今シーズンからサイクルスポーツ業界に新規参入したヘルメットブランドHJCより、レーシングモデルの「Ibex」と「Furion」をインプレッション。モータースポーツの世界で培ったエアロダイナミクスのノウハウを取り入れ、ロット・スーダルも使用するプロユースの性能を獲得した注目製品を紹介しよう。



HJC Ibex(Teamカラー)HJC Ibex(Teamカラー) photo:Makoto.AYANO
モーターサイクル用ヘルメット専門のメーカーとして1971年に立ち上がったHJC。40年以上に渡りヘルメットを作り続けてきた実績を持ち、オートバイヘルメットでは世界シェア1位を誇るブランドだ。自動車や建設、レスキューといった分野のヘルメットも手がけており、65ヶ国以上で販売されるほど世界的にも高い評価を受ける。

MotoGPやボブスレー競技と言ったスピードを競うスポーツのサポートを続けてきた同社が、次なる一歩としてサイクルスポーツ業界に新規参入。オートバイヘルメットで培った技術と経験を活かして開発されたレーシングモデル「Ibex」と「Furion」をリリースしている。2モデルともにすでに今季よりワールドチームのロット・スーダルが使用しており、ロードレースでは見慣れないブランドだけに気になっていたファンも少なくないはず。

16個のベンチレーションホールが高い通気性を生み出す16個のベンチレーションホールが高い通気性を生み出す ”Designed & Engineered by HJC”の文字が入る”Designed & Engineered by HJC”の文字が入る
やや小ぶりなフィッティング用のダイヤル。段階的に上下にも可動しフィット感を調整できるやや小ぶりなフィッティング用のダイヤル。段階的に上下にも可動しフィット感を調整できる 空気が流れ込むエアチャネルがヘルメット先端まで配される空気が流れ込むエアチャネルがヘルメット先端まで配される

そんなHJCヘルメットのコアとなるテクノロジーと言えば、自社の風洞実験施設を活用し徹底的に追求されたエアロダイナミクスデザインにあるだろう。時速300km以上のスピードでサーキットを駆け抜けるモーターサイクル用ヘルメットの開発を重ねる同社だけにエアロのノウハウは十分。今作でもヘルメット形状と空力性能、スピードを上手く調和させるデザインが導き出されている。

幾多の試験を経て最適化されたエアロデザインによって、優れた空力性能と通気性の両立に成功したIbexとFurionは、ロードヘルメットとしては昨今主流となったセミエアロ形状を採用しスムーズな空気の流れを実現。空気抵抗を抑える細かな造形によって、競合他社製品と比較して約7%のパワーセーブを可能としている。

HJC Furion(Teamカラー)HJC Furion(Teamカラー)
ベンチレーション機能に関しても、流体の流れを絞ることで流速を加速させるベンチュリー効果を効率的に生み出す開口部の形状を採用しており、空気の流入量と排出量を最大化するエアフローを実現することで高い冷却効果をもたらしている。ヘルメット内部にも空気の通り道となるチャネルを設けており、通気性を考えた設計が窺えるというもの。

帽体自体はEPSフォームを使用したインナーシェルに、ポリカーボネート製のアウターシェルを組み合わせた一般的なインモールド構造を採用。加えてEPSフォーム内部には骨格フレームが埋め込まれており、衝撃が加わった際もヘルメットが破断せず頭部を守ってくれるよう、安全性にも十分に配慮された作りとなっている。

頭頂部にもベンチレーションホールを設け排気を促す頭頂部にもベンチレーションホールを設け排気を促す 優れたエアフローの確保とドラッグの発生を抑えるテール部の造形優れたエアフローの確保とドラッグの発生を抑えるテール部の造形
Ibexよりも広い面積で後頭部をサポートするフィッティングパーツIbexよりも広い面積で後頭部をサポートするフィッティングパーツ 銀の粒子を繊維に含ませるポリジン加工を施したパッドが抗菌防臭効果を発揮銀の粒子を繊維に含ませるポリジン加工を施したパッドが抗菌防臭効果を発揮

幅広いライダーにマッチするフィット感を実現するため、開発時には広範囲の民族や性別の異なる様々な人の頭部を3Dスキャンし、得られたデータを元に帽体の形状を決定しており、日本人にも快適な被り心地になるよう設計されている。内側のパッドには抗菌防臭効果の高いポリジン加工が施してあり、特殊な銀の粒子を繊維に含ませることでバクテリアの繁殖を抑えニオイの発生を抑制している。

ラインアップはIbexとFurionの2モデル。開口部を多く設けたオールラウンドモデルとして展開するIbexは、計16個のベンチレーションホールを備えており通気性と空力性能を両立するバランスの取れた性能を発揮する。ロット・スーダルの選手たちも山岳ステージではIbexをこぞって使用しており、夏場のライドにも適したモデルとなるだろう。カラーは2色展開で、それぞれXXS/XS、S/M、L/XLの3サイズが揃う。重量は220g、価格は26,950円(税抜)だ。

