2019/07/03(水) - 11:45
ピレネー山脈とアルプス山脈で決する第106回ツール・ド・フランスのマイヨジョーヌ争い。27.2kmという短めの個人TTに対し、山岳はとにかくボリュームたっぷり。トゥールマレー峠、ガリビエ峠、イズラン峠(標高2,770m!)、そしてバル・トランス・・・。険しい山岳が多く組み込まれた後半ステージを紹介します。
7月17日(水)第11ステージ → コースマップ
アルビ〜トゥールーズ 167km
アルビで休息日を過ごした一行は引き続きピレネー山脈に向かって南下。第11ステージは嵐の前の静けさとも言うべき、スプリンター向きの平坦コースが設定された。前半に登場する3級山岳と4級山岳を除いて、スプリンターが脱落するような登りは組み込まれていない。休息日明けにリズムを崩したとしても、つまりバッドデーを迎えたとしても、致命的なタイムロスを被る心配はそれほどなさそうだ。
フランス第5の都市トゥールーズがツールのフィニッシュを迎え入れるのは27回目。トゥールーズは1903年の第1回大会にも登場しているが、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)がスプリント勝利を飾った2008年以来、10年間ツールのステージフィニッシュから遠ざかっていた。フィニッシュラインが引かれるのは、11年前にカヴェンデッシュが勝利した時と同じラスクロス通り。フラムルージュを過ぎてから緩い左コーナーが2つあるものの、残り2.3km地点の最終コーナーから先はほとんど真っ直ぐ。ピレネー突入前に勝利しておきたいスプリンターたちがしのぎを削る。この頃にはマイヨヴェール候補も自ずと絞られているはずだ。
7月18日(木)第12ステージ → コースマップ
トゥールーズ〜バニェール・ド・ビゴール 209.5km
ツールはフランスとスペインの間に佇むピレネー山脈に突入する。トゥールーズからひまわり畑が点在する平野部を走り、山あいの温泉保養地であるバニェール=ド=リュションを経て本格山岳にアタック。残り80kmを切ってから、1級山岳ペイルスルド峠(距離13.2km/平均7%)と「ボーナスポイント」付き1級山岳ウルケット=ダンシザン(距離9.9km/平均7.5%)を立て続けにクリアする。マイヨジョーヌ候補たちが翌日の個人タイムトライアルに向けて体力を温存することも考えられるため、逃げ切りが決まりやすいレイアウトであると言える。
登坂タイムがそのまま成績に反映されにくい(下りで挽回の余地を残す)下りフィニッシュだが、1級山岳ウルケット=ダンシザンの頂上に設定された「ボーナスポイント(地図と高低図の黄色いB)」で上位通過者3名に与えられる8秒、5秒、2秒のボーナスタイムを狙って総合上位陣が逃げを潰しにかかる可能性も。2019年に新たに導入されたこの「ボーナスポイント」は、単純に総合争いを活性化させるだけでなく、早々に集団が逃げを吸収する傾向をもたらすだろう。ライバルたちのボーナスタイム獲得を阻止するアシストの動きなど、これまで以上に戦略的な走りが求められる。
7月19日(金)第13ステージ → コースマップ
ポー〜ポー 27.2km(個人TT)
「個人タイムトライアルで広げたリードを山岳でキープする」。それが近年グランツールで総合優勝する選手の傾向だが、ツール第106回大会の個人タイムトライアルは合計27.2kmしかない。それでいて標高のある厳しい山岳ステージが多く設定されていることから、TTスペシャリスト系オールラウンダーではなくクライマー系オールラウンダーやピュアクライマーに総合優勝のチャンスが回ってくる。
ピレネーの入り口に位置し、ツール登場71回目というポーを発着する27.2kmコースは中盤にかけて高低差100m程度のアップダウンが2つ登場。モータースポーツのF2やF3、WTCCの開催地として知られる市街地サーキットのスタート地点ガストンラコステ通りを発ち、南方に広がる丘陵〜山岳を走ってポー市内に戻る。残り1kmを切ってから最大勾配17%の急坂をこなし、長年ツールの大集団スプリントを迎え入れているマキルベアルン通りでフィニッシュ。ステージ予想優勝タイムは35分弱で、総合上位陣の中には1分近いタイムロスを被る選手も出てくるだろう。
