2019/05/15(水) - 11:56
自転車黎明期と共に出現し、金属フレーム全盛期を支え、今なおフレームビルダーから愛されてやまないコロンブスの誕生から今年で100周年。イタリア本社から重鎮を招いた記念イベントが東京のサイクルデザイン専門学校で行われた。その模様と、技術の粋を集めてリリースされる限定チューブセット「CENTO」の詳細をレポート。ブランドについて、そして限定チューブについて各ビルダーに聞いた話も紹介します。
「日本が好きということもあるけれど、それ以上に日本の自転車文化の成熟ぶりには関心するものがある。それゆえ100周年イベントをこの地で開催したかったんだ」
そんな言葉と共に、コロンブス社の副社長を務めるアンジェロ・カッチャ氏が来日を果たした。目的は同社の100周年を祝うカンファレンスに出席し、日本のビルダーと意見交換をするため。カッチャ氏の右腕であり、ブランドのGMであり、技術部門の中軸でもあるパオロ・エルゼゴヴェージ氏も一緒だ。
カンファレンスの主催はコロンブスの正規代理店の一つであり、現在も競輪用チューブを中心に年間数百セットを販売しているという日直商会。会場となったサイクルデザイン専門学校には意欲的な目つきの学生はもちろん、全国各地から著名なビルダーや、殿村秀典さんなど古くからコロンブスと交流のある重鎮も駆けつけた。
かつてコロンブスが自転車用パイプのみならず、自動車やオートバイ、航空機、あるいは家具用のチューブを手がけていたことを知る人は少ないだろう。マセラッティやアルファロメオ、フェラーリ、モト・グッツィ、ドゥカティといった歴史あるイタリアンブランドは全て顧客。航空機の素材が木から鉄に変わり、船舶の大型化など強度のある高性能な金属パイプが求められた1904年に創業し、戦前のバウハウスムーブメントでも著名な家具デザイナーを多く支えてきた。
自転車界における歴史で言えばカンパニョーロ(1933年)やウィリエール(1906年)よりも古く、ロードレース文化の発展と共に規模を拡大。1977年に本体から独立した後も勢いを維持し、特に80年代のロードレース界では9割以上のバイクがコロンブス製のチューブを使用していたという逸話も持つ。
カンファレンスではその歴史や生産過程の紹介、世界で初めてロードバイクにおける強度試験を実施した話など、エルゼゴヴェージ氏による熱のこもったトークが行われ、100周年を記念した世界500セット限定チューブセット「CENTO(チェント:イタリア語で百の意味)」の披露に続いた。
新素材「Omnicrom(オムニクロム)」を使い、超大口径のダウンチューブや、接合面積を稼ぐための特殊形状BBなど、ユニークな構造によって従来のチューブよりも軽量・高剛性化を遂げたCENTO。500セットしか生産されないにも関わらず、フレームサイズの大小に関わらず最適なバテッド量を確保するためにダウンチューブとトップチューブ、そしてシートステーは各3サイズが用意され、レーザーカットで鳩マークを表現したシートチューブ用スリーブや、ロゴの楕円形状を完全再現したボトルケージ台座など、細部に至るまで緻密に作り込まれていることが特徴だ。
当初は300セットしか作らないつもりが、発表直後からプレオーダーが舞い込み続けたため対応できず、急遽増産を決めたというCENTO。「これ以上の増産は絶対にしない」とのことであり、特別な一台を作りたい方は早めに各ハンドメイドブランドの元へと駆け付けるのが良いだろう。
たっぷりと時間を使ったカンファレンスの終了後は渋谷駅直結の「渋谷ストリーム」にあるサイクルカフェ「TORQUE SPICE&HERB、TABLE&COURT」に場所を移してアフターパーティーが行われ、チネリの二人が各ビルダーとの交流を深めたのだった。
