2017/07/19(水) - 16:03
横風注意報が出ていても、風向きが変わって危険度が上がると分かっていても、集団が分裂するときは分裂する。総合系選手とスプリンターたちの間にチーム力の差が出た横風ステージ。総合トップ4が変わらず29秒差のままツールはアルプス山脈の入り口に到着した。
第16ステージとあまり関係ない話から書き始めることをお許しください。2007年7月17日、つまり2017年大会がル・ピュイ=アン=ヴレで迎えた最後の休息日の10年前に、マークス・ブルグハート(ドイツ)がラブラドールレトリーバーと衝突して落車した。当時ドイツのTモバイルに所属し、ロジャースとカヴェンディッシュ、アイゼル、ゲルデマン、グラブシュ、キルシェン、メルクス、ジンケヴィッツとともにツールに初出場した24歳は、10年の時を経て、ドイツのボーラ・ハンスグローエに所属。あの衝撃的なワンワン落車から10年。ブルグハートはこの日、レース序盤のアタックに加わって先頭を走った。
ツール期間中、レースの裏では2018年シーズンに向けてエージェントが忙しく走り回っている。選手の移籍交渉だけではなく、チームが来シーズンに向けてスポンサー契約を結べるかどうかの攻防も同時に進行。例えば、クイックステップフロアーズは来シーズンに向けてのスポンサー契約に苦戦していると伝えられており、ビッグネームを放出するのではないかというのがもっぱらの噂。胃腸炎で第16ステージを欠場したフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)はチームと契約を延長したという報道もあるが、正式な発表はUCIの規定により8月1日以降に行われる。
また、2010年ジロ・デ・イタリア第5ステージで新城幸也(当時Bboxブイグテレコム)と一緒に逃げ切ってステージ優勝を飾ったジェローム・ピノー(フランス)は2018年にUCIプロコンチネンタルチームを立ち上げるとされている。2015年シーズンを最後に現役を引退した37歳のチームにはブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー)が加入するとの噂だ。
スペインのガリシア地方へと続くサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路の起点であるル・ピュイ=アン=ヴレのスタート地点は様々なデコレーションが施され、他の町よりもツール歓迎ムードが大きめ。スタート直後に3級山岳の登りが始まることと、強目の風が一日中吹くとの予報が出ていたため、どの選手もナーバスな表情で出走サインを早めに済ませ、チームバスに戻ってせっせとローラー台でアップした。
そして、予想通り、レースはサンウェブによる集団ペースアップによってコースプロフィール以上に厳しい展開となった。逃げという逃げが生まれないままレースは進行。強烈な日差しを避けるために観客が立てていた日傘が飛ぶほどの風に選手たちは4時間近くにわたって晒された。ディメンションデータ社の解析によると集団牽引を担ったのはサンウェブが61.1%で、ディメンションデータが13.5%。
新城幸也(バーレーン・メリダ)は「(登りと平地だけでなく)風が吹き付ける下りが怖かった。身体を傾けてバランスを取っていても、風に煽られた他の選手が反対側からぶつかってくるので本当に危なかった」と肝を冷やした様子で語っている。そして、終盤の横風分断によってソニー・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ)と一緒に先頭に残れず絶好のチャンスを逃したことを心底悔しがっていた。
選手たちのSTRAVAログを確認すると、残り17kmを切ってから始まったチームスカイのペースアップによってメイン集団は一時的に73km/hという猛烈なスピードで進行している。その後、斜め前からの風に変わったため50km/h弱までスピードが落ちたが、残り9kmで進路を北にとって追い風になるとメイン集団は常時60km/hオーバー。息つく間もなくスプリントが始まった。
マイヨヴェール獲得に向けて波に乗るマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)が少しフェンス側に寄せたため、進路をふさがれたとしてジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)が抗議のアピールしながらフィニッシュラインを切った。その後、怒りを抑えきれないデゲンコルブに首根っこを掴まれたとマシューズは証言している。第16ステージ終了時にペナルティは発表されなかったが、暴力行為としてデゲンコルブは翌日にペナルティを受ける可能性がある。
