2019/07/21(日) - 17:26
マクロン大統領が待つ山頂でピノの勝利とアラフィリップの2位フィニッシュ、そしてマイヨジョーヌ更新。標高2,115mの超級山岳トゥールマレー峠フィニッシュはフランスにとってこれ以上無いほどの美しい日になった。ゲラント・トーマスの遅れでこれからのツールの展開は変わりそうだ。
フランス共和国大統領エマニュエル・マクロン氏がトゥールマレー峠にやってくるとあってこの日のトゥールマレー峠は厳重なセキュリティ体制が敷かれた。プレスや関係者にも車両の乗り入れが制限され、峠の頂上のフィニッシュエリアまでは4km麓のスキー場ラ・モンジから徒歩でアプローチするという状況に。
それでも標高2,115mの超級山岳の沿道には、小山の斜面を覆いつくすほどの観客が先入りして待ち構えていた。そんな熱心な観客たちを沸かせたのは、ラスト2kmの「ゲラント・トーマス、ディスタンセ!(遅れた)」の一報。その一方でジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) とティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)の2人のフランス人を含む6人の先頭集団がフィニッシュに向かう。吹きっさらしの急斜面、残り400mの急勾配で飛び出したピノが力強く先行する。
ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)、エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)、エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)、ミケル・ランダ(スペイン、モビスター)の精鋭たちをピノが力で制し、ガッツポーズを繰り出しながらトゥールマレー峠に飛び込む。そしてそれに続くアラフィリップのアタック、そして2位フィニッシュ。峠の脇の小山の斜面が地響きをたてるように沸いた。
横風ステージで被った100秒を取り返すには至らないが、あの日のリベンジとも言えるピノの勝利。そしてアラフィリップはマイヨジョーヌをかろうじて守るどころか、逆にトーマスとの差を開くことまで達成した。フランス人のワン・ツー勝利は、詰めかけたフランス人観客たちの期待以上どころか世界を驚かす結果になった。
超級山岳フィニッシュを先頭グループで登ってしまったアラフィリップ。昨年山岳賞をとるも、総合争いで登る難関山岳山頂フィニッシュはこれが初体験。今日も予想を覆し、崩れなかったどころか、逆にトーマスとのタイム差を広げることに。フィニッシュでついたタイム差30秒にボーナスタイム6秒を加え、リードを2分02秒まで拡大することに成功。どこまでも上り調子のJUJUは、おそらくどのライバル選手もチームも、そして関係者観客も、その力を低く見積もりすぎていたのだろう。
マクロン大統領に迎えられたピノとアラフィリップ。フランス人にとってただ美しい一日になった。
チームイネオスがついに敗北を喫した。チームスカイ時代から過去6年で5度のツール・ド・フランス総合優勝。2012年のブラドレー・ウィギンズのモルツィーヌ・アヴォリアズでの山頂フィニッシュでのステージ勝利から今まで、クリス・フルームが骨折でリタイヤした2014年を除き、ほとんどすべてのキーとなる難関山岳をことごとく支配してきたチームイネオスの支配が崩れた一日となった。
この日のチームイネオスは最初の1級山岳スロール峠で速く厳しいペースをつくるも、他チームに展開を任せた。ミカル・クウィアトコウスキーとワウト・プールスが早めに離脱。そして山岳アシストのヨナタン・カストロビエホも最後まで残れなかった。いつもの「数の支配」は弱く、トゥールマレー峠へ。そしてラスト2kmで先頭グループから脱落したトーマス。長丁場のステージレースで極端に体調が低下する「バッド・デイ」を迎えたのか、それとも。
トーマスが遅れた時、先頭6人グループに残ったベルナルには「Gを待つな」という無線指示が出された。昨日の個人TTでタイムの冴えなかったベルナルには、トーマスのために走るという役割が大きくなっていたはずだ。そして今日のチーム戦略としてはチャンスが有れば動き、アラフィリップからタイムを奪うことだったはずだ。
トーマスは言う。「スタートから調子は良くなかった。正直にいうと、かなり不調だった。終盤では一定ペースで走ればいいということは分かっていた。他の選手たちが踏み込んだ時、本当に彼らに付いていくことさえできなかった。あのときは、彼らに付いていって最後の険しい登りで勝負するよりは、タイム差を失っても自分のペースで走るほうを優先したほうが良いと考えた。おそらく、みんなに付いていくべきだったかもしれない──なにをやってもうまくいかない日だった」。
