ニース近郊の標高1,500m級の本格山岳が2つ登場したツール・ド・フランス第2ステージ。終盤の登りでアタックを成功させ、食らいつくライバルたちをスプリントで下したジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が2ヶ月前に亡くなった父親に捧げるステージ優勝&マイヨジョーヌ獲得を果たした。



スタートラインに並ぶ4賞ジャージスタートラインに並ぶ4賞ジャージ photo:CorVos
8月30日(日)第2ステージ
ニース〜ニース
距離:186km
獲得標高差:3,500m
天候:晴れ
気温:23〜27度

カテゴリー山岳とスプリントポイント
16km地点 スプリントポイント
63.5地点 1級山岳ラ・コルミアーヌ峠(距離16.3km・平均6.3%)
99.5地点 1級山岳トゥリーニ峠(距離14.9km・平均7.4%)
153地点 2級山岳エズ峠(距離7.8km・平均6.1%)
177km地点 ボーナスポイント

8月30日(日)第2ステージ ニース〜ニース 186km8月30日(日)第2ステージ ニース〜ニース 186km photo:A.S.O.8月30日(日)第2ステージ ニース〜ニース 186km8月30日(日)第2ステージ ニース〜ニース 186km photo:A.S.O.

比較的ゆったりを逃げグループを追いかけるメイン集団比較的ゆったりを逃げグループを追いかけるメイン集団 photo:Kei Tsuji


獲得標高差3,500mの本格山岳ステージ

ツールの歴史上、大会2日目という早い段階で1,500m級の峠が登場するのは史上初めて。前日同様にマセナ広場をスタートした選手たちが挑んだのは1級山岳ラ・コルミアーヌ峠と1級山岳トゥリーニ峠という、パリ〜ニースではお馴染みの標高1,500m級の峠道。そこからさらに2級山岳エズ峠を経て一旦『イギリス人の遊歩道(プロムナード・デ・ザングレ)』のフィニッシュラインを通過し、最後は2級山岳エズ峠の中腹に位置するキャトルシュマン峠(距離5km・平均6.4%)まで登る。フィニッシュの9km手前に位置するこのキャトルシュマン峠には2019年に新採用された「ボーナスポイント(地図と高低図の黄色いB)」が設定されており、上位通過者3名に8秒、5秒、2秒のボーナスタイムが付与される(フィニッシュのボーナスタイムは10秒、6秒、4秒)。

実質的にステージ優勝者がマイヨジョーヌを手にすることになるこの日、コートダジュールに熱い夏の太陽が戻ってきた。落車負傷したラファエル・バルス(スペイン、バーレーン・マクラーレン)とフィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル)、そしてフィニッシュまでたどり着きながらもタイムアウト扱いになったジョン・デゲンコルプ(ドイツ、ロット・スーダル)を除く173名が出走。海水浴を楽しむバカンス客に見守られながらスタートが切られると、マイヨヴェールを着るポイント賞3位のペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)らが動いた。

すぐさま平坦な幹線道路でサガンやマッテオ・トレンティン(イタリア、CCCチーム)ら8名が先行を開始し、そのまま16km地点のスプリントポイントに差し掛かる。ここでしっかりポイントを稼いでマイヨヴェールを自分のものにしたいサガンだったが、トレンティンに先頭通過20ポイント獲得を許してしまう。その後すぐトレンティンがパンクで脱落したため、先頭では7名がまとまることになった。

逃げグループを形成した7名
ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)
ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)
ブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール)
カスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)
トムス・スクインシュ(ラトビア、トレック・セガフレード)
アントニー・ペレス(フランス、コフィディス)
ミヒャエル・ゴグル(オーストリア、NTTプロサイクリング)



切り立ったプロヴァンスの山を進む逃げグループ切り立ったプロヴァンスの山を進む逃げグループ photo:CorVos
逃げグループを形成したアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)ら7名逃げグループを形成したアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)ら7名 photo:Kei Tsuji
リードを3分まで広げながら山岳地帯を目指すリードを3分まで広げながら山岳地帯を目指す photo:Kei Tsuji


