2010/05/16(日) - 15:21
ジロ・デ・イタリア前半戦の大きな山場は、第8ステージのテルミニッロ頂上ゴールではなく、第7ステージのダートレースかも知れない。降りしきる雨の中、191名の泥だらけの選手たちがモンタルチーノにやってきた。
平均スピード52.5km/hのレース序盤にユキヤが逃げる
スタート地点はカラーラ旧市街の中心地。昨日のゴール地点マリーナ・ディ・カラーラの山側に位置している。
夜に降り始めた雨は止む気配がない。大会関係者は「内陸部に進むにつれて天候が悪化するぞ。きっとモンタルチーノ(ゴール地点)は大雨だ」と告げてくれる。最悪の場合は、国際映像の配信がキャンセルされることもあるという。それは大変だ。コース発表時から注目を集めていたステージだと言うのに。
「それにしてもジロはチームバスの駐車場がスタート地点から遠いですね」。ユキヤはチームカラーのバイクに跨がって登場した。スペシャルバイクでの登場を期待していたが、どうやら悪天候で汚れることを考慮して投入を見送ったようだ。
「今日はグチャグチャなレースになりそう。未舗装コースはフランスのトロ・ブロ・レオンで経験済み。総合成績はもう関係ないので、終盤の上りは特に気にしてないです」。
スタート地点を離れ、撮影ポイントまで高速道路で先回りを試みる。ワイパーはフル稼働しているが、それでも捌ききれないほどの雨粒がフロントガラスにぶつかってくる。イタリアの道路は水はけが悪く、車線の半分を埋めるほどの大きな水たまりが出来ていることも多い。何度か深い水たまりにハンドルを取られながらも、ラジオコルサに耳を傾けながら進んで行く。
しかし飛ばせども飛ばせども、なかなかレースの前に出ることが出来ない。スケジュール通りに進行していれば余裕を持って撮影する予定だったが、ラジオコルサは「最初の1時間の平均スピードは52.5km/h!」と伝える。どうりで時間がタイトな訳だ。
斜塔で有名なピサの街の近くで撮影。すると見慣れた白いサングラスのBboxブイグテレコムの選手が逃げているのが見えた。イタリア入りしてからずっと逃げたいオーラを出しているユキヤだ。
スタート前に「相変わらず好調なので、タイミングが合えば逃げグループに入りたいです」と語っていたが、あと数日様子を見ると思いきや、中1日でユキヤが動いてきた。
しかし今回はメンバーが良すぎた。過去に2度ジロを制しているジルベルト・シモーニ(イタリア、ランプレ)やマリアビアンカのヴァレリオ・アニョーリ(イタリア、リクイガス)など、強者揃いの16名。さすがに集団は許してくれなかった。
モンタルチーノに至る泥んこコース
5年ほど前、モンタルチーノから北に35kmほど行ったシエナに住んでいたため、ゴール地点周辺の道はほとんどロードバイクで走破している。この日のコースも昔よく走っていた道ばかり。懐かしさを覚えながらクルマを飛ばして行く。しかし今回の未舗装区間は走ったことがない。
レースの約1時間前に賑やかに沿道を盛り上げるキャラバン隊の車列は、未舗装区間をパスし、黒光りしたアスファルトの迂回路を通ってゴールへ。確かに泥だらけのキャラバン隊は嫌だ。洗車もしにくそう。
警備のおじさんはプレスカーにも「クルマが汚れるし、危険だ」と迂回路を勧めてくる。しかし丁重にお断りして未舗装区間に突っ込んでみた。
アスファルトの偉大さを感じた5分間だった。調子に乗ってコーナーを攻めると、見事にリアが横に滑り始める。路面自体は堅く固められており、地面にしっかりと芯があるような感じ。乾燥していればそれほど問題にならないような道だが、雨によってシャバシャバの泥が覆っている状態。そう、溶けたミルクチョコレートのような。
選手の判別はそれなりに自信があるのだが、泥だらけの選手はどれも一緒に見える。それ以前に、チームの判別も難しいような、見るも無惨な姿カタチで目の前に現れた。脚から血を流したマリアローザの表情は暗い。
選手たちはみな目を真っ赤にしている。汚れた手で汚れた顔を拭いている。まさかジロで泥星人を見ることになるとは。近年パリ〜ルーベは雨が降らないというのに。
