシックの王様」は、今年も筋書きの無いスペクタクルなショーを生み出した。
曇天、気温12度、風速11km/hのアントワープを予定通り9時45分に出発したのは、3人の過去優勝者アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFプロサイクリング)とニキ・テルプストラ(オランダ、トタル・ディレクトエネルジー)、アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ)を含む合計25チーム、172人の選手たち。数kmのニュートラル走行と20kmに渡る長いアタック合戦を経て、6名が逃げを決めた。
逃げた6名
グレゴール・ミュールベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)
ハイス・ファンフック(ベルギー、CCCチーム)
サムエーレ・バティステッラ(イタリア、NTTプロサイクリング)
ディミトリ・ペイスケンス(ベルギー、ビンゴール・ワロニーブリュッセル)
ダニー・ファンポッペル(オランダ、サーカス・ワンティゴベール)
ファビオ・ファンデンボッシュ(ベルギー、スポートフラーンデレン・バロワーズ)
ペースを落としたメイン集団からはジュリアン・ヴェルモート(フランス、コフィディス)が単独追走を試みたものの、リードを拡大すべくローテーションを回す6名には追いつくことなく集団へと引き戻される。101km地点の第1登坂「カッテンベルグ」の手前20kmでタイム差が9分まで到達すると、昨年同様『トラクター』の異名を持つ身長192cmのティム・デクレルク(ベルギー、エレガント・クイックステップ)の牽引がスタートした。
逃げグループ内ではミュールベルガーが投げ捨てたサコッシュにハンドルを取られて落車したものの、シマノニュートラルサービスの代車に乗り換えて合流(合流後に自身のスペアバイクに再交換)を果たす。カッテンベルグを越え、メイン集団内でもパンクや落車が頻発するフランドルらしい状況で、トレック・セガフレードのコントロール下で1回目のオウデ・クワレモントをクリアする。するとその先で、優勝候補筆頭のワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ)が集団内のあおりを受け路肩の溝へと落車した。
幸いファンアールトに大きなダメージはなく、同時に転んだティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)やアムントグレンダール・ヤンセン(ノルウェー、ユンボ・ヴィズマ)らと集団復帰に成功。131kmにある最大17.1%の第3登坂「コルテケール」ではエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、NTTプロサイクリング)から単独先行が始まり、メイン集団の踏切ストップを経て第4登坂「エイケンベルグ」で各チームのペースアップが始まった。
イスラエル・スタートアップネイションやサンウェブがハイテンポを刻み、ベルギー王者ドリス・デボント(アルペシン・フェニックス)やイヴ・ランパールト(ベルギー、エレガント・クイックステップ)もこの動きに加担する。小雨によって路面が濡れ始め、各選手が断続的なペースアップを掛ける中ボアッソンハーゲンは吸収。アタックが掛かる度にトレック・セガフレードとエレガント・クイックステップがチェックに回った。
ボアッソンハーゲンが吸収されたことを受け、NTTプロサイクリングは続いてマックス・ヴァルシャイド(ドイツ)を先行させる。2018年パリ〜ルーベ2位のシルヴァン・ディリエ(スイス、アージェードゥーゼル)が激しい落車で戦線離脱を余儀無くされる一方、熾烈な高速位置合戦を経て第9登坂「カナリーベルグ」でミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)が動いた。
登坂終盤に加速したクフィアトコフスキはヴァルシャイドに追いついたものの、チェック役のゼネク・スティバル(チェコ、エレガント・クイックステップ)が噛み付いたためメイン集団に戻ることを選択。昨年集団分断を生み出したミュール・カペルミュールが消えたこともあってか、決定的な動きがないまま、ハイペースを維持したまま、そして緊張感を高めた状態で189km地点の「オウデ・クワレモント(2回目)を登りきった。
