2016/11/16(水) - 08:40
クランクやチェーンリング、BBなど選手の足回りを長年に渡って支えてきたスギノ。バリエーション豊富な同社クランクラインアップに、専用設計をふんだんに盛り込みシクロクロスに特化させたクランクセット「CXC901D」が新たに加わった。RISERIDE鈴木祐一さんによるインプレッションと併せて紹介しよう。
奈良県に拠点を置き100年以上もの歴史を持つスギノ。自転車のクランクセットを専門に製造し、かつてはシマノと競合していたサンツアーブランドの一角も担っていた由緒正しきブランドだ。競輪やトラックレース用のクランクセットに秀で、世界選手権大会トラックレースにおける中野浩一の10連勝を支えた部品メーカーとしても知られている。
洋の東西を問わず世界的にも人気で、近年では2012年のロンドンオリンピックのトラック競技において、同社製品「SUPER ZEN」を使用した選手が10種目中7種目で優勝を果たした。トラック用だけでなく歯数やPCDを変えバリエーション豊富にロードやツーリング用製品を揃え、その愛用者は数多い。そんなスギノからこの度発売されたのが、ブランド初であるシクロクロス専用設計のクランクセット「CXC901D」だ。
CXC901Dの特徴は、特許技術を用いた特殊な楕円インナーリング「CYCLOID II」と、真円形状のアウターリングを組み合わせていること。泥ハケを考慮した設計が各所に盛り込まれ、まさにシクロクロス専用モデルと言うべき仕上がりだ。
新開発のオートフォーカス機構を搭載した特殊楕円インナーチェーンリング「CYCLOID II」は、20年前に販売されていた楕円チェーンリング「CYCLOID」から名前を引き継ぎ、当時の設計を最新技術で進化させ、現代に蘇らせたもの。
CYCLOID IIのユニークなポイントは、特許技術でチェーンリング形状を最適化させ、ペダリングパワーに合わせてチェーンが歯先を移動することにより、パワーピークポイントを自動的に最大レシオに導いてくれるという点。従来の楕円チェーンリングはペダリング解析でピークポイントを探し、取付角度を調整するなど入念な準備を必要としていたが、CYCLOID IIではその手間を省きつつ楕円リングの最大の効果が得られるようになっている。これが「オートフォーカス機構」だ。もちろんチェーンは歯先を移動するものの、歯を高く設計することで脱落の不安も無いという。
楕円インナーリングは最大39T相当、歯数差比22%と他の楕円チェーンリングよりも歯数差を大きくしている。これは内外でPCDの異なる(インナー74、アウター110)チェーンリングを組み合わせるスギノクランクだからこそ可能なギア構成であり、これによってペダリングのデッドポイント(上下死点)でのペダル通過速度を22%早めることが出来るという。ペダリングのロスを減らし、路面抵抗の大きく異なる泥・砂地や急勾配セクションを効率的に走破することがその目標だ。
一方アウターリングは剛性を高め、かつスギノのノウハウを投入した切削加工により素早く変速できるよう配慮されている。通常製品とは異なり表面の肉抜き加工を行っていないため、余分な泥の付着防止や、かつメンテナンス簡略化にも貢献する。
また、クランクアーム形状もシクロクロスに特化されており、側面の角を面取り加工することで泥詰まりを低減。シューズとのクリアランスを広めに設定することで、重い泥が付着するコンディションでも影響が最小限になるよう工夫されている。
クランク長は160~175mmまで幅広くラインアップ。スギノのBBがセットとなり各種BB規格にも対応するため、フレームへの適合も心配ない。BBとベアリングの種類によって、価格は47,000~61,000円(税抜)で販売される。
ー インプレッション
「使いこなすテクニックを身につければ、メリットは大きい」鈴木 祐一(Rise Ride)
シクロクロスに特化したクランクという今までに類を見ない製品ですが、そこはさすが日本のスギノ。全く妥協のないつくりで、トータルとしての品質と完成度が高く仕上がっています。新しい設計やデザインを多く盛り込んでいますが、使用していく中でトラブルや不安感は全くありませんでした。
一番の特徴は何と言っても楕円インナーリング。市場に数ある他の楕円リングと比べても、22%と高い楕円率を誇るため、車体にインストールするだけで”楕円らしい"フィーリングを誰でも感じとることができるでしょう。高い楕円率のためにトルクが大きく変動するので、最初は脚の感覚に驚くほどです。
ただその反面、うまく回すには慣れが必要です。シクロクロスではリアタイヤのグリップが抜けないよう、トルクを一定にキープするペダリングが求められるのですが、真円リングと同じ感覚で踏み込むとギクシャクしてしまうのです。そこを上手に合わせていくペダリングスキルが必要だと感じました。
