2016/09/09(金) - 16:13
8月31日〜9月4日にかけてドイツで開催された世界最大の自転車ショー「ユーロバイク」。次期新製品が明らかになると同時にバイク界の潮流がつかめる展示会でホットなニューモデルを探した。まずは今年のトレンドを見てゆこう。
今年で25周年を迎えるユーロバイクショーは、ドイツのフリードリヒスハーフェンのメッセで開催された。ユーロバイクとは世界各国の自転車関連メーカーが集結する世界最大の商業見本市であり、今年は48カ国から1,350もの参加企業が集いブースにて展示を展開した。
ユーロバイクは世界の主たるバイクブランドはもとより、パーツやアパレル、OEMに関係する企業までが一同に集うビジネスショーである。会期は3日間のビジネスショーと2日間のユーザーショーの2期に分けて開催され、ビジネスショーでは世界中から42,720人が来場し、商談を行った(2015年は45,870人)。自転車関係のメディアも1,700人以上が集まる。週末2日間の一般開放日「フェスティバルデイ」には約34,400人が来場 (2015年は20,730人)。一般の来場者数については2日間となったことで過去最高となったようだ。
■スポーツタイプの電動アシスト自転車 ”E-Bike”が各社のハイエンドモデルに
ショー全体を通して見れば今年のトレンドをうかがい知ることができる。取材にあたった記者として印象に残った今年の流行や傾向をいくつか紹介しよう。
まず目を引いたのは欧州ならではの本格的なスポーツタイプの「E-Bike」の驚くべき充実度だ。モーターを備えた本格スポーツタイプの電動アシストサイクルは、日本では速度規制もあって輸入も販売もされていないのが現状。しかしスコットやメリダ、ジャイアントなどMTB系のトップブランドはいずれもハイエンド系のスポーツタイプE-Bike(E-MTBと言うべきか)をブースの特別な位置に飾り、その技術力を競い合うようにアピールしていた。もはやこれに眼をつぶることはできない。
筆者はスイスやフランスなどアルプス周辺のMTBライド事情について軽く知る程度だが、最近はE-MTBが普通に山中のシングルトラックを走り回る姿が目立つようになってきた。フリーライドにおいて「下るために登る」つまり”ペダルアップ”は体力が要求されるもの。しかし体力の衰えた中高年層にとってE-Bikeは福音だ。
ゴンドラで登れるゲレンデ以外でもマウンテンバイキングが楽しめるE-MTBは、アメリカ、ヨーロッパで市民権を得つつある。速度規制の緩いアメリカではスピードの出るタイプが販売可能。ヨーロッパでもアシストスピードの25km/h以下制限はあるものの、規制緩和へ向けた動きもあるといい、それを睨んでの開発が先行している。それらが日本に入ってこないのは、もはや機会の損失とも言える状況だ。体力面の不足をカバーしつつ、本格的なライディングが楽しめるスポーツE-Bikeには新たなマーケットを拓くポテンシャルが大いに秘められている。あるいは、一度去った人を呼び戻す力さえあるように思える。
■グラベルへと向かうオフロード志向
日本人には意外に感じられるかもしれないが、ヨーロッパではロードバイクよりマウンテンバイクのほうがずっとマーケットが大きいということ。ユーロバイクショーでもっとも元気なのはMTBだ。27.5+やファットというタイヤの大径化は2015年より始まった流行だが、今年もその流れは続いている。タイヤやリムのバリエーションも各社から出揃った感がある。
そしてロードにおいてもグラベルロードの流行は加速し、ユーロバイク全体でオフロード系プロダクツの元気の良さが目立った。WTBなどに代表されるような今まで目立たなかったリムやタイヤのブランドがファット化を含めたタイヤサイズのますますのマルチ化とバリエーション豊かなラインナップを揃え、勢力を増しているのも面白い流れだ。
■デオーレXT Di2がMTBの電動化を促進? それとも1✕12スピードが優位?