ヘントで脚を見せたシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)が遅れ、登り口から16%の石畳急勾配が続く第11登坂「パテルベルグ(2度目)」を越えた先、残り50km地点で193kmを逃げたファンポッペルたちは吸収される。マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)やオリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼル)らが前方に集結した状態から、ディラン・ファンバーレ(オランダ、イネオス・グレナディアーズ)にジャンプする形でロンド初挑戦の世界王者ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エレガント・クイックステップ)が動いた。
ドリス・デヴェナインス(ベルギー)と共に飛び立ったアラフィリップを逃すまじと、同じくロンド初出場のロマン・バルデ(フランス)とナーセンのアージェードゥーゼルコンビが合流する。この動きはすぐ振り出しに戻されたものの、バルデとファンバーレはアタックを継続。最大勾配22%の第12登坂「コッペンベルグ」では軽やかなペダリングでアラフィリップが再度抜け出し、アントニー・テュルジス(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)と共にバルデたちを追い抜き先頭グループを形成した。
レース距離が200kmを越え、第13登坂「シュテインビークドリシュ」を前に、アラフィリップグループには次々と選手たちが合流する。こうしてファンデルプールやファンアールト、ベッティオル、ナーセン、マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)といった優勝候補が多数含まれた25名程度の先頭集団が生まれ、登坂に入るとクフィアトコフスキやピーダスンは遅れていく。その直後、石畳の下り坂で三たびアラフィリップが攻撃を加えた。
平坦区間に入ってもなおアタックを続ける世界王者にはファンデルプールが合流し、かつてトム・ボーネン(ベルギー)がアタックポイントとして愛した第14登坂「ターインベルグ」に突入すると単独追走を試みていたファンアールトが合流する。ロード&シクロクロスを含めれば全員が世界王者経験者という豪華な先頭グループは、ナーセン率いる追走グループを8秒引き離してターインベルグ頂上を通過する。一時5秒差まで詰め寄った追走グループだったが、アタックでの抜け出しと追走、合流を繰り返したため、そしてエレガント勢が抑えに回ったことでペースが上がらない。だがしかし、先頭3名がリードを広げにかかるまさにその最中、中継カメラは突如路面に転がったアラフィリップの姿を捉えた。
ファンアールトとファンデルプールの後ろにつけていたアラフィリップは、隊列後方に下がろうと道路右端でペースを落としていたオフィシャルモトに激しく追突。このバイクのスリップストリームを使った先頭ファンアールトの進路変更と、回避運動をとったファンデルプール、そして位置関係で前が見えていなかったアラフィリップという細かい要因が重なったことで起きた不運だった。リタイアを余儀なくされた世界王者はロンセの病院に搬送された後、X線検査で右手人差し指と薬指の中手骨(第2関節から下の骨)骨折が判明。月曜日中に手術を受けるというアラフィリップは、大成功のシーズンを怪我で締めくくることになってしまった。
突如アラフィリップが消えた先頭グループに対し、後手に回ったクイックステップ勢は必死に追走グループ(18名)のペースアップを図ったが、人数の多さが災いして差が縮まらない。先週のヘントでライバル心を剥き出しにして沈んだファンアールトとファンデルプールだったが、このロンドでは互いを熟知することがプラスに働いた。アタックすることなくローテーションを回したため、タイム差は残り25km地点で1分にまで広がることとなる。
不気味なほど快調にペースを刻む二人は、例年レースが決まる第16登坂「オウデ・クワレモント(3度目)」と最終第17登坂「パテルベルグ(2度目)」もアタックせずこなし、ひりつくような緊張感を伴いながらラスト13kmの平坦路で単独追走ナーセンや後続グループとの1分差を保ち続けた。
シクロクロスでジュニア時代からライバル関係を築き、アルカンシエルを分け合い、そしてロードレースに戦いの場所を移した二人。残り5kmを切ってから僅かにペースを落としたものの、40秒差を保ちラスト1kmのフラムルージュを通過する。先頭ファンデルプール、2番手ファンアールト。トラックレースのような牽制を続けた末、残り200mを過ぎたタイミングで電光石火のスプリント勝負が始まった。
先行ファンデルプールの加速に対し、即座に反応したファンアールトが左側から追い上げ、並び掛ける。がむしゃらに踏み込むファンデルプールと、絶妙なハンドル投げで追い込んだファンアールトが同時にフィニッシュラインを通過した。二人とも確信をもてない接戦の数秒後、ファンデルプールの勝利が本人の元に届けられた。