ケルビム今野氏&他ビルダーに聞く。コロンブスについて、CENTOについて
筆者は今野製作所(CHERUBIM)のチーフビルダーであり、コロンブスのチューブを愛する今野真一氏に話を聞いてみた。ビルダー目線から見るブランドとは?そしてCENTOを使うならば、どんなフレームをイメージするのだろう?東洋フレームの石垣鉄也氏など、ロードバイクをメインとする各ビルダーに聞いた、CENTOを使ったバイク構想も紹介します。
今野真一氏(CHERUBIM:今野製作所チーフビルダー)
「やっぱり昔から憧れるイタリアンブランドの一つでしたよね。やっぱりイタリアンブランドって、レースを軸に捉えたものづくりをするわけです。カンパニョーロやコルナゴ、デローザなどは使われようが使われまいが、常にレースありき。そしてレース機材からのトップダウンでミドル、エントリーと続くわけです。そういう所にリスペクトがありますし、見習わなくてはいけない姿勢ですね。
それから、金属チューブにこだわっているところには尊敬してやみません。今やカーボン全盛期でスチールバイクも人気を帯びてはきていますが、まだまだメインストリームには程遠い。しかしそんな状況の中、常にスチールを最高の素材として研究開発する姿勢は我々ビルダーとして素晴らしいと感じますし、まだまだ金属フレームも伸びしろがあると思わされます。大から小まで世界各地の展示会に出展し、そこからビルダーの意見を吸い上げる姿勢も嬉しい部分です。
今回のチェントに至っては、ダウンチューブ一つとっても3種類もバリエーションがあるわけですよ。一般の方からしたらなかなか理解されにくいんですが、僕らからしたらこんなにも贅沢なことはない。限定で、そこまでやる心意気は素晴らしいですよ。
CENTOは古典的なスチールチューブとは全く違う大口径で軽いチューブですので、必然的にモダンなバイクが組み上がるはず。それゆえディスクブレーキの方が合うでしょうし、せっかくならフルセットで使いたいですね。硬い乗り心地になるでしょうが、今カーボンフレームに乗り慣れた方が普通のスチールに乗るとしなりが気持ち悪く感じる方も多いと思うんです。カーボンと比べても違和感のない、走りに徹した仕上がりになると思いますよ」。
石垣鉄也氏(東洋フレーム株式会社取締役社長)
「チューブの特性上、当然のようにロードバイクになるでしょうね。肉厚が薄いので料理するのも難しいですが、28cくらいのタイヤが入る、ディスクブレーキのロードレーサー。やっぱり現代のチューブを使うなら現代のバイクを作るべきですからね。レースにも十分出られる性能がありつつ、林道ツーリングにも使えるユーティリティを兼ね備えたものができたら面白そうですね」。
植田真貴氏(macchi cycles代表)
「軽量極太のチューブですので、どちらかというとレース向きのパイプセット。エンドもロード用しかないので必然的にロードバイクになりますが、仕上がりも剛性が出て面白いバイクになるでしょう。僕らは特別な一台を作るための存在ですから、この特別なチューブを使えばさらに個性のあるバイクになるはず。ワクワクするチューブセットだと思いますね」。
橋本裕太氏(岩井商会ビルダー)
自分で作るならレッドフック的な現代版トラックフレームですね。軽くて強いチューブなので踏み込みに対してガンガン前に出る、すごくダイレクト感あるバイクが作れるはず。ホイールやハンドルも今っぽいモノを組み合わせたら、すごく楽しいバイクになりそうです。
日直商会木村氏に聞く、コロンブスとの関わり
最後に日直商会で取締役営業部長を務め、コロンブスを担当する木村勝臣氏へのインタビューを紹介しよう。日直商会とコロンブスの関わり、そして競輪を主軸とする日本市場への対応とは?
