2019/05/11(土) - 15:20
ジロ・デ・イタリア開幕を翌日に控えた5月10日に初山翔と西村大輝、そして水谷壮宏監督(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)にインタビューを実施。「未知の世界」と口を揃える3週間のステージレースへの初挑戦を前にした気持ちや目標を聞いた。
初山翔と西村大輝(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
ボローニャ郊外のホテルに滞在中のNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ。レース開幕前日は午前10時から3時間ほどのトレーニングライドをこなし、嵐の前の静けさと言うべきか、選手たちはゆったりとした時間を過ごした。ジロ期間中、初山翔と西村大輝は部屋を共有するいわゆるルームメイトという存在。ともにグランツール初出場の30歳と24歳に加えて、日本人監督として初めてグランツール3週間を帯同する水谷壮宏監督に話を聞いた。
登りを含む初日の個人TTを全行程TTバイクで走る photo:Kei Tsuji
開幕前日に届いたチームカラーのヘルメット photo:Kei Tsuji
マルコ・カノラ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
トレーニングライドを待つチームバイク photo:Kei Tsuji
初山翔 1988年8月17日生まれ(30歳)
ジロになると取材陣が増えてびっくりしていますが、去年からミラノ〜サンレモやストラーデビアンケ、ツール・ド・スイスという大きなレースを経験させていただいたこともあり、意外と緊張は感じていません。数ヶ月前から逃げに乗れと言われていたミラノ〜サンレモの方がずっと緊張していた。慣れもあると思いますし、今回は数日前に出場が決まったこともあると思います。
マリオ監督から出場を告げられた時に『出るからにはただ集団についていくだけではなくて、仕事をしてもらう』と言われました。ステージレースでは完走が当たり前ですが、完走しろとは言われてないですし、100%完走のために走ることはしない。それよりもチームの仕事をすることを優先したい。3週間という期間が長いだけで、いつも通りのステージレースという感覚です。
数ヶ月前からジロの出場の可能性は告げられていたので、4月にシチリアで12日間ほど高地合宿を行なって、現状ジロに向けて良い状態を作ることができました。高地合宿で生まれ変わった、人が変わったようなことはありませんが、直後のジロ・デッラッペニーノでも良い感触はつかめました。
初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)はディスクブレーキを使用する photo:Kei Tsuji
10年前にイタリアのアマチュアチームで走っていた時は、ジロを走るなんて想像できなかった。当時、イタリアの選手層の厚さと、その中でプロになるという厳しさを思い知らされました。そこから回り道や抜け道を経ての出場。最初はNIPPOに入って(日本人枠で)出場するということに抵抗がありましたが、それは世界中の他のチームもやっていること。
山本元喜が完走して、ハードルが上がっている気もするんですが、やはりジロはそんな生易しいものではないと思っています。自分が行けるところまで、到達できるところまで行きたい。その到達点がどこなのかわかりませんが、それを見ることができるのがジロ。みんなが言う『グランツールを走れば身体が変わる』ということを経験できる。3週間にわたって精神的にも身体的にも追い込まれることで、人間的に成長できるチャンスだと思っています。
コースは全部見れていませんが、第2ステージの後半は全て知っている道。明日の登りはジロ・デッレミリアでも走りましたし、試走済みです。西薗良太にバイクを交換すべきか計算してもらって、交換せずに最後までTTバイクで走ります。
初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
西村大輝 1994年10月20日生まれ(24歳)
ついに始まるという感じ。楽しみな気持ちと緊張の気持ちが混じり合っていて、まだ緊張の方が大きいです。昨日のチームプレゼンで改めてすごい舞台であることを感じて、光栄さを感じるとともに楽しみがこみ上げてきました。
脚力が評価されて選ばれたのではなく、世界に挑戦したいという気持ちを認めてもらえたのだと思います。チームからは『完走を目指す走りではなく、戦力として、チームの歯車として機能する走りを期待している』と言われています。例えば平坦ステージの最終的な位置どりに加わることはできませんが、その前の段階の風除けであったり、チームとして動くことはできる。
このジロに合わせたと言うわけではないですが、今年はずっと食事の管理を徹底していて、おかげで体重を減らすとともに省エネの身体になっています。シーズン前のカルぺ合宿で水谷監督から食事に関するアドバイスもあり、なるべく食べないエコな身体を目指して、去年よりもずっと走れている感覚はあります。