今年ナショナル選手権を制し、その証を纏い挑んだシーズン後半戦でティレーノ〜アドリアティコ区間1勝、ビンクバンクツアー区間1勝&総合優勝、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ6位、ブラバンツペイル2位、ヘント9位と好成績を残してきたファンデルプールが、ロンド2度目の挑戦で優勝を掴んだ。吉報を得た直後、ファンデルプールはバイクを掲げ、スタッフと抱き合い、そしてフィニッシュに駆けつけた彼女を抱きしめた。
「インクレディブルだ。多分僕にとってゼッケン51は特別な数字になると思う。レース前にそうだと言われても信じなかっただろう。今ようやく勝ったと実感し始めているよ」と、興奮冷めやらぬ状態でインタビューに答えたファンデルプールは言う。マチューの父アドリ・ファンデルプールは遡ること34年前の1986年大会で勝利しており、ロンドの親子制覇を成し遂げたこととなる。
「もっと上手く立ち回れたこともあったけれど、言い訳をするつもりはない。スプリントではマチューの方が僅かに強かった。今晩はあのスプリントを何度も見ることになるだろう。最後僅差だったことを考えれば、恐らく勝負を待ちすぎたんだと思う。美しいレースだった。テレビ観戦してくれたファンにスペクタクルをもたらすことができた」と言うのは敗れたファンアールト。今年ストラーデビアンケとミラノ〜サンレモで優勝し、ツール・ド・フランスでは区間2勝、世界選手権ロード/TTで共に銀メダルという飛翔のシーズンを送ったファンアールトは、このロンドをもってファンデルプールより一足先にオフシーズンに入るという。
8秒遅れでフィニッシュラインに到達した3番手グループのスプリントで先着したのは、昨年も同じ展開で3位となったクリストフ。終盤アタックを続けたテュルジスが4位に入り、急に後手を踏んだエレガント勢はランパールトを5位に送り込むのがやっと。ウルフパックは肝心要の大一番で表彰台を取りこぼしている。
ロンド・ファン・フラーンデレン2020結果
1位 | マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) | 5:43:17 |
2位 | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ) | |
3位 | アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ) | 0:08 |
4位 | アントニー・テュルジス(フランス、トタル・ディレクトエネルジー) | |
5位 | イヴ・ランパールト(ベルギー、エレガント・クイックステップ) | |
6位 | ディミトリ・クレイス(ベルギー、コフィディス) | |
7位 | オリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼル) | |
8位 | ディラン・ファンバーレ(オランダ、イネオス・グレナディアーズ) | |
9位 | ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、ロット・スーダル) | |
10位 | ティシュ・ベノート (ベルギー、サンウェブ) | |
11位 | ディラン・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・マクラーレン) | |
12位 | フロリアン・セネシャル(フランス、エレガント・クイックステップ) | |
13位 | カスパー・アスグリーン(デンマーク、エレガント・クイックステップ) | |
14位 | ヴァランタン・マデュアス(フランス、グルパマFDJ) | |
15位 | クサンドロ・ムーリッセ(ベルギー、サーカス・ワンティゴベール) | |
16位 | アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFプロサイクリング) | |
17位 | セップ・ファンマルク(ベルギー、EFプロサイクリング) | 0:16 |
18位 | ジャスパー・デブイスト(ベルギー、ロット・スーダル) | 2:41 |
19位 | ニルス・ポリッツ(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション) | |
20位 | スヴェンエリック・ビストラム(ノルウェー、UAEチームエミレーツ) |
text:So Isobe
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