ロイヤルウェディングを祝うバトルロワイアルinモンテゾンコラン。普段使わない軽いギアをくるくる回して、選手たちが「地獄への門」と呼ばれる激坂を登ってきた。フルームが復活の初勝利を飾ったジロ第14ステージの模様を現地からお届けします。


サンヴィート・アル・タリアメントをスタートサンヴィート・アル・タリアメントをスタート photo:Kei Tsuji
リアに32Tのカセットとアルテグラのリアディレイラーを用意したクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)リアに32Tのカセットとアルテグラのリアディレイラーを用意したクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
出走サインするトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)出走サインするトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ) photo:Kei Tsuji
締め切り間際に出走サインにやってきたサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)締め切り間際に出走サインにやってきたサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
スタート前にグローブをはめるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)スタート前にグローブをはめるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
普段見慣れない小さなインナーチェーンリングと大きなカセットを搭載したバイクに乗って、選手たちが出走サインにやってきた。ヨーロッパ屈指の勾配を誇る激坂ゾンコラン対策としてどの選手もいつもよりずっと軽いギアをセレクト。メインバイクだけでなくチームカーに搭載したスペアバイクも同じセッティングが施されていた。チームバスの駐車場で確認した限り、主要選手たちのギア比は以下の通り。

34x32(1.0625)ピノ、フルーム※オーシンメトリック
36x32(1.1250)ポッツォヴィーヴォ、アル、ロペス、アントン、ジェニエス
34x30(1.1333)イェーツ、デュムラン
36x30(1.2000)フォルモロ、シマノニュートラルサービス
39x32(1.2186)ハンセン、バルディアーニCSF

最も多いのは36x32の組み合わせ。アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・フィックスオール)はカンパニョーロのコンパクトクランクに180mmがラインナップされていないため仕方なくインナー39。スラムを使用するバルディアーニCSFは何故か全員インナー39だった。何の参考にもならないかもしれないが、ゾンコランは世界最高峰のプロ選手でもそんなギア比を選択するほどの激坂だと分かっていただければ。

スタート前の演奏に備えるスタート前の演奏に備える photo:Kei Tsuji
仲良くセルフィーを撮るアレクサンドル・ヴィノクロフとパオロ・ベッティーニ仲良くセルフィーを撮るアレクサンドル・ヴィノクロフとパオロ・ベッティーニ photo:Kei Tsuji
モンテゾンコラン反対側(東側)のプレスセンターならびに駐車場からリフトで頂上を目指すモンテゾンコラン反対側(東側)のプレスセンターならびに駐車場からリフトで頂上を目指す photo:Kei Tsuji
ゾンコランゾンコラン photo:Kei Tsuji
悪天候にもかかわらず観客が詰めかけたモンテゾンコラン悪天候にもかかわらず観客が詰めかけたモンテゾンコラン photo:Kei Tsuji
例年同様、常に15%以上の勾配が続く厳しさと道の狭さ、頂上のスペース確保の難しさから、チームカーのゾンコラン登坂は制限された。チームメカニックはゾンコランの登り口でチームカーから主催者が用意したモーターバイクのリアシートに乗り換え、スペアバイクを肩に担いで選手たちを追いかけることに。

メカニカルドーピング防止のため、ゾンコランの沿道で待機するチームスタッフによるバイク交換は禁止された。チームスカイは登りの5カ所にホイールを持ったスタッフを配置してトラブルに備えたという。チームカーに搭載したスペアホイールを最大32のカセットで統一したチームはチームスカイだけだった。

もちろんチームカーだけでなくプレスカーなど大会関係車両のゾンコラン登坂も大幅に制限。それもそのはず、仮にエンジントラブル等で車が立ち往生してしまうとコースを塞いでしまう可能性がある。セキュリティの関係もあり「モンテゾンコランを車で登ろうとした場合はプレスパスを即座に剥奪します」という警告メールが前夜に報道関係者全員に届いたほど。

大会関係者が頂上に向かう方法はただ一つ。レースと反対側(東側)からゾンコランを登り、プレスセンターが置かれた中腹のスキーリゾートホテル駐車場に車を止め、そこからスキーリフトで頂上を目指す方法しかない。雨具を着込んでいざスキーリフトに乗り、標高1,730mのゾンコラン頂上に向かう。標高だけを見るとそれほど目立った数字ではないが、相変わらずそこには別世界が広がっていた。

主催者は観客の数を10万人と見積もっていたが、天候の関係で頂上付近の観客の数はいつもより少なめ。とは言え頂上付近の斜面は色とりどりのレインジャケットを着た観客であふれていた。ゾンコラン決戦を見るために、観客たちは表側から徒歩で3時間かけて登るか、裏側から自転車もしくは徒歩で登ってからスキーリフトで頂上にやってきている。テロ防止のため、頂上に向かう観客に対してこの日は金属探知機によるセキュリティチェックも行われた。