7月20日(土)第14ステージ → コースマップ
タルブ〜トゥールマレー・バレージュ 117.5km
ピレネーを代表する、そしてツールを代表するトゥールマレー峠の山頂フィニッシュが第14ステージに登場。117.5kmという短めの距離に、1級山岳スロール峠(距離11.9km/平均7.8%)と超級山岳トゥールマレー峠(距離19km/平均7.4%)という2つの峠が組み込まれた。短距離コースは必然的にハイペースな展開となるため、予想外の結果を生み出しやすい。
トゥールマレー峠がツールに登場するのは82回目で、フィニッシュとしての登場はアンディ・シュレク(ルクセンブルク)がアルベルト・コンタドール(スペイン)を下した2010年大会第17ステージ以来となる3回目。ピレネーらしいダイナミックな山岳風景を仰ぎ見ながら、「ジャック・ゴデ記念賞」が設定された名峰を登る。トゥールマレー峠と言えばスキー場ラ・モンジー(プレスセンターはここに置かれる)のある東側から登坂することが多いが、今回は西側から標高2,115mの峠を目指す。終盤にかけて10%前後の勾配を刻む登りでマイヨジョーヌ争いは熱を帯びる。
7月21日(日)第15ステージ → コースマップ
リムー〜フォア・プラットダルビ 185km
ピレネー決戦を締めくくるのは標高1,000〜1,500m級の峠を4つ繋いだ185kmの難関山岳ステージ。リムーからピレネー山脈に戻り、前半から2級山岳モンセギュール峠(距離6.8km/平均6%)と1級山岳ポール・ド・レール(距離11.4km/平均7%)をクリアする。その次に待つ「ボーナスポイント」付き1級山岳ミュール・ド・ペギュエール(距離9.3km/平均7.9%)は「ミュール(壁)」という名前が付けられている通り、後半にかけて平均勾配が13%に達する激坂で、最大勾配は18%に達する(2017年の登場時は道の狭さから観戦禁止となった)。
最後は2017年ツールの「フランス革命記念日」第13ステージでワレン・バルギル(フランス)が自身初勝利を飾ったフォアの街を通過し、そこから1級山岳フォア・プラットダルビ(距離11.8km/平均6.9%)を駆け上がってフィニッシュ。前半にかけて勾配が10%を超える標高1,205mの峠で再びピュアクライマーたちが躍動する。総合タイム挽回もしくは総合リード拡大のために、1つ前の1級山岳ミュール・ド・ペギュエールで「ボーナスポイント」を狙って早めに動いてくる選手たちも出てくるだろう。
7月22日(月)休息日
7月23日(火)第16ステージ → コースマップ
ニーム〜ニーム 177km
ピレネー山岳ステージをグルペットで乗り越え、最後の休息日で英気を養ったスプリンターたちに久々にチャンスが回ってくる。最終週の幕開けを告げる第17ステージは、2017年ブエルタ・ア・エスパーニャの開幕地であるニームを発着する177km。休息日前夜を含めると同じホテルに3連泊することになるため、選手たちの移動ストレスは少ない。
古くから織物の町と栄え、デニムの語源(デ・ニーム)となったニームの円形闘技場の前をスタート。中盤に4級山岳を含むものの、ステージ全体の難易度は低く、スプリンターチームが力づくでこのチャンスをものにするだろう。フィニッシュ地点は町外れの大通り。残り3kmから先は直線基調で、スプリンターを連れるリードアウトトレインが我先にと残り350mのロンポワン(ラウンドアバウト)に突進する。ニームのステージは集団スプリントで締めくくられると相場が決まっており、2008年はマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)が、2014年はアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー)がスプリント勝利を飾っている。
7月24日(水)第17ステージ → コースマップ
ポン・デュ・ガール〜ギャップ 200km
