2016/10/02(日) - 09:58
獲得標高差4,400mの山岳レースは3名によるスプリント勝負に。キャリア初期に2年間過ごしたベルガモの街で、エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)がモニュメント初制覇を果たした。
ロンバルディア地方は曇り空。大雨には降られなかったが、第110回イル・ロンバルディアの空模様は1日を通して小雨交じりの曇り。シーズン最後のUCIワールドツアーレースがコモの街をスタートした。
最初の1時間はアタックと吸収に費やされた。逃げが決まったのは56km地点から始まる名物マドンナ・デル・ギザッロの登り。ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、BMCレーシング)のアタックにミカエル・シュレル(フランス、AG2Rラモンディアール)、ステファン・デニフル(オーストリア、IAMサイクリング)、ルディ・モラール(フランス、コフィディス)が反応する形で4名の先行が始まった。
アスタナやキャノンデール・ドラパックの集団コントロールによりタイム差が4分以内に押さえ込まれた状態でレース後半の連続山岳区間へ。先頭でカルーゾの独走が始まる一方、メイン集団からはサンアントニオ・アバンドナート(標高982m/長さ6.5km/平均8.9%/最大15%)で重要な動きが生まれる。フィニッシュまで70kmを残したこの急勾配の登りでロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)やエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)が飛び出した。
この有力どころのアタックにはファビオ・アル(イタリア、アスタナ)やリゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)、ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、エティックス・クイックステップ)らがすかさず反応し、16名の強力な追走グループが出来上がる。続くミラゴロ・サンサルヴァトーレ(標高943m/長さ8.7km/平均7%/最大11%)で先頭カルーゾは吸収され、いよいよこの日最後の難所であるセルヴィーノ(標高948m/長さ6.9km/平均5.4%/最大9%)の登りが始まった。
セルヴィーノの麓から仕掛けたのは、直前のジロ・デッレミリアで勝利したチャベスだった。積極的にペースを上げるオリカジャージにウランとバルデが食らいついた一方で、アルやバルベルデは出遅れてしまう。比較的勾配の緩い登りでアルのために追走グループを率いたディエゴ・ローザ(イタリア、アスタナ)は、しばらくして単独追走を開始。アルのアシスト役を免除されたローザは自力で先頭チャベス、ウラン、バルデの3名に追いついた。
40秒のリードを得た先頭4名はスイッチバックが続く細いダウンヒルを攻め、むしろリードを広げながらベルガモに向かう平坦路を駆ける。後方ではジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)がバルベルデのために追走グループを引いたが、タイム差はやがて1分を超える。ウラン、バルデ、チャベス、ローザは後続を1分20秒引き離した状態で、ベルガモ旧市街に向かう最後の上りに差し掛かった。
緩斜面でのローザのアタックは実らず、吸収後にチャベスがペースを上げる。観客をかき分けながら進むチャベスにはバルデが食らいついたが、やがてフレンチクライマーはガクンと失速。チャベスとウランのコロンビアンクライマーコンビを先頭にベルガモ旧市街の登りをクリアし、フィニッシュまでの3.5kmダウンヒルに突入した。
登りで遅れながらも致命的なタイムを失わずに頂上をクリアしたローザが下り区間でチャベスとウランにジョイン。地元イタリアの期待を背負ったローザのカウンターアタックは決まらず、先頭3名のまま残り1kmアーチを切る。
ロングスプリントに持ち込んだローザが先頭で最終コーナーを曲がり、残り200mから3名のスプリントバトルがスタート。ローザ先頭のままフィニッシュラインまでの距離が減っていったが、その後ろにウランとチャベスが迫る。6時間半におよぶ241kmレースの最後まで脚を残したチャベスのスプリントが伸びた。
フィニッシュラインにハンドルを投げ込んだチャベスがいつもの笑顔で両手を挙げた。110年の長い歴史の中で非ヨーロッパ選手による初のロンバルディア優勝。チャベスはモニュメント(5大クラシック)を制した初のコロンビア人選手となった。「信じられない気持ちだ。プロのキャリアをスタートさせたここロンバルディア地方でついに夢が叶った。チームコロンビア時代に2年間このベルガモに近いクルノに住んでいたんだ」と、思い出深い第二の故郷で大きな勝利を手にしたチャベスは語る。
「最後は負けるんじゃないかという恐怖に打ち勝った。2位でも3位でも全力を出した結果だと言い聞かせて勝負に挑んだ。獲得標高差が5,000m近いハードなレースで勝てて本当に嬉しい。グランツールレーサーとして成功を収めた2016年シーズンを勝利で締めくくることができて良かった」。2016年ジロ・デ・イタリアでステージ1勝&総合2位、ブエルタ・ア・エスパーニャで総合3位という成績を残した26歳は屈託のない笑顔でインタビューに答えた。
