最大勾配26%の激坂「ユイの壁」は、今年も選手を苦しめた。2010年4月21日にベルギーで開催された第74回フレーシュ・ワロンヌ(UCIヒストリカル)で、激坂バトルを制したカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が優勝。オーストラリア人として初めて表彰台の頂点に立った。

「ユイの壁」で決した激坂バトル

ディミトリ・シャンピオン(フランス、アージェードゥーゼル)を含む逃げグループが「ユイの壁」を駆け上がるディミトリ・シャンピオン(フランス、アージェードゥーゼル)を含む逃げグループが「ユイの壁」を駆け上がる photo:Cor Vosアルデンヌ・クラシックの中で最高の難易度を誇る「ユイの壁」にゴールするフレーシュ・ワロンヌ。アイスランドの火山噴火に伴うフライトキャンセルにより、多くの選手が陸路でベルギー入りするという異例の事態の中、25チーム・197名の選手たちがシャルルロワをスタートした。

序盤から繰り返されたアタック合戦は、44km地点でようやく落ち着きを見せた。ディミトリ・シャンピオン(フランス、アージェードゥーゼル)やダヴィド・ロースリ(スイス、ランプレ)が飛び出すとメイン集団はペースダウン。

アップダウンが絶えない曲がりくねった道を行くアップダウンが絶えない曲がりくねった道を行く photo:A.S.O.1回目の「ユイの壁」通過時点(67km地点)で、逃げグループとメイン集団のタイム差は最大8分25秒に。ユイを起点とする周回コースに入るとカチューシャやケースデパーニュが集団コントロールを開始。幾つもの上りをこなしながらタイム差を詰めて行った。

有力チームの中で最初に戦略的な動きを見せたのはサクソバンク。コート・ド・オーボワ(ゴール86km手前)でイェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)やクリストフ・モロー(フランス、ケースデパーニュ)が飛び出し、7名で追走グループを形成した。

イェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)やクリストフ・モロー(フランス、ケースデパーニュ)を含む追走グループイェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)やクリストフ・モロー(フランス、ケースデパーニュ)を含む追走グループ photo:A.S.O.このサクソバンクの動きに呼応してメイン集団のスピードも上がり、先頭グループのリードは徐々に削り取られて行く。そんな中、メイン集団では落車が発生し、犠牲となったヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック)やカルステン・クローン(オランダ、BMCレーシングチーム)がレースを去った。

フォイクトグループがメイン集団に吸収されると、今度はセルゲイ・イワノフ(ロシア、カチューシャ)がカウンター。メイン集団では絶えずアタックが掛かる不安定な状態が続き、2回目の「ユイの壁(ゴール29km手前)」で逃げは全て吸収。レースはフリダシに戻った。

逃げグループを形成するフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)やロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)逃げグループを形成するフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)やロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス) photo:Cor Vosこの2回目のユイでアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)がペースアップを仕掛けると、集団は30名ほどに縮小してしまう。頂上通過後、少し緩んだ隙を突いてフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)が抜け出すと、ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)らが合流。先頭では4名の逃げグループが形成された。

フランクとクロイツィゲルという危険な2人を、メイン集団は逃がすわけにはいかない。しかし細かな上りと下り、そして曲がりくねったコースが逃げグループの背中を押す。メイン集団はアスタナがコントロールし、30秒あったタイム差を1秒ずつ削りながらラスト10km。

ラスト4kmから独走したアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)ラスト4kmから独走したアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ) photo:A.S.O.やがて集団からアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)が飛び出すと、イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)らとともに先頭グループに合流。ここからラスト5km地点でコロブネフが更にアタックを仕掛け、アムステル・ゴールドレースに続いて独走に持ち込んだ。

フランクやクロイツィゲルを飲み込んだメイン集団は、ケースデパーニュやオメガファーマ・ロットが牽引。果敢な走りを見せたコロブネフは、最後の「ユイの壁」突入後すぐに吸収。ここからトップ選手たちによる激坂バトルが始まった。

先行したイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)を抜いて先頭に立つアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)先行したイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)を抜いて先頭に立つアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:Cor Vos上り前半の比較的勾配の緩い区間で真っ先に仕掛けたアンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)は、集団を引き離せないまま吸収。ペースアップを図ったアントンにアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)が合流し、スパニッシュクライマー2人が先行して激坂区間を駆け上がった。

満を持してアントンを抜き、先頭に立ったコンタドール。しかしあまりの勾配の厳しさに、ダンシングの軽やかさが失われて行く。後方から追い上げたのは、飛び出すタイミングを待ち続けたエヴァンスとホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)。アルカンシェルのエヴァンスがコンタドールを勢い良く抜き去り、ロドリゲスを振り切ってゴールに飛び込んだ。


初めてアルデンヌ・クラシック制覇を達成したオーストラリア人

「ユイの壁」で先頭に立つカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)「ユイの壁」で先頭に立つカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vos「レインボージャージを着て優勝するのはとても名誉なこと。これからもこのジャージに見合った活躍を続けたい」。最速で「ユイの壁」を上り切ったエヴァンスは、喜びを噛み締めながらそう語る。

「ユイではどの動きが決定的になるかを見極めながら走った。先ずはクレーデンが早めに仕掛けて、続いてアントンとコンタドールが先行。迷わずコンタドールとの差を詰めようと踏んで行った。優勝したこと以外にも、コンタドールを打ち破った意味は大きいよ」。

コンタドールを抜き、ロドリゲスを振り切ってゴールするカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)コンタドールを抜き、ロドリゲスを振り切ってゴールするカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vosエヴァンスはこれまで何度もフレーシュ・ワロンヌの上位に絡んで来た。2008年大会は2位、そして2009年大会は5位。いずれも早めの仕掛けが仇となっての敗北だった。今回はその失敗を踏まえての勝利だ。

「これまで8回出場したけど、一度もレース前にコースを下見したことが無かった。今回はジョン・ルランゲ監督と一緒にこのユイを試走。その経験がこの勝利に繋がったと思う」。

表彰台、左から2位ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)、優勝カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)、3位アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)表彰台、左から2位ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)、優勝カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)、3位アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:A.S.O.オーストラリア人として初めてアルデンヌ・クラシックの頂点に立ったエヴァンス。当然期待されるのはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの走りだ。エヴァンスは2005年のリエージュで5位。2008年にも7位に入っている。ジロ・デ・イタリアに向けて調子を上げているエヴァンスだけに、リエージュでも上位に絡んでくるだろう。

久々の出場となったアルデンヌ・クラシックで、その存在感を見せたコンタドールは3位。経験で上回るエヴァンスに敗れたが、自分の走りには満足している様子だ。「僕はクラシックレースのスペシャリストではない。自分の強みは(ステージレースでの)リカバリーの速さ。スペインからの長距離ドライブを経てこの結果を残したことに満足しているよ」。コンタドールは次戦リエージュにも出場予定だ。

選手コメントは現地取材中のグレゴー・ブラウンより。


フレーシュ・ワロンヌ2010結果
1位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)   4h39'24"
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)
4位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)           +06"
5位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)              +09"
6位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)     +11"
7位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック)
8位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)
9位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)
10位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)
11位 ミハエル・アルバジーニ(スイス、チームHTC・コロンビア)
12位 バート・デワール(ベルギー、ランドバウクレジット)
13位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)
14位 クリストフ・ルメヴェル(フランス、フランセーズデジュー)
15位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)           +19"
16位 フランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア、ランプレ)
17位 シャビエル・フロレンシオ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)
18位 ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・トランジションズ)
19位 セバスティアン・ミナール(フランス、コフィディス)        +24"
20位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, A.S.O.

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