西村大輝(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
トレーニングライドに出かける西村大輝(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
ジロ出場が決まってから(ジロ完走経験のある)シマノレーシングの野寺監督に『3週間は長いから、気負いしすぎずに』というメッセージをいただきました。2013年10月6日に腰を痛めてからずっと、2年半にわたってまったく乗れず、3回の手術を経て2016年1月に復帰。まったく自転車で走れない状態が続いたにも関わらず、シマノレーシングがずっと面倒を見てくれて、3回目の手術を終えてから『引退します』と言った時も野寺監督に引き止められた。そのおかげでレースに復帰できて、エリート1年目の2017年に全日本選手権で5位に入って、大門監督に気持ちを伝えて研修生としてNIPPO入りし、そしてジロに出場。周りの方々に支えられながらここまで来たことを感じています。
今は腰のケアをしっかりしていますし、再発の心配はありません。全く乗れない2年半の間に、自分が自転車競技好きなんだと改めて感じて、復帰してからは世界に挑戦したいと必死でした。そのモチベーションは今もブレてないですし、今後もブレないです。今はまだまだ脚力が足りていませんが『登りなら西村だ』と言われる選手になりたい。
ジロでの経験を成長に生かすのはもちろんですが、同年代の選手への刺激になればと思います。これまで最も長いステージレースがチンハイレイク。だからグランツールが終わった後に自分がどうなっているのか全く想像できないんですが、体力的にも精神的にも一段大きくなれればと思います。与えられた役割にまっすぐ挑んで行きたい。
西村大輝(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
水谷壮宏監督
こうしてグランツールに帯同できることを光栄に思いながら、このレースでチームとして何ができるのかを考えています。期間が長いというだけで、ジロだから特別何かが違うとは思っていません。(初山と西村の)2人にはグランツールという壁を乗り越えてもらい、そこで終わるのではなく、そこからさらに強い選手になってほしい。
水谷壮宏監督(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
初山は日本で一番強い選手の一人。すでに成績を残してきた選手であり、彼にはこのジロで活躍してほしいと思っています。このジロが到達点ではなく、ジロを走りきった強い選手になってほしい。本人は夢見ずに自分の走りにリミットをつけてしまいがちですが、このジロがそこから突き抜けるきっかけになってほしい。(5年間ともにした)ブリヂストン時代から彼を見てきて、今はもっともっと強くなっている。自信を持って、可能性を探ってほしいと思っています。
西村はまだ若いが、今年の台湾、タイ、トルコのレースをこなして、毎レース走れるようになってきている。一緒にレースをこなしてきて、まだロードレースについて知らないことが多いと感じています。まだまだ初歩的なミスも多いので、現場で対応することで覚えていってほしい。逆にレースを知らない状態でここまで来ているので、身体で覚えることでさらに強くなる伸び代があると感じています。
text&photo:Kei Tsuji in Bologna, Italy
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ボローニャ郊外のホテルに滞在中のNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ。レース開幕前日は午前10時から3時間ほどのトレーニングライドをこなし、嵐の前の静けさと言うべきか、選手たちはゆったりとした時間を過ごした。ジロ期間中、初山翔と西村大輝は部屋を共有するいわゆるルームメイトという存在。ともにグランツール初出場の30歳と24歳に加えて、日本人監督として初めてグランツール3週間を帯同する水谷壮宏監督に話を聞いた。
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初山翔 1988年8月17日生まれ(30歳)
ジロになると取材陣が増えてびっくりしていますが、去年からミラノ〜サンレモやストラーデビアンケ、ツール・ド・スイスという大きなレースを経験させていただいたこともあり、意外と緊張は感じていません。数ヶ月前から逃げに乗れと言われていたミラノ〜サンレモの方がずっと緊張していた。慣れもあると思いますし、今回は数日前に出場が決まったこともあると思います。