アルプス山脈のギャップに向かって急ぎ足でプロヴァンス地方を駆ける第17ステージ。ローマ時代にニームの町に水を届けるために作られた水道橋ポン・デュ・ガールの真横をスタートして、強風に注意のローヌ渓谷を横断し、禿山モンヴァントゥーを右手に、アルプスに入ったことを感じさせる山岳風景を見ながらギャップを目指す。
2日連続で勝負に持ち込みたいスプリンターにとって、残り8.5km地点にある3級山岳サンティネル峠(距離5.2km/平均5.4%)が厄介な存在だ。ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)に代表されるパンチャーや「登れるスプリンター」を擁するチームが序盤から状況をコントロールしない限り、翌日からマイヨジョーヌ争いにおいて極めて重要な厳しいアルプス3連戦が始まることもあり、総合に関係しない大逃げが決まる可能性は高い。まだステージ優勝を手にしていないチームは、このステージのために温存していた逃げ屋を先頭グループに送り込むだろう。
7月25日(木)第18ステージ → コースマップ
アンブラン〜ヴァロワール 200km
アルプス山岳3連戦の初日、第18ステージは今大会のクイーンステージ(最難関ステージ)。美しいセールポンソン湖の畔に位置するアンブランをスタート後、渓谷に沿って高度を上げながら1級山岳ヴァル峠(距離9.3km/平均7.5%)と超級山岳イゾアール峠(距離14.1km/平均7.4%)という標高2,100mオーバーの峠をクリアする。岩肌が露出した独特の景観が広がるイゾアール名物「カスデゼルト」を通過する頃には集団は人数を減らしているはずだ。
ブリアンソンまで下ってから次に向かうのは標高2,642mの超級山岳ガリビエ峠(距離23km/平均5.1%)。登り中腹のロータレ峠を越えて右に曲がったところから勾配が増し、後半は7%前後の勾配を刻む。車両用トンネルではなく正式な峠を越えると、フィニッシュ地点ヴァロワールの町まで距離19km、高低差にして1,223mをかっ飛ぶように下っていく。山頂フィニッシュではないが、超級山岳ガリビエ峠の頂上に設定された「ボーナスポイント」に向かってマイヨジョーヌ候補たちがアタックを繰り返すはず。獲得標高差4,000mオーバーのステージの最後に、空気の薄さにより失速する選手も出てくるだろう。ニュートラル走行区間を含めるとレース時間は6時間を超える。
7月26日(金)第19ステージ → コースマップ
サン・ジャン・ド・モーリエンヌ〜ティニュ 126.5km
クイーンステージを終えてもなおアルプスの洗礼は続く。第19ステージには標高2,770mの超級山岳イズラン峠(距離12.9km/平均7.5%)が登場。実際にはサン・ジャン・ド・モーリエンヌをスタートしてから3つの峠を介して標高2,770mまでじっくりと登っていく。
「アンリ・デグランジュ記念賞」が設定された超級山岳イズラン峠は「ボーナスポイント」にも指定されているため、上位通過者3名に8秒、5秒、2秒のボーナスタイムが与えられる。総合逆転を狙う選手たちは、終盤まで待つのではなく、サプライズを起こすためにこの超級山岳イズラン峠で動いてくるかもしれない。
イタリア国境に近いアルプス山脈の背骨を走る短距離126.5kmステージを締めくくるのは1級山岳ティニュ(距離7.4km/平均7%)の山頂フィニッシュ。厳密に言うと残り2km地点で1級山岳を越えるため山頂フィニッシュではないが、登りで遅れて孤立してしまうと、フィニッシュラインまでの2kmの平坦区間でさらにタイムを失ってしまうだろう。
7月27日(土)第20ステージ → コースマップ
アルベールヴィル〜バル・トランス 130km
すでに開幕から3週間が経過。ここまで2日間アルプスの厳しい山岳でバトルを繰り広げてきた選手たちが、最後の力を振り絞って、アルプスの最終山岳決戦に挑む。距離が130kmと短く、序盤から3つの峠が連続するステージは、完走を目標とする(そして翌日のシャンゼリゼを狙う)スプリンターにとっても厳しいものになりそうだ。