「昨年バルベルデとのスプリントに敗れて4位だったので、スプリントは避けたかった」と語るのは2位のローザ。「今日はレース序盤の時点でファビオ(アル)に勝利を狙うよう諭されたんだ。残り300mで仕掛けたものの決まらなかった。(同じコースレイアウトの)2年前の最終コーナーで落車した記憶があるので、ブレーキをかけすぎたのかもしれない。そのミスがなければ勝てていた」。ローザは今シーズン限りでアスタナを離脱。移籍先としてチームスカイが有力視されている。
3位のウランは「今日は最も速い選手が勝った。先頭グループの中でエステバン(チャベス)が最速だった」とコメント。「自分も調子が良かったものの、下りで苦しみ、コーナーの度に引き離されてしまった。それでも勝負に絡む走りが出来て良かったよ」。
この日の完走者は61名。日本から出場した小石祐馬と山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)はDNFに終わっている。
イル・ロンバルディア2016結果
1位 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ) 6h26’36”
2位 ディエゴ・ローザ(イタリア、アスタナ)
3位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)
4位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール) +06”
5位 ダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック) +1’19”
6位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +1’24”
7位 ロベルト・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ)
8位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)
9位 アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、BMCレーシング)
10位 ピエール・ラトゥール(フランス、AG2Rラモンディアール)
DNF 小石祐馬(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)
DNF 山本元喜(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)
text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele
ロンバルディア地方は曇り空。大雨には降られなかったが、第110回イル・ロンバルディアの空模様は1日を通して小雨交じりの曇り。シーズン最後のUCIワールドツアーレースがコモの街をスタートした。
最初の1時間はアタックと吸収に費やされた。逃げが決まったのは56km地点から始まる名物マドンナ・デル・ギザッロの登り。ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、BMCレーシング)のアタックにミカエル・シュレル(フランス、AG2Rラモンディアール)、ステファン・デニフル(オーストリア、IAMサイクリング)、ルディ・モラール(フランス、コフィディス)が反応する形で4名の先行が始まった。
アスタナやキャノンデール・ドラパックの集団コントロールによりタイム差が4分以内に押さえ込まれた状態でレース後半の連続山岳区間へ。先頭でカルーゾの独走が始まる一方、メイン集団からはサンアントニオ・アバンドナート(標高982m/長さ6.5km/平均8.9%/最大15%)で重要な動きが生まれる。フィニッシュまで70kmを残したこの急勾配の登りでロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)やエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)が飛び出した。
この有力どころのアタックにはファビオ・アル(イタリア、アスタナ)やリゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)、ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、エティックス・クイックステップ)らがすかさず反応し、16名の強力な追走グループが出来上がる。続くミラゴロ・サンサルヴァトーレ(標高943m/長さ8.7km/平均7%/最大11%)で先頭カルーゾは吸収され、いよいよこの日最後の難所であるセルヴィーノ(標高948m/長さ6.9km/平均5.4%/最大9%)の登りが始まった。
セルヴィーノの麓から仕掛けたのは、直前のジロ・デッレミリアで勝利したチャベスだった。積極的にペースを上げるオリカジャージにウランとバルデが食らいついた一方で、アルやバルベルデは出遅れてしまう。比較的勾配の緩い登りでアルのために追走グループを率いたディエゴ・ローザ(イタリア、アスタナ)は、しばらくして単独追走を開始。アルのアシスト役を免除されたローザは自力で先頭チャベス、ウラン、バルデの3名に追いついた。
