2017/09/18(月) - 19:18
浅田顕監督インタビュー後編は、日本の選手達―特に若きアンダー世代―が置かれている現状、この先の選手発掘と強化に必要な事などについて話を伺った。インタビューの最後には、直近に迫る世界選手権ロードレースへの展望も語っていただいた(インタビュー前編は→こちら)。
――ツール・ド・ラヴニールと言うシーズン最大の目標を終えて、現在の日本のU23世代が置かれている状況を教えてください。
ラヴニールに出た選手は、U23世代の4年生が4人、3年生が1人、2年生が1人と言う構成です。その中で4年生が一番強いのは当たり前なんですが、4年生は彼らだけでなく、少し力は落ちるものの走れる選手がまだいます。しかし、その下の世代に同じボリュームの選手がいるかと言うと、今の4年生に対して、現時点では半分か半分以下しかいません。少し穴が空いてしまっています。
ただ、今ここにいる選手だけがエスカレーター的に上がる世界ではありませんので、他の選手が成長し、より高いレベルに来てくれればありがたいことです。
――今後選手がラヴニールで活躍し、プロになるために、日本のロードレース界に足りないものは何でしょうか。
まず何が足りないかと言うと、全てが足りていません。
ヨーロッパのチームやオーガナイザーにはこっちに来いと言ってもらっていますが、誰でも良いわけがありません。皆が世界に通用する選手になれるわけではないですから、その可能性のある選手をいかに多く連れていくかになります。
それにはまず発掘の段階で、可能性のある選手、育ち盛りの選手達を下の下のレベルに連れてきて、上げていく。そこで走れる選手達をピックアップしていく。本来であれば素材発掘の段階から、今の10倍20倍の人材を集めないといけません。ただ、その機会がまだ少ない。そこをどうしていくか。ナショナルチームの活動自体は限界がありますので、悩ましい部分です。
――より多くの人材、つまり若い人達にロードレースに興味を持ってもらうにはどうしたら良いでしょうか。
やはり動機づけや意識づけが必要です。いくら体力があっても、自転車をやりたいと思ってもらわないと仕方がありません。自転車が難しいのはそこです。自転車選手に憧れる時期は子供の頃。たとえばツールを見て「僕もああいう風になりたい」と思って成長し、ロードレースに出られる時期になって、先にそこにのめりこんでくれれば動機づけにはなるのですが、そうなる年齡、タイミングを見据えて機会を拡げていかないと、今と同じ事を繰り返してしまいます。
実際のところ選手集めには苦労しています。自転車で才能ある選手と言うのは集めにくい。なぜなら、自転車選手になってどうなるか、と言う先が見えないから。今、タレント発掘の活動を各地で盛んにやっていますが、選手に対して示せるものが少ない。トラックなら競輪で稼ぐ道もありますが、ロードとなると五輪でメダルを取れるだとか、やや遠い話になってしまいがちです。身近に魅力あるものがないと(難しい)。
今は欧州でプロになりたいと言ってきた選手に対する受け皿がなく、選手自身がモチベーションを上げて、やって来るような状況です。こちら側から行く新規発掘と言う作業は、国でやっている事を活用して出来る部分もありますけれど、やはりその先をちゃんと見せてあげないといけません。
――今、選手に対して出来ることは何でしょうか。逆に選手に求める姿勢は。
選手にはまず、その活動を保証してあげると言うのが大事です。これは生活を保証すると言うことではありません。レース活動が出来ると言う保証。もちろん活動期間中、生活の一部を保証してあげられればより良いですが、生活の全てを保証してあげる必要は全くありません。
その中で選手は、たとえばナショナルチームで海外遠征に行き、ラヴニールに出たとします。そこで「自分はこうなりたい、ツールに出たい」と思う事。そしてそう思った時、そこに挑戦する覚悟があるかどうかが重要です。
「ツールに出る」と言うのは極端ですけども、自転車はやっばりツールに出ることが究極なんです。世界一のレースですから。今回ラヴニールに出たコロンビアやフランスの選手達も機材については細かい事を言います。タイヤがどうとかホイールがどうだとか。でも生活を今いるチームに保証してほしいと思っている選手は、ここ(ラブニール)に来ていません。「ツール・ド・フランスに出るため、プロに上がりたい」と言う事が動機になっている。そこは日本の若手も変わらない。
もちろんプロチームに入ったら給料がもらえると言う前提がないとダメですけれど、自転車のプロは、安いとは言え給料としては立派です。チームスカイに入ったら月30万円かと言ったらそうではありません。プロであれば、それなりの生活に対する保証があり、仕組みもしっかりしています。ですので、まずはプロになりたいとどうやって思わせるかです。そういう面でツール・ド・フランスは動機づけとして確かにインパクトがあります。