「現在弊社での取扱量は年間数百セット。競輪用フレームがメインですが、最近はCHERUBIMさんやMacciさんなど、競輪ではないブランドへの納入も徐々に増えてきました。
日本のフレームサイズは小さめで、既存のサイズだと両端を大きくカットすることになるので、求められる性能が出なくなってしまう。だから日本オリジナルのバテッドであるとか曲げ加工であるとか、スペシャルなリクエストを出すことも多いんです。コロンブス社は柔軟に応じてくれるので非常に助かっています。
例えば競輪用フレームは、一番薄い部分でも0.5mm以上なくてはならないのですが、コロンブスの公称製造誤差は±0.05mm。もし0.45mmになってしまっては競争車として使えませんので、競輪用のチューブ「SPIRIT KEIRIN」は0.5mm+0.05mmという特別なマージンの取り方をしてもらっています。チューブの一つ一つに厳しいチェックを行っているのでどうしても値段は上がりますが、それでもその姿勢は素晴らしいですよね。競輪用のシェアはもちろんですが、今後は先述したようなブランドの皆さんに、もっとスチールバイクの良さを広めていってもらいたいですね。
text&photo:So,Isobe
「日本が好きということもあるけれど、それ以上に日本の自転車文化の成熟ぶりには関心するものがある。それゆえ100周年イベントをこの地で開催したかったんだ」
そんな言葉と共に、コロンブス社の副社長を務めるアンジェロ・カッチャ氏が来日を果たした。目的は同社の100周年を祝うカンファレンスに出席し、日本のビルダーと意見交換をするため。カッチャ氏の右腕であり、ブランドのGMであり、技術部門の中軸でもあるパオロ・エルゼゴヴェージ氏も一緒だ。
カンファレンスの主催はコロンブスの正規代理店の一つであり、現在も競輪用チューブを中心に年間数百セットを販売しているという日直商会。会場となったサイクルデザイン専門学校には意欲的な目つきの学生はもちろん、全国各地から著名なビルダーや、殿村秀典さんなど古くからコロンブスと交流のある重鎮も駆けつけた。
かつてコロンブスが自転車用パイプのみならず、自動車やオートバイ、航空機、あるいは家具用のチューブを手がけていたことを知る人は少ないだろう。マセラッティやアルファロメオ、フェラーリ、モト・グッツィ、ドゥカティといった歴史あるイタリアンブランドは全て顧客。航空機の素材が木から鉄に変わり、船舶の大型化など強度のある高性能な金属パイプが求められた1904年に創業し、戦前のバウハウスムーブメントでも著名な家具デザイナーを多く支えてきた。
自転車界における歴史で言えばカンパニョーロ(1933年)やウィリエール(1906年)よりも古く、ロードレース文化の発展と共に規模を拡大。1977年に本体から独立した後も勢いを維持し、特に80年代のロードレース界では9割以上のバイクがコロンブス製のチューブを使用していたという逸話も持つ。
カンファレンスではその歴史や生産過程の紹介、世界で初めてロードバイクにおける強度試験を実施した話など、エルゼゴヴェージ氏による熱のこもったトークが行われ、100周年を記念した世界500セット限定チューブセット「CENTO(チェント:イタリア語で百の意味)」の披露に続いた。
新素材「Omnicrom(オムニクロム)」を使い、超大口径のダウンチューブや、接合面積を稼ぐための特殊形状BBなど、ユニークな構造によって従来のチューブよりも軽量・高剛性化を遂げたCENTO。500セットしか生産されないにも関わらず、フレームサイズの大小に関わらず最適なバテッド量を確保するためにダウンチューブとトップチューブ、そしてシートステーは各3サイズが用意され、レーザーカットで鳩マークを表現したシートチューブ用スリーブや、ロゴの楕円形状を完全再現したボトルケージ台座など、細部に至るまで緻密に作り込まれていることが特徴だ。
当初は300セットしか作らないつもりが、発表直後からプレオーダーが舞い込み続けたため対応できず、急遽増産を決めたというCENTO。「これ以上の増産は絶対にしない」とのことであり、特別な一台を作りたい方は早めに各ハンドメイドブランドの元へと駆け付けるのが良いだろう。
たっぷりと時間を使ったカンファレンスの終了後は渋谷駅直結の「渋谷ストリーム」にあるサイクルカフェ「TORQUE SPICE&HERB、TABLE&COURT」に場所を移してアフターパーティーが行われ、チネリの二人が各ビルダーとの交流を深めたのだった。
ケルビム今野氏&他ビルダーに聞く。コロンブスについて、CENTOについて
筆者は今野製作所(CHERUBIM)のチーフビルダーであり、コロンブスのチューブを愛する今野真一氏に話を聞いてみた。ビルダー目線から見るブランドとは?そしてCENTOを使うならば、どんなフレームをイメージするのだろう?東洋フレームの石垣鉄也氏など、ロードバイクをメインとする各ビルダーに聞いた、CENTOを使ったバイク構想も紹介します。