この日だけで合計50ポイントを獲得したマシューズは344ポイントまでポイントを伸ばし、373ポイントのキッテルまで29ポイント差に迫った。仮に第16ステージが平坦ステージとして扱われていれば、マシューズは合計70ポイント獲得で9ポイント差にまで迫っているところだった。
ではマシューズがマイヨヴェールを獲得するにはどうすればよいのか。残るステージはアルプスを走る険しい第17ステージと第18ステージ、平坦な第19ステージ、個人TTの第20ステージ、そしてパリのシャンゼリゼにフィニッシュする第21ステージの5日間。第17ステージは2級山岳を越えた先に20ポイント獲得可能なスプリントポイントが設定されており、おそらくキッテルは脱落するがマシューズは残る。第18ステージは3級山岳通過後にスプリントポイントが登場し、ここでもマシューズは20ポイント獲得が可能。つまりアルプスの2ステージに設定されたスプリントポイントでポイント賞のトップが入れ替わることは十分に考えられる。
しかし第19ステージは再びキッテル有利な平坦コースで、しかもステージ優勝者には50ポイントが与えられる。最終日のパリ第21ステージもキッテル向き。つまりマシューズがスプリントポイントでポイントを重ねても、キッテルが最終的にひっくり返してしまう可能性が大きい。それはマシューズも認めるところで「間違いなく平坦ステージで最も速いのはキッテルであり、大集団のスプリントでは彼に太刀打ちできない。だから彼が絡めないようなシチュエーションでポイントを稼ぐ」という戦法で緑色のジャージを狙い続ける。チームにはマイヨアポワのワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)もいるため、サンウェブは忙しく5日間を走ることになりそうだ。
ローヌ川を渡ることはアルプス山脈の入り口に到着したことを意味する。総合トップ4は依然として29秒差。マイヨジョーヌ争いは僅差のまま山場を迎える。
text&photo:Kei Tsuji in Grenoble, France
第16ステージとあまり関係ない話から書き始めることをお許しください。2007年7月17日、つまり2017年大会がル・ピュイ=アン=ヴレで迎えた最後の休息日の10年前に、マークス・ブルグハート(ドイツ)がラブラドールレトリーバーと衝突して落車した。当時ドイツのTモバイルに所属し、ロジャースとカヴェンディッシュ、アイゼル、ゲルデマン、グラブシュ、キルシェン、メルクス、ジンケヴィッツとともにツールに初出場した24歳は、10年の時を経て、ドイツのボーラ・ハンスグローエに所属。あの衝撃的なワンワン落車から10年。ブルグハートはこの日、レース序盤のアタックに加わって先頭を走った。
ツール期間中、レースの裏では2018年シーズンに向けてエージェントが忙しく走り回っている。選手の移籍交渉だけではなく、チームが来シーズンに向けてスポンサー契約を結べるかどうかの攻防も同時に進行。例えば、クイックステップフロアーズは来シーズンに向けてのスポンサー契約に苦戦していると伝えられており、ビッグネームを放出するのではないかというのがもっぱらの噂。胃腸炎で第16ステージを欠場したフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)はチームと契約を延長したという報道もあるが、正式な発表はUCIの規定により8月1日以降に行われる。
また、2010年ジロ・デ・イタリア第5ステージで新城幸也(当時Bboxブイグテレコム)と一緒に逃げ切ってステージ優勝を飾ったジェローム・ピノー(フランス)は2018年にUCIプロコンチネンタルチームを立ち上げるとされている。2015年シーズンを最後に現役を引退した37歳のチームにはブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー)が加入するとの噂だ。
スペインのガリシア地方へと続くサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路の起点であるル・ピュイ=アン=ヴレのスタート地点は様々なデコレーションが施され、他の町よりもツール歓迎ムードが大きめ。スタート直後に3級山岳の登りが始まることと、強目の風が一日中吹くとの予報が出ていたため、どの選手もナーバスな表情で出走サインを早めに済ませ、チームバスに戻ってせっせとローラー台でアップした。
