6つのカテゴリー山岳が詰め込まれた97.3kmで行われたアンドラ最終山岳決戦。ともに先行したミゲルアンヘル・ロペスを登りスプリントで下したエンリク・マスが総合2位に浮上し、最後まで安定感ある走りを見せたサイモン・イェーツが事実上のブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝を決めた。


1回目の1級山岳ベシャリス峠を登るプロトン1回目の1級山岳ベシャリス峠を登るプロトン photo:Kei Tsuji
ブエルタ・ア・エスパーニャ2018第20ステージブエルタ・ア・エスパーニャ2018第20ステージ photo:Unipublicブエルタ・ア・エスパーニャ2018第20ステージブエルタ・ア・エスパーニャ2018第20ステージ photo:Unipublic

100kmに満たない97.3kmのショートコースで行われた第73回ブエルタ最後の山岳決戦。アンドラ公国の中心地エスカルデス=エンゴルダニをスタートしてから、ひたすら山岳の登りと下りをリピートする。前半から2級山岳コメリャ峠(全長4.3km/平均8.7%)、1級山岳ベシャリス峠(全長7.1km/平均8%)、1級山岳オルディノ峠(全長9.8km/平均7.1%)、1級山岳ベシャリス峠(全長7.1km/平均8%)、3級山岳コメリャ峠(全長3.6km/平均6.3%)を休む間もなくクリア。そして最後は超級山岳ラ・ガリーナ峠(全長3.5km/平均8.7%)を駆け上がってフィニッシュを迎える。

獲得標高差3,200mの最終山岳ステージは、総合優勝者を導き出すと同時に、山岳賞の受賞者を決めるステージでもある。第19ステージを終えた段階で山岳賞トップ4(デヘント、マテマルドネス、モレマ、キング)が18ポイント以内にひしめき合う混戦。最初の2級山岳コメリャ峠で動いたのは山岳賞ジャージを着るトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)で、同賞2位のバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)を下して先頭通過する。デヘントとモレマはその後の下り区間でヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)のイニシアティブにより形成された15名の逃げグループにも乗った。

ニバリ、デヘント、モレマの他、ダビ・デラクルス(スペイン、チームスカイ)やマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)を含む逃げグループはメイン集団から1分ほどのリードを得て続く1級山岳ベシャリス峠にアタック。淡々と12%オーバーの勾配を刻む登りでモレマが飛び出したが、ここも落ち着いてデヘントが先頭通過している。

まだステージ前半にもかかわらずメイン集団からはナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)がアタック。しかしミッチェルトン・スコットやロットNLユンボが牽引するメイン集団は総合6位につけるコロンビアンクライマーの先行を許さずに吸収した。

1回目の1級山岳ベシャリス峠でメイン集団からナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)がアタック1回目の1級山岳ベシャリス峠でメイン集団からナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)がアタック photo:Kei Tsuji
1回目の1級山岳ベシャリス峠を登るプロトン1回目の1級山岳ベシャリス峠を登るプロトン photo:Kei Tsuji
山岳賞のために積極的な走りを見せたトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)山岳賞のために積極的な走りを見せたトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル) photo:Unipublic
カタルドにアシストされてアタックするミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)カタルドにアシストされてアタックするミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ) photo:Unipublic
3つ目の1級山岳オルディノ峠に差し掛かるとメイン集団はアスタナのコントロール下に置かれ、ヨン・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ)やトニー・ガロパン(フランス、アージェードゥーゼール)をふるい落としながら逃げグループを追いかける。逃げグループとメイン集団のタイム差は1分前後で推移。逃げグループからアタックしたヘスス・エラダ(スペイン、コフィディス)に1位通過を譲ったものの、しっかりと1級山岳オルディノ峠を2位通過したデヘントが山岳賞首位の座を揺るぎないものにした。

ステージも後半に入り、2回目の1級山岳ベシャリス峠で総合争いが動く。フィニッシュまで38kmを残して総合5位ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)がチームメイトとともにアタック。まだ3つの峠を残して早めに動いたロペスがメイン集団から20秒程度のリードを得たが、アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)が集団先頭に立ってペースメイク。ロペスは決定的なリードを得ることができないまま吸収された。

ロペスのアタックによってペースが上がったメイン集団は序盤から逃げていた選手たちも全員吸収。すると下り区間で再びキンタナがアタックを仕掛け、ここにロペスが飛びついた。

僅かながらリードを得たコロンビアンクライマー2名(キンタナとロペス)が最後から2つ目の3級山岳コメリャ峠に挑む中、20秒後方を走るメイン集団からはマイヨロホのサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)自らカウンターアタック。ここに総合4位エンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ)が反応すると、下り区間で先頭2名に追いついた。

超級山岳ラ・ガリーナ峠でイェーツを引き離すミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)超級山岳ラ・ガリーナ峠でイェーツを引き離すミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ) photo:Unipublic
フィニッシュに向かう先頭のミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)とエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ)フィニッシュに向かう先頭のミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)とエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji
フィニッシュに向かう先頭のミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)とエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ)フィニッシュに向かう先頭のミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)とエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji
こうして超級山岳ラ・ガリーナ峠を残して先頭で形成された総合1位イェーツ、総合4位マス、総合5位ロペス、総合6位キンタナのカルテット(4人組)。出遅れた総合2位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)を含むメイン集団は20秒遅れ。キンタナがバルベルデのサポートに回ったが状況は変わらず、先頭3名(イェーツ、マス、ロペス)がリードを30秒まで広げた状態で今大会最終山岳に突入した。

