2019/10/20(日) - 13:54
マッズ・ペデルセンによって世界選手権を制したトレックが今年発表した新型「Domane SLR」をインプレッション。モデルチェンジごとに革新的な機構を搭載し、エンデュランスレーシングバイクの最先端を走り続けるDomaneの最新モデルの実力に迫る。
アメリカ・ウィスコンシン州に本拠を置くトレック。エアロロードのMadone、ライトウェイトオールラウンダーのEmondaと並ぶ3つ目の柱として、同社のロードバイクラインアップを支えるのがエンデュランスバイクのDomaneだ。
2012年の初代Domaneが世界中のサイクリストに与えた衝撃を覚えている方も少なくないだろう。フレームからシートチューブを独立させることで大きくシート回りにしなりを生むマイクロサスペンションシステム”IsoSpeed”によってもたらされる大幅な快適性の向上は、ライバルブランドに対して大きなアドバンテージを生み出した。
続く2016年のモデルチェンジの際にはその画期的なシステムをフロントにも取り入れ、ロードバイク然としたフォルムを一切崩すことなく、フルサスペンションを搭載した究極のエンデュランスバイクとして進化した。
歴代Domaneが目標としてきたのは、過酷な石畳クラシックレースで頂点の栄光を掴むこと。Domaneの開発に深く関わったファビアン・カンチェラーラによって、パリ~ルーベやロンド・ファン・フラーンデレンといった多くのビッグレースを制してきた。
その歴史に今年、新たな1ページが加わった。満を持して発表された第3世代のDomaneが掲げるテーマは「エアロ」と「更なる快適性」、そして「バーサタイル(汎用性)」。この3つのテーマを実現することで、新型Domaneは大きな進化を遂げることとなった。
現代のレーシングバイクに欠かせない大きな要素となるエアロダイナミクス。レースでの勝利のためには、ピュアなエアロバイクでなくとも空力を意識したデザインを与えられている。トレックは新型Domaneに対し、Madoneで培ったエアロデザインを投入することで劇的にエアロダイナミクスを向上させることに成功している。
ヘッドチューブやダウンチューブ、フロントフォークなどメインとなるチューブはカムテールデザインを採用しているほか、ワイヤールーティングも工夫されている。フル内装というわけではないが、ステムに沿って這わせられたケーブルをトップチューブからフレームへと導入し、メンテナンス性と空力性能を両立する設計としている。
Domaneの主眼となる快適性については、そのコアとなるIsoSpeedにメスを入れることによって更なる性能向上を果たしている。シートチューブを分割していた従来型のIsoSpeedに対して、トップチューブの後ろ半分にL字型のシートマストを支えさせる新型IsoSpeedを採用することで大幅に快適性を改善している。
新型Madoneにも採用されているこのトップチューブタイプIsoSpeedは、最もソフトな設定にした場合先代Domane SLRに対して27%、ハードな設定においても14%もの振動吸収性の向上を実現。さらに、特殊なラバーコンパウンドを重ねて構成する「IsoCoreハンドルバー」とバーテープ下に配置するEVAパッド「IsoZone」の導入によってハンドルバーへの振動を20%カット、フロントIsoSpeedと合わせて抜群の乗り心地を実現する。
また、標準で装備する32cのワイドタイヤも快適性に大きく貢献している。トレックおよびボントレガーの研究の結果、荒れた路面においてはワイドタイヤのほうがスピード面においても利があるという。太めのタイヤを低圧にセットすることで、しっかりグリップを効かせることがスピードにも繋がるため、トレックは新型Domaneに大きなタイヤクリアランスを与えた。
最大で38cタイヤ、フェンダーを装着しても35cタイヤまでに対応するワイドなタイヤクリアランスがもたらしたのは快適性や走行性能の向上だけではない。これまでのパヴェレーサーという枠を超えた多用途な自転車としての側面をDomaneに与えた。
ロードレーサーの枠組みを超えたワイドタイヤによって、舗装路未舗装路の別を問わず、あらゆる状況に対応するオールロードバイクとなった新型Domane。フォークやフレームの内側には目立たないようなフェンダーマウントも用意されており、もちろん搭載しているディスクブレーキも合わせて雨のライドでも快適な走行を約束するオールウェザーバイクでもある。