コンポに関してはシマノがミドルグレードコンポのディオーレXTのDi2モデルを発表し、電動シフト化を一層推し進めるのに対し、スラムはリア12スピードスプロケットのEAGLE(イーグル)シリーズを発表し、一躍脚光を浴びていた。
■1✕12スピードシステム
スラムEAGLEの1✕12スピードシステムは、フロントシングルにリアスプロケット歯数が10〜50Tという、ギアレシオ500%を誇る駆動系が特徴だ。見た目に巨大でもの凄いインパクトがある50Tスプロケットは、クライミングでの十分な登攀力を備えつつ、フロントディレイラーとインナーギアが不要となることでパーツの小点数化とメカトラブルの低減を両立している。ちなみにイーグルのスプロケットの価格は日本円なら6万円以上だが、部品点数が減ることでコンポの総価格と重量はフロントW仕様と同等か、より軽量・低価格に抑えられる。
キャリアを用いずに荷物を積んで旅するバイクパッキングの流行も続いている。お膝元ドイツの防水バッグの元祖的存在のオルトリーブ等もバイクパッキング用バッグのフルセットを発表。ブラックバーンなど先行したブランドに加わり、競争も激化している。さらにタイヤ、リム、キャリア類はグラベルロード系ともクロスオーバーし、ますますアウトドアフィールドを舞台としたバイクツーリングの楽しみの選択肢が広がっているようだ。
■電動シフト&ハイドローリックブレーキ
伝統的な純ロードバイクに関しては劇的な変化を感じるプロダクツは少なかったものの、ディスクロードの充実と各コンポメーカーの競争の激化を感じる。注目のハイドローリック(油圧)ディスクブレーキと電動シフティングシステムの融合に注目だ。
シマノ、スラム、カンパのコンポ御三家の争いでは、シマノは7月に新型デュラエースを発表するも、油圧式Di2レバーとブレーキ本体についてはモックアップのプロトを用意するに留まる。販売は年明け1〜2月という話だ。スラムはRED eTapと油圧レバーを同一化した完成度の高いプロトを展示。カンパニョーロのEPS&油圧シフトはプロトとしてはもっとも完成度の高い状態で、モビスターとカチューシャの乗るキャニオン、ロット・ソウダルの乗るリドレーに組み込んだ状態で各ブースに展示されていた。実際にレバーを引いても作動は非常にスムーズ。カンパの広報担当社は「発表はまもなく」と答えた。
■パーツ&アクセサリーは各ジャンルで進化を続ける
バイク本体やコンポ以外でもホイールやパーツ、シューズやヘルメット、アパレルの進化など、細かく見ていけば各プロダクツの進化は大きく、決して退屈なものではない。
フィジークは身体の柔軟性や屈曲率に合わせた「スパインコンセプト」を採用したビブショーツを発表。ブル、カメレオン、スネークの3つのタイプで設計されたビブショーツは身体へのフィッティングを追求した結果だ。素材も斬新で、大きな注目を集めた。他にもアパレル系の素材の進化はめざましい。
ホイールなど足回りはディスクブレーキに対応するモデルの充実がある。また、ロードもリムはワイドリム化に向かっているが、こちらはエアロダイナミクスを追求してのもの。25mmタイヤを基準とした規格の製品が主流になっいる。
■ヘルメットは安全性向上への回帰
ヘルメットに関してはハイエンドモデルにMIPSテクノロジーを採用する動きが広まっている。 MIPSとは、回転衝撃から頭部への衝撃を減少させるスリップ・プレーン(滑り面)システムのこと。ヘルメット内部に配置された1枚のシートが頭の動きに応じて動くことにより、衝撃から伝達されるエネルギーのスピードを緩める働きをする。地面にヘルメットから落ちた時、頭部へのダメージを軽減してくれる。
BELLはMIPSを組み込んだ状態で新設計した最高峰のレーシングヘルメット Zephyr(ゼファー)を発表。近年は軽量性や通気性、デザインが重視されてきたロードヘルメットだが、まず安全性を重視したという、基本に立ち返ったうえでの性能をアピールした。
2日間開催の試乗メインの一般開放デー「Festival Days」
今年のユーロバイク初の試みとなったのは試乗機会の充実だ。Festival Days(フェスティバル・デイズ)と名付けられた一般開放デーは、会期の週末2日間に設けられた。今まではDEMO DAY(デモデイ)としてビジネスデイの前に、地理的にも離れた会場での開催だったが、Festival Daysは土日の2日間に拡大され、メッセ内拠点での開催で、より一般ユーザーが気軽に、十分に楽しめる試乗となった。