インナーリングはとてもヌメッとした踏み心地。停止した状態でブレーキを掛けながらペダルを踏み込むと(チェーンにテンションを掛けると)オートフォーカス機構によってチェーンが僅かに外側へと浮き上がる様子がはっきりと分かります。正直に言うとそれによるパワーアップは実走で感じにくいのですが、特徴的な踏み心地はこの部分が作用している部分も大きいのでしょう。このクランクセットをポン付けしたから即スピードアップするわけではありませんが、持ち味を引き出すトレーニングができるようになればメリットは大きいはず。楕円率の高さゆえ上死点、下死点からの「抜け」が良く、特に低ケイデンスになる深い泥や砂地などで効果を発揮してくれると想像できました。
また、チェーンリング自体の剛性も特徴的で、Di2の変速パワーでもたわみや歪みがありません。泥つまりを考慮した肉抜き無しのアウターリング形状も作用していると思いますが、通じて変速性能も優秀です。今までサードパーティー系チェーンリングの変速性能は諦めていた部分なのに、これはデュラエース純正リングと同じレベルでバチッと決まる。ハードなコースを走るオフロード競技において、気を使うことなく変速できることは評価できますよね。
クランクはシューズとのクリアランスを確保することで泥つまりしづらい構造になっていますが、これはもう一つメリットがあると感じました。オフロード競技は足をひねることでバイクコントロールを行いますが、ここの間隔が広いのは理に叶っていますね。シクロクロスは冬場の競技なので、練習で厚手のシューズカバーをしてもクランクと擦れないのも嬉しいポイントです。
今までこういったユニークな製品は海外メーカーが担う部分でしたが、スギノが出してきたということが興味深いですね。アイディアや品質の高さは評価できますし、メリットを引き出せるテクニックを身につけると、より効果が高いものにできますね。
スギノ CXC901D
歯数:アウター46T、インナー36T
PCD:110mm/74mm
対応段数:シマノ11s/10s
対応BB規格:BB30、BSA、BB86、PF30、BB386、BB30A
クランク長:160、165、167.5、170、172.5、175mm
アクスル:φ24Cr-Mo
カラー:ブラック
価格:BB無し:47,000円(税抜)
BB30/セラミック:61,000円(税抜)
BB30/スチール:54,000円(税抜)
BSA、BB86、PF30、BB386、BB30A/セラミック:60,000円(税抜)
BSA、BB86、PF30、BB386、BB30A/スチール:53,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
鈴木 祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。シクロクロスやMTBなど、各種レースにも参戦している。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
奈良県に拠点を置き100年以上もの歴史を持つスギノ。自転車のクランクセットを専門に製造し、かつてはシマノと競合していたサンツアーブランドの一角も担っていた由緒正しきブランドだ。競輪やトラックレース用のクランクセットに秀で、世界選手権大会トラックレースにおける中野浩一の10連勝を支えた部品メーカーとしても知られている。
洋の東西を問わず世界的にも人気で、近年では2012年のロンドンオリンピックのトラック競技において、同社製品「SUPER ZEN」を使用した選手が10種目中7種目で優勝を果たした。トラック用だけでなく歯数やPCDを変えバリエーション豊富にロードやツーリング用製品を揃え、その愛用者は数多い。そんなスギノからこの度発売されたのが、ブランド初であるシクロクロス専用設計のクランクセット「CXC901D」だ。
CXC901Dの特徴は、特許技術を用いた特殊な楕円インナーリング「CYCLOID II」と、真円形状のアウターリングを組み合わせていること。泥ハケを考慮した設計が各所に盛り込まれ、まさにシクロクロス専用モデルと言うべき仕上がりだ。
新開発のオートフォーカス機構を搭載した特殊楕円インナーチェーンリング「CYCLOID II」は、20年前に販売されていた楕円チェーンリング「CYCLOID」から名前を引き継ぎ、当時の設計を最新技術で進化させ、現代に蘇らせたもの。
CYCLOID IIのユニークなポイントは、特許技術でチェーンリング形状を最適化させ、ペダリングパワーに合わせてチェーンが歯先を移動することにより、パワーピークポイントを自動的に最大レシオに導いてくれるという点。従来の楕円チェーンリングはペダリング解析でピークポイントを探し、取付角度を調整するなど入念な準備を必要としていたが、CYCLOID IIではその手間を省きつつ楕円リングの最大の効果が得られるようになっている。これが「オートフォーカス機構」だ。もちろんチェーンは歯先を移動するものの、歯を高く設計することで脱落の不安も無いという。
楕円インナーリングは最大39T相当、歯数差比22%と他の楕円チェーンリングよりも歯数差を大きくしている。これは内外でPCDの異なる(インナー74、アウター110)チェーンリングを組み合わせるスギノクランクだからこそ可能なギア構成であり、これによってペダリングのデッドポイント(上下死点)でのペダル通過速度を22%早めることが出来るという。ペダリングのロスを減らし、路面抵抗の大きく異なる泥・砂地や急勾配セクションを効率的に走破することがその目標だ。