1992年冬季五輪の舞台となったアルベールヴィルをスタート後、まずは1級山岳ロズラン峠(距離19.9km/平均6%)と2級山岳ロンジュフォワ峠(距離6.6km/平均6.5%)の登坂に取り掛かる。そしてムーティエの町を抜けたところから始まるのが、単体の登りとして1,843mの標高差を誇る超級山岳バル・トランス(距離33.4km/平均5.5%)。標高2,365mの頂上を目指す山道は全長33.4kmととにかく長い。4つの短い下り区間を含めて平均勾配5.5%であり、実際の平均勾配は7〜8%といったところ。この過酷な山岳決戦を終えてマイヨジョーヌを着ている選手が実質的な第106代ツール総合優勝者となる。
第20ステージを終えた選手たちはそのままバル・トランスのスキーリゾートホテルに宿泊。翌日の朝に下山し、シャンベリー空港からチャーター機でパリのオルリー空港まで移動する。大会関係車両はパリまでの700km陸路移動が待っている。
7月28日(日)第21ステージ → コースマップ
ランブイエ〜パリ・シャン=ゼリゼ 128km
大移動を終えた一行はパリ南西部のランブイエをスタート。ランブイエやヴェルサイユを含むイヴリーヌ県は2023年まで最終ステージのスタート地点となることが決まっている。ステージ前半に2つの4級山岳が設定されているものの、すでにピレネーとアルプスの難関山岳で大きなポイント差が付いていることが予想されるため、よほどの僅差ではない限りクライマーが動くことはない。
選手たちは厳しい3週間を走り切った開放感と達成感を味わいながら、パリまでパレード走行する。例年はセーヌ川の川沿いをひたすら走ってシャンゼリゼ通りに向かったが、2019年はエッフェル塔の前を通らずに、火災に見舞われたノートルダム大聖堂の近くを通ってヌフ橋を渡り、ルーヴル美術館を通過してシャンゼリゼ周回コースに入る。
凱旋門の周回路やコンコルド広場、ルモニエトンネルを含むいつもの7km周回コースを8周。石畳が敷かれたシャンゼリゼ通りでのスプリントバトルで3,480kmにわたる戦いが締めくくられる。最後はもちろん、凱旋門をバックにした荘厳な表彰式だ。
text:Kei Tsuji in Brussels, Belgium
7月17日(水)第11ステージ → コースマップ
アルビ〜トゥールーズ 167km
アルビで休息日を過ごした一行は引き続きピレネー山脈に向かって南下。第11ステージは嵐の前の静けさとも言うべき、スプリンター向きの平坦コースが設定された。前半に登場する3級山岳と4級山岳を除いて、スプリンターが脱落するような登りは組み込まれていない。休息日明けにリズムを崩したとしても、つまりバッドデーを迎えたとしても、致命的なタイムロスを被る心配はそれほどなさそうだ。
フランス第5の都市トゥールーズがツールのフィニッシュを迎え入れるのは27回目。トゥールーズは1903年の第1回大会にも登場しているが、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)がスプリント勝利を飾った2008年以来、10年間ツールのステージフィニッシュから遠ざかっていた。フィニッシュラインが引かれるのは、11年前にカヴェンデッシュが勝利した時と同じラスクロス通り。フラムルージュを過ぎてから緩い左コーナーが2つあるものの、残り2.3km地点の最終コーナーから先はほとんど真っ直ぐ。ピレネー突入前に勝利しておきたいスプリンターたちがしのぎを削る。この頃にはマイヨヴェール候補も自ずと絞られているはずだ。
7月18日(木)第12ステージ → コースマップ
トゥールーズ〜バニェール・ド・ビゴール 209.5km
ツールはフランスとスペインの間に佇むピレネー山脈に突入する。トゥールーズからひまわり畑が点在する平野部を走り、山あいの温泉保養地であるバニェール=ド=リュションを経て本格山岳にアタック。残り80kmを切ってから、1級山岳ペイルスルド峠(距離13.2km/平均7%)と「ボーナスポイント」付き1級山岳ウルケット=ダンシザン(距離9.9km/平均7.5%)を立て続けにクリアする。マイヨジョーヌ候補たちが翌日の個人タイムトライアルに向けて体力を温存することも考えられるため、逃げ切りが決まりやすいレイアウトであると言える。