その規模は驚くほどで、約3000台の試乗車が用意され、10km以上のコースで試せた。MTBやE-Bike、グラベルバイクにはメッセ周辺に本格的なオフロードも用意された。試乗に関しては日本のサイクルモードが試乗メインのイベントとして展開しているが、奇しくもユーロバイクもユーザーによる試乗を重視する方向に進んでいるようだ。
その規模はビジネスショーをそのまま引き継ぐため甚大だった。メッセ内にも参加型イベントが目白押し。パフォーマンス、イノベーション、アカデミー、デモ、キッズ、ウーマン、バイクキッチン、トラベルなど11のエリアが用意され、セミナーなども多く開催されたのはさすが自転車が生活に根付き、スポーツとして盛んなヨーロッパだと感じさせるものだった。
本記事以降は例年のように、ユーロバイクの各ブースで印象に残ったプロダクツをブランドごとにピックアップしてお伝えして行きます。
photo&text:Makoto.AYANO
今年で25周年を迎えるユーロバイクショーは、ドイツのフリードリヒスハーフェンのメッセで開催された。ユーロバイクとは世界各国の自転車関連メーカーが集結する世界最大の商業見本市であり、今年は48カ国から1,350もの参加企業が集いブースにて展示を展開した。
ユーロバイクは世界の主たるバイクブランドはもとより、パーツやアパレル、OEMに関係する企業までが一同に集うビジネスショーである。会期は3日間のビジネスショーと2日間のユーザーショーの2期に分けて開催され、ビジネスショーでは世界中から42,720人が来場し、商談を行った(2015年は45,870人)。自転車関係のメディアも1,700人以上が集まる。週末2日間の一般開放日「フェスティバルデイ」には約34,400人が来場 (2015年は20,730人)。一般の来場者数については2日間となったことで過去最高となったようだ。
■スポーツタイプの電動アシスト自転車 ”E-Bike”が各社のハイエンドモデルに
ショー全体を通して見れば今年のトレンドをうかがい知ることができる。取材にあたった記者として印象に残った今年の流行や傾向をいくつか紹介しよう。
まず目を引いたのは欧州ならではの本格的なスポーツタイプの「E-Bike」の驚くべき充実度だ。モーターを備えた本格スポーツタイプの電動アシストサイクルは、日本では速度規制もあって輸入も販売もされていないのが現状。しかしスコットやメリダ、ジャイアントなどMTB系のトップブランドはいずれもハイエンド系のスポーツタイプE-Bike(E-MTBと言うべきか)をブースの特別な位置に飾り、その技術力を競い合うようにアピールしていた。もはやこれに眼をつぶることはできない。
筆者はスイスやフランスなどアルプス周辺のMTBライド事情について軽く知る程度だが、最近はE-MTBが普通に山中のシングルトラックを走り回る姿が目立つようになってきた。フリーライドにおいて「下るために登る」つまり”ペダルアップ”は体力が要求されるもの。しかし体力の衰えた中高年層にとってE-Bikeは福音だ。
ゴンドラで登れるゲレンデ以外でもマウンテンバイキングが楽しめるE-MTBは、アメリカ、ヨーロッパで市民権を得つつある。速度規制の緩いアメリカではスピードの出るタイプが販売可能。ヨーロッパでもアシストスピードの25km/h以下制限はあるものの、規制緩和へ向けた動きもあるといい、それを睨んでの開発が先行している。それらが日本に入ってこないのは、もはや機会の損失とも言える状況だ。体力面の不足をカバーしつつ、本格的なライディングが楽しめるスポーツE-Bikeには新たなマーケットを拓くポテンシャルが大いに秘められている。あるいは、一度去った人を呼び戻す力さえあるように思える。
■グラベルへと向かうオフロード志向
日本人には意外に感じられるかもしれないが、ヨーロッパではロードバイクよりマウンテンバイクのほうがずっとマーケットが大きいということ。ユーロバイクショーでもっとも元気なのはMTBだ。27.5+やファットというタイヤの大径化は2015年より始まった流行だが、今年もその流れは続いている。タイヤやリムのバリエーションも各社から出揃った感がある。
そしてロードにおいてもグラベルロードの流行は加速し、ユーロバイク全体でオフロード系プロダクツの元気の良さが目立った。WTBなどに代表されるような今まで目立たなかったリムやタイヤのブランドがファット化を含めたタイヤサイズのますますのマルチ化とバリエーション豊かなラインナップを揃え、勢力を増しているのも面白い流れだ。
■デオーレXT Di2がMTBの電動化を促進? それとも1✕12スピードが優位?