一方アウターリングは剛性を高め、かつスギノのノウハウを投入した切削加工により素早く変速できるよう配慮されている。通常製品とは異なり表面の肉抜き加工を行っていないため、余分な泥の付着防止や、かつメンテナンス簡略化にも貢献する。
また、クランクアーム形状もシクロクロスに特化されており、側面の角を面取り加工することで泥詰まりを低減。シューズとのクリアランスを広めに設定することで、重い泥が付着するコンディションでも影響が最小限になるよう工夫されている。
クランク長は160~175mmまで幅広くラインアップ。スギノのBBがセットとなり各種BB規格にも対応するため、フレームへの適合も心配ない。BBとベアリングの種類によって、価格は47,000~61,000円(税抜)で販売される。
ー インプレッション
「使いこなすテクニックを身につければ、メリットは大きい」鈴木 祐一(Rise Ride)
シクロクロスに特化したクランクという今までに類を見ない製品ですが、そこはさすが日本のスギノ。全く妥協のないつくりで、トータルとしての品質と完成度が高く仕上がっています。新しい設計やデザインを多く盛り込んでいますが、使用していく中でトラブルや不安感は全くありませんでした。
一番の特徴は何と言っても楕円インナーリング。市場に数ある他の楕円リングと比べても、22%と高い楕円率を誇るため、車体にインストールするだけで”楕円らしい"フィーリングを誰でも感じとることができるでしょう。高い楕円率のためにトルクが大きく変動するので、最初は脚の感覚に驚くほどです。
ただその反面、うまく回すには慣れが必要です。シクロクロスではリアタイヤのグリップが抜けないよう、トルクを一定にキープするペダリングが求められるのですが、真円リングと同じ感覚で踏み込むとギクシャクしてしまうのです。そこを上手に合わせていくペダリングスキルが必要だと感じました。
インナーリングはとてもヌメッとした踏み心地。停止した状態でブレーキを掛けながらペダルを踏み込むと(チェーンにテンションを掛けると)オートフォーカス機構によってチェーンが僅かに外側へと浮き上がる様子がはっきりと分かります。正直に言うとそれによるパワーアップは実走で感じにくいのですが、特徴的な踏み心地はこの部分が作用している部分も大きいのでしょう。このクランクセットをポン付けしたから即スピードアップするわけではありませんが、持ち味を引き出すトレーニングができるようになればメリットは大きいはず。楕円率の高さゆえ上死点、下死点からの「抜け」が良く、特に低ケイデンスになる深い泥や砂地などで効果を発揮してくれると想像できました。
また、チェーンリング自体の剛性も特徴的で、Di2の変速パワーでもたわみや歪みがありません。泥つまりを考慮した肉抜き無しのアウターリング形状も作用していると思いますが、通じて変速性能も優秀です。今までサードパーティー系チェーンリングの変速性能は諦めていた部分なのに、これはデュラエース純正リングと同じレベルでバチッと決まる。ハードなコースを走るオフロード競技において、気を使うことなく変速できることは評価できますよね。
クランクはシューズとのクリアランスを確保することで泥つまりしづらい構造になっていますが、これはもう一つメリットがあると感じました。オフロード競技は足をひねることでバイクコントロールを行いますが、ここの間隔が広いのは理に叶っていますね。シクロクロスは冬場の競技なので、練習で厚手のシューズカバーをしてもクランクと擦れないのも嬉しいポイントです。
今までこういったユニークな製品は海外メーカーが担う部分でしたが、スギノが出してきたということが興味深いですね。アイディアや品質の高さは評価できますし、メリットを引き出せるテクニックを身につけると、より効果が高いものにできますね。
スギノ CXC901D
歯数:アウター46T、インナー36T
PCD:110mm/74mm
対応段数:シマノ11s/10s
対応BB規格:BB30、BSA、BB86、PF30、BB386、BB30A
クランク長:160、165、167.5、170、172.5、175mm
アクスル:φ24Cr-Mo
カラー:ブラック
価格:BB無し:47,000円(税抜)
BB30/セラミック:61,000円(税抜)
BB30/スチール:54,000円(税抜)
BSA、BB86、PF30、BB386、BB30A/セラミック:60,000円(税抜)
BSA、BB86、PF30、BB386、BB30A/スチール:53,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
鈴木 祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。シクロクロスやMTBなど、各種レースにも参戦している。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
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