2016/10/30(日) - 15:37
今年もツール・ド・フランスが日本にやってきた。ベルナール・イノーのA.S.O大使からの退役、ラストランとなった引退選手たち、悪魔おじさんの初来日など、4年目のTDFさいたまクリテリウムからトピックなシーンをダイジェストでお伝えします。
英雄ベルナール・イノーの退役式はさいたまで
改めて紹介するまでもなく、ツール・ド・フランス5勝の英雄として自転車競技界に多くの栄光の足跡を残したベルナール・イノー氏。選手引退後はツール・ド・フランスのアンバサダーとして活躍してきた。表彰式のプレゼンターをつとめる姿はツールのTV中継でもおなじみだが、大会主催者A.S.O(アモリー・スポール・オルガニザシヨン)の顔(アイコン的な存在)となってきた。
しかしイノー氏のその仕事は今年が最後。A.S.O主催レースのアンバサダーとしての仕事から退役する。ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムは、その最後の仕事になった。
大会のオープニングセレモニーにおいて、イノー氏の引退セレモニーが執り行われた。大会公式ポロシャツを着て登場したイノー氏に、清水市長、ASO代表のジャン=エティエンヌ・アモリ氏から花束が贈呈された。また、大会側からは感謝の意を込めた写真パネルがプレゼントされた。
引退後、愛する故郷ブルターニュでの暮らしに戻るイノー氏は今の心境をビデオメッセージでこう語っている。「ツール・ド・フランスに関わった日々は、多くの国を訪ねて、様々な人々に会えるすばらしい日々だった。本当にそれに尽きるよ。今では孫もいるんだよ。50年前、祖父が私に対して多くの愛情を注いでくれた。だから私も祖父のように自分の孫にはたくさんの愛情を注ぎたいんだ。もちろんこれからもツール・ド・フランスは観るよ。たぶんこれからは孫と一緒に沿道から観戦することもあるだろう。これからどうするかは、今からゆっくり決めるよ」。
総合ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏はイノー氏との思い出をこう振り返る。「ベルナールと長い間一緒に過ごせた日々は、もう幸運としか言いようがないね。とくにフランスじゅうを一緒に回れたのは忘れがたい。彼は偉大なチャンピオン、とてつもない個性を持つ男、そして極めて繊細な人物でもあるんだ。ただ、ありがとうと言いたいね。ベルナール、あなたが私たちに与えてくれた感動は決して忘れない。引退してからも我々を助け、多くの助言をくれた。12年もの間、我々にとってかけがえのない存在だった」。
日本で80年代に初めてツール・ド・フランスのTV番組放送が始まって以来、最初のヒーローとして親しまれてきたイノー氏は、バイクに乗ってパレードランを走り、沿道の日本の観客たちにさよならの挨拶をした。
大会史上初めて4賞ジャージが出揃う
さいたまクリテリウム4年目の今大会にして初めてツール・ド・フランス4賞ジャージが出揃った。今まで、ナイロ・キンタナ(モビスター)などがスケジュールが合わない、あるいはビザの発給が間に合わないなどの問題で実現してこなかったが、今年はマイヨジョーヌのクリス・フルーム、マイヨヴェールのペーター・サガン、マイヨブラン・アポア・ルージュのラファル・マイカ、そしてマイヨブランのアダム・イェーツが揃ってスタートラインに並んだ。
ペーター・サガンは先のカタールで開催された世界選手権で優勝し、2枚めのアルカンシェルを獲得したが、ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムがツール・ド・フランスを再現するイベントであるためにアルカンシェルを着ることはなく、マイヨ・ヴェールで登場することとなった。サガンはマイヨ・ヴェールの背中に赤い敢闘賞ゼッケン「ドサルルージュ」をつけて登場。これはもちろん今年のツール・ド・フランスでスーパー敢闘賞を受賞したことによるものだ。
引退する綾部勇成、小橋勇利らのラストラン
今季限りで引退となる日本人選手が3人。綾部勇成(愛三工業レーシング)、小橋勇利(シマノレーシング)、伊丹健治(キナンサイクリング)だ。小さい頃にツール・ド・フランスに憧れて自転車選手になった綾部は日本鋪道、ミヤタスバルを経て2006年から愛三工業へ。UCIアジアツアーの最高峰、ツール・ド・ランカウィの難関山岳ゲンティンハイランド山頂ゴールのステージを制した。この後はツール・ド・おきなわと、最後のレースとしてツアー・オブ・フゾウ(中国)を走る予定だ。
北海道出身の小橋勇利(シマノレーシング)は高校1年生でインターハイロードを制し注目を浴びる。高校卒業後は単身フランスに渡りアマチュアチームに所属して活動。シクロクロスなどでも活躍し、2015年世界選ロードU23では45位となる。若手のホープとして期待を集めていたが、このさいたまクリテを最後にレースを退く。以前より自分が達しなければいけないラインを定めていたとのことで、自身にけじめをつける引退のようだ。今後の進路はいずれ発表するとのこと。最後のレースは逃げにチャレンジもして満足のいく走りだったようだ。「自転車をやめたあとも攻めの姿勢で別の方面で頑張り、また皆さんに会える機会があれば」とコメントしている。