ストラップは一般的なバックルを用いたフィッティング方式ストラップは一般的なバックルを用いたフィッティング方式 ダイヤル式のフィッティングシステムを採用し細かな調整が可能だダイヤル式のフィッティングシステムを採用し細かな調整が可能だ

対してスプリンターのアンドレ・グライペル(ドイツ)が積極的に使用するエアロヘルメットがFurionだ。開口部を少なくし整流効果を高めることで優れた空力性能を生み出している。こちらはホワイトを加えた3カラー展開で、同じくXXS/XS、S/M、L/XLの3サイズが揃う。重量は190g、価格は22,800円(税抜)だ。取り扱いはジェイピースポーツグループ。



ー インプレッション

「オートバイヘルメットのノウハウが活きた完成度の高さ、格好良く決まるデザイン性も好印象」紺野元汰(SBC湘南藤沢店)「オートバイヘルメットのノウハウが活きた完成度の高さ、格好良く決まるデザイン性も好印象」紺野元汰(SBC湘南藤沢店)
鈴木:今年からロット・スーダルが使い始めたブランドとあって、注目度は高いですよね。自分がテストしたFurionは頭部と接する面積を減らした設計なのか、パッドも少なめな作りでしたが、そのせいでどこかが当たって痛いということもなく快適に被ることができました。エアロヘルメットと言うと前頭部が長めな作りのものも多いですが、HJCはスッキリとした作りでスマートなシルエットに仕上がりますね。

紺野:同じく自分が試したIbexも、丸一日嫌な感触もなく使用することができました。個人的には横幅に余裕があるようなフィット感でしたが、その辺りは人それぞれの頭の形によるところだと思います。どちらも現代的なルックスでデザイン性は高く、被った見た目も格好良いですね。開口部の多いIbexの方が走行中しっかりと風を感じる通気性があるため、シーンを選ばず使いたい人はIbexがオススメです。

正面から見てもキノコ頭にならないスマートなシルエット正面から見てもキノコ頭にならないスマートなシルエット 「2モデルで被り心地が異なるので、可能なら購入前に試着してみて欲しい」「2モデルで被り心地が異なるので、可能なら購入前に試着してみて欲しい」

「通気性が良くシーンを選ばないIbex、エアロと軽量性を重視したFurionと使い分けて欲しい」「通気性が良くシーンを選ばないIbex、エアロと軽量性を重視したFurionと使い分けて欲しい」
鈴木:カタログ値で見ても、実際に持ってみても重量はFurionの方が軽いですね。ホールが少ない分シェルの強度が確保できるため軽量化を図れるのでしょう。真夏のライドだとやや暑そうな印象ですが、タイムを意識する人、エアロを重視する人は断然Furionを選んで欲しいと思います。サイドのエアインテークの形状やシェル表面に入ったライン状のデザインも、スポーツカーみたいな見た目でスタイリッシュに決まりますね。

紺野:ブランドの初製品としては完成度は高く、他業界のヘルメット製造で培われた技術が感じられる作りです。IbexとFurionで被り心地がやや異なりますしフィッティングのバックルも構造が違うので、その点は注意が必要ですね。憧れのプロ選手と同じ製品を使いたいというロット・スーダルのファンはぜひチェックして欲しいですね。

HJC Ibex&FurionHJC Ibex&Furion photo:Makoto.AYANO
HJC Ibex
サイズ:XXS/XS(52-54cm)、S/M(55-58cm)、L/XL(59-63cm)
重 量:220g(±10g)
カラー:Matt Glossy Black、Team
価 格:26,950円(税抜)

HJC Furion
サイズ:XXS/XS(52-54cm)、S/M(55-58cm)、L/XL(59-63cm)
重 量:190g(±10g)
カラー:Glossy White Silver、Matt Black、Team
価 格:22,800円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ) 鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)

スポーツバイクファクトリー北浦和スズキの店長兼代表取締役を務める。大手自転車ショップで修行を積んだ後、独立し現在の店舗を構える。週末はショップのお客さんとのライドやトライアスロンに力を入れている。「買ってもらった方に自転車を長く続けてもらう」ことをモットーに、ポジションやフィッティングを追求すると同時に、ツーリングなどのイベントを開催することで走る場を提供し、ユーザーに満足してもらうことを第一に考える。

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紺野元汰(SBC湘南藤沢店)紺野元汰(SBC湘南藤沢店) 紺野元汰(SBC湘南藤沢店)

神奈川県内に5店舗を構えるSBCの湘南藤沢店に勤務する、走れるスタッフ。高校時代にロードレースの世界に入って以降は橋川健さんの元でベルギー武者修行も経験し、2014年のジャパンカップオープンレースで2位、Jプロツアーでピュアホワイトジャージを経験。2年のブランクを経てスタッフとなった今はSBCヴェルテックスレーシングの一員としてツール・ド・おきなわ210kmで優勝を目指す。

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ウェア協力:Ale

text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
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