また、そういった動機づけが出来たとして、それと同時に集めた選手をどの時期にどういう育成をしていくか。今は指導者や指導方法を確立していくべきタイミングでもあります。これはいきなり全体では出来ませんので、狭い範囲でも構わないから、どこかがモデル、システムを作らないといけません。その見本は世界にたくさんありますが、日本とヨーロッパでは環境も違うし、取り組み方も違う。逆に日本でないと出来ない事もあります。まずはその成功例を作るしかありません。
――日本にしか出来ないシステム、有利なところはどういった点ですか。
自転車であれば競技場(ヴェロドローム=競輪場)がたくさんある事です。一般的に安全確保された練習場所は少ないわけですが、日本には全国に多くの競輪場があって、それがもっとトレーニングに使えるようになれば大きなメリットになります。
日本はこれに加えて、山が豊富です。つまり山の練習と言うのはヨーロッパに行かなくても出来るわけです。でも子供の頃から山の練習が必要かと言ったらそうではないので、同じくそれをどのタイミングで、強化をどれくらいしたらいいのか、というのを理論立てて、しっかりした方針のもとにやっていかねばなりません。
ではそれを誰がやるか、予算はどうするか。ロードレースの場合はプライベートでやっていくしかない。ただ、代表チームは、国の代表で国に近いところにあるので、その立場から利用可能な所の協力を得てやっていく必要があります。競技の枠を超えて協力してもらえる所や、選手など。
――選手として今後どんな人材が求められますか。
簡単に言ってしまえば素材が良い、見込みがある選手です。ヨーロッパには今までも日本人選手がたくさん行っています。しかし大半がモノになっていないわけです。だからこそ特別な人材を連れて行かないといけません。
競技経験者であれば、日本チャンピオンクラスで、ジュニアの国際レースでも入賞経験があるとか。そうでなければ経験が浅い選手。たとえば21歳で競技を5〜6年やっていて鳴かず飛ばずなら可能性はほぼありません。しかし競技を始めて2年未満で、ある一定のレベルに達しているのであれば、可能性があります。そういう選手を増やした方が良いです。
今の日本は、毎年プロ選手が出ない状況です。従来の日本の育成システムにおいて、ユキヤやフミ(新城幸也、別府史之)は、突然変異のような存在と言えます。ヨーロッパの環境を頼りに活動した選手の中で、彼らは実力が認められてプロになったわけですが、下の世代が続いてはいません。
もし彼らの後に日本人のプロ選手達が次々と生まれていれば、そのやり方が評価されて良いはずですが、続いていないと言うことは、システムとしてはそれが最適ではないと言うことです。変えていく必要があります。
――先程、指導者や指導方法についても触れていました。育成・強化と言ったシステムの中で果たす役割は大きいと思いますが、この点については今どういった状況で、やるべき事は何でしょうか
指導者は数自体が全く少ないです。選手上がりすぐにでも良いので、若いコーチを増やしていかねばなりません。経験の有無に関わらず、自分が勉強してきた事を選手に反映させられるような人が増えてほしいと願っています。
しかし、この若いコーチがいない理由も根底には「お前コーチになれ」と言っても給料が払えない、と言う状況があります。
本来『選手をサポートすること=指導者を作ること』でもあるんです。選手達にお金や物を与えたりするのも良いのですが、彼らにとっては良い指導者に見てもらえた方が、ひと握りのお金の100倍も200倍も有益です。お金の使い方も考えないといけません。
もっと言えば『コーチを増やそうと思う人』も増やさないといけません。指導者の少なさに危機感を感じている人です。実業団でも指導者を増やすための活動をしていますが、そういう事を今後義務づけていくと言うことも一つ(大事)。「クラブチームにも必ずこういう人が必要なんだ」としていくような。そうして教えたい人が増えて、選手の力を伸ばして、将来ああなりたい、と言う選手が増えて…と言う循環が生まれれば、全体の底上げにも繋がります。
――時間が少なくなってきましたので話題を少し戻しますが、こうした日本ロードレース界の中で、ツール・ド・ラヴニールとはどういった位置付けのレースと言えますか。
世界のトップレースであるツール・ド・フランスとは違い、ツール・ド・ラヴニールはU23の選手達にとって非常に現実的なレースで、いわば就職の最終試験みたいなものです。見せる事も考えていませんし、生々しく、泥臭いレースです。
実際に、これまでは日本の若い選手がどうしたらプロになれるかというプロセスが明確ではなかった。しかしラヴニールのおかげで、日本の若い選手達が現実的にプロへのアプローチを考えられるようになったと思います。
