2016/07/10(日) - 17:22
ピレネーの玄関口ポーの街を発ったプロトンはピレネー2日目の闘いへと出て行く。長年決まったように使われていたカジノ前からのスタートを止め、美しい街中を選手たちにも堪能してもらおうというようなパレード区間がデザインされた。
歴史を感じる街並み、たっぷりとした水量をたたえた川が流れるポーの街をローリング走行してから、激闘の舞台へと走り出していく198人の選手たち。ツール史上初の、リタイア選手無し。選手全員が揃った状態での第8ステージを迎える。しかしその記録更新も今日が文字通り山場だった。
難関山岳への入り口を迎え果敢に攻撃に出たのは、昨日バッド・デイに見まわれ空っぽの状態に陥ったティボー・ピノ(フランス、FDJ)と、ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)。前日にライバルたちから3分のタイムを失ったピノと、2014年のツール山岳王マイカのタッグ。先を急ぐ2人の俊足に、TTスターのトニ・マルティン(エティックス・クイックステップ)が合流。有力勢のメイン集団もペースを上げる。中腹で早くも50人に絞られた追走集団は、頂上が近づくと33人にまで減った。
追走33人のうち5人がチームスカイ。最多&最強勢力の黒に青と白のストライプが集団前方に固まり、ペースを上げる。アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)も前を引き、クリス・フルームとナイロ・キンタナのバトルを予想させた。メイン集団には有力勢が順当に残った。
緑に満ちた美しいピレネー一帯は、昨日は霧が立ち込めて涼しさも感じられたが、今日は一片の雲も無い夏日。照りつける太陽が山の空気を感じさせないほどホットにした。
トゥールマレー峠手前でマイカを突き放し、山岳ポイントをとるピノ。もちろん3分以上の遅れを喫しているからといってそのまま先行を許してくれるほど甘くはなかった。
マイヨジョーヌのグレッグ・ファンアフェルマート(BMCレーシング)もマークス・ブルグハートらにアシストされ粘るが、遅れを喫した。すでにトゥールマレーで逃げられなかったことでマイヨを失うことは決定的になった。
トゥールマレーで徹底的に分解したプロトン。最後尾の選手が到達するまでに20分以上を要した。第1ステージの落車による怪我の影響で遅れたミカエル・モルコフ(カチューシャ)は、連日の最後尾独走でタイムアウトとの闘いを繰り広げていたが、トゥールマレー峠を下り切った時点で今日はすでに25分差の独走となり、さすがに厳しい状態に。「平坦路でならアレクサンドル・クリストフのスプリントのために牽引仕事ができるから」とレース残留を臨んだが、モルコフは初のリタイヤ者となった。ツールのリタイア者無し記録はここまででストップ。
もうひとり、いやふたりでの後方の闘いを強いられていたのはマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 。女房役のベルンハルト・アイゼルにアシストされ完走を目指す。登りは2人きりのマイペースで、しかしダウンヒルと山岳をつなぐ平坦路は猛然としたペースで前を行くグルペットを追う。とにかく完走しさえすれば次のステージ勝利のチャンスを得ることができるのだ。
2級山岳ウルケット・ダンシザン、1級山岳ヴァル・ルーロン峠を経て、1級山岳ペイルスルド峠へ。ツール・ド・フランス主催者A.S.O、コース設計者のティエリー・グブヌー氏と総合ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏は今年、ピレネー山岳をフルームに得意でないコースにデザインした。2日連続で下りフィニッシュを設け、フランス期待のロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)やヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)といった下り巧者に有利なレイアウトにして、2013年と2015年にピレネー初日に早々と登りでライバルたちを突き放したフルームに苦汁を舐めさせようという意図もあるコースにした。
しかしフルームは新たな能力を発揮した。いや初披露したといったほうが正確なのだろうか。ペイルスルド峠の頂上手前、ナイロ・キンタナがサポート要員からボトルを受け取ろうとして手を伸ばしたその瞬間、フルームは加速した。