おそらくはバッド・デイ。しかし結果的にトーマスの遅れは36秒にとどめることができ、総合2位の座も変わらない。ベルナルもマイヨブランの奪回に成功した。しかし中身を見ればエースがライバルたちに遅れを喫し、チームの支配力の無さも露わになった1日。チームにとっては今まででもっとも悪い結果とも言える山岳ステージになった。しかし2分2秒のタイム差は、まだ多くの難関山岳ステージが続くことを考えれば取りせる差だ。トーマスは「まだ機会はたくさんある」と言う。
イネオスに代わり、チームで数が揃っている力を見せたのがユンボ・ヴィズマだった。前日にワウト・ファンアールトを個人TTの落車で失っても、2人のアシストが残りステフェン・クライスヴァイクを支えた。ローレンス・デプルスの牽引、そして最後までクライスヴァイクをサポートしたジョージ・ベネット。
強さを見せたアシストのデプルスは2018年までクイックステップで走ったアシスト選手。2シーズンに渡って落車の負傷が続いたことで活躍できず、今季からユンボ・ヴィズマに移籍。しかし今年はジロ・デ・イタリア中に病気でリタイアするなど、不運が続いた。シーズン序盤の中東レースは良く走れたが、ツール前の調整に走れたレースはベルギーナショナル選手権のみという状態だった。しかし大勝負のツールで調子を合わせることができた。ベネットは登れながらも横風分断ステージで大きくタイムを失っているためクライスヴァイクのアシストに徹することができる。
この日他にチーム力の強さを見せたのはモビスターとグルパマFDJ。モビスターは早めのスロール峠で厳しいペースをつくり、総合10位のアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)や総合14位パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)らを脱落させた。しかしその後、苦しんだのは自らのチームエースであるナイロ・キンタナだった。キンタナはアシスト選手たちにも調子の悪さを伝えておらず、チームは慌ててペースアップを止めた。結局キンタナは3分24秒遅れてトゥールマレー峠にフィニッシュ。総合争いから脱落した。監督陣もキンタナから無線で知らされていない体調の悪さを、後になって知るという謎の多い状況だったようだ。
20分19秒遅れでトゥールマレー峠に到達した大きなグルペットには、スロール峠でのモビスターのペースアップに遅れたロマン・バルデをサポートするために、6人のアージェードゥーゼール・ラモンディアルの選手たちが含まれていた。フランスの大勝利を祝うポディウムセレモニーが終わってから到着したこのグルペットは、美しいフランスの日にかかわらず、沿道の観客ももはや声援を送れないほどの重い空気で、葬送の様相を呈していた。
text&photo:Makoto.AYANO in Tarbes France
フランス共和国大統領エマニュエル・マクロン氏がトゥールマレー峠にやってくるとあってこの日のトゥールマレー峠は厳重なセキュリティ体制が敷かれた。プレスや関係者にも車両の乗り入れが制限され、峠の頂上のフィニッシュエリアまでは4km麓のスキー場ラ・モンジから徒歩でアプローチするという状況に。
それでも標高2,115mの超級山岳の沿道には、小山の斜面を覆いつくすほどの観客が先入りして待ち構えていた。そんな熱心な観客たちを沸かせたのは、ラスト2kmの「ゲラント・トーマス、ディスタンセ!(遅れた)」の一報。その一方でジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) とティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)の2人のフランス人を含む6人の先頭集団がフィニッシュに向かう。吹きっさらしの急斜面、残り400mの急勾配で飛び出したピノが力強く先行する。
ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)、エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)、エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)、ミケル・ランダ(スペイン、モビスター)の精鋭たちをピノが力で制し、ガッツポーズを繰り出しながらトゥールマレー峠に飛び込む。そしてそれに続くアラフィリップのアタック、そして2位フィニッシュ。峠の脇の小山の斜面が地響きをたてるように沸いた。
横風ステージで被った100秒を取り返すには至らないが、あの日のリベンジとも言えるピノの勝利。そしてアラフィリップはマイヨジョーヌをかろうじて守るどころか、逆にトーマスとの差を開くことまで達成した。フランス人のワン・ツー勝利は、詰めかけたフランス人観客たちの期待以上どころか世界を驚かす結果になった。
超級山岳フィニッシュを先頭グループで登ってしまったアラフィリップ。昨年山岳賞をとるも、総合争いで登る難関山岳山頂フィニッシュはこれが初体験。今日も予想を覆し、崩れなかったどころか、逆にトーマスとのタイム差を広げることに。フィニッシュでついたタイム差30秒にボーナスタイム6秒を加え、リードを2分02秒まで拡大することに成功。どこまでも上り調子のJUJUは、おそらくどのライバル選手もチームも、そして関係者観客も、その力を低く見積もりすぎていたのだろう。