もちろんラヴニールはプロへの近道ではありません。事前にどういう過程を経ようが、そこで活躍が認められればプロになれますが、翻ってスポンサーやお金を積んだところで実力がなければ上には行けない。ステップ・バイ・ステップで強くなりプロへ、と言う道筋の上にあるのがツール・ド・ラヴニールです。
欧州のメディアからは日本人が珍しく思われなくなってきて、日本人であることが武器にならなくなっていると言われています。これは日本人もようやく実力主義の世界の中で見られるようになったと言えますが、まだまだ欧州ではオマケのような存在です。
ネイションズポイントにしても、今回アジア選手権についているポイントが含まれていたので、ラヴニールに出られたと言うのがあります。ヨーロッパのポイントだけでは残れなかった。それでも今回それ(ヨーロッパでのポイント)が穫れたのは意味があることです。
今後プロ契約に繋げられる選手が、最初は2〜3年に1度かもしれませんけれど、それが1年に2、3人ずつ出せるようになるとか、段階的にそういった形が作られていく事が理想です。
――最後にノルウェーでの世界選手権ロードレースに向けて、展望をお聞かせください。
「ツール・ド・ラヴニール」で選手たちはそれぞれ自分の力を世界の秤にかけられ、最終第9ステージゴールまでの3日間くらいは、自分なりの自身への評価と自問自答を繰り返していた事だろうと思います。しかし、世界選手権準備レースとしてスペインに行き、毎年参加しているステージレース「ボルタ・カンタブリア」と「ボルタ・バレンシア」を走り始めた時には、自分たちに起こっている成長という変化に気づいたはずです。
そして「ツール・ド・ラヴニール」では動かなくなる太ももに鞭を打って、最後は意地でギリギリ完走を果たし一時帰国した岡本隼。彼も「ツール・ド・北海道」では自分の変化に気づいた事でしょう。昨年とは違う手応えを感じ、周囲からは目に見える成長が顕著に伺えました。
そして、2年ぶりに出場権を得た世界選手権ロードU23では、5名のメンバーがスタートに並びます。世界選手権がそんなに甘くない事は良くわかっていますが、少しでも当面の目標であり、エリートへの発射台となる同カテゴリー10位入賞に近づけるよう、全力を尽くしたいと思います。
――ありがとうございました。
photo: Cyclisme Japon
text & edit: Yuichiro Hosoda
――ツール・ド・ラヴニールと言うシーズン最大の目標を終えて、現在の日本のU23世代が置かれている状況を教えてください。
ラヴニールに出た選手は、U23世代の4年生が4人、3年生が1人、2年生が1人と言う構成です。その中で4年生が一番強いのは当たり前なんですが、4年生は彼らだけでなく、少し力は落ちるものの走れる選手がまだいます。しかし、その下の世代に同じボリュームの選手がいるかと言うと、今の4年生に対して、現時点では半分か半分以下しかいません。少し穴が空いてしまっています。
ただ、今ここにいる選手だけがエスカレーター的に上がる世界ではありませんので、他の選手が成長し、より高いレベルに来てくれればありがたいことです。
――今後選手がラヴニールで活躍し、プロになるために、日本のロードレース界に足りないものは何でしょうか。
まず何が足りないかと言うと、全てが足りていません。
ヨーロッパのチームやオーガナイザーにはこっちに来いと言ってもらっていますが、誰でも良いわけがありません。皆が世界に通用する選手になれるわけではないですから、その可能性のある選手をいかに多く連れていくかになります。
それにはまず発掘の段階で、可能性のある選手、育ち盛りの選手達を下の下のレベルに連れてきて、上げていく。そこで走れる選手達をピックアップしていく。本来であれば素材発掘の段階から、今の10倍20倍の人材を集めないといけません。ただ、その機会がまだ少ない。そこをどうしていくか。ナショナルチームの活動自体は限界がありますので、悩ましい部分です。
――より多くの人材、つまり若い人達にロードレースに興味を持ってもらうにはどうしたら良いでしょうか。
やはり動機づけや意識づけが必要です。いくら体力があっても、自転車をやりたいと思ってもらわないと仕方がありません。自転車が難しいのはそこです。自転車選手に憧れる時期は子供の頃。たとえばツールを見て「僕もああいう風になりたい」と思って成長し、ロードレースに出られる時期になって、先にそこにのめりこんでくれれば動機づけにはなるのですが、そうなる年齡、タイミングを見据えて機会を拡げていかないと、今と同じ事を繰り返してしまいます。