有力集団にいた選手たちは誰も登りでアタックがあると思っていなかった。下りきってのフィニッシュで、「膠着状態のなかでスプリントが強いのは誰? 」とお互いの脚質を図っていたはずだ。しかしフルームは下りへ向けてアタックした。
登りに強く、タイムトライアルも強い。瞬発力もある。しかし下りは特別なものは何もないはずだったフルーム。しかしフルームの下りは驚くほどに速かった。屈曲させた上半身をフレームの上に突っ伏してエアロポジションをとり、そのうえであの登りでみせる超ハイケイデンスでペダルを回す。見た目に異様なその衝撃的な映像に、世界じゅうのファンの視線が釘付けになったことだろう。
バニェール・ド・リュションへと逃げ切ってライバルたちにつけた差は13秒差。フルームは下りでアタックできるニューバージョンへとアップグレードされた。
アタックは今日一日をアシストしてくれたチーム員に報いるためのものだったと話すフルーム。そしてすべてのスカイのアタックは即興だったと話した。ニコラ・ポルタル監督は下りフィニッシュではあっても、とにかく「ペイルスルドの山頂がフィニッシュだと思って仕事をしろ』と指示を出していたという。そして前夜のフルームは、このペイルスルド峠の下りを昨年のツール前哨戦ルート・ド・スッドにおいてコンタドールがキンタナを突き放したエピソードをポルタル監督と話し、新しいチャレンジを試すことに興味をもっていたという。「クリスは何か大きなことを試したがっていたよ」。
ライバルと目されたアルベルト・コンタドール(ティンコフ)は苦しみ、さらに1分41秒差をつけられ、山岳でのチーム戦略の変更を、マイカ、そして好調のクロイツィゲルを主にしたものにスウィッチせざるをえない。
新城幸也(ランプレ・メリダ)は前方グルペットの最後尾という、山岳ステージでの定位置でペイルスルド峠を登った。かつてのチームメイトのトマ・ヴォクレールはこのバニェール・ド・リュションの勝者。トマの動きに合わせることを楽しみにしていたが、トマは動いたものの結果にはつながらず。ユキヤ自身は動かずに終えた一日になった。厳しいステージに苦しんだようだが、カメラを見つけると軽く合図を送ってきたから余裕は十分にあるようだ。
photo&text:Makoto.AYANO in Pau France
photo:Kei.TSUJI, TimDeWaele
歴史を感じる街並み、たっぷりとした水量をたたえた川が流れるポーの街をローリング走行してから、激闘の舞台へと走り出していく198人の選手たち。ツール史上初の、リタイア選手無し。選手全員が揃った状態での第8ステージを迎える。しかしその記録更新も今日が文字通り山場だった。
難関山岳への入り口を迎え果敢に攻撃に出たのは、昨日バッド・デイに見まわれ空っぽの状態に陥ったティボー・ピノ(フランス、FDJ)と、ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)。前日にライバルたちから3分のタイムを失ったピノと、2014年のツール山岳王マイカのタッグ。先を急ぐ2人の俊足に、TTスターのトニ・マルティン(エティックス・クイックステップ)が合流。有力勢のメイン集団もペースを上げる。中腹で早くも50人に絞られた追走集団は、頂上が近づくと33人にまで減った。
追走33人のうち5人がチームスカイ。最多&最強勢力の黒に青と白のストライプが集団前方に固まり、ペースを上げる。アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)も前を引き、クリス・フルームとナイロ・キンタナのバトルを予想させた。メイン集団には有力勢が順当に残った。
緑に満ちた美しいピレネー一帯は、昨日は霧が立ち込めて涼しさも感じられたが、今日は一片の雲も無い夏日。照りつける太陽が山の空気を感じさせないほどホットにした。
トゥールマレー峠手前でマイカを突き放し、山岳ポイントをとるピノ。もちろん3分以上の遅れを喫しているからといってそのまま先行を許してくれるほど甘くはなかった。
マイヨジョーヌのグレッグ・ファンアフェルマート(BMCレーシング)もマークス・ブルグハートらにアシストされ粘るが、遅れを喫した。すでにトゥールマレーで逃げられなかったことでマイヨを失うことは決定的になった。