さらに、ダウンチューブには新たに内蔵ストレージが設けられている。Bontrager Integrated Tool System(BITS)として、専用のマルチツールやチューブタイヤレバー、CO2ボンベなどを収納できる専用のバッグが用意され、サドルバッグなどを装着せずとも安心してロングライドに旅立てるようになっている。
新型Domaneのユニークな点は汎用規格の採用にもある。IsoSpeedをはじめ、独自のテクノロジーを数多く盛り込んだバイクであることは間違いないが、先述のハンドル/ステムの仕様などにも見られるようにメンテナンス性能にも配慮した設計とされている。
その設計思想はBBの規格にもおよび、これまでトレックが採用してきた独自規格のBB90の採用を見送り、スレッド式のT47規格へと変更されている。クリスキングらが提唱するT47規格の採用によって、圧入BBの持つ弱点を解消し、より扱いやすいバイクとなった。
ジオメトリーはエンデュランスライドに向くH2フィットと、よりアグレッシブなH1.5フィットの2種類が用意されている。H1.5はヘッドチューブが短くなる一方で、ホイールベースやBBドロップはH2フィット同様とされており、ポジションのみを低くすることが出来るジオメトリとなっている。
今回はトップグレードのDomane SLRにスラムのRED eTap AXSを組み合わせ、ホイールにはボントレガーのワイドリムカーボンホイールAeolus Pro 3Vを装備したプロジェクトワン仕様のバイクでテストした。エンデュランスレーサーという殻を打ち破った3世代目のDomaneの真価やいかに。それではインプレッションに移ろう。
― インプレッション
「安全に速く走れるバイクが欲しい、大人のためのバイク」藤野智一(なるしまフレンド)
トレックに乗るのは久しぶりです(笑)最後に乗ったのがランスがUSポスタルで走っていた頃、OCLVが登場したあたりでしょうか。フレームもフォークも薄くて、ヒラヒラした乗り味の軽量バイクというイメージがありました。
そんな経験からすると、このDomaneからはかなり違った印象を受けました。まず、持ってみると重ためでどっしりしたバイクだな、というのが第一印象。でも、いざ走り出すとスムーズな加速感で、走りに重さは感じません。カリカリのレーシーなバイクではないですが、ストレスなく走ってくれます。踏めば踏んだ分だけしっかり応えてくれる素直な一台ですね。
IsoSpeedが一番固い状態になっているのに気づかないまま最初に乗った時は、意外に突き上げが来るな、という印象だったのですが、セッティングを変えてみると全く別のバイクになったような変貌ぶりに驚かされました。バイクの性格的にも、一番ソフトなセッティングが似合うのではないかと思いますね。もちろん、乗り手の体格やライディングスタイルによって調整できるので、スイートスポットを探すのも面白いと思います。
フレーム上部の形状が弓なりのアーチを描いていて、しっかりしなってくれそうなルックスからのギャップもあり、最初の状態だと硬いフレームだな、という印象が強かったですね。その状態でも伝わってくる振動は尖った不快感のあるものではなく、角を丸められつつも路面からの情報は残したもの。
設定を柔らかくしても、情報量は変わらずに滑らかになるイメージで、路面の状況が把握しやすい。しっかりと判断材料になる情報を乗り手に上げてきてくれるので、危険に対するセンサーが鈍ることもありません。フロントについても同様です。フロントが動く、ということで不安定なものを想像する方もいると思いますが、そういった心配は一切ないですね。
元をただせばパリ~ルーベ用のレースバイクですから当然なのですが、ただ楽に走るためだけではなく、より少ない力で巡航するための振動吸収性能なのだと思います。ですから、遠くに速く走りたい人にとってピッタリのバイクですね。例えば、ロングライドしか走らないという方でも30km/h巡航って結構速いスピードじゃないですか。でも、それくらいで走ることを可能にしてくれますし、脚があればより速いスピードで走ることもできます。
乗り心地も良し、速く走ろうと思えば走れますし、タイヤも太くて良いですね。速くも走りたいけど、怪我はしたくない。だから安全に速く走れるバイクが欲しい、大人のためのバイクです。最新のコンポーネントも付いていますし、ホイールもカーボンですし、所有欲を満たしてくれるという意味でも、大人向けのバイクでしょう。
昔にすこし自転車に乗っていた人で、20代、30代、40代、忙しい時間を過ごして、時間とお金に余裕の出てきた、自分と同い年の50代のおじさん達がちょっと自転車をまた始めようかなという人達にとってはすごく良い自転車なのかなと思います。
「懐の深さを見せるトレックらしいオールラウンドなエンデュランスバイク」藤澤優(ワイズロード上野アサゾー店)
