2017/07/21(金) - 14:21
独特な景観が広がるイゾアール峠で繰り広げられた大会最後の山岳バトル。バルギルが山岳王としての威厳を示し、バルデのアタックに観客が沸き、アルの失速にイタリア人は肩を落とした。ツール第18ステージを振り返ります。
タグホイヤーCEOからスイス選手権TT優勝記念時計をプレゼントされるシュテファン・キュング(スイス、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji / TDWsport
マイヨジョーヌを追うミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)ら4賞ジャージが先頭に並ぶ photo:Kei Tsuji / TDWsport
ワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)のマイヨアポワ photo:Kei Tsuji / TDWsport
暑さ対策に保冷ボトルを使用するチームスカイ photo:Kei Tsuji / TDWsport
ツールの中で最もアイコニックな(象徴的な)登りと言われるイゾアール峠。岩肌が露出した独特の景観が広がる「カスデゼルト」は圧巻で、どこからどう撮っても絵になる。今大会最後の山場だが、「カスデゼルト」は下り区間を含むため残り1.5〜2.5kmは観客の侵入が禁止された。主催者は選手の安全を確保するためと説明するが、実際はフォトグラファーに良い景色を撮らせるための措置であるようにも思う。
イゾアール峠はこれまでツールには34回登場しているが、山頂フィニッシュを迎えるのは今回が初めて。山頂付近のスペースが限られていることがその要因の一つで、フィニッシュエリアには表彰台や実況ブースがコンパクトに置かれただけ。チームバスの駐車場は10km下山した地点で、プレスセンターなどのレース拠点はさらに下ったブリアンソンの街に設置された。
イゾアール峠に集まった観客の半分以上がイタリア人なんじゃないかと思うほどイタリア人率が高い。それもそのはずイゾアール峠の登り口までイタリア国境から30分もかからない。彼らのお目当はもちろんファビオ・アル(イタリア、アスタナ)だが、スマートフォンでライブストリーミングを見ていた観客たちはイタリアチャンピオンの失速にため息をついた。
大会最終週にかけてツールには遥々サルデーニャ島から駆けつけたアルの家族が帯同中。アルの父親アレッサンドロさんは膝の怪我から復帰して今の状態に至るまでの息子の奮闘に感銘を受けたという。総合争いから脱落しつつあることを悔しがっていたが、できるだけのことをやればいいんだという親心も。そのアルは気管支炎が原因でコンディションを落としており、総合順位は5位にダウンした。アルは2018年に向けて移籍が噂される選手の一人だ。
ちなみに山頂に集まったサイクリストたちが下山可能なのは大会関係車両が全て下山してから。サイクリストたちを閉じ込めるフランス警察に向けてイタリア語のブーイング大合唱が始まった。やがて強行突破するサイクリストが現れ始め、制止もきかずになし崩し的に下山が始まる。ハンドリングがおぼつかないサイクリストたちがチームバスやチームカー、大会関係車両と混じって下山することになり、おかげで麓のブリアンソンまで大渋滞。選手たちのホテル到着が遅れる要因になった。
イゾアール峠 photo:Kei Tsuji / TDWsport
イゾアール峠の風になびくサルデーニャの旗 photo:Kei Tsuji / TDWsport
リッチー2018 photo:Kei Tsuji / TDWsport
イゾアール峠のモニュメントに献花するベルナール・テヴネ氏 photo:Kei Tsuji / TDWsport
先頭でイゾアール峠を目指すダルウィン・アタプマ(コロンビア、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
先頭アタプマを追うワレン・バルギル(フランス、サンウェブ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
イゾアール峠の「カスデゼルト」に差し掛かる選手たち photo:Kei Tsuji / TDWsport
サンウェブの勢いが止まらない。25歳のワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)と26歳のマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)がそれぞれステージ2勝ずつを飾り、マイヨアポワとマイヨヴェールを獲得している。
第18ステージの中盤に早くも最終的な山岳賞獲得を確定させたバルギルは、マイヨアポワに飽き足らず、総合順位を一つでも上げるためにアタック。その結果、総合9位へのジャンプアップを達成するとともに、イゾアールの美しい勝利がついてきた。もうすでに逆転不可能なポイント差がついているため、リタイアしない限りバルギルはパリでマイヨアポワを受け取る。