すでにジャパンカップで公式レースからは引退を表明していた伊丹健治(キナンサイクリング)は、このさいたまクリテがラストランとなり、かつて優勝経験のある11月のツール・ド・おきなわには出場しない。伊丹は今後チームスポンサーである株式会社キナン(和歌山県新宮市)に勤務して働く。チームとの関わりも継続するであろうから、指導者的な役割も期待できそうだ。
”ディアブロ” 悪魔おじさんの初来日
ツール観戦の名人的存在の「ディアブロ」=「悪魔おじさん」ことディディ・センフトさん(ドイツ人)がさいたまクリテリウムのために来日した。今年のはじめより大会側からの話題作りのためのオファーを受けていたディディさん。すでに7月のツール・ド・フランス中にも「SAITAMA」と書いたメッセージを掲げたり、路面にペイントしたりしてさいたまクリテへの意思表明をしていたが、実際の来日は数日前に突然決まったことだとか。
ちなみにディディさんはナップサック1つのみの荷物という身軽さで、この赤い悪魔のコスチュームのまま飛行機に乗り、来日したそうだ。当然のようにハロウィン時期とはいえ行き過ぎたその格好に、空港の入国管理事務所で尋問を受けたそうだ。そしてこのコスチュームひとつで日本での滞在を過ごしたようだ。
イベント中、悪魔おじさんはツールの沿道に現れるままの悪魔の衣装であらゆるところに出没。また、悪魔スタイルの美女2人が秘書役として帯同し、会場内を練り歩いては各所で「ヤァヤァ〜!」と騒ぎ立てるパフォーマンスを披露した。マントに赤い槍の悪魔スタイルで迎えたファンも多く、各所で交流して盛り上がったようだ。
ファンクラブと選手たちの交流 ユニークな観客たちの観戦スタイル
ジャパンカップで有名なファンたちのユニークな観戦スタイルの流れはここさいたまでも散見された。キッテル友の会、フルームをそっと応援する会など、このさいたまクリテリウムで結成されたファンクラブが集い、沿道でユニークな応援スタイルを披露した。
当の選手たちもそのスタイルにご満悦。パレードラン中にそのファンたちのもとに立ち寄り、記念撮影に応じたり、ファンたちからもらった自作グッズを身に着けて走ったりと、色々な交流が生まれたようだ。沿道で目立ったファンたちの姿を紹介します。
text:Makoto.AYANO
photo.Makoto.AYANO,Kei.TSUJI
英雄ベルナール・イノーの退役式はさいたまで
改めて紹介するまでもなく、ツール・ド・フランス5勝の英雄として自転車競技界に多くの栄光の足跡を残したベルナール・イノー氏。選手引退後はツール・ド・フランスのアンバサダーとして活躍してきた。表彰式のプレゼンターをつとめる姿はツールのTV中継でもおなじみだが、大会主催者A.S.O(アモリー・スポール・オルガニザシヨン)の顔(アイコン的な存在)となってきた。
しかしイノー氏のその仕事は今年が最後。A.S.O主催レースのアンバサダーとしての仕事から退役する。ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムは、その最後の仕事になった。
大会のオープニングセレモニーにおいて、イノー氏の引退セレモニーが執り行われた。大会公式ポロシャツを着て登場したイノー氏に、清水市長、ASO代表のジャン=エティエンヌ・アモリ氏から花束が贈呈された。また、大会側からは感謝の意を込めた写真パネルがプレゼントされた。
引退後、愛する故郷ブルターニュでの暮らしに戻るイノー氏は今の心境をビデオメッセージでこう語っている。「ツール・ド・フランスに関わった日々は、多くの国を訪ねて、様々な人々に会えるすばらしい日々だった。本当にそれに尽きるよ。今では孫もいるんだよ。50年前、祖父が私に対して多くの愛情を注いでくれた。だから私も祖父のように自分の孫にはたくさんの愛情を注ぎたいんだ。もちろんこれからもツール・ド・フランスは観るよ。たぶんこれからは孫と一緒に沿道から観戦することもあるだろう。これからどうするかは、今からゆっくり決めるよ」。
総合ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏はイノー氏との思い出をこう振り返る。「ベルナールと長い間一緒に過ごせた日々は、もう幸運としか言いようがないね。とくにフランスじゅうを一緒に回れたのは忘れがたい。彼は偉大なチャンピオン、とてつもない個性を持つ男、そして極めて繊細な人物でもあるんだ。ただ、ありがとうと言いたいね。ベルナール、あなたが私たちに与えてくれた感動は決して忘れない。引退してからも我々を助け、多くの助言をくれた。12年もの間、我々にとってかけがえのない存在だった」。