面白いバイクですね。IsoSpeedの設定でかなり印象が変化しました。最初は、最も柔らかいセッティングでテストしたのですが、振動吸収性の塊のような印象でした。下りで路面の凹凸に突っ込んでも車体が跳ね上がることもなく安定して通過できるのは驚きましたね。踏んでいったときには穏やかな反応で、エンデュランスバイクらしい印象を受けました。
その後、最も固いセッティングで乗ってみたところ、振動は多少伝えてくるようになった一方で、ペダリングに対するレスポンスはかなり良くなって驚きました。リアのトラクションのかかり方も良く、キビキビ進んでくれますね。
フレーム自体はかなり硬めの印象を受けました。実際ゼロ発進から踏み込んでもフレームがしなって力をロスしてしまうような感覚はありませんし、平坦を高速で走っているときの気持ちよさは非常に高いレベルにありますし、スピードの乗っていき方もスムーズです。逆に、フレーム自体は硬くしあげ、振動吸収性を前後のIsoSpeedに委ねることで、走行性能と快適性の両立を図っているのではないでしょうか。なので、IsoSpeedの設定がバイクの性格に大きく影響するのだと思います。
28Cとかなり太めのタイヤを履いているのですが、タイヤの重さを感じることはほぼありませんでした。ホイールの軽さもあるのでしょうが、良く転がりますし、ワイドタイヤならではの安定感やグリップ、快適性といったメリットが際立ちます。少しダートでも試してみましたが、安心して走ることが出来ますし、最大幅の38Cを組み合わせればどこでも行けるのではないでしょうか。
IsoSpeedヘッドチューブやIsoCoreハンドルバーといったギミックを採用するフロント回りも、抜群の振動吸収性を発揮する一方で、走行性能に影響は一切与えていないのは素晴らしいですね。ハンドルをこじってモガいても、ねじれるような感覚はなかったです。
ワイヤリングも特徴的ですが、極低速域を除いて、ハンドリングに影響があるようには感じませんでした。近年はフル内装が主流となってきていることもあるので、ルックスに関しては好みが分かれると思いますが、メンテナンスのしやすさとエアロ性能を両立している点は評価できるでしょう。
ダウンチューブ内蔵ストレージも面白い発想ですね。デュオトラップセンサーなどを進めてきたトレックらしい発想だと思います。実際、サドルバッグで重心が崩れることを嫌う人もいますので、理にかなった解決策だと思います。
いろいろなギミックが盛り込まれていても、決して破綻することなく素晴らしい走りを見せてくれるのは、トレックの総合ブランドとしての底力がなせる業でしょう。未舗装路にも対応し、より懐の深さを手に入れたDomaneはトレックらしい1台ですね。
トレック Domane SLR 9 etap
フレーム:700 Series OCLV Carbon
サイズ:47、50、52、54、56、58、60、62
ホイール:ボントレガー Aeolus XXX 4
コンポーネント:スラム RED eTap AXS
価格:1,172,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
藤野智一(なるしまフレンド)
92年のバルセロナ五輪ロードレースでの21位を皮切りに、94/97年にツール・ド・おきなわ優勝、98/99年は2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦歴を持つ。引退してからはチームブリヂストンアンカーで若手育成に取り組み同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。ブリヂストン時代にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ。
なるしまフレンド神宮店
CWレコメンドショップページ
藤澤優(ワイズロード上野アサゾー店)
大学時代に浅田顕監督の元で経験を積んだ後、スペインへ遠征し2年半ほど本場ヨーロッパのロードレースに挑戦。トップ選手らとしのぎを削った経験を活かし、トレーニングやレース機材のアドバイスを得意とする。現在はワイズロードの中でも最もロードに特化した「上野アサゾー店」の店長を務める。店内に所狭しと並んだ3万~4万点ものパーツを管理し、スモールパーツからマニアックな製品まであらゆるロードレーサーのニーズを満たすラインアップを揃える。
ワイズロード上野アサゾー店
CWレコメンドショップページ
ウェア協力:イザドア
text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
