2017/07/20(木) - 19:08
過酷なツールを生き抜く上で欠かせないのが、質の良い食事を摂ること。今回は選手たちの胃袋を支える、ディレクトエネルジーのレストラン併設キッチントラックを取材しました。
フランスの5つの山脈がコースに組み込まれた今年のツール・ド・フランス。総走行距離は3540kmにおよびます。第17ステージのラ・ミュール〜セール=シュヴァリエでも、マイヨヴェールを守ってきたマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)がリアイア。ツール・ド・フランスは、出場するのも難しいが完走するのも難しい、ということを改めて実感させられます。
このように世界一過酷なツール・ド・フランスでもっとも重要になるのが日々の体調管理。力の源となる「食事」も大きな位置を占めます。コースや天候、疲れ具合、選手の体調などさまざまな状況を考慮して食事を管理していると言います。チームはホテルに泊まるものの、各チームに専属シェフがつき、チームによってはキッチントラックまでも帯同しています。2015年は、キャノンデールのキッチントラックを取材しましたが、今年はディレクトエネルジーのカミヨンレストラン(キッチントラック)を見せてもらうチャンスをいただきました!
ディレクトエネルジーと言えばフランス国籍のチームであり、かつて新城幸也選手(バーレーン・メリダ)が所属していたところ(当時ユーロップカー)。今回の取材では新城選手のパートナーであり、フォトグラファーでもある飯島美和さんがご一緒してくださいました。
この日はディレクトエネルジーの宿泊するホテルの駐車場で、関係者や家族用のパーティが行われていました。笑顔と楽しそうな会話が飛び交い、和気あいあいとリラックスした雰囲気。地元フランスチームであり、ライダーもスタッフもほとんどフランス人というディレクトエネルジーは、関係者全員を「家族」と思っているのだそう。かつて(ユーロップカー時代)、新城選手と一緒に選手のために提供された寮(と言っても古いシャトー)で暮らし、チーム広報を務めていた美和さんにも「ミワ〜!元気〜?」とさまざまなところから声がかけられます。その光景はほんとうに家族。新城選手も美和さんも、チームとすごく良い関係が築かれていたんだな〜と伺えます。
パーティをしている間、実はこのカミヨンレストランの中では選手たちが食事をしていました。キッチントラックを持つチームはいくつかありますが、「レストラン」が中に併設され、その場で食事ができるのはディレクトエネルジーだけ。
このカミヨンレストランは、食品の小売りやケータリングを行う「フルーリー・ミション」のスポンサーによるもので、フルーリー・ミションとはフランスを代表する総合食品会社で、売上高約800億円にのぼります。主要アイテムはデリカテッセン、ハム、ソーセージなどのミート商品、パテ、練り製品、サラダなど各種調理済み食品で、フランスのスーパーでフルーリー・ミションのマークを見ないことはありません。そんなフルーリー・ミションの提供によるものですから力を入れないはずがないのです。
案内してくださったのはシェフのクリストフ・パジョーさん。トラックの階段をあがるとそこはキッチン。中はシルバーで統一され、整理整頓されています。シンク脇のミントも清涼感があり清潔感が漂います。ガス台、マイクロウェーブオーブン、冷蔵庫、コーヒーメーカー、エスプレッソマシン、二台のジューサーなどなど。ナイフやレードルなどの道具もきちんとそろえられ、とても使いやすそう。