40秒のリードを得た先頭4名はスイッチバックが続く細いダウンヒルを攻め、むしろリードを広げながらベルガモに向かう平坦路を駆ける。後方ではジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)がバルベルデのために追走グループを引いたが、タイム差はやがて1分を超える。ウラン、バルデ、チャベス、ローザは後続を1分20秒引き離した状態で、ベルガモ旧市街に向かう最後の上りに差し掛かった。
緩斜面でのローザのアタックは実らず、吸収後にチャベスがペースを上げる。観客をかき分けながら進むチャベスにはバルデが食らいついたが、やがてフレンチクライマーはガクンと失速。チャベスとウランのコロンビアンクライマーコンビを先頭にベルガモ旧市街の登りをクリアし、フィニッシュまでの3.5kmダウンヒルに突入した。
登りで遅れながらも致命的なタイムを失わずに頂上をクリアしたローザが下り区間でチャベスとウランにジョイン。地元イタリアの期待を背負ったローザのカウンターアタックは決まらず、先頭3名のまま残り1kmアーチを切る。
ロングスプリントに持ち込んだローザが先頭で最終コーナーを曲がり、残り200mから3名のスプリントバトルがスタート。ローザ先頭のままフィニッシュラインまでの距離が減っていったが、その後ろにウランとチャベスが迫る。6時間半におよぶ241kmレースの最後まで脚を残したチャベスのスプリントが伸びた。
フィニッシュラインにハンドルを投げ込んだチャベスがいつもの笑顔で両手を挙げた。110年の長い歴史の中で非ヨーロッパ選手による初のロンバルディア優勝。チャベスはモニュメント(5大クラシック)を制した初のコロンビア人選手となった。「信じられない気持ちだ。プロのキャリアをスタートさせたここロンバルディア地方でついに夢が叶った。チームコロンビア時代に2年間このベルガモに近いクルノに住んでいたんだ」と、思い出深い第二の故郷で大きな勝利を手にしたチャベスは語る。
「最後は負けるんじゃないかという恐怖に打ち勝った。2位でも3位でも全力を出した結果だと言い聞かせて勝負に挑んだ。獲得標高差が5,000m近いハードなレースで勝てて本当に嬉しい。グランツールレーサーとして成功を収めた2016年シーズンを勝利で締めくくることができて良かった」。2016年ジロ・デ・イタリアでステージ1勝&総合2位、ブエルタ・ア・エスパーニャで総合3位という成績を残した26歳は屈託のない笑顔でインタビューに答えた。
「昨年バルベルデとのスプリントに敗れて4位だったので、スプリントは避けたかった」と語るのは2位のローザ。「今日はレース序盤の時点でファビオ(アル)に勝利を狙うよう諭されたんだ。残り300mで仕掛けたものの決まらなかった。(同じコースレイアウトの)2年前の最終コーナーで落車した記憶があるので、ブレーキをかけすぎたのかもしれない。そのミスがなければ勝てていた」。ローザは今シーズン限りでアスタナを離脱。移籍先としてチームスカイが有力視されている。
3位のウランは「今日は最も速い選手が勝った。先頭グループの中でエステバン(チャベス)が最速だった」とコメント。「自分も調子が良かったものの、下りで苦しみ、コーナーの度に引き離されてしまった。それでも勝負に絡む走りが出来て良かったよ」。
この日の完走者は61名。日本から出場した小石祐馬と山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)はDNFに終わっている。
イル・ロンバルディア2016結果
1位 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ) 6h26’36”
2位 ディエゴ・ローザ(イタリア、アスタナ)
3位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)
4位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール) +06”
5位 ダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック) +1’19”
6位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +1’24”
7位 ロベルト・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ)
8位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)
9位 アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、BMCレーシング)
10位 ピエール・ラトゥール(フランス、AG2Rラモンディアール)
DNF 小石祐馬(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)
DNF 山本元喜(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)
text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele
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