アメリカ・ウィスコンシン州に本拠を置くトレック。エアロロードのMadone、ライトウェイトオールラウンダーのEmondaと並ぶ3つ目の柱として、同社のロードバイクラインアップを支えるのがエンデュランスバイクのDomaneだ。
2012年の初代Domaneが世界中のサイクリストに与えた衝撃を覚えている方も少なくないだろう。フレームからシートチューブを独立させることで大きくシート回りにしなりを生むマイクロサスペンションシステム”IsoSpeed”によってもたらされる大幅な快適性の向上は、ライバルブランドに対して大きなアドバンテージを生み出した。
続く2016年のモデルチェンジの際にはその画期的なシステムをフロントにも取り入れ、ロードバイク然としたフォルムを一切崩すことなく、フルサスペンションを搭載した究極のエンデュランスバイクとして進化した。
歴代Domaneが目標としてきたのは、過酷な石畳クラシックレースで頂点の栄光を掴むこと。Domaneの開発に深く関わったファビアン・カンチェラーラによって、パリ~ルーベやロンド・ファン・フラーンデレンといった多くのビッグレースを制してきた。
その歴史に今年、新たな1ページが加わった。満を持して発表された第3世代のDomaneが掲げるテーマは「エアロ」と「更なる快適性」、そして「バーサタイル(汎用性)」。この3つのテーマを実現することで、新型Domaneは大きな進化を遂げることとなった。
現代のレーシングバイクに欠かせない大きな要素となるエアロダイナミクス。レースでの勝利のためには、ピュアなエアロバイクでなくとも空力を意識したデザインを与えられている。トレックは新型Domaneに対し、Madoneで培ったエアロデザインを投入することで劇的にエアロダイナミクスを向上させることに成功している。
ヘッドチューブやダウンチューブ、フロントフォークなどメインとなるチューブはカムテールデザインを採用しているほか、ワイヤールーティングも工夫されている。フル内装というわけではないが、ステムに沿って這わせられたケーブルをトップチューブからフレームへと導入し、メンテナンス性と空力性能を両立する設計としている。
Domaneの主眼となる快適性については、そのコアとなるIsoSpeedにメスを入れることによって更なる性能向上を果たしている。シートチューブを分割していた従来型のIsoSpeedに対して、トップチューブの後ろ半分にL字型のシートマストを支えさせる新型IsoSpeedを採用することで大幅に快適性を改善している。
新型Madoneにも採用されているこのトップチューブタイプIsoSpeedは、最もソフトな設定にした場合先代Domane SLRに対して27%、ハードな設定においても14%もの振動吸収性の向上を実現。さらに、特殊なラバーコンパウンドを重ねて構成する「IsoCoreハンドルバー」とバーテープ下に配置するEVAパッド「IsoZone」の導入によってハンドルバーへの振動を20%カット、フロントIsoSpeedと合わせて抜群の乗り心地を実現する。
また、標準で装備する32cのワイドタイヤも快適性に大きく貢献している。トレックおよびボントレガーの研究の結果、荒れた路面においてはワイドタイヤのほうがスピード面においても利があるという。太めのタイヤを低圧にセットすることで、しっかりグリップを効かせることがスピードにも繋がるため、トレックは新型Domaneに大きなタイヤクリアランスを与えた。
最大で38cタイヤ、フェンダーを装着しても35cタイヤまでに対応するワイドなタイヤクリアランスがもたらしたのは快適性や走行性能の向上だけではない。これまでのパヴェレーサーという枠を超えた多用途な自転車としての側面をDomaneに与えた。
ロードレーサーの枠組みを超えたワイドタイヤによって、舗装路未舗装路の別を問わず、あらゆる状況に対応するオールロードバイクとなった新型Domane。フォークやフレームの内側には目立たないようなフェンダーマウントも用意されており、もちろん搭載しているディスクブレーキも合わせて雨のライドでも快適な走行を約束するオールウェザーバイクでもある。
さらに、ダウンチューブには新たに内蔵ストレージが設けられている。Bontrager Integrated Tool System(BITS)として、専用のマルチツールやチューブタイヤレバー、CO2ボンベなどを収納できる専用のバッグが用意され、サドルバッグなどを装着せずとも安心してロングライドに旅立てるようになっている。
