2016/10/16(日) - 06:51
與那嶺恵理の独走で始まったエリート女子ロードレースは大集団スプリントで決着。オランダチームの完璧なトレインの後ろから飛び出した20歳のアマリー・ディデリクセン(デンマーク)が勝利した。スプリントに挑んだ吉川美穂は21位、梶原悠未は64位でレースを終えている。
ドーハの高層ビルを眺めながら「ザ・パール」の周回コースへ photo:Kei Tsuji
エリート女子ロードに挑む吉川美穂(Live GARDEN BICI STELLE)、與那嶺恵理(POITOU-CHARENTES.FUTUROSCOPE.86)、梶原悠未(筑波大学) photo:Kei Tsuji
出走サインを済ませた吉川美穂(Live GARDEN BICI STELLE) photo:Kei Tsuji
氷を入れたベストを着てスタートを待つオーストラリアチーム photo:Kei Tsuji熱い太陽に照らされたドーハ郊外のカタールファンデーション(大学などが集まる複合施設)に集まったのは、保冷ジャケットや氷を入れたベストを着込んだ46カ国:142名の選手たち。どの選手もスタート直前まで可能な限り身体を冷やし、最高気温36度のレースに挑んだ。
独走を続ける與那嶺恵理(POITOU-CHARENTES.FUTUROSCOPE.86) photo:Kei Tsujiニュートラル走行を終えてファーストアタックを仕掛けたのはジャパンナショナルジャージを着る113番、與那嶺恵理(POITOU-CHARENTES.FUTUROSCOPE.86)。日本チームは與那嶺が序盤から逃げ、梶原悠未(筑波大学)が中盤のアタックに反応し、吉川美穂(Live GARDEN BICI STELLE)が最終スプリントを狙う作戦を組み立ててレースに挑んだ。
「ザ・パール」の周回コースに入る選手たち photo:Kei Tsuji「TTがダメだったので、何としても見てもらえる走りがしたかった。ファーストアタックを仕掛けて逃げることはスタート前から決めていました。決めていたことはやらないと。前で待って、後から何人か追いついてくることを考えながら逃げた」と言う與那嶺が約30秒のリードで独走。オーストラリアやイギリス、ドイツ、オランダといった強豪国率いるメイン集団から一人抜け出した状態で人工島「ザ・パール」に入った。
合計7周する15.2kmの周回コースを30〜40秒のリードで独走した與那嶺。3周目に入るとメイン集団とのタイム差は縮まり、カウンターアタックを仕掛けたニコル・ハンセルマン(スイス)が単独で與那嶺に合流する。
全長134kmレースがちょうど折り返しに差し掛かったところでメイン集団がペースアップを開始するとタイム差は縮まる。オランダ勢の攻撃によって活性化したメイン集団は先頭の與那嶺とハンセルマンを飲み込んだ。
独走を続ける與那嶺恵理(POITOU-CHARENTES.FUTUROSCOPE.86) photo:Kei Tsuji
補給を受け取ったアマリー・ディデリクセン(デンマーク) photo:Kei Tsuji
集団内に控える吉川美穂(Live GARDEN BICI STELLE) photo:Kei Tsuji
與那嶺恵理(POITOU-CHARENTES.FUTUROSCOPE.86)にニコル・ハンセルマン(スイス)が合流 photo:Kei Tsuji
集団前方でアタックのチェックに入る梶原悠未(筑波大学) photo:Kei Tsuji
集団前方で危険な動きに目を光らせる梶原悠未(筑波大学) photo:Kei Tsuji
コーナー出口で落車したアマリー・ディデリクセン(デンマーク)とティファニー・クロムウェル(オーストラリア) photo:Kei Tsuji逃げ吸収後もカウンターアタックの動きは続き、予定通り梶原とそれまで逃げていた與那嶺が先頭で動きに目を配る。與那嶺は「捕まった後にまた逃げが生まれると思っていたので、そこでまた反応できるように考えていた。何回かカウンターアタックに反応したんですがダメでした」と、2時間近い逃げ吸収後の動きを振り返る。
メイン集団からアタックを仕掛けるアンナ・ファンデルブレゲン(オランダ) photo:Kei Tsujiアタックはどれも決まらず、集団先頭は不安定な状態のまま進行する。「(柿木コーチに)中盤の逃げには乗れたら乗るように言われていたので、危険な逃げに反応できるように前で動いていました。でも単独のアタックしかなかったので、決まる逃げではないと判断して集団内に控えていた」と梶原。
個人TTで優勝したアンバー・ネーベン(アメリカ)が独走する photo:Kei Tsujiフィニッシュまで3周を残したタイミングで個人タイムトライアルの優勝者アンバー・ネーベン(アメリカ)が独走を開始し、メイン集団から50秒のリードを稼ぎ出すことに成功したがイギリスと並んで今大会最も多い8名メンバーで挑むオランダがTTチャンピオンの先行を許さない。オランダやベルギーの強力な牽引によってネーベンは最終周回突入後すぐに吸収された。