日本で80年代に初めてツール・ド・フランスのTV番組放送が始まって以来、最初のヒーローとして親しまれてきたイノー氏は、バイクに乗ってパレードランを走り、沿道の日本の観客たちにさよならの挨拶をした。
大会史上初めて4賞ジャージが出揃う
さいたまクリテリウム4年目の今大会にして初めてツール・ド・フランス4賞ジャージが出揃った。今まで、ナイロ・キンタナ(モビスター)などがスケジュールが合わない、あるいはビザの発給が間に合わないなどの問題で実現してこなかったが、今年はマイヨジョーヌのクリス・フルーム、マイヨヴェールのペーター・サガン、マイヨブラン・アポア・ルージュのラファル・マイカ、そしてマイヨブランのアダム・イェーツが揃ってスタートラインに並んだ。
ペーター・サガンは先のカタールで開催された世界選手権で優勝し、2枚めのアルカンシェルを獲得したが、ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムがツール・ド・フランスを再現するイベントであるためにアルカンシェルを着ることはなく、マイヨ・ヴェールで登場することとなった。サガンはマイヨ・ヴェールの背中に赤い敢闘賞ゼッケン「ドサルルージュ」をつけて登場。これはもちろん今年のツール・ド・フランスでスーパー敢闘賞を受賞したことによるものだ。
引退する綾部勇成、小橋勇利らのラストラン
今季限りで引退となる日本人選手が3人。綾部勇成(愛三工業レーシング)、小橋勇利(シマノレーシング)、伊丹健治(キナンサイクリング)だ。小さい頃にツール・ド・フランスに憧れて自転車選手になった綾部は日本鋪道、ミヤタスバルを経て2006年から愛三工業へ。UCIアジアツアーの最高峰、ツール・ド・ランカウィの難関山岳ゲンティンハイランド山頂ゴールのステージを制した。この後はツール・ド・おきなわと、最後のレースとしてツアー・オブ・フゾウ(中国)を走る予定だ。
北海道出身の小橋勇利(シマノレーシング)は高校1年生でインターハイロードを制し注目を浴びる。高校卒業後は単身フランスに渡りアマチュアチームに所属して活動。シクロクロスなどでも活躍し、2015年世界選ロードU23では45位となる。若手のホープとして期待を集めていたが、このさいたまクリテを最後にレースを退く。以前より自分が達しなければいけないラインを定めていたとのことで、自身にけじめをつける引退のようだ。今後の進路はいずれ発表するとのこと。最後のレースは逃げにチャレンジもして満足のいく走りだったようだ。「自転車をやめたあとも攻めの姿勢で別の方面で頑張り、また皆さんに会える機会があれば」とコメントしている。
すでにジャパンカップで公式レースからは引退を表明していた伊丹健治(キナンサイクリング)は、このさいたまクリテがラストランとなり、かつて優勝経験のある11月のツール・ド・おきなわには出場しない。伊丹は今後チームスポンサーである株式会社キナン(和歌山県新宮市)に勤務して働く。チームとの関わりも継続するであろうから、指導者的な役割も期待できそうだ。
”ディアブロ” 悪魔おじさんの初来日
ツール観戦の名人的存在の「ディアブロ」=「悪魔おじさん」ことディディ・センフトさん(ドイツ人)がさいたまクリテリウムのために来日した。今年のはじめより大会側からの話題作りのためのオファーを受けていたディディさん。すでに7月のツール・ド・フランス中にも「SAITAMA」と書いたメッセージを掲げたり、路面にペイントしたりしてさいたまクリテへの意思表明をしていたが、実際の来日は数日前に突然決まったことだとか。
ちなみにディディさんはナップサック1つのみの荷物という身軽さで、この赤い悪魔のコスチュームのまま飛行機に乗り、来日したそうだ。当然のようにハロウィン時期とはいえ行き過ぎたその格好に、空港の入国管理事務所で尋問を受けたそうだ。そしてこのコスチュームひとつで日本での滞在を過ごしたようだ。
イベント中、悪魔おじさんはツールの沿道に現れるままの悪魔の衣装であらゆるところに出没。また、悪魔スタイルの美女2人が秘書役として帯同し、会場内を練り歩いては各所で「ヤァヤァ〜!」と騒ぎ立てるパフォーマンスを披露した。マントに赤い槍の悪魔スタイルで迎えたファンも多く、各所で交流して盛り上がったようだ。
ファンクラブと選手たちの交流 ユニークな観客たちの観戦スタイル
ジャパンカップで有名なファンたちのユニークな観戦スタイルの流れはここさいたまでも散見された。キッテル友の会、フルームをそっと応援する会など、このさいたまクリテリウムで結成されたファンクラブが集い、沿道でユニークな応援スタイルを披露した。
当の選手たちもそのスタイルにご満悦。パレードラン中にそのファンたちのもとに立ち寄り、記念撮影に応じたり、ファンたちからもらった自作グッズを身に着けて走ったりと、色々な交流が生まれたようだ。沿道で目立ったファンたちの姿を紹介します。
text:Makoto.AYANO
photo.Makoto.AYANO,Kei.TSUJI
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