登坂タイムがそのまま成績に反映されにくい(下りで挽回の余地を残す)下りフィニッシュだが、1級山岳ウルケット=ダンシザンの頂上に設定された「ボーナスポイント(地図と高低図の黄色いB)」で上位通過者3名に与えられる8秒、5秒、2秒のボーナスタイムを狙って総合上位陣が逃げを潰しにかかる可能性も。2019年に新たに導入されたこの「ボーナスポイント」は、単純に総合争いを活性化させるだけでなく、早々に集団が逃げを吸収する傾向をもたらすだろう。ライバルたちのボーナスタイム獲得を阻止するアシストの動きなど、これまで以上に戦略的な走りが求められる。
7月19日(金)第13ステージ → コースマップ
ポー〜ポー 27.2km(個人TT)
「個人タイムトライアルで広げたリードを山岳でキープする」。それが近年グランツールで総合優勝する選手の傾向だが、ツール第106回大会の個人タイムトライアルは合計27.2kmしかない。それでいて標高のある厳しい山岳ステージが多く設定されていることから、TTスペシャリスト系オールラウンダーではなくクライマー系オールラウンダーやピュアクライマーに総合優勝のチャンスが回ってくる。
ピレネーの入り口に位置し、ツール登場71回目というポーを発着する27.2kmコースは中盤にかけて高低差100m程度のアップダウンが2つ登場。モータースポーツのF2やF3、WTCCの開催地として知られる市街地サーキットのスタート地点ガストンラコステ通りを発ち、南方に広がる丘陵〜山岳を走ってポー市内に戻る。残り1kmを切ってから最大勾配17%の急坂をこなし、長年ツールの大集団スプリントを迎え入れているマキルベアルン通りでフィニッシュ。ステージ予想優勝タイムは35分弱で、総合上位陣の中には1分近いタイムロスを被る選手も出てくるだろう。
7月20日(土)第14ステージ → コースマップ
タルブ〜トゥールマレー・バレージュ 117.5km
ピレネーを代表する、そしてツールを代表するトゥールマレー峠の山頂フィニッシュが第14ステージに登場。117.5kmという短めの距離に、1級山岳スロール峠(距離11.9km/平均7.8%)と超級山岳トゥールマレー峠(距離19km/平均7.4%)という2つの峠が組み込まれた。短距離コースは必然的にハイペースな展開となるため、予想外の結果を生み出しやすい。
トゥールマレー峠がツールに登場するのは82回目で、フィニッシュとしての登場はアンディ・シュレク(ルクセンブルク)がアルベルト・コンタドール(スペイン)を下した2010年大会第17ステージ以来となる3回目。ピレネーらしいダイナミックな山岳風景を仰ぎ見ながら、「ジャック・ゴデ記念賞」が設定された名峰を登る。トゥールマレー峠と言えばスキー場ラ・モンジー(プレスセンターはここに置かれる)のある東側から登坂することが多いが、今回は西側から標高2,115mの峠を目指す。終盤にかけて10%前後の勾配を刻む登りでマイヨジョーヌ争いは熱を帯びる。
7月21日(日)第15ステージ → コースマップ
リムー〜フォア・プラットダルビ 185km
ピレネー決戦を締めくくるのは標高1,000〜1,500m級の峠を4つ繋いだ185kmの難関山岳ステージ。リムーからピレネー山脈に戻り、前半から2級山岳モンセギュール峠(距離6.8km/平均6%)と1級山岳ポール・ド・レール(距離11.4km/平均7%)をクリアする。その次に待つ「ボーナスポイント」付き1級山岳ミュール・ド・ペギュエール(距離9.3km/平均7.9%)は「ミュール(壁)」という名前が付けられている通り、後半にかけて平均勾配が13%に達する激坂で、最大勾配は18%に達する(2017年の登場時は道の狭さから観戦禁止となった)。