バルギルはイゾアール峠(全長14.1km/平均7.3%)を38分02秒で登りきった。平均スピードは22.3km/hで、VAM(平均登坂速度)は1530m。残り5kmに限定すると13分51秒(平均21.5km/h)。バルギルは残り5kmの時点ですでに先行していたため、STRAVAにアップされたデータによると、ステージ3位のロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)のほうが2秒早い13分49秒(平均21.6km/h)をマークしている。
そしてSTRAVAのKOMランキングでバルギルとバルデに次ぐタイムを出したのが、午前中に行われたラ・コルス・バイ・ル・ツール・ド・フランス優勝者のアンネミエク・ヴァンヴルーテン(オランダ、オリカ・スコット)。3週間を走った選手とフレッシュな選手を比べるのは酷だが、15分34秒(平均19.2km/h)というヴァンヴルーテンのタイムは、例えば総合11位ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、BMCレーシング)よりも速い。
イゾアール峠の「カスデゼルト」を走るクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、BMCレーシング)のために隊列を組むBMCレーシング photo:Kei Tsuji / TDWsport
イゾアール峠を登るティエシー・ブノート(ベルギー、ロット・ソウダル)ら photo:Kei Tsuji / TDWsport
イゾアール峠の「カスデゼルト」を通過するグルペット photo:Kei Tsuji / TDWsport
グルペットでイゾアール峠を登る選手たちの表情には、最後の山場を乗り越えた達成感が見て取れた。フォトグラファーを見つけてはピースする選手が続出。目の前に広がる「カスデゼルト」の景色を見て「月に着いたぞー!」と笑いながらイゾアール峠の頂上を目指した。ただ、4名でグルペット最終便を形成したコフィディスのブアニ、シモン、ルモワンヌ、ラポルトの中にはピースも笑いもなかった。
クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)がバルデに対して23秒のリードで23kmの個人タイムトライアルに挑む。単純計算で仮にフルームがバルデから1kmにつき1秒失えば総合タイムは並ぶ。よほどの不調に見舞われない限りフルームがタイムを失うことは考えにくいが、メカトラ一つで十分に逆転が起こるタイム差だ。
ちなみに大会初日の14km個人タイムトライアルでフルームはバルデから39秒奪っている。フルームが最も警戒する29秒差のウランは51秒遅れだった。逆に言うと、バルデとウランは第2ステージから第18ステージまでをフルームより短い時間で走っていることになる。つまりフルームは初日にためた貯金を崩しながら今に至る。
ツールはアルプスに別れを告げ、最終決戦地マルセイユに向かって南下する。翌日は今大会最長の222.5kmコース。マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)のいないチャンスを狙って他のスプリンターチームが徹底的にレースをコントロールすると思われるが、逃げ切り勝利を狙うアタッカーにとってのラストチャンスでもある(まだステージ優勝を手にしていないのは11チーム)。
南から強めの風が吹く予報が出ている。またマイヨジョーヌチームが動くかもしれない。
さりげなくピースする新城幸也(バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
イゾアール峠の下り区間でピースサインするマークス・ブルグハート(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
イゾアール峠の「カスデゼルト」に差し掛かるグルペット photo:Kei Tsuji / TDWsport
text&photo:Kei Tsuji in Briancon, France
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ツールの中で最もアイコニックな(象徴的な)登りと言われるイゾアール峠。岩肌が露出した独特の景観が広がる「カスデゼルト」は圧巻で、どこからどう撮っても絵になる。今大会最後の山場だが、「カスデゼルト」は下り区間を含むため残り1.5〜2.5kmは観客の侵入が禁止された。主催者は選手の安全を確保するためと説明するが、実際はフォトグラファーに良い景色を撮らせるための措置であるようにも思う。
イゾアール峠はこれまでツールには34回登場しているが、山頂フィニッシュを迎えるのは今回が初めて。山頂付近のスペースが限られていることがその要因の一つで、フィニッシュエリアには表彰台や実況ブースがコンパクトに置かれただけ。チームバスの駐車場は10km下山した地点で、プレスセンターなどのレース拠点はさらに下ったブリアンソンの街に設置された。