実際のところ選手集めには苦労しています。自転車で才能ある選手と言うのは集めにくい。なぜなら、自転車選手になってどうなるか、と言う先が見えないから。今、タレント発掘の活動を各地で盛んにやっていますが、選手に対して示せるものが少ない。トラックなら競輪で稼ぐ道もありますが、ロードとなると五輪でメダルを取れるだとか、やや遠い話になってしまいがちです。身近に魅力あるものがないと(難しい)。
今は欧州でプロになりたいと言ってきた選手に対する受け皿がなく、選手自身がモチベーションを上げて、やって来るような状況です。こちら側から行く新規発掘と言う作業は、国でやっている事を活用して出来る部分もありますけれど、やはりその先をちゃんと見せてあげないといけません。
――今、選手に対して出来ることは何でしょうか。逆に選手に求める姿勢は。
選手にはまず、その活動を保証してあげると言うのが大事です。これは生活を保証すると言うことではありません。レース活動が出来ると言う保証。もちろん活動期間中、生活の一部を保証してあげられればより良いですが、生活の全てを保証してあげる必要は全くありません。
その中で選手は、たとえばナショナルチームで海外遠征に行き、ラヴニールに出たとします。そこで「自分はこうなりたい、ツールに出たい」と思う事。そしてそう思った時、そこに挑戦する覚悟があるかどうかが重要です。
「ツールに出る」と言うのは極端ですけども、自転車はやっばりツールに出ることが究極なんです。世界一のレースですから。今回ラヴニールに出たコロンビアやフランスの選手達も機材については細かい事を言います。タイヤがどうとかホイールがどうだとか。でも生活を今いるチームに保証してほしいと思っている選手は、ここ(ラブニール)に来ていません。「ツール・ド・フランスに出るため、プロに上がりたい」と言う事が動機になっている。そこは日本の若手も変わらない。
もちろんプロチームに入ったら給料がもらえると言う前提がないとダメですけれど、自転車のプロは、安いとは言え給料としては立派です。チームスカイに入ったら月30万円かと言ったらそうではありません。プロであれば、それなりの生活に対する保証があり、仕組みもしっかりしています。ですので、まずはプロになりたいとどうやって思わせるかです。そういう面でツール・ド・フランスは動機づけとして確かにインパクトがあります。
また、そういった動機づけが出来たとして、それと同時に集めた選手をどの時期にどういう育成をしていくか。今は指導者や指導方法を確立していくべきタイミングでもあります。これはいきなり全体では出来ませんので、狭い範囲でも構わないから、どこかがモデル、システムを作らないといけません。その見本は世界にたくさんありますが、日本とヨーロッパでは環境も違うし、取り組み方も違う。逆に日本でないと出来ない事もあります。まずはその成功例を作るしかありません。
――日本にしか出来ないシステム、有利なところはどういった点ですか。
自転車であれば競技場(ヴェロドローム=競輪場)がたくさんある事です。一般的に安全確保された練習場所は少ないわけですが、日本には全国に多くの競輪場があって、それがもっとトレーニングに使えるようになれば大きなメリットになります。
日本はこれに加えて、山が豊富です。つまり山の練習と言うのはヨーロッパに行かなくても出来るわけです。でも子供の頃から山の練習が必要かと言ったらそうではないので、同じくそれをどのタイミングで、強化をどれくらいしたらいいのか、というのを理論立てて、しっかりした方針のもとにやっていかねばなりません。
ではそれを誰がやるか、予算はどうするか。ロードレースの場合はプライベートでやっていくしかない。ただ、代表チームは、国の代表で国に近いところにあるので、その立場から利用可能な所の協力を得てやっていく必要があります。競技の枠を超えて協力してもらえる所や、選手など。
――選手として今後どんな人材が求められますか。
簡単に言ってしまえば素材が良い、見込みがある選手です。ヨーロッパには今までも日本人選手がたくさん行っています。しかし大半がモノになっていないわけです。だからこそ特別な人材を連れて行かないといけません。
競技経験者であれば、日本チャンピオンクラスで、ジュニアの国際レースでも入賞経験があるとか。そうでなければ経験が浅い選手。たとえば21歳で競技を5〜6年やっていて鳴かず飛ばずなら可能性はほぼありません。しかし競技を始めて2年未満で、ある一定のレベルに達しているのであれば、可能性があります。そういう選手を増やした方が良いです。
今の日本は、毎年プロ選手が出ない状況です。従来の日本の育成システムにおいて、ユキヤやフミ(新城幸也、別府史之)は、突然変異のような存在と言えます。ヨーロッパの環境を頼りに活動した選手の中で、彼らは実力が認められてプロになったわけですが、下の世代が続いてはいません。