最終周回にアタックするダニエル・キング(イギリス) photo:Kei Tsujiダニエル・キング(イギリス)らのカウンターアタックも決まらず、80名弱のメイン集団がハイスピードで「ザ・パール」を駆け抜ける。
集団内で最終周回に入る吉川美穂(Live GARDEN BICI STELLE) photo:Kei Tsujiフィニッシュまで5kmを切るとオレンジトレインが発車。オランダが7名を揃えて先頭に立ち、ライバル国に主導権を与えないまま残り1kmを切る。マリアンヌ・フォス(オランダ)らのリードアウトから、キルステン・ウィルド(オランダ)が完璧なタイミングで発進した。
残り150mからの緩斜面を先頭で駆け上がったウィルド(この日が34歳の誕生日)。レディース・ツアー・オブ・カタールで4度総合優勝するなどカタールと相性の良いダッチスプリンターが勝ちパターンに持ち込んだものの、スリップストリームから抜け出したディデリクセンが急加速で応戦する。伸びやかな加速を見せたディデリクセンがウィルドを差し切った。
2013年と2014年にジュニア世界チャンピオンに輝いているディデリクセンがエリート女子の世界タイトルを獲得。ボエルス・ドルマンスに所属し、まだあどけなさの残る20歳(1996年5月24日生まれ)がチームメイトでこの日4位に入ったリジー・ダイグナン(イギリス)からアルカンシェルを受け継いだ。
「トップ10入りを夢見ていた自分が世界チャンピオン。クレイジーな出来事で今でも信じられない。落車で遅れたものの、チームメイトのサポートを受けて素早く復帰することができた。オランダチームがウィルドのためにリードアウトすることは明らかだったので、彼女の番手に付くためのポジション争いは熾烈だった」と新エリート女子世界チャンピオンは語っている。
スプリントを繰り広げるキルステン・ウィルド(オランダ)、アマリー・ディデリクセン(デンマーク)、ロッタ・レピスト(フィンランド) photo:Kei Tsuji
接戦スプリントを制したアマリー・ディデリクセン(デンマーク) photo:Kei Tsuji
21位でフィニッシュした吉川美穂(Live GARDEN BICI STELLE) photo:Kei Tsuji
チームメイトと勝利を喜ぶアマリー・ディデリクセン(デンマーク) photo:Kei Tsuji日本の吉川は好位置で最終周回をこなしていたが、残り数キロのペースアップによってポジションを落としてしまった。「『残り1kmなのにまだこんなところ(集団後方)にいる』と少しパニックになった。中切れも起きてるし風も受けるし、とにかく先頭のグループに追いつかなきゃと思って踏んだんですけど、追いつき切れず、スプリントもまともにできないまま終わってしまった」と肩を落とす吉川は21位フィニッシュ。
フィニッシュ後、しばらく動けないリジー・ダイグナン(イギリス) photo:Kei Tsujiエーススプリンターという重責を担った吉川は「登りを登れない選手として認識されているぐらい、スプリントしかできない自分が今回のコースで結果を残せなかったのは、自分の甘さだった」と戒める。「こんな世界選手権はもうないと思うほどの平坦コースで、付いていけず、前に上がれず、最後に付き切れしてしまい、中切れを埋めれない。来年はレース環境が変わるかもしれないので、それらの足りない部分を克服しながらステップアップしたい。(平坦ではない)世界選手権でもメンバーに選んでもらえるように、来年もUCIポイントをしっかり取りたいです」
レース後にインタビューに答える吉川美穂(Live GARDEN BICI STELLE) photo:Kei Tsuji決して納得の結果を手にいれることはできなかったが、その一方で吉川は日本チームのまとまりを実感したと語る。「3人とも『もっとこうすればよかった』という反省はあると思いますが」と前置きしながら「おそらく自分でも10本ぐらいボトルを受け取ったし、與那嶺さんもアシストとしてボトル運びに動いてくれたので補給は問題ありませんでした。みんなが自分を気にして走ってくれた。日本代表として走るレースではこれからもっとチームとして戦えるようになるんじゃないかと感じました」
エリート1年目の梶原悠未(筑波大学)が64位でフィニッシュ photo:Kei Tsuji吉川のサポートに回った梶原は「終盤にかけて吉川さんと声をかけながら何か必要なことがあれば動けるように近くで走っていました。でも最後の位置取りが始まった時には自分が後ろに下がってしまってサポートできなかった」と、エリートレースのスピードに苦戦した。昨年ジュニア女子で日本人史上最高の4位という成績を残したエリート1年目の梶原は64番手でフィニッシュラインを切った。世界トップレベルのスピードを体感した梶原は「終盤はずっと50km/h程度の速さ。集団内であれば問題なかったものの、いざそこから前に上がるとなるときつかった。先頭で展開できるようになるためにはテクニックやスピードがまだまだ足りないと感じました」とコメントしている。