最後は2017年ツールの「フランス革命記念日」第13ステージでワレン・バルギル(フランス)が自身初勝利を飾ったフォアの街を通過し、そこから1級山岳フォア・プラットダルビ(距離11.8km/平均6.9%)を駆け上がってフィニッシュ。前半にかけて勾配が10%を超える標高1,205mの峠で再びピュアクライマーたちが躍動する。総合タイム挽回もしくは総合リード拡大のために、1つ前の1級山岳ミュール・ド・ペギュエールで「ボーナスポイント」を狙って早めに動いてくる選手たちも出てくるだろう。
7月22日(月)休息日
7月23日(火)第16ステージ → コースマップ
ニーム〜ニーム 177km
ピレネー山岳ステージをグルペットで乗り越え、最後の休息日で英気を養ったスプリンターたちに久々にチャンスが回ってくる。最終週の幕開けを告げる第17ステージは、2017年ブエルタ・ア・エスパーニャの開幕地であるニームを発着する177km。休息日前夜を含めると同じホテルに3連泊することになるため、選手たちの移動ストレスは少ない。
古くから織物の町と栄え、デニムの語源(デ・ニーム)となったニームの円形闘技場の前をスタート。中盤に4級山岳を含むものの、ステージ全体の難易度は低く、スプリンターチームが力づくでこのチャンスをものにするだろう。フィニッシュ地点は町外れの大通り。残り3kmから先は直線基調で、スプリンターを連れるリードアウトトレインが我先にと残り350mのロンポワン(ラウンドアバウト)に突進する。ニームのステージは集団スプリントで締めくくられると相場が決まっており、2008年はマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)が、2014年はアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー)がスプリント勝利を飾っている。
7月24日(水)第17ステージ → コースマップ
ポン・デュ・ガール〜ギャップ 200km
アルプス山脈のギャップに向かって急ぎ足でプロヴァンス地方を駆ける第17ステージ。ローマ時代にニームの町に水を届けるために作られた水道橋ポン・デュ・ガールの真横をスタートして、強風に注意のローヌ渓谷を横断し、禿山モンヴァントゥーを右手に、アルプスに入ったことを感じさせる山岳風景を見ながらギャップを目指す。
2日連続で勝負に持ち込みたいスプリンターにとって、残り8.5km地点にある3級山岳サンティネル峠(距離5.2km/平均5.4%)が厄介な存在だ。ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)に代表されるパンチャーや「登れるスプリンター」を擁するチームが序盤から状況をコントロールしない限り、翌日からマイヨジョーヌ争いにおいて極めて重要な厳しいアルプス3連戦が始まることもあり、総合に関係しない大逃げが決まる可能性は高い。まだステージ優勝を手にしていないチームは、このステージのために温存していた逃げ屋を先頭グループに送り込むだろう。
7月25日(木)第18ステージ → コースマップ
アンブラン〜ヴァロワール 200km
アルプス山岳3連戦の初日、第18ステージは今大会のクイーンステージ(最難関ステージ)。美しいセールポンソン湖の畔に位置するアンブランをスタート後、渓谷に沿って高度を上げながら1級山岳ヴァル峠(距離9.3km/平均7.5%)と超級山岳イゾアール峠(距離14.1km/平均7.4%)という標高2,100mオーバーの峠をクリアする。岩肌が露出した独特の景観が広がるイゾアール名物「カスデゼルト」を通過する頃には集団は人数を減らしているはずだ。
ブリアンソンまで下ってから次に向かうのは標高2,642mの超級山岳ガリビエ峠(距離23km/平均5.1%)。登り中腹のロータレ峠を越えて右に曲がったところから勾配が増し、後半は7%前後の勾配を刻む。車両用トンネルではなく正式な峠を越えると、フィニッシュ地点ヴァロワールの町まで距離19km、高低差にして1,223mをかっ飛ぶように下っていく。山頂フィニッシュではないが、超級山岳ガリビエ峠の頂上に設定された「ボーナスポイント」に向かってマイヨジョーヌ候補たちがアタックを繰り返すはず。獲得標高差4,000mオーバーのステージの最後に、空気の薄さにより失速する選手も出てくるだろう。ニュートラル走行区間を含めるとレース時間は6時間を超える。
