2018/08/05(日) - 06:48
スペインのバスク地方を舞台にした第38回クラシカ・サンセバスティアンは終盤の2級山岳で飛び出した2人による一騎打ちに。バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)を下したツール・ド・フランス山岳王ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)が初優勝を飾った。
最後の2級山岳ムルギル・トントラでペースを上げるオマール・フライレ(スペイン、アスタナ) photo:CorVos
クラシカ・サンセバスティアン2018 photo:CorVos
クラシカ・サンセバスティアン2018 photo:CorVos
ツール・ド・フランス翌週の土曜日に開催された第38回クラシカ・サンセバスティアン。その名の通り熱狂的な自転車競技熱を誇るスペイン・バスク地方を舞台にしたワンデーレースで、ビスケー湾に面した港湾都市サンセバスティアンを発着する。なお、国境の先のフレンチバスク地方で行われたツール第20ステージ個人タイムトライアルのコースとは最も近いところで直線距離にして20kmほどしか離れていない。
カテゴリー山岳が3級、2級、3級、1級、2級、1級、2級、2級と連続するコースの獲得標高差は3,900m。合計2回登場する1級山岳ハイスキベル峠(7.3km/6.0%)と2級山岳アルカレ峠(2.6km/6.2%)、そしてフィニッシュ8km手前の2級山岳ムルギル・トントラ(2.8km/7.6%)では優勝に向けたアタックが繰り返された。
エウスカディバスクカントリー・ムリアスやカハルーラル、ブルゴスBHといった地元のUCIプロコンチネンタルチーム所属選手で構成された7名の逃げグループが序盤に形成され、これをチームスカイやモビスターといったUCIワールドチームが追いかける展開。2回目の1級山岳ハイスキベル峠ではモビスターやロットNLユンボが追走の動きを見せ、バスク地方特有のパンチの効いたアップダウンコースでメイン集団は人数を減らしていった。
先頭で粘り強く逃げていたシリル・バルト(フランス、エウスカディバスクカントリー・ムリアス)が残り37km地点で吸収されると、2級山岳アルカレ峠でイアン・ボズウェル(アメリカ、カチューシャ・アルペシン)やカンスタンティン・シウトソウ(ベラルーシ、バーレーン・メリダ)、アンドレイ・アマドール(コスタリカ、モビスター)らが先手を打ったがリードを奪えない。頂上手前でピエール・ラトゥール(フランス、アージェードゥーゼール)も動いたが、マイヨブランを獲得した24歳の攻撃も失敗に終わった。
残り20km地点の落車に巻き込まれたミケル・ランダ(スペイン、モビスター)ら photo:CorVos
一旦フィニッシュラインを通過し、最後の2級山岳ムルギル・トントラに向かった約70名のメイン集団では大落車が発生する。道を完全に塞ぐ落車に地元バスク出身のミケル・ランダ(スペイン、モビスター)とゴルカ・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ)、初出場したツールでアシストとして活躍したエガン・ベルナル(コロンビア、チームスカイ)という優勝候補たちが巻き込まれた。
立ち上がれないランダ、イサギレ、ベルナルのレースはフィニッシュまで20kmを残して突然終了を迎えた。ランダとベルナルはすぐさま病院へと搬送。検査の結果、ランダは脊椎のL1(第1腰椎)骨折が判明した。ベルナルは顔面に外傷を負い、現在精密検査の結果を待っている段階。いずれの選手も意識はあり、命には別条がない状態だという。鎖骨骨折を免れたイサギレは復帰まで10日ほどの見通しだ。
落車発生後、メイン集団はアスタナとトレック・セガフレードが仕切る形で最後の2級山岳ムルギル・トントラの登坂を開始する。登り口でのパヴェル・コチェトコフ(ロシア、カチューシャ・アルペシン)の落車で集団が割れ、優勝は先頭に残った約30名に絞られた。
2級山岳ムルギル・トントラでアタックするアントワン・トルホーク(オランダ、ロットNLユンボ) photo:CorVos
トルホークとモラールを追撃するバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) photo:CorVos
頂上手前1.8kmの平均勾配が11.4%に達する最大勾配18.2%の登りでアスタナとトレック・セガフレードがハイペースを刻むと、頂上まで1.1kmを残した急勾配区間でアントワン・トルホーク(オランダ、ロットNLユンボ)がアタック。ここにルディ・モラール(フランス、グルパマFDJ)が追いつき、体重61kgと62kgの軽量な2人が先行する。
トルホークとモラールを追いかけたのはジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)、グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)、バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)、ヨン・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ)という有力選手たち。その中から、バスクファンが詰めかけた頂上手前で全開アタックした2016年大会の覇者モレマがトルホークとモラールを追い抜いて先頭に立つ。軽快なダンシングでモレマに追いついたのは、それまで存在感を消していたアラフィリップだった。