ファーストアタックを仕掛けた與那嶺恵理(POITOU-CHARENTES.FUTUROSCOPE.86)は86位 photo:Kei Tsuji
アルカンシェルを手にしたアマリー・ディデリクセン(デンマーク) photo:Kei Tsuji
2位キルステン・ウィルド(オランダ)、1位アマリー・ディデリクセン(デンマーク)、3位ロッタ・レピスト(フィンランド) photo:Kei Tsuji
ロード世界選手権2016エリート女子ロードレース結果
1位 アマリー・ディデリクセン(デンマーク) 3h10’27”(Ave 42.247km/h)
2位 キルステン・ウィルド(オランダ)
3位 ロッタ・レピスト(フィンランド)
4位 リジー・ダイグナン(イギリス)
5位 マルタ・バスティアネッリ(イタリア)
6位 ロクサーヌ・フルニエ(フランス)
7位 クロエ・ホスキング(オーストラリア)
8位 シェイラ・グティエレス(スペイン)
9位 ジョエル・ヌーマンビル(カナダ)
10位 ジョリーン・ドール(ベルギー)
21位 吉川美穂(Live GARDEN BICI STELLE) +04”
64位 梶原悠未(筑波大学) +18”
86位 與那嶺恵理(POITOU-CHARENTES.FUTUROSCOPE.86)+45”
text&photo:Kei Tsuji in Doha, Qatar
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合計7周する15.2kmの周回コースを30〜40秒のリードで独走した與那嶺。3周目に入るとメイン集団とのタイム差は縮まり、カウンターアタックを仕掛けたニコル・ハンセルマン(スイス)が単独で與那嶺に合流する。
全長134kmレースがちょうど折り返しに差し掛かったところでメイン集団がペースアップを開始するとタイム差は縮まる。オランダ勢の攻撃によって活性化したメイン集団は先頭の與那嶺とハンセルマンを飲み込んだ。
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残り150mからの緩斜面を先頭で駆け上がったウィルド(この日が34歳の誕生日)。レディース・ツアー・オブ・カタールで4度総合優勝するなどカタールと相性の良いダッチスプリンターが勝ちパターンに持ち込んだものの、スリップストリームから抜け出したディデリクセンが急加速で応戦する。伸びやかな加速を見せたディデリクセンがウィルドを差し切った。
2013年と2014年にジュニア世界チャンピオンに輝いているディデリクセンがエリート女子の世界タイトルを獲得。ボエルス・ドルマンスに所属し、まだあどけなさの残る20歳(1996年5月24日生まれ)がチームメイトでこの日4位に入ったリジー・ダイグナン(イギリス)からアルカンシェルを受け継いだ。
「トップ10入りを夢見ていた自分が世界チャンピオン。クレイジーな出来事で今でも信じられない。落車で遅れたものの、チームメイトのサポートを受けて素早く復帰することができた。オランダチームがウィルドのためにリードアウトすることは明らかだったので、彼女の番手に付くためのポジション争いは熾烈だった」と新エリート女子世界チャンピオンは語っている。
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ロード世界選手権2016エリート女子ロードレース結果
1位 アマリー・ディデリクセン(デンマーク) 3h10’27”(Ave 42.247km/h)
2位 キルステン・ウィルド(オランダ)
3位 ロッタ・レピスト(フィンランド)
4位 リジー・ダイグナン(イギリス)
5位 マルタ・バスティアネッリ(イタリア)
6位 ロクサーヌ・フルニエ(フランス)
7位 クロエ・ホスキング(オーストラリア)
8位 シェイラ・グティエレス(スペイン)
9位 ジョエル・ヌーマンビル(カナダ)
10位 ジョリーン・ドール(ベルギー)
21位 吉川美穂(Live GARDEN BICI STELLE) +04”
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86位 與那嶺恵理(POITOU-CHARENTES.FUTUROSCOPE.86)+45”
text&photo:Kei Tsuji in Doha, Qatar
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