3月7日、第68回パリ〜ニースが、花の都パリ西部のモンフォール・ラモリーで開幕。初日の8kmプロローグでビッグネームを抑えて最速タイムをマークしたのはラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)。24歳の新星が4賞を独占し、黄色いリーダージャージに袖を通した。

2度目の大会制覇を目指すアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)は6秒遅れの4位2度目の大会制覇を目指すアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)は6秒遅れの4位 photo:Cor Vosパリ〜ニースの初日は決まって短距離個人タイムトライアル。1288kmに及ぶ長旅は、パリ西部のモンフォール・ラモリーで動き始めた。

8kmのコース前半には石畳や3級山岳の上り(平均勾配6%・登坂距離0.6km)が詰め込まれており、後半は直線基調の平坦路が続く。快晴に恵まれたものの、寒波の影響で気温は3度前後。時折吹く強風が、横風に弱いTTバイクを駆る選手たちを苦しめた。

黄色いリーダージャージに袖を通したラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)黄色いリーダージャージに袖を通したラース・ボーム(オランダ、ラボバンク) photo:Cor Vos上りを含む最初の1.5kmを最速で駆け抜け、後半もペースを落とさずに10分56秒の1番時計をマークしたのは79番手スタートのボーム。後半に続々登場する強豪たちの力を持ってしても、このボームのタイムを塗り替えることは出来なかった。

24歳のボームは自分の走りに驚く。「今日のコースは僕向きであることを確信していたので、持っている力を全て出し尽くした。コース的にはスタート後すぐに小さな上りがあって、後はハイスピードを維持する平坦路。好タイムを予想していたけど、まさかこれほど良いタイムを出せるとは思っていなかった。コンタドールやLLサンチェスを始めとする強豪に勝ったなんてまるでおとぎ話のようだ」。

ジュニア時代からシクロクロスを生業として来たボームは、2003年にシクロクロス世界選手権ジュニア優勝、2007年U23優勝、そして2008年エリート男子で優勝を飾り、シクロクロス界の頂点に立った。常々ボームは「高出力を一定時間出し続けるシクロクロスはタイムトライアルに近い。シクロクロスからロードレースへの転向は、その逆より容易だ」と語っており、その言葉通り、2007年のロード世界選手権U23タイムトライアルで優勝。2008年から本格的にロードレースに参戦している。

昨年はツアー・オブ・ベルギーで総合優勝を飾り、ブエルタ・ア・エスパーニャ第15ステージでは逃げ切りでグランツール初ステージ優勝。しかし強豪を蹴散らしてのプロローグ制覇がおそらくロードキャリアの中で最高の勝利だろう。

個人総合時間賞、ポイント賞、山岳賞、新人賞のジャージ全てを独占したボームだが、「このリーダージャージは数日間キープ出来ればいいと思う。山岳ステージでトップ選手に敵わないことは承知している」とコメントしている。

終盤にかけて追い込みをかけるラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)終盤にかけて追い込みをかけるラース・ボーム(オランダ、ラボバンク) photo:Cor Vos気迫溢れる走りで3秒遅れの2位に入ったイェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)気迫溢れる走りで3秒遅れの2位に入ったイェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク) photo:Cor Vos新チームのエースとして挑んだリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)は6秒遅れの3位新チームのエースとして挑んだリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)は6秒遅れの3位 photo:Cor Vos


ボームに僅かに3秒届かず2位に入ったのはイェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)。「風の強い今日のコースは僕のような大柄な選手向きだった。グスタフ(ラーション)のレース中、チームカーに乗ってコースを再確認したことが今日の走りに繋がったと思う。結果には大満足しているよ」と語る。昨年総合2位のフランク・シュレク(ルクセンブルク)は48秒遅れの85位に沈んだ。

総合争いを繰り広げると予想されるリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)とアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)は、共にボームから6秒遅れ。総合優勝に向けて順調な滑り出しだ。他にも前年度総合優勝者のルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)やロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)らがトップ10に入っている。

赤と黄色のスペインチャンピオンジャージを着て走るアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)は6秒遅れの4位赤と黄色のスペインチャンピオンジャージを着て走るアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)は6秒遅れの4位 photo:Cor Vosアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)は29秒遅れの31位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)は29秒遅れの31位 photo:Cor Vosフランスチャンピオンジャージを着るジャンクリストフ・ ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット)は23秒遅れの20位フランスチャンピオンジャージを着るジャンクリストフ・ ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット)は23秒遅れの20位 photo:Cor Vos


そんな中、驚異の20歳ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)がステージ5位に食い込んだ。サガンはMTBクロスカントリーからの転向組で、ボームと同じくシクロクロスでも好成績を残している。ツアー・ダウンアンダーでブレイクしたサガンが、ヨーロッパでもそのポテンシャルの高さを見せつけた。

鎖骨を骨折したヘルト・ステーグマン(ベルギー、レディオシャック)鎖骨を骨折したヘルト・ステーグマン(ベルギー、レディオシャック) photo:Cor Vosこの日の唯一のリタイア者はヘルト・ステーグマン(ベルギー、レディオシャック)。翌日からの平坦ステージで活躍が期待されていたステーグマンだったが、コース中盤の下り区間で激しく落車し、鎖骨を骨折した。ステーグマンは春のクラシックシーズンを棒に振ることになるだろう。

チームカーで後方に着いていたレディオシャックのディルク・デモル監督は次のように惨事を振り返った。
「ヘルト(ステーグマン)は最初の下りで落車した。70km/hを超えるような一番スピードが出る箇所でだ。少し開けている場所で突然横風が吹いて、木の枝や葉が横に飛んだと思った次の瞬間、ヘルトも横風で飛ばされた。何度もカラダを地面に打ち付ける酷い落車だった。あんなに酷い光景は今までの人生で見たことがない。救急車を待つ12分間、彼は痛みにもだえていた。でも我々は何も出来なかった。クラシックレースでエースを担う予定だっただけに、彼にとって最悪のニュースだ」。

コメントはレース公式サイト、および各チームウェブサイト(サクソバンク、レディオシャック)より。

パリ〜ニース2010プロローグ結果
1位 ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)             10'56"
2位 イェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)           +03"
3位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)      +06"
4位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)
5位 ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)             +10"
6位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)
7位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)   +11"
8位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)      +12"
9位 ロマン・クロイツィゲル(スロバキア、リクイガス)         +13"
10位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)        +15"

個人総合成績
1位 ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)             10'56"
2位 イェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)           +03"
3位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)      +06"
4位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)
5位 ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)             +10"
6位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)
7位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)   +11"
8位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)      +12"
9位 ロマン・クロイツィゲル(スロバキア、リクイガス)         +13"
10位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)        +15"

ポイント賞
ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)

山岳賞
ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)

新人賞
ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)

チーム総合成績
レディオシャック

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos

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