トゥールマレーで徹底的に分解したプロトン。最後尾の選手が到達するまでに20分以上を要した。第1ステージの落車による怪我の影響で遅れたミカエル・モルコフ(カチューシャ)は、連日の最後尾独走でタイムアウトとの闘いを繰り広げていたが、トゥールマレー峠を下り切った時点で今日はすでに25分差の独走となり、さすがに厳しい状態に。「平坦路でならアレクサンドル・クリストフのスプリントのために牽引仕事ができるから」とレース残留を臨んだが、モルコフは初のリタイヤ者となった。ツールのリタイア者無し記録はここまででストップ。
もうひとり、いやふたりでの後方の闘いを強いられていたのはマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 。女房役のベルンハルト・アイゼルにアシストされ完走を目指す。登りは2人きりのマイペースで、しかしダウンヒルと山岳をつなぐ平坦路は猛然としたペースで前を行くグルペットを追う。とにかく完走しさえすれば次のステージ勝利のチャンスを得ることができるのだ。
2級山岳ウルケット・ダンシザン、1級山岳ヴァル・ルーロン峠を経て、1級山岳ペイルスルド峠へ。ツール・ド・フランス主催者A.S.O、コース設計者のティエリー・グブヌー氏と総合ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏は今年、ピレネー山岳をフルームに得意でないコースにデザインした。2日連続で下りフィニッシュを設け、フランス期待のロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)やヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)といった下り巧者に有利なレイアウトにして、2013年と2015年にピレネー初日に早々と登りでライバルたちを突き放したフルームに苦汁を舐めさせようという意図もあるコースにした。
しかしフルームは新たな能力を発揮した。いや初披露したといったほうが正確なのだろうか。ペイルスルド峠の頂上手前、ナイロ・キンタナがサポート要員からボトルを受け取ろうとして手を伸ばしたその瞬間、フルームは加速した。
有力集団にいた選手たちは誰も登りでアタックがあると思っていなかった。下りきってのフィニッシュで、「膠着状態のなかでスプリントが強いのは誰? 」とお互いの脚質を図っていたはずだ。しかしフルームは下りへ向けてアタックした。
登りに強く、タイムトライアルも強い。瞬発力もある。しかし下りは特別なものは何もないはずだったフルーム。しかしフルームの下りは驚くほどに速かった。屈曲させた上半身をフレームの上に突っ伏してエアロポジションをとり、そのうえであの登りでみせる超ハイケイデンスでペダルを回す。見た目に異様なその衝撃的な映像に、世界じゅうのファンの視線が釘付けになったことだろう。
バニェール・ド・リュションへと逃げ切ってライバルたちにつけた差は13秒差。フルームは下りでアタックできるニューバージョンへとアップグレードされた。
アタックは今日一日をアシストしてくれたチーム員に報いるためのものだったと話すフルーム。そしてすべてのスカイのアタックは即興だったと話した。ニコラ・ポルタル監督は下りフィニッシュではあっても、とにかく「ペイルスルドの山頂がフィニッシュだと思って仕事をしろ』と指示を出していたという。そして前夜のフルームは、このペイルスルド峠の下りを昨年のツール前哨戦ルート・ド・スッドにおいてコンタドールがキンタナを突き放したエピソードをポルタル監督と話し、新しいチャレンジを試すことに興味をもっていたという。「クリスは何か大きなことを試したがっていたよ」。
ライバルと目されたアルベルト・コンタドール(ティンコフ)は苦しみ、さらに1分41秒差をつけられ、山岳でのチーム戦略の変更を、マイカ、そして好調のクロイツィゲルを主にしたものにスウィッチせざるをえない。
新城幸也(ランプレ・メリダ)は前方グルペットの最後尾という、山岳ステージでの定位置でペイルスルド峠を登った。かつてのチームメイトのトマ・ヴォクレールはこのバニェール・ド・リュションの勝者。トマの動きに合わせることを楽しみにしていたが、トマは動いたものの結果にはつながらず。ユキヤ自身は動かずに終えた一日になった。厳しいステージに苦しんだようだが、カメラを見つけると軽く合図を送ってきたから余裕は十分にあるようだ。
photo&text:Makoto.AYANO in Pau France
photo:Kei.TSUJI, TimDeWaele
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