そして奥にはレストラン。テーブルに椅子が並べられ、数は9つ。フルーリー・ミションのカラーとコーディネートされた、グリーンの椅子が並べられ、明るい雰囲気。シリアルが数種類テーブルの上に置かれ、翌日の朝食用にカップ&ソーサ—も並べられていました。テーブル棚に置かれたのはフルーツバスケットで、いつでもビタミン補給ができます。壁にはテレビが備え付けられ、窓は中から外は見えるけど、外から中は見えない特殊な窓。ここがトラックの中であることを忘れてしまいそうです。選手のみがここで食事をし、スタッフは一切ここでは食べないし、作ることもないと言います。過酷な環境にさらされている選手たちは感染症などに対する免疫も落ちるので、衛生面には非常に気が遣われているのです。
さてさて、選手たちはどんなものを食べているのでしょうか?クリストフさんに聞いてみました。
「明日の朝食はオムレツです。それにヨーグルト、パン、シリアル、ハム、チーズ、ジャム、コーヒー、紅茶。野菜と果物ジュースも。朝食はシンプルですがしっかり食べないと走れませんよね。明日はオムレツですがメインメニューは毎日変えています」
そのメニューは、ツールがはじまる前から、チーム専属ドクターとコース図を見ながら検討され、決められているそうです。キッチンの壁にはメニュー表が貼られていました。チキンの時もあればビーフステーキの時もあり、また「巻きずし」の日も。「MAKI」とよばれていて人気メニューなんだそうです。その巻き寿司の作り方、お寿司の握り方など、和食はなんと美和さんが教えに出向いたそう!クリストフさんからも「センセイです」と言われていました。
移動がつきもののツール・ド・フランス。このカミヨンレストランもツール中全日程(パリを除く)ホテルからホテルへ直行し、食材の買い出しは毎日。移動途中や到着地近くの「インターマルシェ」や「カルフール」等で行い、野菜、果物、お肉、お魚等、毎日新鮮なものを準備。万全の体制で選手を待っているようです。
それに体調管理の上では、特別なドリンクを手渡しているチームもあるんです。例えばバーレーン・メリダでは生姜入りのかなり辛いジュースがありました(市販品でしたが)し、キャノンデール・ドラパックでも似たような生姜ジュースが飲まれているとのこと。はたまた一昨日にはオリカ・スコットとボーラ・ハンスグローエ、そしてBMCレーシングが合同でラムの丸焼きを食べていたようですし、食に対する各チームのこだわりに興味は尽きません。
text&photo:Seiko.Meguro
筆者プロフィール:目黒 誠子(めぐろせいこ)
2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。2014年よりツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当していた。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。ライター、自転車とまちづくり・クリーン工房アドバイザー、ジャパン・マルベロ・フォーラム代表。
https://www.facebook.com/maruvelo/
フランスの5つの山脈がコースに組み込まれた今年のツール・ド・フランス。総走行距離は3540kmにおよびます。第17ステージのラ・ミュール〜セール=シュヴァリエでも、マイヨヴェールを守ってきたマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)がリアイア。ツール・ド・フランスは、出場するのも難しいが完走するのも難しい、ということを改めて実感させられます。
このように世界一過酷なツール・ド・フランスでもっとも重要になるのが日々の体調管理。力の源となる「食事」も大きな位置を占めます。コースや天候、疲れ具合、選手の体調などさまざまな状況を考慮して食事を管理していると言います。チームはホテルに泊まるものの、各チームに専属シェフがつき、チームによってはキッチントラックまでも帯同しています。2015年は、キャノンデールのキッチントラックを取材しましたが、今年はディレクトエネルジーのカミヨンレストラン(キッチントラック)を見せてもらうチャンスをいただきました!