新型Domaneのユニークな点は汎用規格の採用にもある。IsoSpeedをはじめ、独自のテクノロジーを数多く盛り込んだバイクであることは間違いないが、先述のハンドル/ステムの仕様などにも見られるようにメンテナンス性能にも配慮した設計とされている。
その設計思想はBBの規格にもおよび、これまでトレックが採用してきた独自規格のBB90の採用を見送り、スレッド式のT47規格へと変更されている。クリスキングらが提唱するT47規格の採用によって、圧入BBの持つ弱点を解消し、より扱いやすいバイクとなった。
ジオメトリーはエンデュランスライドに向くH2フィットと、よりアグレッシブなH1.5フィットの2種類が用意されている。H1.5はヘッドチューブが短くなる一方で、ホイールベースやBBドロップはH2フィット同様とされており、ポジションのみを低くすることが出来るジオメトリとなっている。
今回はトップグレードのDomane SLRにスラムのRED eTap AXSを組み合わせ、ホイールにはボントレガーのワイドリムカーボンホイールAeolus Pro 3Vを装備したプロジェクトワン仕様のバイクでテストした。エンデュランスレーサーという殻を打ち破った3世代目のDomaneの真価やいかに。それではインプレッションに移ろう。
― インプレッション
「安全に速く走れるバイクが欲しい、大人のためのバイク」藤野智一(なるしまフレンド)
トレックに乗るのは久しぶりです(笑)最後に乗ったのがランスがUSポスタルで走っていた頃、OCLVが登場したあたりでしょうか。フレームもフォークも薄くて、ヒラヒラした乗り味の軽量バイクというイメージがありました。
そんな経験からすると、このDomaneからはかなり違った印象を受けました。まず、持ってみると重ためでどっしりしたバイクだな、というのが第一印象。でも、いざ走り出すとスムーズな加速感で、走りに重さは感じません。カリカリのレーシーなバイクではないですが、ストレスなく走ってくれます。踏めば踏んだ分だけしっかり応えてくれる素直な一台ですね。
IsoSpeedが一番固い状態になっているのに気づかないまま最初に乗った時は、意外に突き上げが来るな、という印象だったのですが、セッティングを変えてみると全く別のバイクになったような変貌ぶりに驚かされました。バイクの性格的にも、一番ソフトなセッティングが似合うのではないかと思いますね。もちろん、乗り手の体格やライディングスタイルによって調整できるので、スイートスポットを探すのも面白いと思います。
フレーム上部の形状が弓なりのアーチを描いていて、しっかりしなってくれそうなルックスからのギャップもあり、最初の状態だと硬いフレームだな、という印象が強かったですね。その状態でも伝わってくる振動は尖った不快感のあるものではなく、角を丸められつつも路面からの情報は残したもの。
設定を柔らかくしても、情報量は変わらずに滑らかになるイメージで、路面の状況が把握しやすい。しっかりと判断材料になる情報を乗り手に上げてきてくれるので、危険に対するセンサーが鈍ることもありません。フロントについても同様です。フロントが動く、ということで不安定なものを想像する方もいると思いますが、そういった心配は一切ないですね。
元をただせばパリ~ルーベ用のレースバイクですから当然なのですが、ただ楽に走るためだけではなく、より少ない力で巡航するための振動吸収性能なのだと思います。ですから、遠くに速く走りたい人にとってピッタリのバイクですね。例えば、ロングライドしか走らないという方でも30km/h巡航って結構速いスピードじゃないですか。でも、それくらいで走ることを可能にしてくれますし、脚があればより速いスピードで走ることもできます。
乗り心地も良し、速く走ろうと思えば走れますし、タイヤも太くて良いですね。速くも走りたいけど、怪我はしたくない。だから安全に速く走れるバイクが欲しい、大人のためのバイクです。最新のコンポーネントも付いていますし、ホイールもカーボンですし、所有欲を満たしてくれるという意味でも、大人向けのバイクでしょう。
昔にすこし自転車に乗っていた人で、20代、30代、40代、忙しい時間を過ごして、時間とお金に余裕の出てきた、自分と同い年の50代のおじさん達がちょっと自転車をまた始めようかなという人達にとってはすごく良い自転車なのかなと思います。
「懐の深さを見せるトレックらしいオールラウンドなエンデュランスバイク」藤澤優(ワイズロード上野アサゾー店)
面白いバイクですね。IsoSpeedの設定でかなり印象が変化しました。最初は、最も柔らかいセッティングでテストしたのですが、振動吸収性の塊のような印象でした。下りで路面の凹凸に突っ込んでも車体が跳ね上がることもなく安定して通過できるのは驚きましたね。踏んでいったときには穏やかな反応で、エンデュランスバイクらしい印象を受けました。