今野真一氏(CHERUBIM:今野製作所チーフビルダー)
「やっぱり昔から憧れるイタリアンブランドの一つでしたよね。やっぱりイタリアンブランドって、レースを軸に捉えたものづくりをするわけです。カンパニョーロやコルナゴ、デローザなどは使われようが使われまいが、常にレースありき。そしてレース機材からのトップダウンでミドル、エントリーと続くわけです。そういう所にリスペクトがありますし、見習わなくてはいけない姿勢ですね。
それから、金属チューブにこだわっているところには尊敬してやみません。今やカーボン全盛期でスチールバイクも人気を帯びてはきていますが、まだまだメインストリームには程遠い。しかしそんな状況の中、常にスチールを最高の素材として研究開発する姿勢は我々ビルダーとして素晴らしいと感じますし、まだまだ金属フレームも伸びしろがあると思わされます。大から小まで世界各地の展示会に出展し、そこからビルダーの意見を吸い上げる姿勢も嬉しい部分です。
今回のチェントに至っては、ダウンチューブ一つとっても3種類もバリエーションがあるわけですよ。一般の方からしたらなかなか理解されにくいんですが、僕らからしたらこんなにも贅沢なことはない。限定で、そこまでやる心意気は素晴らしいですよ。
CENTOは古典的なスチールチューブとは全く違う大口径で軽いチューブですので、必然的にモダンなバイクが組み上がるはず。それゆえディスクブレーキの方が合うでしょうし、せっかくならフルセットで使いたいですね。硬い乗り心地になるでしょうが、今カーボンフレームに乗り慣れた方が普通のスチールに乗るとしなりが気持ち悪く感じる方も多いと思うんです。カーボンと比べても違和感のない、走りに徹した仕上がりになると思いますよ」。
石垣鉄也氏(東洋フレーム株式会社取締役社長)
「チューブの特性上、当然のようにロードバイクになるでしょうね。肉厚が薄いので料理するのも難しいですが、28cくらいのタイヤが入る、ディスクブレーキのロードレーサー。やっぱり現代のチューブを使うなら現代のバイクを作るべきですからね。レースにも十分出られる性能がありつつ、林道ツーリングにも使えるユーティリティを兼ね備えたものができたら面白そうですね」。
植田真貴氏(macchi cycles代表)
「軽量極太のチューブですので、どちらかというとレース向きのパイプセット。エンドもロード用しかないので必然的にロードバイクになりますが、仕上がりも剛性が出て面白いバイクになるでしょう。僕らは特別な一台を作るための存在ですから、この特別なチューブを使えばさらに個性のあるバイクになるはず。ワクワクするチューブセットだと思いますね」。
橋本裕太氏(岩井商会ビルダー)
自分で作るならレッドフック的な現代版トラックフレームですね。軽くて強いチューブなので踏み込みに対してガンガン前に出る、すごくダイレクト感あるバイクが作れるはず。ホイールやハンドルも今っぽいモノを組み合わせたら、すごく楽しいバイクになりそうです。
日直商会木村氏に聞く、コロンブスとの関わり
最後に日直商会で取締役営業部長を務め、コロンブスを担当する木村勝臣氏へのインタビューを紹介しよう。日直商会とコロンブスの関わり、そして競輪を主軸とする日本市場への対応とは?
「現在弊社での取扱量は年間数百セット。競輪用フレームがメインですが、最近はCHERUBIMさんやMacciさんなど、競輪ではないブランドへの納入も徐々に増えてきました。
日本のフレームサイズは小さめで、既存のサイズだと両端を大きくカットすることになるので、求められる性能が出なくなってしまう。だから日本オリジナルのバテッドであるとか曲げ加工であるとか、スペシャルなリクエストを出すことも多いんです。コロンブス社は柔軟に応じてくれるので非常に助かっています。
例えば競輪用フレームは、一番薄い部分でも0.5mm以上なくてはならないのですが、コロンブスの公称製造誤差は±0.05mm。もし0.45mmになってしまっては競争車として使えませんので、競輪用のチューブ「SPIRIT KEIRIN」は0.5mm+0.05mmという特別なマージンの取り方をしてもらっています。チューブの一つ一つに厳しいチェックを行っているのでどうしても値段は上がりますが、それでもその姿勢は素晴らしいですよね。競輪用のシェアはもちろんですが、今後は先述したようなブランドの皆さんに、もっとスチールバイクの良さを広めていってもらいたいですね。
text&photo:So,Isobe
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