もし彼らの後に日本人のプロ選手達が次々と生まれていれば、そのやり方が評価されて良いはずですが、続いていないと言うことは、システムとしてはそれが最適ではないと言うことです。変えていく必要があります。
――先程、指導者や指導方法についても触れていました。育成・強化と言ったシステムの中で果たす役割は大きいと思いますが、この点については今どういった状況で、やるべき事は何でしょうか
指導者は数自体が全く少ないです。選手上がりすぐにでも良いので、若いコーチを増やしていかねばなりません。経験の有無に関わらず、自分が勉強してきた事を選手に反映させられるような人が増えてほしいと願っています。
しかし、この若いコーチがいない理由も根底には「お前コーチになれ」と言っても給料が払えない、と言う状況があります。
本来『選手をサポートすること=指導者を作ること』でもあるんです。選手達にお金や物を与えたりするのも良いのですが、彼らにとっては良い指導者に見てもらえた方が、ひと握りのお金の100倍も200倍も有益です。お金の使い方も考えないといけません。
もっと言えば『コーチを増やそうと思う人』も増やさないといけません。指導者の少なさに危機感を感じている人です。実業団でも指導者を増やすための活動をしていますが、そういう事を今後義務づけていくと言うことも一つ(大事)。「クラブチームにも必ずこういう人が必要なんだ」としていくような。そうして教えたい人が増えて、選手の力を伸ばして、将来ああなりたい、と言う選手が増えて…と言う循環が生まれれば、全体の底上げにも繋がります。
――時間が少なくなってきましたので話題を少し戻しますが、こうした日本ロードレース界の中で、ツール・ド・ラヴニールとはどういった位置付けのレースと言えますか。
世界のトップレースであるツール・ド・フランスとは違い、ツール・ド・ラヴニールはU23の選手達にとって非常に現実的なレースで、いわば就職の最終試験みたいなものです。見せる事も考えていませんし、生々しく、泥臭いレースです。
実際に、これまでは日本の若い選手がどうしたらプロになれるかというプロセスが明確ではなかった。しかしラヴニールのおかげで、日本の若い選手達が現実的にプロへのアプローチを考えられるようになったと思います。
もちろんラヴニールはプロへの近道ではありません。事前にどういう過程を経ようが、そこで活躍が認められればプロになれますが、翻ってスポンサーやお金を積んだところで実力がなければ上には行けない。ステップ・バイ・ステップで強くなりプロへ、と言う道筋の上にあるのがツール・ド・ラヴニールです。
欧州のメディアからは日本人が珍しく思われなくなってきて、日本人であることが武器にならなくなっていると言われています。これは日本人もようやく実力主義の世界の中で見られるようになったと言えますが、まだまだ欧州ではオマケのような存在です。
ネイションズポイントにしても、今回アジア選手権についているポイントが含まれていたので、ラヴニールに出られたと言うのがあります。ヨーロッパのポイントだけでは残れなかった。それでも今回それ(ヨーロッパでのポイント)が穫れたのは意味があることです。
今後プロ契約に繋げられる選手が、最初は2〜3年に1度かもしれませんけれど、それが1年に2、3人ずつ出せるようになるとか、段階的にそういった形が作られていく事が理想です。
――最後にノルウェーでの世界選手権ロードレースに向けて、展望をお聞かせください。
「ツール・ド・ラヴニール」で選手たちはそれぞれ自分の力を世界の秤にかけられ、最終第9ステージゴールまでの3日間くらいは、自分なりの自身への評価と自問自答を繰り返していた事だろうと思います。しかし、世界選手権準備レースとしてスペインに行き、毎年参加しているステージレース「ボルタ・カンタブリア」と「ボルタ・バレンシア」を走り始めた時には、自分たちに起こっている成長という変化に気づいたはずです。
そして「ツール・ド・ラヴニール」では動かなくなる太ももに鞭を打って、最後は意地でギリギリ完走を果たし一時帰国した岡本隼。彼も「ツール・ド・北海道」では自分の変化に気づいた事でしょう。昨年とは違う手応えを感じ、周囲からは目に見える成長が顕著に伺えました。
そして、2年ぶりに出場権を得た世界選手権ロードU23では、5名のメンバーがスタートに並びます。世界選手権がそんなに甘くない事は良くわかっていますが、少しでも当面の目標であり、エリートへの発射台となる同カテゴリー10位入賞に近づけるよう、全力を尽くしたいと思います。
――ありがとうございました。
photo: Cyclisme Japon
text & edit: Yuichiro Hosoda
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