そして、予想通り、レースはサンウェブによる集団ペースアップによってコースプロフィール以上に厳しい展開となった。逃げという逃げが生まれないままレースは進行。強烈な日差しを避けるために観客が立てていた日傘が飛ぶほどの風に選手たちは4時間近くにわたって晒された。ディメンションデータ社の解析によると集団牽引を担ったのはサンウェブが61.1%で、ディメンションデータが13.5%。
新城幸也(バーレーン・メリダ)は「(登りと平地だけでなく)風が吹き付ける下りが怖かった。身体を傾けてバランスを取っていても、風に煽られた他の選手が反対側からぶつかってくるので本当に危なかった」と肝を冷やした様子で語っている。そして、終盤の横風分断によってソニー・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ)と一緒に先頭に残れず絶好のチャンスを逃したことを心底悔しがっていた。
選手たちのSTRAVAログを確認すると、残り17kmを切ってから始まったチームスカイのペースアップによってメイン集団は一時的に73km/hという猛烈なスピードで進行している。その後、斜め前からの風に変わったため50km/h弱までスピードが落ちたが、残り9kmで進路を北にとって追い風になるとメイン集団は常時60km/hオーバー。息つく間もなくスプリントが始まった。
マイヨヴェール獲得に向けて波に乗るマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)が少しフェンス側に寄せたため、進路をふさがれたとしてジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)が抗議のアピールしながらフィニッシュラインを切った。その後、怒りを抑えきれないデゲンコルブに首根っこを掴まれたとマシューズは証言している。第16ステージ終了時にペナルティは発表されなかったが、暴力行為としてデゲンコルブは翌日にペナルティを受ける可能性がある。
この日だけで合計50ポイントを獲得したマシューズは344ポイントまでポイントを伸ばし、373ポイントのキッテルまで29ポイント差に迫った。仮に第16ステージが平坦ステージとして扱われていれば、マシューズは合計70ポイント獲得で9ポイント差にまで迫っているところだった。
ではマシューズがマイヨヴェールを獲得するにはどうすればよいのか。残るステージはアルプスを走る険しい第17ステージと第18ステージ、平坦な第19ステージ、個人TTの第20ステージ、そしてパリのシャンゼリゼにフィニッシュする第21ステージの5日間。第17ステージは2級山岳を越えた先に20ポイント獲得可能なスプリントポイントが設定されており、おそらくキッテルは脱落するがマシューズは残る。第18ステージは3級山岳通過後にスプリントポイントが登場し、ここでもマシューズは20ポイント獲得が可能。つまりアルプスの2ステージに設定されたスプリントポイントでポイント賞のトップが入れ替わることは十分に考えられる。
しかし第19ステージは再びキッテル有利な平坦コースで、しかもステージ優勝者には50ポイントが与えられる。最終日のパリ第21ステージもキッテル向き。つまりマシューズがスプリントポイントでポイントを重ねても、キッテルが最終的にひっくり返してしまう可能性が大きい。それはマシューズも認めるところで「間違いなく平坦ステージで最も速いのはキッテルであり、大集団のスプリントでは彼に太刀打ちできない。だから彼が絡めないようなシチュエーションでポイントを稼ぐ」という戦法で緑色のジャージを狙い続ける。チームにはマイヨアポワのワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)もいるため、サンウェブは忙しく5日間を走ることになりそうだ。
ローヌ川を渡ることはアルプス山脈の入り口に到着したことを意味する。総合トップ4は依然として29秒差。マイヨジョーヌ争いは僅差のまま山場を迎える。
text&photo:Kei Tsuji in Grenoble, France
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