第2ダート区間を迂回してゴールに直行。しかし交通規制でクルマがシャットアウトされていたため、ゴール1km手前のテクニカルな下りで写真を撮る。先頭でやってきたのは、泥まみれのアルカンシェルとダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)。荒い石畳が敷かれた細い路地を抜け、最後の上りスプリントを制したのはエヴァンスだった。
少しくたびれた表情のユキヤがゴールしたことを確認してBboxブイグテレコムのチームバスに向かう。Bboxブイグテレコムの選手たちは「いやいや、ほんと参った」というジェスチャーでびしょ濡れのジャージを脱ぎ、スタッフに手渡す。いつもなら観客が飛びつくキャップも、この日ばかりはなかなか引き取り手が見つからなかった。
「パリ〜ルーベのようでした。今日ってパリ〜ルーベでしたっけ?とにかくコースは酷かった。どこが酷いと言うわけでもなく、全部」。そう言いながらユキヤはグローブをギュッと握りしめる。ボタボタと水が落ちる。
「でも相変わらず調子は良いです。序盤も逃げグループに入りましたし」。連日の悪天候や難コースに、少し表情には疲労の色が見えるが、その真っ赤に充血した目には自信が感じられる。声にも張りがある。「また」やってくれそうな勢いを感じる。
チームバスに入っていったユキヤを見届けて、ゴール地点そばのプレスセンターに向かう。モンタルチーノは世界的なワインの産地として知られており、エノテカ(ワイナリー)が街中のあちこちにある。無料でワインを振る舞っているエノテカもあったが、ここはぐっっっと我慢して仕事に向かう。
椅子に座ってラップトップを開くと、どうも何かが臭う。まるで牛舎のような独特の臭さが辺りに立ちこめている。
その原因は跳ね上げて付着した泥だ。そんな泥が口に入ったであろう選手たちの体調が心配になって来た。加えて連日の雨で選手たちの体力は消耗しているはず。そんな状況で、翌日は今大会1回目の頂上ゴール。早くもジロはサバイバルレースの様相を呈して来た。
text&photo:Kei Tsuji
平均スピード52.5km/hのレース序盤にユキヤが逃げる
スタート地点はカラーラ旧市街の中心地。昨日のゴール地点マリーナ・ディ・カラーラの山側に位置している。
夜に降り始めた雨は止む気配がない。大会関係者は「内陸部に進むにつれて天候が悪化するぞ。きっとモンタルチーノ(ゴール地点)は大雨だ」と告げてくれる。最悪の場合は、国際映像の配信がキャンセルされることもあるという。それは大変だ。コース発表時から注目を集めていたステージだと言うのに。
「それにしてもジロはチームバスの駐車場がスタート地点から遠いですね」。ユキヤはチームカラーのバイクに跨がって登場した。スペシャルバイクでの登場を期待していたが、どうやら悪天候で汚れることを考慮して投入を見送ったようだ。
「今日はグチャグチャなレースになりそう。未舗装コースはフランスのトロ・ブロ・レオンで経験済み。総合成績はもう関係ないので、終盤の上りは特に気にしてないです」。
スタート地点を離れ、撮影ポイントまで高速道路で先回りを試みる。ワイパーはフル稼働しているが、それでも捌ききれないほどの雨粒がフロントガラスにぶつかってくる。イタリアの道路は水はけが悪く、車線の半分を埋めるほどの大きな水たまりが出来ていることも多い。何度か深い水たまりにハンドルを取られながらも、ラジオコルサに耳を傾けながら進んで行く。
しかし飛ばせども飛ばせども、なかなかレースの前に出ることが出来ない。スケジュール通りに進行していれば余裕を持って撮影する予定だったが、ラジオコルサは「最初の1時間の平均スピードは52.5km/h!」と伝える。どうりで時間がタイトな訳だ。
斜塔で有名なピサの街の近くで撮影。すると見慣れた白いサングラスのBboxブイグテレコムの選手が逃げているのが見えた。イタリア入りしてからずっと逃げたいオーラを出しているユキヤだ。
スタート前に「相変わらず好調なので、タイミングが合えば逃げグループに入りたいです」と語っていたが、あと数日様子を見ると思いきや、中1日でユキヤが動いてきた。
