2017/05/14(日) - 15:39
ガルガーノ半島の先端に位置し、アドリア海の青に白壁が映える町ペスキチでステージ優勝の絶好のチャンスを逃したコンティ。イタリアは依然としてステージ優勝をつかめずにいる。
南イタリアの例に漏れず、プーリア州の港町モルフェッタは賑やかにジロを迎え入れた。統計によると2015年のプーリア州の失業率は23%と、イタリアの平均12%を大きく上回る。週末だからか、それとも単に時間を持て余している人が多いのか、スタート地点は観客でごった返した。レースの前後に隙あらば観客がアグレッシブにバイクを触りまくるものだからメカニックが常に目を光らせるのは見慣れた光景。別に失業率と盗難を結びつけるわけではないが、前日のレース終了後、チームバス駐車場に止めていたBMCレーシングの車載洗濯機からヴァンガーデレンとヘルマンスのジャージが盗まれるという珍しい事件が起こっている。
イタリアの景気の悪さに比例するかのように、ジロでのイタリア人選手たちの不振が続く。今大会いまだにイタリア人選手によるステージ優勝はゼロ。この状況を嘆くように、ガゼッタ紙は2ページ見開きで「イタリア勢の不振」の特集を組んだ。その中でベテランジャーナリストのパオロ・マラビーニが挙げた不振の理由は以下の通り。
1. イタリアの有力選手の欠場
イタリア人選手のUCIランキング上位10名のうち8名が欠場している。2016年にステージ2勝したウリッシや、膝を負傷しているアル、総合争いに集中するチームスカイのメンバーから外れたヴィヴィアーニ、春のクラシックシーズンに集中したコルブレッリ、そしてトレンティンやフェリーネ、モスコン、ベティオル、ブランビッラがいない。そしてニッツォーロは怪我から復帰したばかりで本調子ではない。
2. 強力な海外選手の出場
ジロの国際化に伴って過去に類を見ないほど強力な海外選手が出場している。フルームやコンタドール、バルベルデ、チャベスを除くほとんどのグランツールレーサーが揃っており、グライペルやガビリア、ユアンといったトップスプリンターも出場。
3. イタリア人選手の少なさ
ジロに出場しているイタリア人選手は43名(以前45名とお伝えしましたがルッフォニとピラッツィ欠場により2名マイナスでした)で出場者全体の約22%。これは過去最も少ない数字であり、しかもそのうち15名がマリアローザ候補の重要なアシストのため勝利を狙えず、12名がUCIプロコンチネンタルチーム所属。
4. 新興国の台頭
2003年大会でステージ優勝を飾ったのは5カ国だったが、2010年には11カ国の選手がステージ優勝を飾っている。2017年はアルバニア、エリトリア、コスタリカ、アルゼンチン、クロアチアなどの新興国を含めて32カ国の選手たちが出場。コロンビア勢の活躍も目立つ。
5. トップチームの欠如
イタリア登録のUCIワールドチーム(元UCIプロツアーチーム)の数は2005年の4チームをピークに年々減少し、2017年はついにゼロに。2002年は出場した22チームのうち12チームがイタリア人選手をエースに立てていたが、チームスポンサーもグローバリゼーションが進んでいるため、イタリア人選手がエースを担うパターンが少なくなった。UCIプロコンチネンタルチームの数も2006年の8チームをピークに減り続け、現在は4チーム。
いずれにしても2017年のジロはイタリア人選手の活躍が全くと言っていいほど目立っていない。パオロ・ベッティーニとマウリツィオ・フォンドリエストは「抜本的な改革が必要。若手の育成から見直さなければならない」と警鐘を鳴らしている。
第8ステージのフィニッシュ地点は、ビーチリゾート地として知る人ぞ知るペスキチ。前夜に泊まったアルベロベッロの宿の主人が「ペスキチはいいところで一度は訪れてみるべきだ」と唸るほどいいところらしい。アドリア海に突き出たガルガーノ半島の先端にあるためアクセスが悪く、そのために美しい自然や景観が残されている。イタリア半島はよくヒールを履いた人間の脚の形に例えられるが、ガルガーノ半島はなんというか、アキレス腱の上あたりにポコっとできたできもののような感じ。鳥の脚に例えると蹴爪(けづめ)のような。
緑の山々と青いアドリア海を見下ろす切り立った崖の上に町が点在していて、その中の一つが白壁の独特な街並みをもつペスキチ。舗装された道が半島の全体に張り巡らされているものの、どの道も狭小で起伏に富んでいる。レース到着前にフィニッシュ地点に向かうチームバスの車列は、主催者が定めた公式の迂回ルートにある細いスイッチバックで何度も何度も切り返しをする羽目にあっていた。