フェンスのない区間は人力でコースを守るフェンスのない区間は人力でコースを守る photo:Kei Tsuji
イェーツから逃げるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)イェーツから逃げるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
フルームを懸命に追うサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)フルームを懸命に追うサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
逃げるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)と追うサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)逃げるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)と追うサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
メカニックがスペアバイクを担いで登るメカニックがスペアバイクを担いで登る photo:Kei Tsuji
難関山岳ステージ(第6,9,14,15,18,19,20ステージ)では、以下のようにタイムリミットが設定されている。不可抗力によるトラブルなどの場合は、主催者とUCIコミッセールの判断により最大25%までタイムリミットを引き伸ばすことも可能。

平均スピードが30km/h以下の場合 優勝タイム+16%
平均スピードが30〜34km/hの場合 優勝タイム+17%
平均スピードが34km/h以上の場合 優勝タイム+18%

この日の平均スピードは34.284km/h。つまり優勝タイム5時間25分31秒の18%、1時間19分30秒というたっぷりとした猶予があった。エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)は29分31秒遅れ、サム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)は33分49秒遅れで獲得標高差4,300mの難関ステージを完走している。

もちろんルール上は禁止されているが、テレビに映らない現実として、ステージ優勝争いや総合成績に関係しないグルペットの選手たちは登りで観客に押されまくっている。しっかり押してもらった場合はお礼にボトルをプレゼントするのが作法になっているため、ボトル目当てに選手を押している観客も多い。なのでグルペットの中にはボトルを満載にした状態で難関山岳に挑む選手もちらほらいる。

地元出身選手がグルペットから一人飛び出して、ものすごく涼しい顔で登っていたりするのはそのため。日本で声高に言うと炎上しそうだが、それも選手と観客の距離が近いロードレースならではの観戦の醍醐味だと思っている。過剰な場合を除いてUCIコミッセールも目を瞑っている。

逃げるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)と追うサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)逃げるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)と追うサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
笑顔でモンテゾンコランを登るジャック・ヘイグ(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)笑顔でモンテゾンコランを登るジャック・ヘイグ(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
モンテゾンコラン頂上を目指すダビ・デラクルス(スペイン、チームスカイ)モンテゾンコラン頂上を目指すダビ・デラクルス(スペイン、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
ロット・フィックスオールのメカニックが乗ったバイクが転倒ロット・フィックスオールのメカニックが乗ったバイクが転倒 photo:Kei Tsuji
警備隊に守られたモンテゾンコランを走る警備隊に守られたモンテゾンコランを走る photo:Kei Tsuji
この日、ジロがゾンコラン頂上を目指しているまさにその時、イギリスではヘンリー王子の結婚式が行われていた。豪華来賓を迎え、12万人が祝福に訪れたというロイヤルウェディング。ゾンコランを最速で駆け上がった2人のイギリス人の頭の中にロイヤルウェディングを祝福するという考えはおそらくなかったが、とにかくイギリス人がイギリス王子の結婚式の日にゾンコランでワンツー勝利を飾った。

ロイヤルバトル。バトルロワイアル。ゾンコランで、最終コーナーを曲がるまでステージ優勝の行方がわからない手に汗握る接戦が繰り広げられたのは初めて。ジロでステージ初優勝を飾ったフルームは、これでグランツールすべてのステージ優勝を達成したことになる(ツール・ド・フランスではステージ7勝、ブエルタ・ア・エスパーニャではステージ5勝)。

チームスカイが公開しているジロ準備フィルムを見ると、フルームは4月にゾンコランを頂上手前のトンネルまで試走している。一方でサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)とトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)は試走していなかった。

フルームは「試走の段階で、残り4km地点がアタックポイントだと分かっていた」と言う。アタック時、サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)は総合で3分以上のタイムを失っているフルームを見送ったことも考えられるが、とにかく強いフルームが帰ってきた。試走を結果につなげることに成功し、総合表彰台争いに復帰した。「でもまだ総合で3分以上遅れているので現実的にならないといけない。総合優勝を狙うにはタフな戦いになるだろう」。

フルームは第16ステージの個人タイムトライアルを試走済み。初日のタイムトライアル試走で落車した教訓から「いつもより少しだけゆっくり試走することにするよ」と記者会見で自虐的な笑いを取っていた。

モンテゾンコランを楽しむアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・フィックスオール)モンテゾンコランを楽しむアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・フィックスオール) photo:Kei Tsuji
地元フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州出身のアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、BMCレーシング)が州旗を奪う地元フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州出身のアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、BMCレーシング)が州旗を奪う photo:Kei Tsuji
メカトラで歩いてフィニッシュを目指すクリスティアン・ズバラーリ(イタリア、イスラエルサイクリングアカデミー)メカトラで歩いてフィニッシュを目指すクリスティアン・ズバラーリ(イタリア、イスラエルサイクリングアカデミー) photo:Kei Tsuji
今シーズン初勝利を飾ったクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)今シーズン初勝利を飾ったクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji

text&photo:Kei Tsuji in Monte Zoncolan, Italy

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