後続に15秒差をつけて急勾配の2級山岳ムルギル・トントラをクリアしたアラフィリップとモレマ。追いすがるヴァンアーヴェルマート、イサギレ、モラール、トルホークらとのタイム差を広げながらフィニッシュラインまでの8kmダウンヒルを快調にこなしていく。下りきって、残り3km地点で先頭アラフィリップとモレマは35秒のリード。登りで最も速かった2人は下りでも最も速かった。
最終ストレートに入り、振り返って後続のいない状況を確認してからスプリント体制に入ったアラフィリップとモレマ。前でスプリントに持ち込んだアラフィリップがモレマを抑え込む。諦めて腰を下ろしたモレマの前で、アラフィリップが右手を突き上げた。
バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)をスプリントで下したジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ) photo:CorVos
3位争いスプリントで先着したアントニー・ルー(フランス、グルパマFDJ) photo:CorVos
ツールでのステージ2勝&マイヨアポワ獲得という勢いそのままに、クラシカ・サンセバスティアン初制覇を果たしたアラフィリップ。ラ・フレーシュ・ワロンヌに続くUCIワールドツアーワンデーレースを制した26歳は「このコースは自分向きだと思っていたけど、勝てるとは思っていなかった。ツールでの疲労が残っていたので調子は良くなかった。でも終盤の動きに集中して、正しいタイミングでアタック。最後の登りを発射台にして飛び出した。美しい勝利でシーズン中盤を締めくくることができてよかった」とコメントする。アラフィリップの次戦は9月12日開幕のツール・ド・スロベニアの予定だ。
クイックステップフロアーズはこれがシーズン52勝目。2015年のシーズン54勝、2016年のシーズン54勝、2017年のシーズン56勝(いずれも最多勝)という数字に早くも近づいてきた。なお、ベルギーの常勝チームはオメガファーマ・クイックステップフロアーズ時代の2014年にシーズン61勝という数字を残しているが、当時はこのクラシカ・サンセバスティアンの時点でシーズン47勝だった。
「調子がよかったのでアタックしたけど、アラフィリップを引き離せなかった」と語るのは2位のモレマ。「アラフィリップとは協調体制を築けていた。登りを全開でこなしたので頂上通過時点でタイム差はついていたし、下りも速かった。残り2km地点から彼に先行させて力を貯めたものの、やっぱりスプリントでは彼のほうが速かった」と振り返る。16秒遅れの3位争いスプリントではフランスチャンピオンのアントニー・ルー(フランス、グルパマFDJ)がヴァンアーヴェルマートを下している。
表彰台でベレー帽を受け取ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ) photo:CorVos
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ツール・ド・フランス翌週の土曜日に開催された第38回クラシカ・サンセバスティアン。その名の通り熱狂的な自転車競技熱を誇るスペイン・バスク地方を舞台にしたワンデーレースで、ビスケー湾に面した港湾都市サンセバスティアンを発着する。なお、国境の先のフレンチバスク地方で行われたツール第20ステージ個人タイムトライアルのコースとは最も近いところで直線距離にして20kmほどしか離れていない。
カテゴリー山岳が3級、2級、3級、1級、2級、1級、2級、2級と連続するコースの獲得標高差は3,900m。合計2回登場する1級山岳ハイスキベル峠(7.3km/6.0%)と2級山岳アルカレ峠(2.6km/6.2%)、そしてフィニッシュ8km手前の2級山岳ムルギル・トントラ(2.8km/7.6%)では優勝に向けたアタックが繰り返された。
エウスカディバスクカントリー・ムリアスやカハルーラル、ブルゴスBHといった地元のUCIプロコンチネンタルチーム所属選手で構成された7名の逃げグループが序盤に形成され、これをチームスカイやモビスターといったUCIワールドチームが追いかける展開。2回目の1級山岳ハイスキベル峠ではモビスターやロットNLユンボが追走の動きを見せ、バスク地方特有のパンチの効いたアップダウンコースでメイン集団は人数を減らしていった。
先頭で粘り強く逃げていたシリル・バルト(フランス、エウスカディバスクカントリー・ムリアス)が残り37km地点で吸収されると、2級山岳アルカレ峠でイアン・ボズウェル(アメリカ、カチューシャ・アルペシン)やカンスタンティン・シウトソウ(ベラルーシ、バーレーン・メリダ)、アンドレイ・アマドール(コスタリカ、モビスター)らが先手を打ったがリードを奪えない。頂上手前でピエール・ラトゥール(フランス、アージェードゥーゼール)も動いたが、マイヨブランを獲得した24歳の攻撃も失敗に終わった。
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一旦フィニッシュラインを通過し、最後の2級山岳ムルギル・トントラに向かった約70名のメイン集団では大落車が発生する。道を完全に塞ぐ落車に地元バスク出身のミケル・ランダ(スペイン、モビスター)とゴルカ・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ)、初出場したツールでアシストとして活躍したエガン・ベルナル(コロンビア、チームスカイ)という優勝候補たちが巻き込まれた。