マリオ監督から出場を告げられた時に『出るからにはただ集団についていくだけではなくて、仕事をしてもらう』と言われました。ステージレースでは完走が当たり前ですが、完走しろとは言われてないですし、100%完走のために走ることはしない。それよりもチームの仕事をすることを優先したい。3週間という期間が長いだけで、いつも通りのステージレースという感覚です。
数ヶ月前からジロの出場の可能性は告げられていたので、4月にシチリアで12日間ほど高地合宿を行なって、現状ジロに向けて良い状態を作ることができました。高地合宿で生まれ変わった、人が変わったようなことはありませんが、直後のジロ・デッラッペニーノでも良い感触はつかめました。
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山本元喜が完走して、ハードルが上がっている気もするんですが、やはりジロはそんな生易しいものではないと思っています。自分が行けるところまで、到達できるところまで行きたい。その到達点がどこなのかわかりませんが、それを見ることができるのがジロ。みんなが言う『グランツールを走れば身体が変わる』ということを経験できる。3週間にわたって精神的にも身体的にも追い込まれることで、人間的に成長できるチャンスだと思っています。
コースは全部見れていませんが、第2ステージの後半は全て知っている道。明日の登りはジロ・デッレミリアでも走りましたし、試走済みです。西薗良太にバイクを交換すべきか計算してもらって、交換せずに最後までTTバイクで走ります。
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西村大輝 1994年10月20日生まれ(24歳)
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脚力が評価されて選ばれたのではなく、世界に挑戦したいという気持ちを認めてもらえたのだと思います。チームからは『完走を目指す走りではなく、戦力として、チームの歯車として機能する走りを期待している』と言われています。例えば平坦ステージの最終的な位置どりに加わることはできませんが、その前の段階の風除けであったり、チームとして動くことはできる。
このジロに合わせたと言うわけではないですが、今年はずっと食事の管理を徹底していて、おかげで体重を減らすとともに省エネの身体になっています。シーズン前のカルぺ合宿で水谷監督から食事に関するアドバイスもあり、なるべく食べないエコな身体を目指して、去年よりもずっと走れている感覚はあります。
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今は腰のケアをしっかりしていますし、再発の心配はありません。全く乗れない2年半の間に、自分が自転車競技好きなんだと改めて感じて、復帰してからは世界に挑戦したいと必死でした。そのモチベーションは今もブレてないですし、今後もブレないです。今はまだまだ脚力が足りていませんが『登りなら西村だ』と言われる選手になりたい。
ジロでの経験を成長に生かすのはもちろんですが、同年代の選手への刺激になればと思います。これまで最も長いステージレースがチンハイレイク。だからグランツールが終わった後に自分がどうなっているのか全く想像できないんですが、体力的にも精神的にも一段大きくなれればと思います。与えられた役割にまっすぐ挑んで行きたい。
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水谷壮宏監督
こうしてグランツールに帯同できることを光栄に思いながら、このレースでチームとして何ができるのかを考えています。期間が長いというだけで、ジロだから特別何かが違うとは思っていません。(初山と西村の)2人にはグランツールという壁を乗り越えてもらい、そこで終わるのではなく、そこからさらに強い選手になってほしい。
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初山は日本で一番強い選手の一人。すでに成績を残してきた選手であり、彼にはこのジロで活躍してほしいと思っています。このジロが到達点ではなく、ジロを走りきった強い選手になってほしい。本人は夢見ずに自分の走りにリミットをつけてしまいがちですが、このジロがそこから突き抜けるきっかけになってほしい。(5年間ともにした)ブリヂストン時代から彼を見てきて、今はもっともっと強くなっている。自信を持って、可能性を探ってほしいと思っています。
西村はまだ若いが、今年の台湾、タイ、トルコのレースをこなして、毎レース走れるようになってきている。一緒にレースをこなしてきて、まだロードレースについて知らないことが多いと感じています。まだまだ初歩的なミスも多いので、現場で対応することで覚えていってほしい。逆にレースを知らない状態でここまで来ているので、身体で覚えることでさらに強くなる伸び代があると感じています。
text&photo:Kei Tsuji in Bologna, Italy
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