マイヨアポワ争いを繰り広げながら2つの難所を越えていく

7名の逃げグループは追い風に押されるようにして平均45km/hオーバーのスピードを刻み、3分差を稼いだ状態で最初の1級山岳ラ・コルミアーヌ峠の登坂に取り掛かる。3月14日にパリ〜ニースの最終第7ステージのフィニッシュ地点として登場したこの登りで、UAEチームエミレーツが牽引するメイン集団は逃げグループとの間合いを詰めていく。リードが2分まで縮まった逃げグループの中では、マイヨアポワ着用を狙うコヌフロワが1級山岳ラ・コルミアーヌ峠を制した。

ユンボ・ヴィスマを先頭に下り区間を安全にこなしたメイン集団に対し、タイム差を再び3分台に乗せた状態で逃げグループはこの日最大の難所である1級山岳トゥリーニ峠へ。ツールには実に47年ぶりの登場となるが、パリ〜ニースの定番峠として2019年大会にも登場している1級山岳トゥリーニ峠。ステージ中盤まで集団内で登りをこなしていたマイヨジョーヌのアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ)をはじめ、カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)やサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)といったスプリンター勢は軒並み脱落した。

先頭ではゴグルとコヌフロワとの競り合いを下したペレスが1級山岳トゥリーニ峠を先頭通過。こうしてコヌフロワとペレスが同ポイントで山岳賞トップに立った状態で、ニースの街に向かう長いダウンヒルに入る。下り区間で再びユンボ・ヴィスマが率いたメイン集団は先頭6名(サガン脱落)とのタイム差を詰め、2級山岳エズ峠に入ってすぐに吸収した。



UAEチームエミレーツを先頭に1級山岳トゥリーニ峠を走るUAEチームエミレーツを先頭に1級山岳トゥリーニ峠を走る photo:CorVos
1級山岳トゥリーニ峠の下りを攻めるトムス・スクインシュ(ラトビア、トレック・セガフレード)ら1級山岳トゥリーニ峠の下りを攻めるトムス・スクインシュ(ラトビア、トレック・セガフレード)ら photo:Kei Tsuji
いずれの1級山岳も下りはユンボ・ヴィスマがメイン集団をコントロールしたいずれの1級山岳も下りはユンボ・ヴィスマがメイン集団をコントロールした photo:Kei Tsuji
スイッチバックの続く下りをこなすプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)らスイッチバックの続く下りをこなすプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)ら photo:Kei Tsuji
全身イエローのアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ)全身イエローのアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji
地中海を眺める1級山岳トゥリーニ峠の下り地中海を眺める1級山岳トゥリーニ峠の下り photo:Kei Tsuji


残り13km地点でアタックを成功させたアラフィリップ

ユンボ・ヴィスマやドゥクーニンク・クイックステップを先頭に平均スピード28km/hオーバーで2級山岳エズ峠を駆け上がったメイン集団は50名ほどに人数を減らし、一旦ニースのフィニッシュラインを越えて最後のキャトルシュマン峠へ。西陽に照らされたニースを望むこの登りで、最も勾配のある残り13km地点でアラフィリップがアタック。この強烈な加速に対応できたのは2018年ロード世界選手権U23チャンピオンのマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)だけだった。

ユンボ・ヴィスマやイネオス・グレナディアーズ率いるメイン集団から遅れてアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)が飛び出し、先頭のアラフィリップとヒルシに合流することに成功。こうして3名になった先頭グループは、メイン集団を20秒引き離した状態でイェーツ(8秒獲得)、アラフィリップ(5秒獲得)、ヒルシ(2秒獲得)の順で最後の登りを終えた。

下りを経てもなお20秒のリードをキープした先頭3名。フラムルージュ(残り1kmアーチ)を越えて『イギリス人の遊歩道』に入ったところで3名の中で牽制が始まる。後方から40名弱のメイン集団が迫り来る中、イェーツの後ろから残り200mでアラフィリップが加速していく。並びにかかるヒルシを押さえ込み、先頭でもがき続けたアラフィリップ。1年前のツールで14日間マイヨジョーヌを着て英雄となった28歳が、青い空を指差し、そしてニースの太陽に向かって両手を挙げた。