立ち上がれないランダ、イサギレ、ベルナルのレースはフィニッシュまで20kmを残して突然終了を迎えた。ランダとベルナルはすぐさま病院へと搬送。検査の結果、ランダは脊椎のL1(第1腰椎)骨折が判明した。ベルナルは顔面に外傷を負い、現在精密検査の結果を待っている段階。いずれの選手も意識はあり、命には別条がない状態だという。鎖骨骨折を免れたイサギレは復帰まで10日ほどの見通しだ。
落車発生後、メイン集団はアスタナとトレック・セガフレードが仕切る形で最後の2級山岳ムルギル・トントラの登坂を開始する。登り口でのパヴェル・コチェトコフ(ロシア、カチューシャ・アルペシン)の落車で集団が割れ、優勝は先頭に残った約30名に絞られた。
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トルホークとモラールを追いかけたのはジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)、グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)、バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)、ヨン・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ)という有力選手たち。その中から、バスクファンが詰めかけた頂上手前で全開アタックした2016年大会の覇者モレマがトルホークとモラールを追い抜いて先頭に立つ。軽快なダンシングでモレマに追いついたのは、それまで存在感を消していたアラフィリップだった。
後続に15秒差をつけて急勾配の2級山岳ムルギル・トントラをクリアしたアラフィリップとモレマ。追いすがるヴァンアーヴェルマート、イサギレ、モラール、トルホークらとのタイム差を広げながらフィニッシュラインまでの8kmダウンヒルを快調にこなしていく。下りきって、残り3km地点で先頭アラフィリップとモレマは35秒のリード。登りで最も速かった2人は下りでも最も速かった。
最終ストレートに入り、振り返って後続のいない状況を確認してからスプリント体制に入ったアラフィリップとモレマ。前でスプリントに持ち込んだアラフィリップがモレマを抑え込む。諦めて腰を下ろしたモレマの前で、アラフィリップが右手を突き上げた。
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ツールでのステージ2勝&マイヨアポワ獲得という勢いそのままに、クラシカ・サンセバスティアン初制覇を果たしたアラフィリップ。ラ・フレーシュ・ワロンヌに続くUCIワールドツアーワンデーレースを制した26歳は「このコースは自分向きだと思っていたけど、勝てるとは思っていなかった。ツールでの疲労が残っていたので調子は良くなかった。でも終盤の動きに集中して、正しいタイミングでアタック。最後の登りを発射台にして飛び出した。美しい勝利でシーズン中盤を締めくくることができてよかった」とコメントする。アラフィリップの次戦は9月12日開幕のツール・ド・スロベニアの予定だ。
クイックステップフロアーズはこれがシーズン52勝目。2015年のシーズン54勝、2016年のシーズン54勝、2017年のシーズン56勝(いずれも最多勝)という数字に早くも近づいてきた。なお、ベルギーの常勝チームはオメガファーマ・クイックステップフロアーズ時代の2014年にシーズン61勝という数字を残しているが、当時はこのクラシカ・サンセバスティアンの時点でシーズン47勝だった。
「調子がよかったのでアタックしたけど、アラフィリップを引き離せなかった」と語るのは2位のモレマ。「アラフィリップとは協調体制を築けていた。登りを全開でこなしたので頂上通過時点でタイム差はついていたし、下りも速かった。残り2km地点から彼に先行させて力を貯めたものの、やっぱりスプリントでは彼のほうが速かった」と振り返る。16秒遅れの3位争いスプリントではフランスチャンピオンのアントニー・ルー(フランス、グルパマFDJ)がヴァンアーヴェルマートを下している。
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クラシカ・サンセバスティアン2018結果
1位 | ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ) | 6:03:45 |
2位 | バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) | |
3位 | アントニー・ルー(フランス、グルパマFDJ) | 0:00:16 |
4位 | グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) | |
5位 | ジュリアン・シモン(フランス、コフィディス) | |
6位 | リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーションファースト・ドラパック) | |
7位 | ヨン・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ) | |
8位 | ロベルト・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ) | |
9位 | ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNLユンボ) | |
10位 | アントワン・トルホーク(オランダ、ロットNLユンボ) |
text:Kei Tsuji
photo:CorVos
photo:CorVos