しかし今回はメンバーが良すぎた。過去に2度ジロを制しているジルベルト・シモーニ(イタリア、ランプレ)やマリアビアンカのヴァレリオ・アニョーリ(イタリア、リクイガス)など、強者揃いの16名。さすがに集団は許してくれなかった。
モンタルチーノに至る泥んこコース
5年ほど前、モンタルチーノから北に35kmほど行ったシエナに住んでいたため、ゴール地点周辺の道はほとんどロードバイクで走破している。この日のコースも昔よく走っていた道ばかり。懐かしさを覚えながらクルマを飛ばして行く。しかし今回の未舗装区間は走ったことがない。
レースの約1時間前に賑やかに沿道を盛り上げるキャラバン隊の車列は、未舗装区間をパスし、黒光りしたアスファルトの迂回路を通ってゴールへ。確かに泥だらけのキャラバン隊は嫌だ。洗車もしにくそう。
警備のおじさんはプレスカーにも「クルマが汚れるし、危険だ」と迂回路を勧めてくる。しかし丁重にお断りして未舗装区間に突っ込んでみた。
アスファルトの偉大さを感じた5分間だった。調子に乗ってコーナーを攻めると、見事にリアが横に滑り始める。路面自体は堅く固められており、地面にしっかりと芯があるような感じ。乾燥していればそれほど問題にならないような道だが、雨によってシャバシャバの泥が覆っている状態。そう、溶けたミルクチョコレートのような。
選手の判別はそれなりに自信があるのだが、泥だらけの選手はどれも一緒に見える。それ以前に、チームの判別も難しいような、見るも無惨な姿カタチで目の前に現れた。脚から血を流したマリアローザの表情は暗い。
選手たちはみな目を真っ赤にしている。汚れた手で汚れた顔を拭いている。まさかジロで泥星人を見ることになるとは。近年パリ〜ルーベは雨が降らないというのに。
第2ダート区間を迂回してゴールに直行。しかし交通規制でクルマがシャットアウトされていたため、ゴール1km手前のテクニカルな下りで写真を撮る。先頭でやってきたのは、泥まみれのアルカンシェルとダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)。荒い石畳が敷かれた細い路地を抜け、最後の上りスプリントを制したのはエヴァンスだった。
少しくたびれた表情のユキヤがゴールしたことを確認してBboxブイグテレコムのチームバスに向かう。Bboxブイグテレコムの選手たちは「いやいや、ほんと参った」というジェスチャーでびしょ濡れのジャージを脱ぎ、スタッフに手渡す。いつもなら観客が飛びつくキャップも、この日ばかりはなかなか引き取り手が見つからなかった。
「パリ〜ルーベのようでした。今日ってパリ〜ルーベでしたっけ?とにかくコースは酷かった。どこが酷いと言うわけでもなく、全部」。そう言いながらユキヤはグローブをギュッと握りしめる。ボタボタと水が落ちる。
「でも相変わらず調子は良いです。序盤も逃げグループに入りましたし」。連日の悪天候や難コースに、少し表情には疲労の色が見えるが、その真っ赤に充血した目には自信が感じられる。声にも張りがある。「また」やってくれそうな勢いを感じる。
チームバスに入っていったユキヤを見届けて、ゴール地点そばのプレスセンターに向かう。モンタルチーノは世界的なワインの産地として知られており、エノテカ(ワイナリー)が街中のあちこちにある。無料でワインを振る舞っているエノテカもあったが、ここはぐっっっと我慢して仕事に向かう。
椅子に座ってラップトップを開くと、どうも何かが臭う。まるで牛舎のような独特の臭さが辺りに立ちこめている。
その原因は跳ね上げて付着した泥だ。そんな泥が口に入ったであろう選手たちの体調が心配になって来た。加えて連日の雨で選手たちの体力は消耗しているはず。そんな状況で、翌日は今大会1回目の頂上ゴール。早くもジロはサバイバルレースの様相を呈して来た。
text&photo:Kei Tsuji
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