そんな崖の上の町ペスキチに向かう登りの鋭角コーナーで、イタリアに1勝目をもたらしたいヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAEチームエミレーツ)がペダルを地面にひっかけて転んだ。コンティの落車をかわし、そのまま先頭で踏み始めたゴルカ・イサギレ(スペイン、モビスター)がステージ優勝。スペイン人選手によるステージ優勝は107回目。なお、イタリア人選手のステージ優勝は1,245回という途方もない数字で、次いでベルギーが160回。
開幕前に物議を醸したベストダウンヒラー賞はキャンセルされたが、主催者は予定通り第8ステージの2級山岳モンテ・サンタンジェロの下り区間のタイムを計測した。その結果、ステージ優勝者イサギレがマークした平均スピード57.106km/hが最速だった。賞が取り下げられた今、別にイサギレに賞金などは用意されない。最速記録者の名前がコミュニケの端っこに小さく書かれているだけだった。
チームバスの中で髪型を整えてからノーヘルで出走サインに向かい、準備ができてからヘルメットをかぶるユンゲルスのマリアローザ姿が板についていた。この日は落車に巻き込まれたユンゲルスは膝から流血しながらマリアローザを受け取ったが、パフォーマンスには影響しない怪我だとブラマーティ監督は語っている。ガゼッタ紙に「マット・デイモンと生き別れた双子」という表現をされたユンゲルスは、2016年を含めると合計8日間マリアローザを着用している。なお、出場選手の中でユンゲルスよりマリアローザの着用日数が多いのはヴィンチェンツォ・ニーバリ(21日間)だけ。
果たしてユンゲルスは翌日の1級山岳ブロックハウス(全長13.6km/平均8.4%)でマリアローザを守れるのかどうか。「登り自体の難易度も高く、3週間の中盤に差し掛かっているタイミングであり、第4ステージのエトナ山とは全く違う戦いになる」とナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)は予想する。つまり牽制なしのアタックを暗に宣言。休息日を前に、ジロは文字通りの山場を迎える。
text&photo:Kei Tsuji in Peschici, Italy
南イタリアの例に漏れず、プーリア州の港町モルフェッタは賑やかにジロを迎え入れた。統計によると2015年のプーリア州の失業率は23%と、イタリアの平均12%を大きく上回る。週末だからか、それとも単に時間を持て余している人が多いのか、スタート地点は観客でごった返した。レースの前後に隙あらば観客がアグレッシブにバイクを触りまくるものだからメカニックが常に目を光らせるのは見慣れた光景。別に失業率と盗難を結びつけるわけではないが、前日のレース終了後、チームバス駐車場に止めていたBMCレーシングの車載洗濯機からヴァンガーデレンとヘルマンスのジャージが盗まれるという珍しい事件が起こっている。
イタリアの景気の悪さに比例するかのように、ジロでのイタリア人選手たちの不振が続く。今大会いまだにイタリア人選手によるステージ優勝はゼロ。この状況を嘆くように、ガゼッタ紙は2ページ見開きで「イタリア勢の不振」の特集を組んだ。その中でベテランジャーナリストのパオロ・マラビーニが挙げた不振の理由は以下の通り。
1. イタリアの有力選手の欠場
イタリア人選手のUCIランキング上位10名のうち8名が欠場している。2016年にステージ2勝したウリッシや、膝を負傷しているアル、総合争いに集中するチームスカイのメンバーから外れたヴィヴィアーニ、春のクラシックシーズンに集中したコルブレッリ、そしてトレンティンやフェリーネ、モスコン、ベティオル、ブランビッラがいない。そしてニッツォーロは怪我から復帰したばかりで本調子ではない。
2. 強力な海外選手の出場
ジロの国際化に伴って過去に類を見ないほど強力な海外選手が出場している。フルームやコンタドール、バルベルデ、チャベスを除くほとんどのグランツールレーサーが揃っており、グライペルやガビリア、ユアンといったトップスプリンターも出場。
3. イタリア人選手の少なさ
ジロに出場しているイタリア人選手は43名(以前45名とお伝えしましたがルッフォニとピラッツィ欠場により2名マイナスでした)で出場者全体の約22%。これは過去最も少ない数字であり、しかもそのうち15名がマリアローザ候補の重要なアシストのため勝利を狙えず、12名がUCIプロコンチネンタルチーム所属。