ロペスのハイペースにイェーツがたまらず遅れ、マスだけが食らいついて残り3km。イェーツは20秒遅れ、総合3位ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNLユンボ)のグループは50秒遅れ、そして総合2位バルベルデのグループは1分20秒遅れ。明らかに精彩を欠いたバルベルデの手元から総合表彰台が離れていった。

イェーツに追いつかれることなく超級山岳ラ・ガリーナ峠を登りきったロペスとマスの2名がスプリント一騎打ちを繰り広げ、先行したマスが歓喜の表情を浮かべながらフィニッシュ。23歳のマスが最終山岳ステージでグランツールステージ初優勝を飾った。

23秒遅れでフィニッシュしたイェーツは総合優勝を確定。バルベルデが3分09秒遅れたため、ステージ上位2名のマスとロペスがそれぞれ総合2位と総合3位にジャンプアップしている。

フィニッシュに向かう先頭のミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)とエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ)フィニッシュに向かう先頭のミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)とエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ) photo:Luca Bettini
総合優勝に向かって最後の超級山岳ラ・ガリーナ峠を登るサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)総合優勝に向かって最後の超級山岳ラ・ガリーナ峠を登るサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Luca Bettini
大歓声を受けて進むサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)大歓声を受けて進むサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
登りスプリントを繰り広げるミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)とエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ)登りスプリントを繰り広げるミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)とエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ) photo:Unipublic
最終山岳ステージを制したエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ)最終山岳ステージを制したエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ) photo:Unipublic
「2012年にアレハンドロ・バルベルデが勝った時の映像で予習して、最終コーナーを先頭で突っ込む必要があることを理解していた。最終コーナーまで全開でもがいて、そのままフィニッシュラインまで突き進んだ」と、マスは狙い通りの登りスプリントを振り返る。

「ステージ優勝は美しく、そして総合2位という成績も素晴らしい。マドリードで馬鹿なことをして落車しないようにしないと。23歳の若者にとって総合2位は夢のようだ。自分は第2のアルベルト・コンタドールではなくエンリク・マス。コンタドールの輝かしい成績の半分でも残せれば満足。彼のレーススタイルを真似て、これからも成長していきたい」とスペインの期待を背負うマスは語る。

そして第73回ブエルタ総合優勝のタイトルは実質的にイェーツの手に。「やりきった!ミッチェルトン・スコットにとってこれが初めてのグランツール総合優勝。自分とチームの走りを心から誇りに思う」と、プレッシャーから解き放たれた表情でインタビューに答えるイェーツ。

「アダムに力が残っていないのを感じて自らアタックした。先に逃げていたロペスは総合成績のために協力するだろうと思っていたし、結果的に攻撃が最高の防御になったんだ。最後の登りでマスとロペスが作る強力なペースに対応できなかったけど、自分のリズムを刻んで登坂。フィニッシュラインまで全力で走りきった」と語るイェーツは、翌日、マイヨロホを着てマドリードに凱旋する。

総合5位まで順位を下げたバルベルデは「敗北を受け入れないといけない。望んでいた通りの走りができなかった。でもこのブエルタで残した成績には満足している」とコメント。総合争いには敗れたものの、バルベルデはポイント賞トップをキープしている。

23秒遅れでフィニッシュするサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)23秒遅れでフィニッシュするサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Unipublic
3分以上遅れたアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)3分以上遅れたアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:Luca Bettini
ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)を先頭に進むグルペット第1組ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)を先頭に進むグルペット第1組 photo:Kei Tsuji
ステージ優勝を飾ったエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ)ステージ優勝を飾ったエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ) photo:Unipublic総合優勝を確定させたサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)総合優勝を確定させたサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Unipublic
ブエルタ・ア・エスパーニャ2018第20ステージ結果
1位 エンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ) 2:59:30
2位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)
3位 サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) 0:00:23
4位 ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) 0:00:54
5位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーションファースト・ドラパック) 0:00:57
6位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ) 0:01:11
7位 ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNLユンボ) 0:01:15
8位 ダビ・デラクルス(スペイン、チームスカイ) 0:02:17
9位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) 0:03:09
10位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
15位 ヨン・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ) 0:04:58
16位 トニー・ガロパン(フランス、アージェードゥーゼール) 0:05:08
敢闘賞 ヘスス・エラダ(スペイン、コフィディス)
個人総合成績
1位 サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) 79:44:30
2位 エンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ) 0:01:46
3位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ) 0:02:04
4位 ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNLユンボ) 0:02:54
5位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 0:04:28
6位 ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) 0:05:57
7位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーションファースト・ドラパック) 0:06:07
8位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) 0:06:51
9位 ヨン・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ) 0:11:09
10位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ) 0:11:11
ポイント賞
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 131pts
2位 サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) 104pts
3位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ) 103pts
山岳賞
1位 トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル) 95pts
2位 バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) 83pts
3位 ルイス・マテマルドネス(スペイン、コフィディス) 64pts
複合賞
1位 サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) 9pts
2位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ) 11pts
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 18pts
チーム総合成績
1位 モビスター 239:45:40
2位 バーレーン・メリダ 0:45:36
3位 ボーラ・ハンスグローエ 0:47:57
text:Kei Tsuji in La Gallina, Andorra
photo:Kei Tsuji, Luca Bettini

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