キャトルシュマン峠でアタックしたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)にマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)が食らいつくキャトルシュマン峠でアタックしたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)にマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)が食らいつく photo:CorVos
キャトルシュマン峠のボーナスタイムで先着したアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)とジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)キャトルシュマン峠のボーナスタイムで先着したアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)とジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
フィニッシュへの下りに突入するアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)やジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)フィニッシュへの下りに突入するアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)やジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)を先頭に最後の登りをクリアするメイン集団ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)を先頭に最後の登りをクリアするメイン集団 photo:Kei Tsuji
メイン集団を振り切ってジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が先頭でスプリントメイン集団を振り切ってジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が先頭でスプリント photo:Luca Bettini
ステージ優勝を飾ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)ステージ優勝を飾ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Luca Bettini


再びマイヨジョーヌにジョン通したアラフィリップ

「この勝利を(6月27日に亡くなった)父に捧げたい」と、フィニッシュに泣き崩れたアラフィリップ。最終的にメイン集団とのタイム差は2秒にまで縮まったが、ボーナスタイム10秒も加算したアラフィリップが総合首位に浮上している。「今年はまだ1勝もできていなかったけど、苦しい時も真面目にトレーニングをこなしてきた。今日は厳しい展開に持ち込んで、人数が絞られた状態からアタック。失うことは何もなかった。出し切って崩れてしまうことを恐れたものの、アダム・イェーツは協力してくれたし、タイム差をもったままフラムルージュまで走りたかった。プレッシャーの中での勝利は格別。忘れていた勝利の感覚を味わっている。そしてマイヨジョーヌは素晴らしいボーナスだ」。

開幕から慌ただしく2ステージを終えた時点でアラフィリップがイェーツに4秒差、マイヨブランを獲得したヒルシに7秒差、それ以外の選手に17秒差をつけて首位を走る。この日はトム・デュムラン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)が終盤に落車するシーンも見られたが、同じく落車したクリテリウム・デュ・ドーフィネ覇者のダニエル・マルティネス(コロンビア、EFプロサイクリング)やドーフィネの落車の影響が残るダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)を除いてマイヨジョーヌ候補たちはタイムを失うことなくニースにたどり着いている。

この日はサガンがスプリントポイントでポイントを稼ぐ得意の戦法に出たが、マイヨヴェールはクリストフがキープ。ステージの着順によりマイヨアポワを手にしたコヌフロワはステージ敢闘賞にも輝いている。

ステージ優勝とマイヨジョーヌを手にしたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)ステージ優勝とマイヨジョーヌを手にしたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Luca Bettini
ステージ2位&総合3位のマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)がマイヨブラン獲得ステージ2位&総合3位のマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)がマイヨブラン獲得 photo:Luca Bettiniブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール)がマイヨアポワ獲得ブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール)がマイヨアポワ獲得 photo:Luca Bettini



デイリーハイライト: J SPORTSでツール・ド・フランス全21ステージ独占生中継


1位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 4:55:27
2位 マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)
3位 アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) 0:00:01
4位 グレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、CCCチーム) 0:00:02
5位 セルジオ・イギータ(コロンビア、EFプロサイクリング)
6位 バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)
7位 アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ)
8位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)
9位 マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)
10位 アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFプロサイクリング)
48位 ダニエル・マルティネス(コロンビア、EFプロサイクリング) 0:03:38
100位 ダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション) 0:17:45
DNS フィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル)
DNS ラファエル・バルス(スペイン、バーレーン・マクラーレン)
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 8:41:35
2位 アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) 0:00:04
3位 マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) 0:00:07
4位 セルジオ・イギータ(コロンビア、EFプロサイクリング) 0:00:17
5位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)
6位 エステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット)
7位 ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ)
8位 エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)
9位 リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)
10位 トム・デュムラン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ) 64pts
2位 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) 46pts
3位 マッテオ・トレンティン(イタリア、CCCチーム) 36pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール) 18pts
2位 アントニー・ペレス(フランス、コフィディス) 18pts
3位 ミヒャエル・ゴグル(オーストリア、NTTプロサイクリング) 12pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) 8:41:42
2位 セルジオ・イギータ(コロンビア、EFプロサイクリング) 0:00:10
3位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)
チーム総合成績
1位 トレック・セガフレード 26:05:36
2位 EFプロサイクリング
3位 アスタナ
text:Kei Tsuji in Nice, France

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