4. 新興国の台頭
2003年大会でステージ優勝を飾ったのは5カ国だったが、2010年には11カ国の選手がステージ優勝を飾っている。2017年はアルバニア、エリトリア、コスタリカ、アルゼンチン、クロアチアなどの新興国を含めて32カ国の選手たちが出場。コロンビア勢の活躍も目立つ。
5. トップチームの欠如
イタリア登録のUCIワールドチーム(元UCIプロツアーチーム)の数は2005年の4チームをピークに年々減少し、2017年はついにゼロに。2002年は出場した22チームのうち12チームがイタリア人選手をエースに立てていたが、チームスポンサーもグローバリゼーションが進んでいるため、イタリア人選手がエースを担うパターンが少なくなった。UCIプロコンチネンタルチームの数も2006年の8チームをピークに減り続け、現在は4チーム。
いずれにしても2017年のジロはイタリア人選手の活躍が全くと言っていいほど目立っていない。パオロ・ベッティーニとマウリツィオ・フォンドリエストは「抜本的な改革が必要。若手の育成から見直さなければならない」と警鐘を鳴らしている。
第8ステージのフィニッシュ地点は、ビーチリゾート地として知る人ぞ知るペスキチ。前夜に泊まったアルベロベッロの宿の主人が「ペスキチはいいところで一度は訪れてみるべきだ」と唸るほどいいところらしい。アドリア海に突き出たガルガーノ半島の先端にあるためアクセスが悪く、そのために美しい自然や景観が残されている。イタリア半島はよくヒールを履いた人間の脚の形に例えられるが、ガルガーノ半島はなんというか、アキレス腱の上あたりにポコっとできたできもののような感じ。鳥の脚に例えると蹴爪(けづめ)のような。
緑の山々と青いアドリア海を見下ろす切り立った崖の上に町が点在していて、その中の一つが白壁の独特な街並みをもつペスキチ。舗装された道が半島の全体に張り巡らされているものの、どの道も狭小で起伏に富んでいる。レース到着前にフィニッシュ地点に向かうチームバスの車列は、主催者が定めた公式の迂回ルートにある細いスイッチバックで何度も何度も切り返しをする羽目にあっていた。
そんな崖の上の町ペスキチに向かう登りの鋭角コーナーで、イタリアに1勝目をもたらしたいヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAEチームエミレーツ)がペダルを地面にひっかけて転んだ。コンティの落車をかわし、そのまま先頭で踏み始めたゴルカ・イサギレ(スペイン、モビスター)がステージ優勝。スペイン人選手によるステージ優勝は107回目。なお、イタリア人選手のステージ優勝は1,245回という途方もない数字で、次いでベルギーが160回。
開幕前に物議を醸したベストダウンヒラー賞はキャンセルされたが、主催者は予定通り第8ステージの2級山岳モンテ・サンタンジェロの下り区間のタイムを計測した。その結果、ステージ優勝者イサギレがマークした平均スピード57.106km/hが最速だった。賞が取り下げられた今、別にイサギレに賞金などは用意されない。最速記録者の名前がコミュニケの端っこに小さく書かれているだけだった。
チームバスの中で髪型を整えてからノーヘルで出走サインに向かい、準備ができてからヘルメットをかぶるユンゲルスのマリアローザ姿が板についていた。この日は落車に巻き込まれたユンゲルスは膝から流血しながらマリアローザを受け取ったが、パフォーマンスには影響しない怪我だとブラマーティ監督は語っている。ガゼッタ紙に「マット・デイモンと生き別れた双子」という表現をされたユンゲルスは、2016年を含めると合計8日間マリアローザを着用している。なお、出場選手の中でユンゲルスよりマリアローザの着用日数が多いのはヴィンチェンツォ・ニーバリ(21日間)だけ。
果たしてユンゲルスは翌日の1級山岳ブロックハウス(全長13.6km/平均8.4%)でマリアローザを守れるのかどうか。「登り自体の難易度も高く、3週間の中盤に差し掛かっているタイミングであり、第4ステージのエトナ山とは全く違う戦いになる」とナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)は予想する。つまり牽制なしのアタックを暗に宣言。休息日を前に、ジロは文字通りの山場を迎える。
text&photo:Kei Tsuji in Peschici, Italy