その後、最も固いセッティングで乗ってみたところ、振動は多少伝えてくるようになった一方で、ペダリングに対するレスポンスはかなり良くなって驚きました。リアのトラクションのかかり方も良く、キビキビ進んでくれますね。
フレーム自体はかなり硬めの印象を受けました。実際ゼロ発進から踏み込んでもフレームがしなって力をロスしてしまうような感覚はありませんし、平坦を高速で走っているときの気持ちよさは非常に高いレベルにありますし、スピードの乗っていき方もスムーズです。逆に、フレーム自体は硬くしあげ、振動吸収性を前後のIsoSpeedに委ねることで、走行性能と快適性の両立を図っているのではないでしょうか。なので、IsoSpeedの設定がバイクの性格に大きく影響するのだと思います。
28Cとかなり太めのタイヤを履いているのですが、タイヤの重さを感じることはほぼありませんでした。ホイールの軽さもあるのでしょうが、良く転がりますし、ワイドタイヤならではの安定感やグリップ、快適性といったメリットが際立ちます。少しダートでも試してみましたが、安心して走ることが出来ますし、最大幅の38Cを組み合わせればどこでも行けるのではないでしょうか。
IsoSpeedヘッドチューブやIsoCoreハンドルバーといったギミックを採用するフロント回りも、抜群の振動吸収性を発揮する一方で、走行性能に影響は一切与えていないのは素晴らしいですね。ハンドルをこじってモガいても、ねじれるような感覚はなかったです。
ワイヤリングも特徴的ですが、極低速域を除いて、ハンドリングに影響があるようには感じませんでした。近年はフル内装が主流となってきていることもあるので、ルックスに関しては好みが分かれると思いますが、メンテナンスのしやすさとエアロ性能を両立している点は評価できるでしょう。
ダウンチューブ内蔵ストレージも面白い発想ですね。デュオトラップセンサーなどを進めてきたトレックらしい発想だと思います。実際、サドルバッグで重心が崩れることを嫌う人もいますので、理にかなった解決策だと思います。
いろいろなギミックが盛り込まれていても、決して破綻することなく素晴らしい走りを見せてくれるのは、トレックの総合ブランドとしての底力がなせる業でしょう。未舗装路にも対応し、より懐の深さを手に入れたDomaneはトレックらしい1台ですね。
トレック Domane SLR 9 etap
フレーム:700 Series OCLV Carbon
サイズ:47、50、52、54、56、58、60、62
ホイール:ボントレガー Aeolus XXX 4
コンポーネント:スラム RED eTap AXS
価格:1,172,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
藤野智一(なるしまフレンド)
92年のバルセロナ五輪ロードレースでの21位を皮切りに、94/97年にツール・ド・おきなわ優勝、98/99年は2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦歴を持つ。引退してからはチームブリヂストンアンカーで若手育成に取り組み同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。ブリヂストン時代にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ。
なるしまフレンド神宮店
CWレコメンドショップページ
藤澤優(ワイズロード上野アサゾー店)
大学時代に浅田顕監督の元で経験を積んだ後、スペインへ遠征し2年半ほど本場ヨーロッパのロードレースに挑戦。トップ選手らとしのぎを削った経験を活かし、トレーニングやレース機材のアドバイスを得意とする。現在はワイズロードの中でも最もロードに特化した「上野アサゾー店」の店長を務める。店内に所狭しと並んだ3万~4万点ものパーツを管理し、スモールパーツからマニアックな製品まであらゆるロードレーサーのニーズを満たすラインアップを揃える。
ワイズロード上野アサゾー店
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ウェア協力:イザドア
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photo:Makoto.AYANO
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