マクロン大統領に迎えられたピノとアラフィリップ。フランス人にとってただ美しい一日になった。
チームイネオスがついに敗北を喫した。チームスカイ時代から過去6年で5度のツール・ド・フランス総合優勝。2012年のブラドレー・ウィギンズのモルツィーヌ・アヴォリアズでの山頂フィニッシュでのステージ勝利から今まで、クリス・フルームが骨折でリタイヤした2014年を除き、ほとんどすべてのキーとなる難関山岳をことごとく支配してきたチームイネオスの支配が崩れた一日となった。
この日のチームイネオスは最初の1級山岳スロール峠で速く厳しいペースをつくるも、他チームに展開を任せた。ミカル・クウィアトコウスキーとワウト・プールスが早めに離脱。そして山岳アシストのヨナタン・カストロビエホも最後まで残れなかった。いつもの「数の支配」は弱く、トゥールマレー峠へ。そしてラスト2kmで先頭グループから脱落したトーマス。長丁場のステージレースで極端に体調が低下する「バッド・デイ」を迎えたのか、それとも。
トーマスが遅れた時、先頭6人グループに残ったベルナルには「Gを待つな」という無線指示が出された。昨日の個人TTでタイムの冴えなかったベルナルには、トーマスのために走るという役割が大きくなっていたはずだ。そして今日のチーム戦略としてはチャンスが有れば動き、アラフィリップからタイムを奪うことだったはずだ。
トーマスは言う。「スタートから調子は良くなかった。正直にいうと、かなり不調だった。終盤では一定ペースで走ればいいということは分かっていた。他の選手たちが踏み込んだ時、本当に彼らに付いていくことさえできなかった。あのときは、彼らに付いていって最後の険しい登りで勝負するよりは、タイム差を失っても自分のペースで走るほうを優先したほうが良いと考えた。おそらく、みんなに付いていくべきだったかもしれない──なにをやってもうまくいかない日だった」。
おそらくはバッド・デイ。しかし結果的にトーマスの遅れは36秒にとどめることができ、総合2位の座も変わらない。ベルナルもマイヨブランの奪回に成功した。しかし中身を見ればエースがライバルたちに遅れを喫し、チームの支配力の無さも露わになった1日。チームにとっては今まででもっとも悪い結果とも言える山岳ステージになった。しかし2分2秒のタイム差は、まだ多くの難関山岳ステージが続くことを考えれば取りせる差だ。トーマスは「まだ機会はたくさんある」と言う。
イネオスに代わり、チームで数が揃っている力を見せたのがユンボ・ヴィズマだった。前日にワウト・ファンアールトを個人TTの落車で失っても、2人のアシストが残りステフェン・クライスヴァイクを支えた。ローレンス・デプルスの牽引、そして最後までクライスヴァイクをサポートしたジョージ・ベネット。
強さを見せたアシストのデプルスは2018年までクイックステップで走ったアシスト選手。2シーズンに渡って落車の負傷が続いたことで活躍できず、今季からユンボ・ヴィズマに移籍。しかし今年はジロ・デ・イタリア中に病気でリタイアするなど、不運が続いた。シーズン序盤の中東レースは良く走れたが、ツール前の調整に走れたレースはベルギーナショナル選手権のみという状態だった。しかし大勝負のツールで調子を合わせることができた。ベネットは登れながらも横風分断ステージで大きくタイムを失っているためクライスヴァイクのアシストに徹することができる。
この日他にチーム力の強さを見せたのはモビスターとグルパマFDJ。モビスターは早めのスロール峠で厳しいペースをつくり、総合10位のアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)や総合14位パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)らを脱落させた。しかしその後、苦しんだのは自らのチームエースであるナイロ・キンタナだった。キンタナはアシスト選手たちにも調子の悪さを伝えておらず、チームは慌ててペースアップを止めた。結局キンタナは3分24秒遅れてトゥールマレー峠にフィニッシュ。総合争いから脱落した。監督陣もキンタナから無線で知らされていない体調の悪さを、後になって知るという謎の多い状況だったようだ。
20分19秒遅れでトゥールマレー峠に到達した大きなグルペットには、スロール峠でのモビスターのペースアップに遅れたロマン・バルデをサポートするために、6人のアージェードゥーゼール・ラモンディアルの選手たちが含まれていた。フランスの大勝利を祝うポディウムセレモニーが終わってから到着したこのグルペットは、美しいフランスの日にかかわらず、沿道の観客ももはや声援を送れないほどの重い空気で、葬送の様相を呈していた。
text&photo:Makoto.AYANO in Tarbes France
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