ディレクトエネルジーと言えばフランス国籍のチームであり、かつて新城幸也選手(バーレーン・メリダ)が所属していたところ(当時ユーロップカー)。今回の取材では新城選手のパートナーであり、フォトグラファーでもある飯島美和さんがご一緒してくださいました。
この日はディレクトエネルジーの宿泊するホテルの駐車場で、関係者や家族用のパーティが行われていました。笑顔と楽しそうな会話が飛び交い、和気あいあいとリラックスした雰囲気。地元フランスチームであり、ライダーもスタッフもほとんどフランス人というディレクトエネルジーは、関係者全員を「家族」と思っているのだそう。かつて(ユーロップカー時代)、新城選手と一緒に選手のために提供された寮(と言っても古いシャトー)で暮らし、チーム広報を務めていた美和さんにも「ミワ〜!元気〜?」とさまざまなところから声がかけられます。その光景はほんとうに家族。新城選手も美和さんも、チームとすごく良い関係が築かれていたんだな〜と伺えます。
パーティをしている間、実はこのカミヨンレストランの中では選手たちが食事をしていました。キッチントラックを持つチームはいくつかありますが、「レストラン」が中に併設され、その場で食事ができるのはディレクトエネルジーだけ。
このカミヨンレストランは、食品の小売りやケータリングを行う「フルーリー・ミション」のスポンサーによるもので、フルーリー・ミションとはフランスを代表する総合食品会社で、売上高約800億円にのぼります。主要アイテムはデリカテッセン、ハム、ソーセージなどのミート商品、パテ、練り製品、サラダなど各種調理済み食品で、フランスのスーパーでフルーリー・ミションのマークを見ないことはありません。そんなフルーリー・ミションの提供によるものですから力を入れないはずがないのです。
案内してくださったのはシェフのクリストフ・パジョーさん。トラックの階段をあがるとそこはキッチン。中はシルバーで統一され、整理整頓されています。シンク脇のミントも清涼感があり清潔感が漂います。ガス台、マイクロウェーブオーブン、冷蔵庫、コーヒーメーカー、エスプレッソマシン、二台のジューサーなどなど。ナイフやレードルなどの道具もきちんとそろえられ、とても使いやすそう。
そして奥にはレストラン。テーブルに椅子が並べられ、数は9つ。フルーリー・ミションのカラーとコーディネートされた、グリーンの椅子が並べられ、明るい雰囲気。シリアルが数種類テーブルの上に置かれ、翌日の朝食用にカップ&ソーサ—も並べられていました。テーブル棚に置かれたのはフルーツバスケットで、いつでもビタミン補給ができます。壁にはテレビが備え付けられ、窓は中から外は見えるけど、外から中は見えない特殊な窓。ここがトラックの中であることを忘れてしまいそうです。選手のみがここで食事をし、スタッフは一切ここでは食べないし、作ることもないと言います。過酷な環境にさらされている選手たちは感染症などに対する免疫も落ちるので、衛生面には非常に気が遣われているのです。
さてさて、選手たちはどんなものを食べているのでしょうか?クリストフさんに聞いてみました。
「明日の朝食はオムレツです。それにヨーグルト、パン、シリアル、ハム、チーズ、ジャム、コーヒー、紅茶。野菜と果物ジュースも。朝食はシンプルですがしっかり食べないと走れませんよね。明日はオムレツですがメインメニューは毎日変えています」
そのメニューは、ツールがはじまる前から、チーム専属ドクターとコース図を見ながら検討され、決められているそうです。キッチンの壁にはメニュー表が貼られていました。チキンの時もあればビーフステーキの時もあり、また「巻きずし」の日も。「MAKI」とよばれていて人気メニューなんだそうです。その巻き寿司の作り方、お寿司の握り方など、和食はなんと美和さんが教えに出向いたそう!クリストフさんからも「センセイです」と言われていました。
移動がつきもののツール・ド・フランス。このカミヨンレストランもツール中全日程(パリを除く)ホテルからホテルへ直行し、食材の買い出しは毎日。移動途中や到着地近くの「インターマルシェ」や「カルフール」等で行い、野菜、果物、お肉、お魚等、毎日新鮮なものを準備。万全の体制で選手を待っているようです。
それに体調管理の上では、特別なドリンクを手渡しているチームもあるんです。例えばバーレーン・メリダでは生姜入りのかなり辛いジュースがありました(市販品でしたが)し、キャノンデール・ドラパックでも似たような生姜ジュースが飲まれているとのこと。はたまた一昨日にはオリカ・スコットとボーラ・ハンスグローエ、そしてBMCレーシングが合同でラムの丸焼きを食べていたようですし、食に対する各チームのこだわりに興味は尽きません。
text&photo:Seiko.Meguro
筆者プロフィール:目黒 誠子(めぐろせいこ)
2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。2014年よりツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当していた。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。ライター、自転車とまちづくり・クリーン工房アドバイザー、ジャパン・マルベロ・フォーラム代表。
https://www.facebook.com/maruvelo/
Amazon.co.jp