7月26日(金)第19ステージ → コースマップ
サン・ジャン・ド・モーリエンヌ〜ティニュ 126.5km
クイーンステージを終えてもなおアルプスの洗礼は続く。第19ステージには標高2,770mの超級山岳イズラン峠(距離12.9km/平均7.5%)が登場。実際にはサン・ジャン・ド・モーリエンヌをスタートしてから3つの峠を介して標高2,770mまでじっくりと登っていく。
「アンリ・デグランジュ記念賞」が設定された超級山岳イズラン峠は「ボーナスポイント」にも指定されているため、上位通過者3名に8秒、5秒、2秒のボーナスタイムが与えられる。総合逆転を狙う選手たちは、終盤まで待つのではなく、サプライズを起こすためにこの超級山岳イズラン峠で動いてくるかもしれない。
イタリア国境に近いアルプス山脈の背骨を走る短距離126.5kmステージを締めくくるのは1級山岳ティニュ(距離7.4km/平均7%)の山頂フィニッシュ。厳密に言うと残り2km地点で1級山岳を越えるため山頂フィニッシュではないが、登りで遅れて孤立してしまうと、フィニッシュラインまでの2kmの平坦区間でさらにタイムを失ってしまうだろう。
7月27日(土)第20ステージ → コースマップ
アルベールヴィル〜バル・トランス 130km
すでに開幕から3週間が経過。ここまで2日間アルプスの厳しい山岳でバトルを繰り広げてきた選手たちが、最後の力を振り絞って、アルプスの最終山岳決戦に挑む。距離が130kmと短く、序盤から3つの峠が連続するステージは、完走を目標とする(そして翌日のシャンゼリゼを狙う)スプリンターにとっても厳しいものになりそうだ。
1992年冬季五輪の舞台となったアルベールヴィルをスタート後、まずは1級山岳ロズラン峠(距離19.9km/平均6%)と2級山岳ロンジュフォワ峠(距離6.6km/平均6.5%)の登坂に取り掛かる。そしてムーティエの町を抜けたところから始まるのが、単体の登りとして1,843mの標高差を誇る超級山岳バル・トランス(距離33.4km/平均5.5%)。標高2,365mの頂上を目指す山道は全長33.4kmととにかく長い。4つの短い下り区間を含めて平均勾配5.5%であり、実際の平均勾配は7〜8%といったところ。この過酷な山岳決戦を終えてマイヨジョーヌを着ている選手が実質的な第106代ツール総合優勝者となる。
第20ステージを終えた選手たちはそのままバル・トランスのスキーリゾートホテルに宿泊。翌日の朝に下山し、シャンベリー空港からチャーター機でパリのオルリー空港まで移動する。大会関係車両はパリまでの700km陸路移動が待っている。
7月28日(日)第21ステージ → コースマップ
ランブイエ〜パリ・シャン=ゼリゼ 128km
大移動を終えた一行はパリ南西部のランブイエをスタート。ランブイエやヴェルサイユを含むイヴリーヌ県は2023年まで最終ステージのスタート地点となることが決まっている。ステージ前半に2つの4級山岳が設定されているものの、すでにピレネーとアルプスの難関山岳で大きなポイント差が付いていることが予想されるため、よほどの僅差ではない限りクライマーが動くことはない。
選手たちは厳しい3週間を走り切った開放感と達成感を味わいながら、パリまでパレード走行する。例年はセーヌ川の川沿いをひたすら走ってシャンゼリゼ通りに向かったが、2019年はエッフェル塔の前を通らずに、火災に見舞われたノートルダム大聖堂の近くを通ってヌフ橋を渡り、ルーヴル美術館を通過してシャンゼリゼ周回コースに入る。
凱旋門の周回路やコンコルド広場、ルモニエトンネルを含むいつもの7km周回コースを8周。石畳が敷かれたシャンゼリゼ通りでのスプリントバトルで3,480kmにわたる戦いが締めくくられる。最後はもちろん、凱旋門をバックにした荘厳な表彰式だ。
text:Kei Tsuji in Brussels, Belgium
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