コンポに関してはシマノがミドルグレードコンポのディオーレXTのDi2モデルを発表し、電動シフト化を一層推し進めるのに対し、スラムはリア12スピードスプロケットのEAGLE(イーグル)シリーズを発表し、一躍脚光を浴びていた。
■1✕12スピードシステム
スラムEAGLEの1✕12スピードシステムは、フロントシングルにリアスプロケット歯数が10〜50Tという、ギアレシオ500%を誇る駆動系が特徴だ。見た目に巨大でもの凄いインパクトがある50Tスプロケットは、クライミングでの十分な登攀力を備えつつ、フロントディレイラーとインナーギアが不要となることでパーツの小点数化とメカトラブルの低減を両立している。ちなみにイーグルのスプロケットの価格は日本円なら6万円以上だが、部品点数が減ることでコンポの総価格と重量はフロントW仕様と同等か、より軽量・低価格に抑えられる。
キャリアを用いずに荷物を積んで旅するバイクパッキングの流行も続いている。お膝元ドイツの防水バッグの元祖的存在のオルトリーブ等もバイクパッキング用バッグのフルセットを発表。ブラックバーンなど先行したブランドに加わり、競争も激化している。さらにタイヤ、リム、キャリア類はグラベルロード系ともクロスオーバーし、ますますアウトドアフィールドを舞台としたバイクツーリングの楽しみの選択肢が広がっているようだ。
■電動シフト&ハイドローリックブレーキ
伝統的な純ロードバイクに関しては劇的な変化を感じるプロダクツは少なかったものの、ディスクロードの充実と各コンポメーカーの競争の激化を感じる。注目のハイドローリック(油圧)ディスクブレーキと電動シフティングシステムの融合に注目だ。
シマノ、スラム、カンパのコンポ御三家の争いでは、シマノは7月に新型デュラエースを発表するも、油圧式Di2レバーとブレーキ本体についてはモックアップのプロトを用意するに留まる。販売は年明け1〜2月という話だ。スラムはRED eTapと油圧レバーを同一化した完成度の高いプロトを展示。カンパニョーロのEPS&油圧シフトはプロトとしてはもっとも完成度の高い状態で、モビスターとカチューシャの乗るキャニオン、ロット・ソウダルの乗るリドレーに組み込んだ状態で各ブースに展示されていた。実際にレバーを引いても作動は非常にスムーズ。カンパの広報担当社は「発表はまもなく」と答えた。
■パーツ&アクセサリーは各ジャンルで進化を続ける
バイク本体やコンポ以外でもホイールやパーツ、シューズやヘルメット、アパレルの進化など、細かく見ていけば各プロダクツの進化は大きく、決して退屈なものではない。
フィジークは身体の柔軟性や屈曲率に合わせた「スパインコンセプト」を採用したビブショーツを発表。ブル、カメレオン、スネークの3つのタイプで設計されたビブショーツは身体へのフィッティングを追求した結果だ。素材も斬新で、大きな注目を集めた。他にもアパレル系の素材の進化はめざましい。
ホイールなど足回りはディスクブレーキに対応するモデルの充実がある。また、ロードもリムはワイドリム化に向かっているが、こちらはエアロダイナミクスを追求してのもの。25mmタイヤを基準とした規格の製品が主流になっいる。
■ヘルメットは安全性向上への回帰
ヘルメットに関してはハイエンドモデルにMIPSテクノロジーを採用する動きが広まっている。 MIPSとは、回転衝撃から頭部への衝撃を減少させるスリップ・プレーン(滑り面)システムのこと。ヘルメット内部に配置された1枚のシートが頭の動きに応じて動くことにより、衝撃から伝達されるエネルギーのスピードを緩める働きをする。地面にヘルメットから落ちた時、頭部へのダメージを軽減してくれる。
BELLはMIPSを組み込んだ状態で新設計した最高峰のレーシングヘルメット Zephyr(ゼファー)を発表。近年は軽量性や通気性、デザインが重視されてきたロードヘルメットだが、まず安全性を重視したという、基本に立ち返ったうえでの性能をアピールした。
2日間開催の試乗メインの一般開放デー「Festival Days」
今年のユーロバイク初の試みとなったのは試乗機会の充実だ。Festival Days(フェスティバル・デイズ)と名付けられた一般開放デーは、会期の週末2日間に設けられた。今まではDEMO DAY(デモデイ)としてビジネスデイの前に、地理的にも離れた会場での開催だったが、Festival Daysは土日の2日間に拡大され、メッセ内拠点での開催で、より一般ユーザーが気軽に、十分に楽しめる試乗となった。
その規模は驚くほどで、約3000台の試乗車が用意され、10km以上のコースで試せた。MTBやE-Bike、グラベルバイクにはメッセ周辺に本格的なオフロードも用意された。試乗に関しては日本のサイクルモードが試乗メインのイベントとして展開しているが、奇しくもユーロバイクもユーザーによる試乗を重視する方向に進んでいるようだ。
その規模はビジネスショーをそのまま引き継ぐため甚大だった。メッセ内にも参加型イベントが目白押し。パフォーマンス、イノベーション、アカデミー、デモ、キッズ、ウーマン、バイクキッチン、トラベルなど11のエリアが用意され、セミナーなども多く開催されたのはさすが自転車が生活に根付き、スポーツとして盛んなヨーロッパだと感じさせるものだった。
本記事以降は例年のように、ユーロバイクの各ブースで印象に残ったプロダクツをブランドごとにピックアップしてお伝えして行きます。
photo&text:Makoto.AYANO
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