イゾアール峠に集まった観客の半分以上がイタリア人なんじゃないかと思うほどイタリア人率が高い。それもそのはずイゾアール峠の登り口までイタリア国境から30分もかからない。彼らのお目当はもちろんファビオ・アル(イタリア、アスタナ)だが、スマートフォンでライブストリーミングを見ていた観客たちはイタリアチャンピオンの失速にため息をついた。
大会最終週にかけてツールには遥々サルデーニャ島から駆けつけたアルの家族が帯同中。アルの父親アレッサンドロさんは膝の怪我から復帰して今の状態に至るまでの息子の奮闘に感銘を受けたという。総合争いから脱落しつつあることを悔しがっていたが、できるだけのことをやればいいんだという親心も。そのアルは気管支炎が原因でコンディションを落としており、総合順位は5位にダウンした。アルは2018年に向けて移籍が噂される選手の一人だ。
ちなみに山頂に集まったサイクリストたちが下山可能なのは大会関係車両が全て下山してから。サイクリストたちを閉じ込めるフランス警察に向けてイタリア語のブーイング大合唱が始まった。やがて強行突破するサイクリストが現れ始め、制止もきかずになし崩し的に下山が始まる。ハンドリングがおぼつかないサイクリストたちがチームバスやチームカー、大会関係車両と混じって下山することになり、おかげで麓のブリアンソンまで大渋滞。選手たちのホテル到着が遅れる要因になった。
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第18ステージの中盤に早くも最終的な山岳賞獲得を確定させたバルギルは、マイヨアポワに飽き足らず、総合順位を一つでも上げるためにアタック。その結果、総合9位へのジャンプアップを達成するとともに、イゾアールの美しい勝利がついてきた。もうすでに逆転不可能なポイント差がついているため、リタイアしない限りバルギルはパリでマイヨアポワを受け取る。
バルギルはイゾアール峠(全長14.1km/平均7.3%)を38分02秒で登りきった。平均スピードは22.3km/hで、VAM(平均登坂速度)は1530m。残り5kmに限定すると13分51秒(平均21.5km/h)。バルギルは残り5kmの時点ですでに先行していたため、STRAVAにアップされたデータによると、ステージ3位のロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)のほうが2秒早い13分49秒(平均21.6km/h)をマークしている。
そしてSTRAVAのKOMランキングでバルギルとバルデに次ぐタイムを出したのが、午前中に行われたラ・コルス・バイ・ル・ツール・ド・フランス優勝者のアンネミエク・ヴァンヴルーテン(オランダ、オリカ・スコット)。3週間を走った選手とフレッシュな選手を比べるのは酷だが、15分34秒(平均19.2km/h)というヴァンヴルーテンのタイムは、例えば総合11位ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、BMCレーシング)よりも速い。
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グルペットでイゾアール峠を登る選手たちの表情には、最後の山場を乗り越えた達成感が見て取れた。フォトグラファーを見つけてはピースする選手が続出。目の前に広がる「カスデゼルト」の景色を見て「月に着いたぞー!」と笑いながらイゾアール峠の頂上を目指した。ただ、4名でグルペット最終便を形成したコフィディスのブアニ、シモン、ルモワンヌ、ラポルトの中にはピースも笑いもなかった。
クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)がバルデに対して23秒のリードで23kmの個人タイムトライアルに挑む。単純計算で仮にフルームがバルデから1kmにつき1秒失えば総合タイムは並ぶ。よほどの不調に見舞われない限りフルームがタイムを失うことは考えにくいが、メカトラ一つで十分に逆転が起こるタイム差だ。
ちなみに大会初日の14km個人タイムトライアルでフルームはバルデから39秒奪っている。フルームが最も警戒する29秒差のウランは51秒遅れだった。逆に言うと、バルデとウランは第2ステージから第18ステージまでをフルームより短い時間で走っていることになる。つまりフルームは初日にためた貯金を崩しながら今に至る。
ツールはアルプスに別れを告げ、最終決戦地マルセイユに向かって南下する。翌日は今大会最長の222.5kmコース。マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)のいないチャンスを狙って他のスプリンターチームが徹底的にレースをコントロールすると思われるが、逃げ切り勝利を狙うアタッカーにとってのラストチャンスでもある(まだステージ優勝を手にしていないのは11チーム)。
南から強めの風が吹く予報が出ている。またマイヨジョーヌチームが動くかもしれない。
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text&photo:Kei Tsuji in Briancon, France
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